音楽ナタリー PowerPush - FLOWER FLOWER

バンドの個性が開花したデビュー作「実」

「ついに」「待ちに待った」「やっと」……受け取り側によって感じ方は異なるかもしれないが、今回リリースされるFLOWER FLOWERの1stアルバム「実」は手にした者にそう思わせるだけの魅力がたっぷり詰まった1枚と断言できる。

昨年10月に3都市で開催された自主企画イベント「インコの群れ」の際に、メンバーは「来年には“丸いモノ”も作りたいし、地方にいろいろ食べにいきたい」と発言して来場者を喜ばせた(参照:FLOWER FLOWER、企画ライブで「来年には“丸いモノ”も」)。しかしバンドはその後、配信での楽曲リリースはあったものの表立ったライブ活動は休止。結局“丸いモノ”が我々の手元に届くまでに、あの発言から1年強を要する結果となった。

実際、我々の手元に届けられた初のCD作品「実」は1年以上待ったかいのある、濃厚な1枚に仕上がっている。アルバムのオープニングを飾るのは、ゆったりとしたリズムと聴き手の耳や心にじんわり染み入るような歌声が印象的な「願い」。この1曲でFLOWER FLOWERというバンドの在り方を決めつけてしまうのはよくないとは思うものの、この「願い」というタイトルが冠された楽曲にこそ彼らのやりたいこと、やろうとしていることがまるで決意表明のように表現されているのではないかと思う。

J-POPシーンで名を馳せたyuiというシンガーソングライターが在籍している以上、過去の彼女の作品と比較されても仕方ないだろう。実際、この「実」というアルバムの中にはソロ時代の彼女を彷彿とさせる楽曲もいくつか存在する。しかし、それでも過去の彼女の作品と決定的に違う点が2つある。それは「焦点の定まったバンドサウンド」と「同じ釜の飯を食った仲間同士だからこそ生み出せるグルーヴ感」……結成以来1年間を通じて築き上げた関係性、バンド感、個性、そういったものがしっかり形となって表現できているのが今作の特徴と言える。1990年代後半、もっと言えばRadioheadの3rdアルバム「OK Computer」以降のUKロック的サウンドスケープと、ゼロ年代のJ-POPならではのポピュラリティ。これらがyuiをはじめとする“音の料理人”たちの手によって調理されることで、「何かに似ていそうで、実は何ものにも似ていない」音楽が完成した。

クールな感触を持った「願い」からスタートする本作は、「神様」「空気」と曲が進むにつれて、複雑なアレンジとエモーショナルな歌によってバンドの熱量がどんどん高められていく。興味深いのは、最初に感じた「ひんやりした感覚」は保ちつつ、全体の熱量を上げていること……この表現がうまく伝わるのか不安だが、それは実際に聴いて味わってほしい。そして最後の2曲……昨年先行配信された「月」と、ラストにふさわしい「バイバイ」でその熱はピークに到達する。13曲で約70分という長尺の作品にも関わらず、一度聴き始めたら最後までスルッと聴けてしまう。過去のyuiを知る者には新しい発見がたくさんあり、過去を知らずに「いち新人バンドのデビュー作」として触れた人には「面白いバンドに出会えた」という喜びを与えてくれる。きっとそんな作品になるのではないだろうか。

昨年秋に「インコの群れ」で彼らのライブを観たとき、「すでに“新しい何か”が始まっている」ことは理解できた。と同時に、その“新しい何か”が今のJ-POP / J-ROCKシーンでどのように評価されるのかという不安も勝手に感じていた。だが正直、それは杞憂に過ぎなかった。いや、もっと言ってしまえば……「そんなことはどうでもいい、ただ目の前にあるこの音を純粋に楽しみたい」と単純にそう思わせてくれた。2014年もあと1カ月ちょっとで終わろうとしているこのタイミングに「ついに」「待ちに待った」「やっと」という気持ちでこの作品に出会えたことに感謝したい。

P.S.
シンガーとしてのyuiの表現力に磨きがかかっているのはもちろんのこと、個人的には「ギタリストyui」の成長にも注目したい。この視点からアルバムを語り始めると、また違った評価ができるはず。そういった意味でも本当に魅力満載の1枚だ。

文 / 西廣智一

1stアルバム「実」 / 2014年11月26日発売 / Sony Music Records
初回限定盤 [CD+DVD] / 3780円 / SRCL-8497~8
通常盤 [CD] / 3240円 / SRCL-8499
CD収録曲
  1. 願い
  2. 神様
  3. 空気
  4. とうめいなうた
  5. おはようのキスを
  6. 水滴
  7. 素晴らしい世界
  1. 席を立つ
  2. ひかり
  3. きみのこと
  4. スタートライン
  5. バイバイ
初回限定盤DVD収録内容
  • 2013年10月に行われたツアーからライブ映像や裏側の模様を約50分にわたり収録
FLOWER FLOWER(フラワーフラワー)

FLOWER FLOWER

シンガーソングライターとして活躍していたyuiがソロ活動休止後、自身がリスペクトするミュージシャンとともに結成したロックバンド。メンバーはyui(Vo, G)、mura☆jun(Key)、mafumafu(B)、sacchan(Dr)の4人。2013年よりライブ活動を開始し、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」「JOIN ALIVE」「New Acoustic Camp」「COUNTDOWN JAPAN」など数々の大型フェスに出演したほか、同年10月には全国3都市で対バン形式の自主企画イベント「インコの群れ」も実施。ZAZEN BOYS、So many tears、レキシという個性的な面々と競演を果たした。また2013年7月に「月」、翌2014年5月に「神様」を配信リリース。同年8月には橋本愛主演の映画「リトル・フォレスト 夏・秋」に、主題歌として新曲「夏」「秋」を提供し、デジタル配信も行った。そして11月、待望の初CDとなる1stアルバム「実」を発表する。