コミックナタリー Power Push - 「はるかリフレイン」

「ひぐらしのなく頃に」竜騎士07、語る もし読んでいたら「ひぐらし」は生まれていなかった

当時の世相も反映された「はるかリフレイン」

──確かに最近のライトノベルなどでは、ループできる力というと、自分の思い通りに過去を改ざんできる能力として登場することが多いです。

言わばタイムパラドックスを排除した考え方ですよね。それとは違う意味のループ能力ということで、こういう使い方もあるんだと、今の読者には知ってもらいたい。「はるかリフレイン」には、これが描かれた時代もよく反映されているというのもあると思います。

──と言いますと。

やっぱり、世紀末だったんですよね。「はるかリフレイン」が連載されたのは1997年から1998年にかけてですが、バブルもとっくに崩壊したし、いわゆるノストラダムスの大予言における1999年ももうすぐというところで。人類はもう栄華を極めきってしまって、あとは灰になるだけという空気がすごくあった。フィクションのテーマが「諦め」になることも多かったと思います。

──タイムスリップやループを扱う作品でも、人間が時間の流れを操るのではなく、翻弄されるというものが多かった。

そうです。逆に今の時代に、こういうオチを描ける人はいないんじゃないかなあ。僕はあの時代にも生きていたので、当時の空気を思い出しながら読んで、「ああ、なるほど」としっくり来たんですが、もし若い世代の読者だったら、「今ある作品と違って、大人な終わり方だなあ」と新鮮に感じられると思いますね。

進研ゼミ(ベネッセ)の「高一チャレンジ」に掲載されていた「はるかリフレイン」は、一般誌での連載に比べ読者の年齢があらかじめ特定された。

──都合よく、間違いをリセットできるループものに慣れた人にはぜひ読んでほしいと。

またこれが、高校1年生という特定の年齢層が読者だったというのが、今考えると面白いですよね。小学校や中学校では「努力は報われる」「がんばればいい学校に入れる」って教えられて育ってきたんだけど、高校生になると、どんなに努力してもどうしようもないことがあるんだって気付きはじめるときじゃないですか。そこをジャストで狙ったんだとしたら、伊藤先生は恐ろしく考え抜かれてこれを描いたんだろうなあと思いましたね。

最初が肝心な「なく頃に」シリーズ次作

──2017年には「なく頃に」シリーズの第3弾も始動するとのことですが、どのような作品になるかという展望を伺ってもよろしいでしょうか。

「ひぐらしのなく頃に」第2弾のジャケット。©竜騎士07 / 07th Expansion

次の「なく頃に」シリーズは、少々面倒な作り方を考えていまして。「ひぐらし」「うみねこ」というのは連載マンガに似た形式でやっていて、読者とのキャッチボールを特に意識していたんです。1話ごとに読者の反応を見ながら、中で疑問に思われていたことを明かしたり、みんなが疑っているところをつついたりとか、そういう戦術を使っていたんですけど。今度はそうではなく、自分が書く先々の話まで見込んでおいて、伏線を最初の方から、システマティックに張っていきたいと考えてます。

──となると、最初の1話ができるまでとても大変そうです。

特に、登場人物についても初期から全員を作っておかなくてはならないんですね。例えば「うみねこ」のロノウェやワルギリアは、最初は登場する予定がなかったんですが、プレイヤーをガイドするキャラクターがいるなあと思って中盤で追加したキャラクターです。次の作品は、どのキャラクターがどの章に登場するかきっちり決めておかなくてはならないのが、今から苦労しているところですね。

──2017年中というと、夏コミと冬コミ、どちらに出すかというのも気になるところですが……。

本当にできるのかなあ……。ギブアップするなら早いほうがいいんじゃないかとか……いや、弱気なことを言ってしまってすみません(笑)。どんな作品でも、最初の1文字目を書くときが一番しんどいものなのですが、がんばって書きますので、楽しみにお待ちいただければと思います!

伊藤伸平「はるかリフレイン」2016年11月26日発売 / 復刊ドットコム / 756円
「はるかリフレイン」

TSUTAYAの“本の目利き”書店員と復刊ドットコムによる協同プロジェクト第1弾に選ばれたのは、90年代に進研ゼミ(ベネッセ)の「高1チャレンジ」で連載された、知る人ぞ知るSFラブコメディの傑作「はるかリフレイン」。1998年に白泉社より刊行された単行本を底本に、再編集・増補した復刻版が登場!

「啓太の死は運命なんかじゃない。このリフレインは神様がくれたチャンス!」異色の変身巨大ヒロインマンガ「まりかセブン」を生み出した、ミリタリー界やSF界ではコアなファンも多い伊藤伸平による痛快青春ストーリー!

伊藤伸平(イトウシンペイ)
伊藤伸平

1984年に少年サンデー増刊号(小学館)でデビュー。美少女アクションの第一人者で、特撮、アイドル、軍事、SFなどのオタク的知識に裏打ちされるギャグと、銃器や爆発を多用するハードなアクションが特徴。代表作に北爪宏幸のOVAをコミカライズした「モルダイバー」や「楽勝!ハイパードール」「まりかセブン」「キリカC.A.T.s」など。

竜騎士07(リュウキシゼロナナ)

同人サークル「07th Expansion」代表。架空の村・雛見沢村で巻き起こる怪死・失踪事件を描いたサウンドノベル「ひぐらしのなく頃に」シリーズを、2002年から2006年にかけてコミックマーケットで発表。同作は同人ゲームでは異例のヒットを記録し、アニメ化、コミカライズなど多数のメディアミックスが展開された。そのほかの代表作に「うみねこのなく頃に」「彼岸花の咲く夜に」など。