月刊ミステリーボニータ(秋田書店)で連載中のファンタジー作品「クジラの子らは砂上に歌う」。砂に覆われた海に浮かぶ巨大な船「泥クジラ」、そこで暮らす超能力を使う短命の種族と能力を持たない長命の種族、砂海の果てからやってくる災厄……。独自の世界観を美しく儚げなタッチで描いた本作はマンガファンの間で話題を呼び、「このマンガがすごい!2015 オンナ編」(宝島社)では10位に選ばれ、2016年には舞台化。さらにこのたびテレビアニメ化が決定した。
アニメ化を記念し、コミックナタリーでは原作の梅田阿比、シリーズ構成を手がける横手美智子の対談をセッティング。数多いキャラクターの魅力や世界観のルーツ、アニメ化にあたってのこだわりなどを語ってもらった。
取材・文 / 松本真一
砂の海に覆われた世界の中、小島のような漂泊船「泥クジラ」の上で暮らす人々がいた。外界との接触がまったくないこの島の人口は、513人。
感情を源とする超能力“情念動(サイミア)”を有する代わりに短命な“印(シルシ)”と、能力を持たないが長命の“無印(むいん)”という種族からなる彼らは、小さな共同体を形成し穏やかに過ごしていたのである。
島の記録係である“印”のチャクロは、ある日泥クジラに漂着した廃墟船を調査する中で、謎の少女“リコス”と出会う。島の人間にとって、初めてとなる外界の人間との接触。それは、新世界を開く福音なのか──。
- チャクロ(CV:花江夏樹)
- 泥クジラで起きた出来事を書き記す記録係で、14歳の少年。日々の出来事を執拗なまでに書き留めるハイパーグラフィア(過書の病)であり、その特性を活かして島の記録係を務める。“印”だがサイミアを制御するのは苦手なために「デストロイヤー」と呼ばれることも。
監督は「原作通りにやらないと意味がない」というスタンスです(横手)
梅田阿比 直接お会いするのは2回目ですよね。
横手美智子 顔合わせのとき以来ですね。梅田先生はこの作品がアニメ化されるというのはいつ頃から聞いていたんですか?
梅田 そういうお話があるのはけっこう前から聞いていたんですけど、「本当にいいのかな? もしかしたら実現しないんじゃないのかな?」とずっと思っていたんです。こういうことを言うと怒られるんですけど、原作の知名度的にはアニメ化するほどのものではないと思っていたので……。
──いえいえ、アニメ化が発表されたときも、反響は大きかったと思いますよ(参照:「クジラの子らは砂上に歌う」アニメ化決定!砂に覆われた世界のファンタジー)。
梅田 私は本当にアニメ化するって確信が持てたのは、もう発表していいって決まったときなんです。
横手 その頃にはもうたくさんの大人がアニメのために動いていたと思いますよ(笑)。私が脚本を書いているときも、梅田先生はまだアニメ化を信じられてなかったんですね。
梅田 担当編集さんがすごく慎重な方なんですよ。万が一のときにガッカリしないように、アニメ化の発表をするときまで「確定です」という言い方はしてくれなかったんです。
横手 石橋を叩きすぎだと思います(笑)。
──アニメ化にあたり、梅田さんからスタッフに要望は出されたんでしょうか。
梅田 最初にイシグロ(キョウヘイ)監督にお会いしたときにお伝えしたのは、「あまり原作に気を遣いすぎないでください」と。アニメで初めてこの作品を知る方も多いと思うので。だから、原作に気を遣わないでほしいというか、「展開は変わってもいいので、アニメしか知らない人も面白く観られるようにしてください」ということはお伝えしました。でもイシグロ監督からは「とにかく忠実に、原作を尊重したものにしたい」というお話がありましたね。
──基本的には原作そのままにアニメになると。原作だと残酷な描写があったりしますよね。そこもそのまま?
横手 イシグロ監督は「逃げずにちゃんと真正面から原作通りにやらないと意味がない」というスタンスですね。だから私は「お、おう」みたいな感じで脚本を書きました(笑)。
──なるほど。ただ原作はまだ続いているので、話数の決まっているテレビ放送となると展開を変えざるを得ないかなと思うんですが。
横手 そうですね。アニメの終盤は原作と違う部分もあります。私は原作を6~7巻まで読んだ時点で「たぶんこれはまだ山で言うと3合目ぐらいなんじゃないか」という印象を受けたんですよ。
──非常に大きな世界観のお話ですよね。
横手 「クジラ」は「指輪物語」や「ナルニア国物語」、あるいは「ゲド戦記」であるとか、そういった作品のような、上質なハイファンタジーですよね。だからそれをテレビアニメとしてまとめてほしいというオーダーをもらったときは、どうしようかと(笑)。でもイシグロ監督とお話しして、変える部分は変えて、アニメだけでも収まる形でラストまで書き上げました。
梅田 長い原作もののアニメで「オリジナル展開を書いてくれ」って言われたときって、難しいと思うのか楽しいのか、どっちですか?
横手 楽しい部分もありますけど、私は「難しいな」と思うほうですね。先生にちょっと聞いてみたかったんですが、マンガを長く描いていると「もうアイデアが出てこない」って思ったりしないんですか?
梅田 いえ、思いついたけど削ったアイデアのほうが多いですね。早く終わりたいっていうのはありますけど……(笑)。
──「早く終わりたい」というのは問題発言ですね(笑)。
横手 原作はあとどれぐらい描くというのは決めているんですか?
梅田 そう聞かれたら、「いま折り返し地点を超えたところです」……って毎回言っています。これは嘘で言っているわけじゃなくて、毎回本気でそう思っているんです。でもだんだんアイデアが膨らんでいくので、難しいですね。
次のページ »
アニメのオウニは、原作よりも……(梅田)
- アニメ「クジラの子らは砂上に歌う」
- 放送情報
-
- TOKYO MX:2017年10月8日(日)より毎週日曜23:00~
- KBS京都:2017年10月8日(日)より毎週日曜23:30~
- サンテレビ:2017年10月8日(日)より毎週日曜25:00~
- BS11:2017年10月10日(火)より毎週火曜24:30~
- Netflix:2017年10月8日(日)より配信開始
- キャスト
-
チャクロ:花江夏樹
リコス:石見舞菜香
オウニ:梅原裕一郎
スオウ:島﨑信長
ギンシュ:小松未可子
リョダリ:山下大輝
シュアン(団長):神谷浩史 - スタッフ
原作:梅田阿比(秋田書店「月刊ミステリーボニータ」連載)
監督:イシグロキョウヘイ
シリーズ構成:横手美智子
キャラクターデザイン:飯塚晴子
美術監督:水谷利春(ムーンフラワー)
音楽:堤博明
アニメーション制作:J.C.STAFF
- 「クジラの子らは砂上に歌う」BOX 1
- 2018年1月26日発売 / バンダイビジュアル
-
- 原作・梅田阿比 描き下ろしマンガ
- 特典CD
- 特製ブックレット
- 原作・梅田阿比原案 新作OVA
- 劇伴レコーディング映像
- オーディオコメンタリー
- キャラクターデザイン・飯塚晴子描き下ろしBOX&ジャケット
- 「クジラの子らは砂上に歌う」BOX 2
- 2018年3月23日発売 / バンダイビジュアル
-
- 原作・梅田阿比 描き下ろしマンガ
- 特典CD
- 特製ブックレット
- 原作・梅田阿比原案 新作OVA
- 主題歌PV・メイキング映像
- ノンテロップOP
- ノンテロップED
- CM集
- PV集
- オーディオコメンタリー
- キャラクターデザイン・飯塚晴子描き下ろしBOX&ジャケット
- 梅田阿比「クジラの子らは砂上に歌う⑩」
- 発売中 / 秋田書店
-
新天地アモンロギアに到着した泥クジラ。しかし、領主ダクティラは謁見に訪れたスオウたち無印を捕らえ、人質にしてしまい……!?
- 梅田阿比 / 秋田書店出版部「クジラの子らは砂上に歌う 公式ファンブック」
- 発売中 / 秋田書店
-
舞台・アニメ化でも話題! 次世代ファンタジーの公式ファンブック! 儚げで美しく精緻な「クジラ」の世界の魅力を濃密に紹介!
- 「クジ砂」関係のカラーを70点以上、梅田阿比のコメントも多数収録!
- 登場人物50人以上の紹介&解説、ストーリーダイジェスト、世界観解説。
- 原作、アニメの魅力を語る梅田阿比とイシグロキョウヘイ監督の対談を収録。
- 梅田阿比(ウメダアビ)
- 2006年、週刊少年チャンピオン(秋田書店)に掲載された「幽刻幻談―ぼくらのサイン―」でデビュー。同誌では「フルセット!」「幻仔譚じゃのめ」といった作品も連載した。2013年より月刊ミステリーボニータ(秋田書店)にて連載中のファンタジー作品「クジラの子らは砂上に歌う」は舞台化、アニメ化を果たしたほか、フランスのマンガ賞「Japan Expo Awards」で青年漫画部門Daruma賞を受賞するなど海外でも評価されている。
- 横手美智子(よこてみちこ)
- フリーの脚本家・小説家。アニメのほか、特撮やゲームのシナリオ・シリーズ構成も手掛けている。シリーズ構成としての近作に「斉木楠雄のΨ難」「私がモテてどうすんだ」「政宗くんのリベンジ」など。