音楽ナタリー Power Push - 安藤裕子×スキマスイッチ

デビュー12年の“同期”と楽曲提供、歌、アレンジまで360°(ぜんほうい)音楽談義

スキマスイッチのシングルを作るときと同じテンションだった

──スキマスイッチがほかのアーティストに楽曲を提供するのもひさしぶりですよね。

大橋 そうですね。今まではコンペみたいなものに曲を出して、その人が気に入ったら歌ってもらうというパターンがほとんどだったんです。ほかの人が歌うために曲を書き下ろすのは今回が初めてだよね?

常田真太郎(スキマスイッチ)

常田 うん。しかも共作ではなくて、スキマスイッチが作った曲を歌ってもらうっていう。

安藤 今回は“(曲を)作る自分”は要らなくて、歌うことに終始したかったから。2人にも安藤裕子のパーソナルな部分を意識してほしくなかったんです。だから「スキマスイッチがスキマスイッチのために作る、スキマスイッチの代表曲みたいな曲がいいです」って言って。2人はツアー中ですごい忙しいときだったんですけど……。

常田 そうでした(笑)。こちらとしては、(スキマスイッチの)シングルを作るときと同じテンションだったんですよね。いつものように「どういう曲にする?」って卓弥とディスカッションするところから始めて。

──大橋さんはどうでした?

大橋 その話をもらったときは、すぐに「やります!」という感じではなかったんですよね、僕は。もちろんすごくやりたかったんですけど、「まずは本人と話さないとわからないな」と思って、「会うタイミングを作ってもらえませんか?」って言ったんです。

安藤 うん。

大橋 一般的に楽曲を提供するときって、まず会社同士が話をして、そこからアーティストに降りてきて「こういう話が来てます」「そうですか。じゃあ、やります」みたいな流れがほとんどだと思うんですよ。こちらとしては「(歌い手が)私は何もわからないんですけど……」みたいな感じでもいいんです。でも安藤さんはアーティスト気質が強いと思うし、とにかく話をしないと「やります」とは言えないなって。

常田 「絶対、何か考えていることがあるはずだよね」って。

大橋 そうそう。話をすることで「だったら僕が書いたほうがいい」とか「シンタくんの曲のほうがいい」とか「スキマスイッチが曲を書いて、安藤さんに歌詞を書いてもらったほうがいい」みたいなことも見えてくると思ったし。で、実際に話してみたら「歌い手としてやりたい」ということだったんですよね。そのときに「スキマスイッチらしい曲がいい」ということも言ってもらったし、安藤さんが僕らに対して持っているイメージに合う曲を書けば、気に入ってもらえるのかなって。ただ、最終的に歌うのは安藤さんだから、そこをまったく無視することはできなかったですね。

常田 そうだね。「安藤さんが歌うとどうなるのかな?」という話はゼロではなかったし。

安藤 そうなんだ。デモを初めて聴いたときは「あ、スキマスイッチだ」って思ったけどね。

常田 ハハハハハ!(笑)

大橋 (笑)。「スキマスイッチです!」ってグイグイ来る感じ?

安藤 そうそう(笑)。仮歌も大橋くんが歌ってくれてたし、こちらがお願いしたことを期待以上の形で返してくれたというか。

スキマ独特の譜割りと安藤の再現性

安藤 やっぱりね、譜割りが独特なんですよ、スキマさんの曲は。私としてはそれを熱望してたんだけど、実際に自分で歌うのはけっこう大変でした。

大橋 安藤さんが歌ったテイクを聴くのもすごく楽しみだったんですよ。気持ちとしては歌入れをこっそり見に行きたいくらい興味があったから。でもね、正直に言うとちょっとだけ不安もあって。

安藤 うん。

大橋 僕らの曲って確かに独特の譜割りなんだけど、それを(楽曲を提供したアーティストに)忠実に再現してもらったことがほとんどないんですよね。

常田 そうだよね。

大橋 今回も「こっちのイメージとはちょっと違う感じになるんだろうな」と思ってたんだけど、実際に聴いてみたら、見事にちゃんと歌ってくれていて。「どんだけデモを聴いてくれたんだろう?」って思いましたね。

安藤裕子

安藤 よかった(笑)。あとね、ともすると大橋くんっぽい歌い方をしちゃうんですよね。例えば「♪君と二人~」のところとか、めちゃ“大橋感”があるから。

大橋 あ、そこは誰が歌ってもそうなるようにこっちも作ってると思う。

安藤 大橋くんのハンコみたいな感じか。ただ、せっかく女のボーカリストが歌うんだから、モノマネっぽくなるのはもったいないなと思って。サビは元気に歌っていいと思うけど、Aメロ、Bメロは女性らしく歌いたかったんだよね。あとはコーラスをフワーッと重ねたりして、安藤裕子らしさも印象として出せたらいいなって。……でも、ホントに難しかった。こんな曲をサラッと歌える人がいたら、すぐデビューできるよ(笑)。

常田 YUKIさんも同じことを言ってたらしいよ。

大橋 そうそう。余談だけど、YUKIさんに曲を提供したことがあるんですよ(アルバム「Wave」に収録された「You've got a friend」)。YUKIさんは僕らの曲だって知らないでデモを聴いたみたいなんだけど、「この人、自分で歌ってデビューしたほうがいいよ」って(笑)。

安藤 そうなんだ(笑)。でも、大橋くんがしっかり仮歌を歌ってくれてたからすごく助かった。メロディと歌詞を別々に渡されてたら、どう歌っていいかわからなかったと思う。

常田 歌はきちんと録ったからね。デモのレベルじゃないよね、あれは。

大橋 うん。「この歌はこういう感じなんです」っていうのをしっかり伝えたかったから。

譜面に「山本隆二さん、ここはお願いします」って書きました

大橋 逆にアレンジに関しては、2人で作ったデモの段階では最低限のことしかしてないんですよ。

常田 そうだね。

大橋卓弥(スキマスイッチ)

大橋 間奏も作ってなくて、コード進行だけ書いて渡して。

常田 譜面に「(アレンジャーの)山本隆二さん、ここはお願いします」って書きました。できあがったアレンジを聴いて、サビで始まるのはビックリしたけどね。

大橋 「あ、そう来たか!」っていうね。あれは隆二さんのアレンジなの?

安藤 モッさん(山本隆二)、アンディ(ディレクターの安藤雄司氏)と話しながら決めた感じかな。今回アレンジは安藤裕子チームでやったんだけど、最初にモッさんが作ったアレンジだと(スキマスイッチのデモに比べて)疾走感とか、開けていく感じが足りない印象があったの。そこで「うーん……」ってなっちゃって。こっちとしては「スキマスイッチの曲をカバーする」というつもりで取り組んでいたんだけど、「スキマ以外の人がスキマの曲を歌うのって、やっぱりロクでもないな」って思われたらイヤだなって。

大橋 それは言わないと思うけど(笑)。

安藤 でも、スキマさんのファンの人たちも高揚できる曲にしたかったから。デモの時点で感じていた夏のさわやかさとか弾ける感じがなくなったら、本末転倒だよねって。

──完成した「360°(ぜんほうい)サラウンド」は、冒頭のサビが聴こえた瞬間に夏のさわやかさが広がるイメージに仕上がってますよね。常田さんは山本さんのアレンジについて、どんなふうに感じてますか?

常田 まず、どんなアレンジになるかすごく楽しみだったんですよね。去年の音霊で「全力少年」を安藤さんとやったときも、山本さんは「ここはこういう感じがいいと思うけどどうかな」ってどんどん言ってくれて。

大橋 そう、だから今回もコードを変えてきたりするのかなって。

常田 上がってきたものを聴かせてもらったときも、「すごいな」と思いましたね。サビ始まりといい、ストリングスを大フィーチャーしているところといい、とにかくオシャレでカッコよくて。いい意味でかわいい感じにならないんですよね、山本さんのアレンジは。さわやかさの中にも芯があるし、すごくソリッドだし。

安藤裕子 ニューシングル「360°(ぜんほうい)サラウンド」 / 2015年7月29日発売 / 1080円 / cutting edge / CTCR-40370
「360°(ぜんほうい)サラウンド」
収録曲
  1. 360°(ぜんほうい)サラウンド
  2. うしろゆびさされ組
  3. 360°(ぜんほうい)サラウンド Inst.
  4. うしろゆびさされ組 Inst.
安藤裕子(アンドウユウコ)
安藤裕子

1977年生まれのシンガーソングライター。2003年にミニアルバム「サリー」でメジャーデビュー。2005年、月桂冠「定番酒つき」のCMソングで話題になった「のうぜんかつら(リプライズ)」を含む2ndアルバム「Merry Andrew」が12万枚のヒットを記録。類い稀なソングライティング能力を持ち、独特の感性で選ばれた言葉たちを熱量の高い歌に乗せる姿で支持を集める。アートワークやメイク、スタイリングまですべてを自分でこなし、その多才さから2014年には映画「ぶどうのなみだ」のヒロイン役に抜擢され、本格的な演技にも初挑戦した。2015年7月にスキマスイッチ書き下ろしによるシングル「360°(ぜんほうい)サラウンド」をリリースする。

スキマスイッチ
スキマスイッチ

大橋卓弥、常田真太郎のソングライター2人からなるユニット。2003年7月にシングル「view」でデビューして以降、「奏(かなで)」「全力少年」 などヒット曲を次々と生み出す。2013年7月9日にデビュー満10周年を迎え、同年8月には初のオールタイムベストアルバム「POPMAN'S WORLD~All Time Best 2003-2013~」を発表した。2014年には「Ah Yeah!!」「パラボラヴァ」「星のうつわ」とシングルを立て続けに発表し、12月にはセルフタイトルを冠した約3年ぶりのオリジナルアルバム「スキマスイッチ」をリリース。アルバムを携えた全国ツアー追加公演「スキマスイッチTOUR2015 "SUKIMASWITCH" SPECIAL」日本武道館公演の模様を収録したライブアルバムが2015年10月に、ライブBlu-ray / DVDが同年11月に発売される。