コミックナタリー Power Push - 「アマイタマシイ~懐かし横丁洋菓子伝説~」 作者・杉本亜未×お菓子研究家・福田里香対談
スイーツよ、永遠に! 未来へ引き継ぐ幸福感
杉本亜未「アマイタマシイ~懐かし横丁洋菓子伝説~」全3巻が、復刊ドットコムより8月から12月にかけて隔月で刊行される。2012年から2013年にかけて、グランドジャンプPREMIUM(集英社)にて連載された同作。単行本4冊分の連載が行われたが、3・4巻は未刊行のままだった。このたびリリースされる単行本では、4冊分のエピソードを全3巻の新装版として新たに編集。カバーも描き下ろしとなる。
コミックナタリーでは発売を記念し、作者の杉本と、お菓子研究家の福田里香との対談をセッティング。杉本イチ押しのパティスリーへと足を運び、スイーツに囲まれながらそれぞれの“お菓子愛”と、杉本が作品に込めた思いを語ってもらった。
取材・文 / 熊瀬哲子 撮影 / 佐藤類 取材協力 / パティスリーパクタージュ
「アマイタマシイ~懐かし横丁洋菓子伝説~」とは
シャッター商店街の洋菓子店を舞台にしたパティシエマンガ。スイーツ好きで意気投合した、天然な商工会職員の柴田羽衣と大学生の川嶋賀句が、偏屈な天才洋菓子職人・熊谷周作にパティスリー開業を持ちかけたことから物語は動き出す。スイーツ対決や街おこしに奮闘するキャラクターたちの活躍に加え、“お菓子好きあるある”も楽しめるコメディだ。
おいしい魅力たっぷりの登場人物
熊谷周作
偏屈な天才洋菓子職人。コンクールでの受賞歴はない無冠の帝王。
柴田羽衣
天然な性格の商工会職員。熊谷周作にパティスリー開業を持ちかける。
川嶋賀句
大学生。スイーツコーディネーター&コンサルタントを務める。
作者・杉本亜未×お菓子研究家・福田里香 対談
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気になるケーキをチョイス
杉本亜未イチ押しのパティスリーだという、玉川学園前から徒歩3分のパティスリーパクタージュへやって来た一行。色鮮やかなウィンドウを前に、2人はじっくりとケーキを選んでいく。
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お邪魔したパティスリーはこちら
- patisserie PARTAGE(パティスリーパクタージュ)
- 〒194-0041
東京都町田市玉川学園2-18-22
営業時間:10:00-19:00(不定休)
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さっそく実食! ……その前に
対談をスタート……と思いきや、まずは自身のカメラにケーキの写真を収めていく2人。作中でも写真撮影は“儀式みたいなもの”とあるが、2人も1枚や2枚では飽きたらずさまざまな角度からケーキを撮影し、こだわりを見せた。
美味しくて黙りこんでしまいました
──撮影も済んだところで(笑)、本日はお菓子をいただきながらお話をお伺いしていければと思います。まずはおふたりが選んだケーキを教えて下さい。
福田里香 私はタルト・フリュイ・ルージュにしました。上に乗っているのがレッドカラントという果物なんですけど、ちょうど今が旬なので、こちらをいただこうかなと。
杉本亜未 私はまだパクタージュで食べたことがなかったフランボワジェを。あとはさっき来店していたお客さんがみんなクレーム・ブリュレを買っていて、こちらも食べたことがなかったので、これはぜひチェックしなければならないという欲望から2つ選びました(笑)。
──それではいただきましょうか。
福田 わ、美味しい。今の季節だとラズベリーも生でいただけるし、いいですね。
──杉本さんも、お味はいかがですか?
杉本 …………美味しくて黙りこんでしまいました。
──(笑)。
杉本 こちらの齋藤(由季)シェフのバランス感覚といいますか、これとこれをあわせて1つにしたらっていう、ケーキを作る設計のセンスがすごく優れていると思っていて。お菓子がベタベタと甘くないんですよ。
──確かに、私はシャンティ・オ・フレーズをいただきましたが、甘さがしつこくなくて、さっぱりしていると思いました。2つくらい余裕で食べられそうです。
福田 うん、タルト生地もすごくしっかりしていて美味しい。
杉本 ああ、喜んでいただけてよかったです!
宝塚のように、シェフのファンになり追いかける
福田 杉本さんは何をきっかけにお菓子を好きになられたんですか?
杉本 もともと甘いものは好きだったんですけど、お菓子がすっごく好きな女性のアシスタントさんがいて。ここのパクタージュを知ったのも彼女のおかげなんです。青物横丁にレ・サンク・エピスっていうパティスリーがあるんですけど、5年くらい前に「そこにすごい女性シェフがいるらしい」っていう話を彼女から聞いて。食べに行ったら確かに美味しいし、ほかのパティスリーにはない気合いも感じて。そうしたら独立されるということを聞いて、こちらに通うに至ったんです。例えば宝塚とかの役者さんのファンと一緒で、シェフを連綿と追いかけるのが楽しかったりもするんですよ。
福田 ああ、なるほど(笑)。
──シェフのファンになって、独立したと聞けばそのあとについていって。
杉本 お菓子好きな人は、結構そういう方が多いですね。そのアシスタントさんのおかげもあって、どんどんスイーツの深みにハマっていった感じです。
福田 そしてついにはマンガにまで(笑)。
杉本 してしまいましたね(笑)。マンガはグランドジャンプPREMIUM(集英社)で連載していたんですけど、正直男性読者の方はそんなに食いついてこない感じはありました。担当編集は男性だったんですけど、やっぱり打ち合わせで一緒にケーキ屋に行っても「絶対に1人ではこういう店には入らない」って言いますし、「1人だと頼めないけど、杉本さんがいるから頼める」って話をしていて。男の人って、お菓子をそこまで女性的な領域として見ていて、かわいらしいケーキを買うことに対して周囲の目線を気にしているんだなと感じました。
──極端な言い方をすると、下着屋さんに入るのと同じくらいの抵抗があったりするんですかね。
杉本 それくらいの感じがありましたね。「1人で入って1つだけケーキを買って帰ると、お店の人に『自分で食べるんだ』って思われるからお店に入れない」とも話してました。
──入ることには抵抗があるけど、でもやっぱりケーキには興味があるんですね。
福田 男の人でも誰でも、やっぱり甘いものが好きな人は多いですよね。
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- 杉本亜未「アマイタマシイ~懐かし横丁洋菓子伝説~」全3巻 / 各1620円 / 復刊ドットコム
- 全巻購入はこちら
- 1巻 / 2016年8月中旬配送
- 2巻 / 2016年10月中旬配送
- 3巻 / 2016年12月中旬配送
1巻収録エピソード
- 小さな目覚め
- スイーツ四天王の挑戦
- みんなの夢
- ワイルドサイドを歩け!
- そして、タマシイの集まるところ
- 名声と職人
- 甘き戦いの刻は来れり
- 描き下ろし18ページ
2巻収録エピソード
- 運命が強くあれと囁いている
- ティル・ビクトリー
- GOGO!サンクチュアリ
- 美しく甘く愛らしいバベル(*)
- TO RULE THE NIGHT(*)
- COLDHEAT(*)
- Love Jossie アマイタマシイ Rising(*)
- 描き下ろし8ページ
3巻収録エピソード
- KEEP ON! 甘い魂!(*)
- デパート!地下物語!(*)
- デパ地下と商店街のあいだ(*)
- MAKE A HAPPY~幸せを作ろう!~(*)
- デパ地下戦線異状あり?(*)
- I WILL SURVIVE(*)
- 物質文明の幻想(*)
- 甘い魂が自由になる場所を探して(*)
- 描き下ろし6ページ
*印は初単行本化となるエピソード。
あらすじ
きっかけは、幼い頃に夢中で食べたあのケーキ。
スイーツ好きで意気投合した羽衣と賀句は、天才パティシエ・熊谷周作シェフを口説き落とし、共同で洋菓子店を経営しようと決意した。
しかし、シェフは恐るべき超変人だったのだ…!!
材料費を惜しまぬ熊谷シェフの方針で、店の経営状態がみるみる悪化していく。
そこへTV番組のスイーツ対決出場の話が舞い込む。
店の宣伝を目指し、出場することになるが、対決相手たちは強者揃い!
果たしてスイーツ対決の行方は!?
一方、洋菓子店の繁盛のおかげで活気づいてきた商店街には、不穏な影が忍び寄っていた…。
杉本亜未の傑作コメディ、初の全単行本化!
杉本亜未(スギモトアミ)
マンガ家。代表作に「Animal X」「ファンタジウム」ほか。
福田里香(フクダリカ)
お菓子研究家。マンガ好き。著書にマンガをイメージしたレシピ&コラム集「まんがキッチン」(アスペクト)、画像の中のフードに関するエッセイ集「ゴロツキはいつも食卓を襲う」(太田出版)がある。