ナタリー PowerPush - 堂珍嘉邦

CHEMISTRYから新たな大地を目指すワケ

「OUT THE BOX」するためのパズル

──そうやって適切な人材を配置するプロデューサー的資質って以前からあったんですか?

うーん……。むしろCHEMISTRY時代にR&Bテイスト、レゲエテイスト、ダンステイスト、バラードテイスト……。まあ全部「テイスト」なんですけど(笑)、いろいろなことをやってきたからじゃないですか。それに鷺巣詩郎さんのステキなメロディラインを歌わせていただいたり、ケイコ・リーさんと共演して、彼女の素晴らしいバンドをバックに歌わせてもらったりっていう経験もあるから、どういう人のどういう音やプレイが自分の声にハマるか、なんとなく読めているんでしょうね。

──ただ、制作が順調だったかどうかは曲によりけりだった?

ジョシュなんかは「ダーティな感じで」って頼むと、次の日の朝には「これどう?」って「ダーティそのもの」っていう感じのをあげてくれる。そういうときだけは「さすがグラミー!」って思ってみたりもするんですけど(笑)、実はその「ダーティな感じ」の曲が一番難産だったりしたんですよ。

──どの曲ですか?

「OUT THE BOX」ですね。今回、ジョシュとはアメリカで一緒に5曲作って、そのうち4曲をアルバムに入れているんですけど、4曲が完成したあと、1日時間が余ったから「もう1曲作ろうか」っていう話になったんです。で「どんな曲を作りたい?」って聞かれたから「とにかくダーティな曲を作りたいんだ」「サウンドを歪ませまくった悪い感じの曲を歌いたい」って伝えたら「とりあえずわかった」と。で、次の日の朝、ハンバーガーかなんかを食べながらスタジオに行ったら「こんな感じでどう?」ってウッドベースのラインとリズムだけのトラックを聴かされたんですよ。でも、ベースとリズムだけだからすごくヒップホップみたいで「これ、ただのヒップホップじゃん」「これじゃメロディが浮かばないよ」って感じで行き詰まっちゃったんです。僕がやりたいのはクラブで踊るような曲じゃない。バンドと一緒にプレイするロックなわけですから。

──でも、完成版の「OUT THE BOX」ってミディアムテンポの16ビートを刻んではいるものの、ぜんぜんヒップホップっぽくないですよね?

ええ。そうやって「うーん」って悩んでて、スタジオの空気が若干マズくなり始めたら(笑)、突然、ジョシュがあるパズルを出してきて。それが正方形の中に打たれた9つの点を4本の線で結ぶっていうものだったんですけど、9つの点を4本線で結ぶには、正方形の2つの辺から大幅にはみ出した延長線を引っ張らなきゃいけないんですよ。で「ジョシュはなにが言いたかったんだろう?」って考えたとき「あっ、もっと発想を柔軟にしろ」「凝り固まってんじゃねえ」っていうことか、と気付いたんです。ベースとリズムのノリやコード感に捕らわれずに思いっきりやってみればいいんだ、って。そして思いつくままメロディを歌ってみたら、ブースの向こうでジョシュと通訳がハイタッチしていた、と(笑)。そうやって正方形=BOXの外にはみ出すパズルがきっかけで生まれた曲なんでタイトルは「OUT THE BOX」。デモのときに付けた名前で、実は詞とはあんまり関係ないんだけど、そのまま生かして、アルバムタイトルにもしてみました。

夏には他流試合に挑みたい

──アルバムリリース後にはツアーがありますけど、実はこのアルバムって生バンドで再現するのが難しそうですよね。

そこは工夫してますよ。シーケンスを走らせるだけだと絶対バンドは楽しくないし、僕自身も楽しめないから、再現にこだわる曲と、アルバムとは別のアレンジで楽しんでもらう曲を見極めなきゃいけないですよね。まあ、とりあえず生で聴いてガッカリしない内容にはしたいな、と。

──あはははは(笑)。

そのためには演出なんかもキーにはなるのかな、っていう気はしていますね。淡々とクールに歌う曲もあれば、エモーショナルに歌い上げるストレートなロックもあるし、「OKOKO」や「なわけないし」みたいなちょっとコミカルな曲もある。CHEMISTRY時代に作ったソロ曲も混在することになるので、なんか僕を観てもらうよりは「ここは夢の中かな?」「天国かな?」っていう感じの空間の中、音と声を楽しんでもらえるときっと面白いのかな、とは思ってます。あとは当然なんですけど、新しいファンを獲得するための突破口にはしたいですよね。だからライブもそうですし、その後もいろいろがんばりたいなとは思ってます。ライブが終わったら、またロンドンに曲作りに行くつもりなんですけど、あと夏あたりには他流試合もしないとぜんぜん広がらないんじゃないか、っていう気もしていますし。

──確かにロックファンにアプローチするなら、フェスに出るのが手っ取り早いかもしれない。

そういう場所で自分がどう観られるのかっていうことを確認したいし、お客さんには自分が今やっていることをしっかり観てもらいたいんですよね。

堂珍嘉邦
ソロデビューアルバム「OUT THE BOX」/ 2013年2月27日発売 / DELICIOUS DELI
初回限定盤 [CD+DVD] 3990円 / POCS-24902
通常盤初回プレス分[CD+オリジナルカレンダー] 3150円 / POCS-24903
通常盤 [CD] 3150円 / POCS-24007
CD収録曲
  1. handle me right ~album ver.~
  2. Shout
  3. なわけないし
  4. Reload
  5. SUNRISE
  6. 未来ハンモック
  7. hummingbird
  8. OKOKO
  9. OUT THE BOX
  10. Adored
  11. Lasers
初回限定盤DVD収録内容
  • 「Shout」PV
  • 「hummingbird」PV
  • 「handle me right」PV
  • 2012年10月8日渋谷公会堂公演「[A La Musique]」ライブ映像(「Shout」「hummingbird」「handle me right」「Reload」「未来ハンモック」)
堂珍嘉邦(どうちんよしくに)

1978年生まれ、広島県出身。オーディション番組「ASAYAN」の男性ボーカリストオーディションを経て、2001年3月にCHEMISTRYとしてデビュー。1stシングル「PIECES OF A DREAM」から大ヒットを飛ばし、日本を代表するアーティストとなる。2012年より本格的にソロ活動をスタートさせ、同年10月に東京・渋谷公会堂でライブ「堂珍嘉邦 "A La Musique"」を開催し、11月にシングル「Shout / hummingbird」でソロデビューした。自らの音楽性を「耽美エント(耽美+アンビエント)ロック」と位置付けており、CHEMISTRY時代とは異なるロック色の強いサウンドを構築している。