ナタリー PowerPush - 真心ブラザーズ×宇宙兄弟
マンガと音楽が互いに共鳴! まさかの兄弟コラボ実現
「拝啓、ジョン・レノン」の歌詞が自分の中に染みついている(小山)
──「宇宙兄弟」という作品に純粋に刺激を受けて、真心ブラザーズの新曲が生まれたというのはすごいことですよね。
小山 僕もそれは思いました。僕なんかは音楽からものすごく影響を受けるほうなんですよ。ロックが好きで、真心ブラザーズも大好きなんですけど、そういう曲を聴きながらマンガのイメージが湧くこともあるし、歌詞からヒントを得たりすることもあるんです。「拝啓、ジョン・レノン」の「僕もあなたもたいして変わりはしない どんな人でも僕と大差はないのさ」っていうメッセージは僕の中にはずっと残っていて、マンガを描くときにもどんな人でも自分と大差なく描いていこうっていう感覚が染みついていたりもして。今回は逆に僕のマンガを読んで桜井さんの中に曲が湧いてきたっていうことがすごくうれしかったし、実際にそうやって曲が生まれることがあるんだっていうことが驚きでもありましたね。
YO-KING やっぱりいいもんを作るって“快”なんですよ。その“快”を味わいたいんですよね、何度も。で、そのためには例えば何日までに曲作んなきゃいけないっていう状況よりも、マンガ読んだり映画観たりライブ観たりして、「なんか今、書ける気がする!」ってやったほうが効率がいいし、濃いものができるんですよ、やっぱり。恥ずかしさとかを感じないで熱くなった状態で創作に入れるから、悪い意味での俯瞰的な目線がないっていうかね。そういう、勢いで作った曲のほうが僕の場合はいい曲が多いですね。勢いで作ると突っ込みどころも多いんだけど、そのほうがステキな曲だったりするっていうか。
小山 ああ、わかります。
YO-KING サラッと流れていくような曲じゃ面白くない。やっぱ引っかかるっていうのが大事なんです。突っ込みさえしたくない曲も世の中にはありますからね……って、ちょっと毒入れときましたけど(笑)。
小山 マンガも同じですよね。昔のマンガとかって突っ込みどころ満載だけど、だからこそ面白くって。今はなるべく突っ込まれなくしようっていう気持ちが働いちゃうこともあるっていうか。
YO-KING 「何、この『デビルマン』の終わり方?」とかね(笑)。矢吹ジョーの正面からの絵が見てみたいとか。髪型どうなってんだみたいな。
桜井 スネオの髪もね(笑)。
小山 ケンシロウのシャツは毎回破れるのになぜ毎回元に戻るのか、とか(笑)。突っ込みどころだけど毎回、絶対に見たいっていうのがありましたもんね。
曲のイメージをもとに描いた絵が偶然シンクロ(小山)
──楽曲の話に戻りますが、桜井さんは「宇宙兄弟」からどんな印象を受けて、それをどうやって「サニー」という曲に落とし込んでいったんですか?
桜井 なんかね、主人公のムッタさんからどこか懐かしい印象を受けたんですよ。小学校のときにこういうヤツいなかったかな、みたいな。ちょっと懐かしい友達を思い出すというか。僕の高校時代に“お天気大好き田口くん”って人がいたんですよ。全然クラスも違って、そんなに仲良かったわけでもないんだけど、その田口くんがのちにNHKで天気予報を読むようになって。別の友達と「おい、あのお天気大好き田口くんが天気予報読んでるぞ!」って話をしたりして(笑)。それに近い感触がムッタさんにはあったんですよね。で、そこからワーッと胸に湧き上がったものを曲にしたんですけど。
小山 この曲を聴いているとすごく晴れやかで平和な気持ちになれます。特にサビが気持ちいいです。最初に聴いたのは桜井さんが歌ってるデモバージョンだったんですけど、「こりゃ名曲やな」ってつぶやきましたよ(笑)。「宇宙兄弟」の話をなぞるんじゃなくて、今回のようにちゃんと新たなものを作ってくれてるっていうのがやっぱりプロだなって思うし、すごく好きなんですよね。
桜井 内容的に全然宇宙じゃないですからね(笑)。
小山 「向き不向きは無視してごらん」「『好きかも』と直感が走る」っていう歌詞もすごく好き。2番の「月並みでも~」からの歌詞もグっときます。で、曲から受けたイメージをもとに僕は絵を描いたんですよ。
──「サニー」の着うたフルをダウンロードするとプレゼントされる携帯待ち受け画像の描き下ろしイラストですね。
小山 そうです。タイトルのとおりで晴れやかで気持ちのいい曲調と、あとは歌詞の内容を「宇宙兄弟」に照らし合わせて描いていきました。マンガの中ではヒビトがムッタを待っている図式なので、イラストもヒビトをメインに描いて。2人とも自転車に乗ってきた絵になったんですけど、最終的にYO-KINGさんが歌ったバージョンの曲を聴いたら頭にチリンチリンっていう音が入ってて。
桜井 え? 自転車の絵を描いたのはチリンチリンの効果音を聴く前だったんですか?
小山 そうなんですよ! だからもうバッチリだなと思って。
──ちょっと鳥肌もののシンクロニシティですね。
小山 偶然ですけど、ブラザーズつながりですしね。
YO-KING アハハハ。確かにうまいことになってる。兄弟×兄弟(笑)。
真心ブラザーズ(まごころぶらざーず)
YO-KINGと桜井秀俊によって1989年に結成。テレビ番組の「勝ち抜きフォーク合戦」で10週勝ち抜いたことをきっかけに、同年9月にシングル「うみ」でメジャーデビュー。「モルツのテーマ」「どか~ん」といったナンバーがTVソングに起用され、そのフォーキーなサウンドが好評を博す。1995年リリースのシングル「スピード」以降は、それまでのイメージを払拭するようなロック&ソウル色の強い音楽性へと移行。「サマーヌード」「拝啓、ジョン・レノン」「空にまいあがれ」など、数々の名曲を発表する。デビュー20周年を迎えた2009年にはベストアルバム「GOODDEST」をリリース。結成以来初となる2人きりのアコースティックライブツアー「真心道中歌栗毛」が、6月28日青山・草月ホールを皮切りにスタート。
小山宙哉(こやまちゅうや)
1978年京都生まれ。初めての持ち込み作品「ジジジイ」 で第14回マンガオープン審査委員賞(わたせせいぞう賞)を受賞。「ハルジャン」「ジジジイ-GGG-」などのヒットを経て、2007年12月から週刊「モーニング」で代表作「宇宙兄弟」の連載をスタートさせる。「宇宙兄弟」は2012年春に実写映画の公開も決定。2011年6月23日には単行本最新14巻が発売される。