ナタリー PowerPush - ASIAN KUNG-FU GENERATION

初のベスト盤「BEST HIT AKG」発売の真意をメンバー&スタッフが語る

ASIAN KUNG-FU GENERATIONが初のベストアルバム「BEST HIT AKG」をリリース。このアルバムには結成当初の楽曲から最新シングルまで、全17曲が収録され、彼らの歩みを一度に振り返ることができる。

ナタリーではこのベストアルバム発売を記念し、メンバー本人および彼らの楽曲制作に深くかかわるレコード会社のスタッフにインタビューを敢行した。彼らの言葉からバンドが大きく羽ばたいていった様子、そして初のベストアルバムに込めた思いを感じ取ってほしい。

【前編】株式会社キューンレコード制作部 白井嘉一郎が語るアジカンの成長

ASIAN KUNG-FU GENERATIONの楽曲制作にデビュー当時からかかわっている人物の1人が、キューンレコード制作部のディレクター、白井嘉一郎だ。インディーズ時代より彼らの魅力と実力に着目し、メジャーデビューやその後の音楽制作をバックアップしてきた。

約10年にわたってアジカンに携ってきた白井から見て、バンドの成長過程や音楽性の変化とはどのようなものだったのか。じっくりと語ってもらった。

取材・文 / 青木優 インタビュー撮影 / 中西求

ビジネスマナーを知ってるロックバンド

──白井さんがアジカンの存在を知ったのはいつですか?

インタビュー風景

「崩壊アンプリファー」(2002年、インディーズ発売)のデモ段階の音を聴いたのが最初ですね。それで当時のリリース元だったUnder Flower Recordsのイベントで、初めてライブを観ました。そのときに思ったことが2つあって、1つは後藤(正文)が「自分たちの曲が入ってるコンピを買っていただくと、こっちのほう(お金)がちょっと入るんで(笑)」というMCをしてて、お金の話をユーモアを交えてサラッとできるスマートさが、すごく賢いなと思ったこと。それからそのとき「君繋ファイブエム」(2003年)に入る「電波塔」という曲を既にやってたんですけど、この曲の中盤部分はボサノバになるんです。「あ、こういうことできるんだ」と音楽性の広さを感じましたね。ただ、この頃の演奏はボロボロでした(笑)。だけど演奏って、心がけ次第で上手になるんですよ。でも声は与えられたものなので、どうにもならない。後藤はごく少ない割合で存在する、魅力的な声を持っている人だなって思いました。それに曲はよくできてるし、だからそのときにすぐ「やろう!」という感じになりましたね。

──当時、メンバーの人間的な部分についてはどう思いました?

普通、でしたね。これも有名な話なんだけど、彼らは一度社会人を経験しているので、「初めまして」と名刺を渡すと、きちんと自分の前に並べて置く(笑)。ビジネスマナーを知ってるロックバンドでした。そういう意味では普通じゃないかもしれないですけど、実にちゃんとした人たちでした。

──そこからデビューに至る過程で、音楽の方向性について一緒に話し合ったりしたんですか?

いや、彼らは自分たちのやることに関してすごく自覚的な人たちなので、ある意味メーカー要らずではあると思うんですよ。メジャーと出会ってよかったとは思うけど、場合によってはインディーズでも完結できる、それぐらい活動に関しての考え方がしっかりしているんです。バンド内で意思統一がされている感じだった。だから音楽性云々についても、僕が一緒にああだこうだと揉んだことはないです。そうしてみると、彼らの本質にあるインディーズっぽさやDIY精神と、「次はこのタイミングでシングルを出すのはどうかな」といったメジャーのコマーシャルな考え方が、うまく折り合えた感じでしたね。

バンド側との対立をキープし続ける

──では、できあがってくる音源には、どんなことを思ってました?

これは「崩壊~」の頃からだけど、絶対成功すると思ってました。それまでのロックバンドのスピリッツを捨てないまま、その雰囲気を一般に翻訳できる人たちだと……一般に向けて間口の広いバンドがようやく出てきたな、と感じましたね。

──というと?

アジカンの曲って、ポピュラーミュージックとしても非常に優秀な構造で、コード進行が曲のルートになかなか戻ってこない、いわゆる「解決しない」状態を非常に上手に作っているんです。あと、歌とは別にもう一つメロディラインがあることにも、実は非常にこだわっていて、特に「君繋~」がそうなんだけど、喜多(建介)くんのギターが最初から最後までずーっと、ボーカルとは別のメロディでアレンジされている。この曲があればどうやっても売れるはず、と思っていました。

──なるほど。

インタビュー風景

だから「君繋~」のときに「あ、勝った」って感じがしたんじゃないかな。俺もメンバーもお互い信じてるものが一緒で、それが世間に認められたわけですから。「今までこんな完成度のアルバムを作ったロックバンドはないぜ!」と思っていましたしね。ただ、本当に売れたのは「ソルファ」(2004年)のときでした。

──バンド側が作る音楽に対してサジェスチョンをすることはあまりなかったわけですか?

そうですね。ただ、なるたけ生々しい初期衝動を記録したがるバンド側と、何十年も聴けるCDを残そうとするプロフェッショナルなディレクターとしての俺とのせめぎ合いっていうものはあったかな。例えば「ワールド ワールド ワールド」(2008年)はものすごい作り込んでるし、その次の「サーフ ブンガク カマクラ」(同じく2008年)はそれとは逆に一発での録音の良さをどこまで出せるかがポイントだった。そこでは後藤も俺も「どっちがいいんだろう?」って、それぞれ揺れてる。でも、あえて自分の仕事を評価するならば、そこでずっとバンド側とのコンフリクト(対立)をキープし続けたことは良かったと思います。

ベストアルバム「BEST HIT AKG」 / 2012年1月18日発売 / Ki/oon Records

  • ベストアルバム「BEST HIT AKG」
  • 初回限定盤 [CD+DVD] 3900円(税込) / KSCL-1915~1916 / Amazon.co.jp
  • 通常盤 [CD] 2800円(税込)/ KSCL-1917 / Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. 遥か彼方
  2. 未来の破片
  3. アンダースタンド
  4. 君という花
  5. リライト
  6. 君の街まで
  7. ループ&ループ
  8. ブラックアウト
  9. ブルートレイン
  10. 或る街の群青
  11. アフターダーク
  12. 転がる岩、君に朝が降る
  13. ムスタング
  14. 藤沢ルーザー
  15. 新世紀のラブソング
  16. ソラニン
  17. マーチングバンド
DVD収録内容
  • フラッシュバック (Studio Live)
  • 未来の破片 (Studio Live)
  • 電波塔 (Studio Live)
  • アンダースタンド (Studio Live)
  • 夏の日、残像 (Studio Live)
  • 無限グライダー (Studio Live)
  • その訳を (Studio Live)
  • N.G.S (Studio Live)
  • 自閉探索 (Studio Live)
  • E (Studio Live)
  • 君という花 (Studio Live)
  • ノーネーム (Studio Live)
ライブ情報
2012年2月19日(日)
千葉県 幕張メッセ イベントホール
OPEN 15:00 / START 16:00
2012年2月22日(水)
東京都 日本武道館
OPEN 18:00 / START 19:00
2012年2月23日(木)
東京都 日本武道館
OPEN 18:00 / START 19:00
2012年2月26日(日)
大阪府 大阪城ホール
OPEN 17:00 / START 18:00
ASIAN KUNG-FU GENERATION(あじあんかんふーじぇねれーしょん)

1996年に同じ大学に在籍していた後藤正文(Vo, G)、喜多建介(G, Vo)、山田貴洋(B, Vo)、伊地知潔(Dr)の4人で結成。渋谷・下北沢を中心にライブ活動を展開し、エモーショナルでポップな旋律と重厚なギターサウンドで知名度を伸ばす。2002年にはミニアルバム「崩壊アンプリファー」をリリース。同年「FUJI ROCK FESTIVAL '02」や「SUMMER SONIC 2002」などの夏フェスに出演し、メジャー1stアルバム「君繋ファイブエム」を発表。2004年には2ndアルバム「ソルファ」でオリコンウィークリーチャート初登場1位を獲得し、初の日本武道館ワンマンライブを行った。2009年には映画「ソラニン」の主題歌として書き下ろし曲「ソラニン」を提供し、大きな話題を呼んだ。2003年からは自主企画によるフェスティバル「NANO-MUGEN FES.」を開催。海外アーティストや若手の注目アーティストを招き、幅広いジャンルの音楽をファンに紹介する試みも積極的に行っている。2012年1月、初のベストアルバム「BEST HIT AKG」をリリース。


2012年1月20日更新