アーティストEXITが歌詞に込めた思いとは 表現したいことを貫いたミニアルバム「GENESIS」を語る

EXITが初のミニアルバム「GENESIS」をリリースした。

今年7月に配信シングル「なぁ人類」で本格的にアーティスト活動をスタートさせたEXIT。8月には第2弾楽曲として、MISIAをコーラスに迎えた「SUPER STAR」を配信リリースし、さまざまな音楽番組への出演も果たした。アーティストとして急速に注目される中でリリースされたミニアルバム「GENESIS」には、「なぁ人類」「SUPER STAR」に加え、明石家さんまをフィーチャーした「WHAT COLOR?(feat. 明石家さんま)」など、EXITの魅力を感じさせるカラフルな全7曲を収録。すべての楽曲において2人が作詞に参加しているところにも注目だ。

本作のリリースを記念し、音楽ナタリーではりんたろー。と兼近大樹の2人にインタビュー。アーティストとしての活動をスタートさせたことへの率直な感想から、賛否両論巻き起こった「なぁ人類」の反響について、そしてミニアルバム制作のエピソードなどをじっくりと聞いていく。

取材・文 / もりひでゆき撮影 / 草場雄介

EXITにとっての音楽は弁当の“バラン”

──まずは本格的なアーティスト活動をスタートさせた感想を聞かせてください。

りんたろー。 ふざけてばっかじゃいられないなと感じてますね。これでダメだったら本格的にダメってことだと思うんで、ラストチャンスの気持ちでがんばっています。

兼近大樹 2018年に初めて楽曲をリリースしてから今まではストレートにふざけた曲を出すとか、ボケとしてカッコつけた曲を出すとか、そういったコンセプトでやってきましたけど、ここに来て突然ガチになったんで。正直に言うと、いまだに戸惑ってるところはあります(笑)。

──真剣に音楽活動に取り組みたいという思いは以前からあったんですか?

りんたろー。 芸人を始めたときから思い描いていましたね。芸事としてお笑いをやりつつ、ファッションとか音楽でもデカいステージでパフォーマンスしたいなっていう。だから「え!? 叶ってるやん」みたいなところはありますね。「Mステ出れてるやん!」っていう(参照:「Mステ」特番に松平健、BLACKPINK、TWICE、Toshl、氣志團、レンジ、AI、三浦大知、EXIT)。

──兼近さんは2018年の12月に「今はM-1よりMステ目指してる」というツイートをされていましたよね。

兼近 してましたね。あくまでもボケでしかなかったんですけど、それが気付いたら現実になってました。最近は音楽番組にたくさん出させてもらってるんですけど、やっぱりまだ恥ずかしさがありますね。アーティストの皆さんと並んで座ってる自分たちを俯瞰で見たときに、「いやお前らどこに座っとんねん!」っていう(笑)。

りんたろー。 ああいう場に慣れてないから、けっこうスベってますし(笑)。

兼近大樹

兼近 ちゃんとスベってました。アーティストさんに対してゴリゴリ絡みすぎちゃダメってことだけは学びましたね。適度な距離感を保つっていう(笑)。

──お笑いという太い軸があるEXITにとって、音楽はどんな位置付けなんですか?

りんたろー。 今の時代、みんながちょっとうつむきがちだったりするじゃないですか。だからこそ僕らはでっかいエンタテインメントというくくりの中で、いろんな角度からみんなの元気につながるようなことをしたいんですよ。そのひとつとして音楽があるっていう感じかな。僕らもやっててすごく楽しいので、皆さんにも楽しんでいただけたらうれしいです。

兼近 僕のイメージとしては弁当の“バラン”みたいな感じっすね。テレビだったり劇場だったりいろんな場所がある中で、音楽がそれぞれの境目になっているというか。音楽があるからいろんな表現の場所にいけるし、それぞれが混ざらずにいられるっていう。そういう役割のバランです。

りんたろー。 え? 弁当のおかずじゃなくて? なんか深そうに聞こえるけど、まったく意味わかんない。俺の読解力がないだけかなと思ったけど、それマジで意味わかんないやつでしょ(笑)。

──ゆくゆくはおかずになっていけばいいという思いもあるんですか?

兼近 いや、おかずにしちゃダメなんですよ。ほかの仕事と一緒になっちゃうんで。

りんたろー。 いやー、マジでわかんないっすね(笑)。

──あははは。でも音楽はEXITにとって特別なものではあるわけですね。

兼近 そうっすね。弁当の彩りにもなってますから。

りんたろー。 彩り……結局最後まで意味がわからない(笑)。

──プロフィールを拝見すると、お二人とも趣味にカラオケという記載があります。音楽は昔からずっとお好きだったんですか?

りんたろー。 そうですね。僕は小さい頃から常に歌ってる子で。一瞬、歌手を目指した時期もあったんですよ。ただ自分にはやっぱり無理だなと思って、お笑いの世界を選んだんです。その結果、今歌手になれているのはラッキーでしかないですね。

──どんな音楽を好んで聴いてきました?

りんたろー。

りんたろー。 その時々で好きな音楽は変わるんですけど、今はジャパニーズヒップホップが好きですね。変態紳士クラブさんとか、ああいうラインが好きです。

兼近 僕は小学生の頃から母のスナックで、客のおじちゃんたちの好きな曲を歌うことでお小遣いをもらったりしてましたね。THE 虎舞竜の「ロード」とか歌ったりして。歌えばお金をもらえるんだっていうことはそのときに知りました。

りんたろー。 そういう意味では生粋のシンガーではあるよね。生きる術として音楽を身に着けたわけだから。

兼近 あと14、5歳のときにはバンドもやってました。兄貴がやってたヴィジュアル系バンドのボーカルが喉を壊したときに、代わりに歌ったんですよ。そうしたらそのあともいろんなバンドから「歌ってくれ」って言われるようになって。対バンライブで3つのバンドのボーカルを掛け持ちしたりとか。コピーをしたり、ほかのメンバーが作ったオリジナル曲を歌うこともありましたね。

りんたろー。 めっちゃすごいやん! めっちゃ音楽に精通してる。

兼近 僕が好きなアーティストはB'zさんと森山直太朗さんですね。ただ、普段はまったく音楽を聴かないんですよ。最近はもう自分たちの曲しか聴いてないです。

優しい世界でみんな楽しく生きれたらいい

──7月に配信リリースされた「なぁ人類」は大きな反響を呼びました。いじめやジェンダーレスといった社会問題に触れた歌詞については賛否両論がありましたけど、その反応はどう受け止めましたか?

りんたろー。 ちょっと意外な感じでした。音楽ってもっと自由なものだと思ってたんで、驚きました。

兼近 まあでも、「なぁ人類」は賛否両論呼ぶための歌詞でもあったんですよ。だからみんなの反応はある種、当たり前だったというか。僕が特に好きなのが「ポテトヘッドはジェンダーレス時代によりMr.&Mrs.を返還 謎めいてく昨今のルール」のところなんです。そういう取り組みを僕らは素晴らしいことだと思っているし、ジェンダーフリーの時代には当然なことだとも思っている。でも、それを謎だと言う人も世の中にはいっぱいいるわけなので、その声も歌詞には書いたんです。言ってみたら、いろんな逆説をちりばめた歌詞というか。

──なるほど。賛成派と否定派の両方からの意見を盛り込んで歌詞を書いたけれども、結果として否定派の意見だけがEXITの思いとしてすくい取られて非難されてしまったと。

兼近 そうですね。みんなそれぞれに自分なりの正義を持っていると思うけど、自分とは逆の意見にも目を向けないとキレイな世の中にはなっていかないと思うんです。だから自分なりに声上げていこうよっていうのがコンセプトでもある。そういう意味では賛否両論あったのは作戦成功っちゃ成功なんですよね。ただ、僕らはやっぱり“正義振りかざすいじめっ子”にはなりたくないっていうことだけは言っておきたいですけど。

EXIT

りんたろー。 僕らはみんなが優しい人になって優しい世界になることをただ願ってるだけなんですよ。でも、そんな僕らの曲が優しくない人を生み出してる状況を見たときに、「自分たちはなんのためにやってるんだろう」みたいな気持ちになっちゃったところもあって。だったら当たり障りのない歌詞で、ただ単に楽しくやってたほうがいいじゃんって思っちゃうところもあるんですよね。

兼近 もっと僕らの背景もちゃんと見てもらえたらなとは思いますね。人間の1つの側面だけとか、一瞬の行動だけを切り取って評価するのではなく、その人が実際どう生きてきたのか、どう生きているのかをもっとみんなに見てほしいなって。「なぁ人類」はまさにそういう曲ですし、これからも僕はそういうスタンスで音楽活動をしたいと思っています。自分としてはもっと攻めた曲を歌いたい気持ちもありますから。

りんたろー。 えー、そうなの? 僕、心が弱いからいろいろ言われると傷つくんですよ。

兼近 あははは。そのあたりの考え方は、2人の間にもまだギャップがありますね。歌詞を書くときも、りんたろー。さんに確認しますし。「こういう言葉を使うと、こういう受け取られ方をするかもしれないですよ」とか。それで実際に歌詞を変えることもあります。とは言え、EXITとしては自分らの表現したいこと、言いたいことをストレートに言っていくスタイルを芯にしていきたい気持ちはありますけどね。

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