映画ナタリー Power Push - 「シン・ゴジラ」公開記念特集

鈴木敏夫、庵野秀明を語る

庵野秀明は時代を切り開くタイプ

──2014年に開催された第27回東京国際映画祭での庵野監督の特集「庵野秀明の世界」は鈴木さんの企画だそうですね。

鈴木敏夫

「風立ちぬ」にも出てもらうし、いろいろお返ししとかないといけないなと思ってね。「エヴァ」は日本で大人気、でも海外での展開があまりうまくいってないと僕のところには聞こえてきていた。だから、世界の人が集まる映画祭で彼を紹介するのはいいことなんじゃないかなと考えて。あれは面白い特集になりましたよね、僕も楽しかったですけど。これも……時効かなと思うんですけど、(キャロライン・)ケネディ大使の息子さんが庵野秀明の、というか「エヴァ」の大ファンでね。ケネディ大使が息子さんと一緒にその催しに何回も顔を出すという出来事があったんですよ。外国にも大好きな人はやっぱりいるんだなと思いましたね。

──その記者会見の中で鈴木さんは「庵野秀明が今後10年、日本のアニメーション界を引っ張っていく存在だ」というようなことを仰ってました。今もそう思われていますか?

現実問題として彼じゃないですか。それに、本人がその気だしね。正確な言い方は忘れたけど、庵野は「75までやらなきゃいけない」、なぜかと言うと「宮崎駿がいまだにやってるから」と言ってたんですよ。そうするとあと約20年。そのためにいろんなことをやってるんだって本人が言ってましたからね。作品ってね、2つあると思うんです。時代を切り開いていくものと、普遍性のあるもの。庵野秀明は時代を切り開くタイプだと思うんですよ。彼はあと20年、それにチャレンジし続けるんだろうなと僕は予測しています。僕も隠居したらそういうのを楽しみながら観てみたいですよね(笑)。

──アニメ界に新しい監督がどんどん出てきていると思うんですけれど、鈴木さんはそれをどのように見ていますか?

申し訳ないけれど全然知らないんですよ(笑)。たまに新しい人を紹介されたりするけど、自分が作品を観てないからわからない。僕が知ってるのは、僕らの世代とその下ぐらいまでですね。あんまり勉強家じゃないんですよ。近年で観て面白かったのは虚淵(玄)さんが脚本を書いた「まどマギ(魔法少女まどか☆マギカ)」かな。押井守があるとき「まどマギ」を審査員として評価したでしょ。僕、逆だろうって思ったんですよね。押井さんが作るものより「まどマギ」のほうが面白いもん(笑)。

宮崎駿、高畑勲に道場破り

───お話を聞いていると、庵野監督から見た鈴木さんは完全に恩人ですね。

鈴木敏夫

いやー、あいつはそんなこと感じてない。僕は利用されてるだけ(笑)。堂々と言うんですよ、鈴木さんみたいな業界で経験を重ねた年寄りは若い人の面倒を見るべきだって(笑)。だから自分のいろんなものを手伝えって言うんですよね。言うことを黙って聞いてたら次から次へといろんなことをやらなきゃいけなくて大変なんです。でも本当に彼は面白いですよね、いろんな意味で。

──誰に頼まれてもやるわけじゃないですよね。

まあそうですね。むしろ断ってる人のほうが多いですもん。今日のインタビューだってそうですよ。普通だったらやりたくない(笑)。庵野絡みだからしょうがないなと思うわけですよ。

──そうなんですね。庵野監督のお願いを聞いてしまうのはなぜなんでしょうか。

あいつねえ、人に何かをやらせる独特のものを持ってますね。なんなんだろうなあ、本当はあんまり忙しくなるのが嫌だから逃げたいんですけどね。なんなのかって言われても困りますけど、まあ憎めないやつなんで。人間が悪いやつじゃない(笑)。変な言い方だけど人間が信頼できる。

──「ナウシカ」の頃からですか?

「ナウシカ」の頃は巨神兵をちゃんとやってのけてくれたっていうことぐらいしかわかんなかった。ただ「火垂るの墓」のときに、彼がこんなこと言ったのを覚えていて。「これで宮崎駿と高畑勲、この2人のことはだいたいわかった」と。

──すごい言葉ですね(笑)。

「そうなんですよ、鈴木さん」と言われてね。へえー面白い男だなあと思ったんですよ。昔で言うと道場破りだなと。道場を訪ねて宮崎駿と高畑勲に果たし合いを申し込んで、それでマスターしたっていう感じなんですよね。それが非常に面白かった。強く印象に残ってますね。いやあ、30年以上付き合うとこういうことになるんですね。いろんなエピソードを思い出します。そういうのは別にしても、とにかく毎回普通の作品は作らないから、監督としての期待値が高い。今度は何やるんだろうと期待してしまう存在なので、「シン・ゴジラ」も楽しみですよ。

「24時間まるごと 祝!シン・ゴジラ」

「24時間まるごと 祝!シン・ゴジラ」

日本映画専門チャンネル
7月28日(木)19:00~29日(金)22:00

庵野秀明が総監督を務める「シン・ゴジラ」が7月29日に封切られる。その公開を記念し、庵野がこれまでに手がけた実写5作品を連続放送。また「シン・ゴジラ」主演の長谷川博己、石原さとみ、芸能界屈指のゴジラファンとして知られる佐野史郎らゲスト10名が初めて鑑賞したゴジラ作品と、当時の思い出やエピソードを語る特別トーク番組「ゴジラ ファーストインパクト」全8回も一挙放送する。さらにゴジラ作品8本も放映され、その中にはシリーズで初めて全編4Kデジタルリマスターで送る「『キングコング対ゴジラ』<完全版>4Kデジタルリマスター」も含まれる。

庵野秀明実写映画 放送作品

「巨神兵東京に現わる 劇場版」
「式日」
「ラブ&ポップ<R-15>」
「キューティーハニー」
「流星課長」

「ゴジラ ファーストインパクト」

日本映画専門チャンネル 毎週木曜 21:00~

8月までオンエアされる特別番組。ゴジラシリーズへの出演経験を持つ宇崎竜童、お笑いコンビ・ドランクドラゴンの塚地武雅ら計10名のゲストが初めて鑑賞したゴジラ作品と、鑑賞当時の思い出を語る。7月のゲストには「新世紀エヴァンゲリオン」のプロデューサーで庵野秀明との親交も深い大月俊倫、「シン・ゴジラ」主演の長谷川博己、石原さとみらが並ぶ。

なお、抽選で555名に特製ゴジラTシャツが当たる「ゴジラ初体験記」投稿キャンペーンが7月31日まで特設サイトにて開催中だ。

鈴木敏夫(スズキトシオ)

1948年、愛知県生まれ。慶応義塾大学卒業後、徳間書店に入社。週刊アサヒ芸能などを経て、1978年、アニメ雑誌・月刊アニメージュの創刊に携わる。同誌の編集を行いながら、高畑勲らとともに1984年公開の劇場版アニメ「風の谷のナウシカ」を製作。1985年、スタジオジブリの設立に参加し、以後「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」「火垂るの墓」「魔女の宅急便」を製作する。1989年からはスタジオジブリ専従となり、「平成狸合戦ぽんぽこ」「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」「風立ちぬ」などをプロデュース。アニメ作品のほかに庵野秀明の監督作「式日」、樋口真嗣の監督作「巨神兵東京に現わる」といった実写作品も手がけている。6月17日、著書「ジブリの仲間たち」が発売。プロデューサーを務めたスタジオジブリ最新作「レッドタートル ある島の物語」が、9月17日に封切られる。

鈴木敏夫「ジブリの仲間たち」
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2016年7月28日更新