コミックナタリー Power Push - 野田サトル「ゴールデンカムイ」特集

野田サトル×町山智浩対談

サバイバルにアイヌ文化に北海道グルメ 要素てんこ盛りな意欲作の裏側に迫る

主人公の名前は曽祖父から取った(野田)

町山 「アイヌの遺した金塊をめぐるサバイバル」っていう作品のテーマは、どうやって生まれたんですか。

杉元とアシㇼパは互いの目的のために手を組む。

野田 主人公の杉元佐一って、実は僕のひいおじいさんの名前なんですよ。もともとは九州の出身らしいんですけど、屯田兵になるということで、北海道に移ってきて日露戦争にも従軍したみたいで。前の連載が終わってネタを考えているときに担当さんから「次は猟師の話を描かないか」と提案されて、熊谷達也さんの「銀狼王」という小説を渡されたんです。開拓期の北海道に生き残っている銀色の毛並みの狼を追いかけるっていうストーリーなんですけど、その主人公が二瓶という名前だったんです。偶然僕の前作「スピナマラダ!」にも登場するキャラクターと同じ名前だったんですけど、これにすごく運命を感じて「これは描けってことだな」と。じゃあ猟師ものと、日露戦争帰りのひいおじいさんの話をくっつけてしまおうということに。

町山 そこからアイヌの遺した金塊や土方歳三のエピソードも?

野田 そうです、ゴールドラッシュやヒグマの三毛別事件なんかも北海道にまつわる面白い歴史なので、そういう逸話を拾い集めて。

町山 ひいおじいさんが戦争に行って帰ってきたっていう体験は、ご家族の間では代々伝わっているんですか。

日露戦争での杉元。

野田 父の代まではしっかり伝わっていたんですけど、僕は「そういえば日露戦争行ったんだっけ」くらいの知識でした。「ゴールデンカムイ」を描くにあたって、曽祖父について父に尋ねたんです。そうしたら札幌市の公文書館に文献が残っていることがわかって。203高地や奉天会戦にも参加していたこととか、日本に帰ってきた年とかまで詳しく残っていたんです。でももしあのとき父に聞かなかったら、多分そこで曽祖父の話は途絶えていたんじゃないかと思います。

町山 じゃあ後世に伝えていくきっかけにもなったんですね。

「ゴールデンカムイ」はもはやグルメマンガ(町山)

町山 僕が「ゴールデンカムイ」を読んで面白いと思ったのは、西部劇が好きだからです。ブーツを履いた土方歳三が、右手の和泉守兼定で至近距離の敵を斬り、左手のウィンチェスターで遠くの敵を撃ちながら戦う姿なんて最高です。でも、それ以外にもいろいろな要素が組み込まれていますね。まずサバイバルものだし、さらにミリタリーやアイヌ文化、歴史ロマンっていうテーマも持ち合わせている。しかも格闘バトルものでもあって「不敗の牛島」ならぬ「不敗の牛山」と土方の対決なんてドリーム・マッチですよ! 人体破壊スプラッター描写も吉村昭の小説「羆嵐」並にリアルで超グロい。そうそう、忘れちゃいけないのはアシㇼパさんの美少女萌え要素。ナコルル(※註)オタとしてはたまらない。で、ガンフェチとしては銃器の細かい知識も楽しいし。もう盛りだくさんなんですが、これだけ要素があると資料を読み込むのもひと苦労なのでは?

「ゴールデンカムイ」第1話の扉ページ。

野田 そうですね。参考資料を単行本の巻末に掲載しているんですけど、そこに載っているのはアイヌ関連のものだけなんです。ほかの本も合わせると膨大になりすぎて載せきれなくて。ベッドの上も本だらけで丸まって寝ているくらいです(笑)。

町山 実際に足を動かしての取材も相当してますよね。

野田 ええ。とにかく取材、取材、取材って感じで。直接自分で現地に行って体感することが大事だと思っています。例えば高畑勲監督の「かぐや姫の物語」を観たとき、「よくここまで調べたな」という作り手の苦労がすごく伝わってきたんです。そういう作り手の熱量って読者もわかるだろうからしっかりやろうと。

町山 じゃあアイヌの方々にも取材をして。

野田 そこに関しては担当さんと編集長が、信頼を得るまで何度もアイヌの方々のところに足を運んでくださったので本当にありがたく思っています。おかげさまで以前、アイヌ協会の方たちと酒盛りなんかもさせていただいて、「サトルくん、ビビらず何でも描け」ってお言葉をもらったり。

味噌が入った桜鍋を口にするアシㇼパ。彼女は味噌をうんこだと勘違いしていた。

町山 先ほど「ゴールデンカムイ」にはいろんな要素が組み込まれていると言いましたけど、食の描写もすごいですよね。もはやグルメマンガなんじゃないかというくらい(笑)。

野田 やっぱり狩猟を描くとなったら、食べるところまで描写するのが必然かなと思うんです。

町山 劇中に出てくるジビエ料理も実際に食べてみたりするんですか。

野田 鹿や熊の肉を食べ比べたりしました。ほかにもアナグマの頭とか、脳みそ、目玉なんかを食べさせてもらって。肉がめちゃくちゃ固かったんですけど、シェフに「アナグマは顎をよく動かすから、その部分は肉が固くなるんだ」って説明されて。そういう話も勉強になるんですよね。でも料理に関しては食べられる機会がないものも多いので、文献にあたって想像で描くこともあります。その動物を研究されてる学者さんに「どんな味がしますか?」なんて電話して聞いたり。

町山 リスは食べましたか?

野田 エゾリスは捕獲が禁じられてるんですよね。食べてみたいですけど。リスといえば映画の「ウィンターズ・ボーン」で主人公が食べてましたね。

町山 まさにそうです。アメリカには、「ウィンターズ・ボーン」に出てきたような特殊な地域があるんです。そこには狩猟の時に鳥を呼び寄せる音を出す道具を発明したことで大金持ちになった連中が住んでいて、高級車を乗り回してるんですけどリスを好んで食べるんです。山岳地帯に住んでいたので代々、身近で新鮮な肉といえばリスだったんでしょうね。

(※註)ゲーム「サムライスピリッツ」に登場するアイヌの少女。

野田サトル「ゴールデンカムイ(5)」発売中 / 555円 / 集英社
野田サトル「ゴールデンカムイ(5)」
作品紹介

息を吐くように殺す!! 脱獄死刑囚にして殺人鬼・辺見が見初めたのは…不死身と呼ばれた元軍人・杉元。彼を殺りたい。殺られたい。辺見の歪んだ殺意と愛情が杉元一行に降り注ぐ……。そして、土方歳三の暗躍、第七師団内部の抗争!! 急転! 二転三転四転五転!! 試される大地・北海道で金塊を求め激突する正義と大義の第5巻ッ!!!!!!

野田サトル(ノダサトル)

北海道北広島出身。2003年に別冊ヤングマガジン(講談社)に掲載された読み切り「恭子さんの凶という今日」でデビュー。2006年には「ゴーリーは前しか向かない」で、第54回ちばてつや賞ヤング部門大賞を受賞する。2011年から2012年にかけて週刊ヤングジャンプ(集英社)で「スピナマラダ!」を連載。2014年より同誌にて連載されている「ゴールデンカムイ」は「コミックナタリー大賞 2015」「このマンガがすごい!2016」オトコ編でそれぞれ2位を獲得している。

町山智浩(マチヤマトモヒロ)

1962年生まれ。アメリカ在住の映画評論家。TBSラジオ「赤江珠緒 たまむすび」の火曜日放送にレギュラーとして出演しているほか、週刊文春(文藝春秋)などでコラムの連載を持つ。MP3ファイルのダウンロードショップ「映画その他ムダ話」では、映画について語った音声ファイルを有料配信している。