今年5月に東京で開幕したさらば青春の光の2022年単独ライブ「五穀豊穣」。みずみずしい8本のコントを携えて、大阪、愛知、福岡、北海道を巡ってきた。不測の事態で東京凱旋公演が延期となり、予期せぬロングランになったものの、東京・浅草公会堂という自己最大の会場を2日間満席に。合計動員数も目標としていた1万人に到達し、実りあるツアーとなった。
その東京凱旋公演の千秋楽を収録したDVDが12月21日に発売されるのに先がけて、さらば青春の光にインタビューを実施。完成度の高いステージを見せた手応えを聞くと、彼らはもう次に向かう先を見据えていた。
取材・文 / 狩野有理撮影 / 斎藤大嗣
実り多き振替公演
──7月に開催予定だった東京凱旋公演が9月に延期となり、まさかのロングランになりましたね。
森田哲矢 やっと終わったって感じっすね(笑)。東ブクロのコロナ感染で7月のよみうり大手町ホール公演を中止して、そこから紆余曲折あったのでとりあえず無事に全公演を終えられてホッとしてます。DVDも収録前だったので、「あれ? これ大丈夫かな?」と不安はよぎっていたんですけど。
東ブクロ 公演数もキャパも過去最大ですし、開催期間も延期になったことで今までで一番長くなって、だいぶカロリーが高いツアーになりましたね。
森田 ただ、振替公演は最初予定していた会場よりキャパが倍以上になったんですよ。その分、売上も……(にんまり)。利益が出たらしいので、それに関してはブクロが感謝されてました(笑)。
──500席ほどのよみうり大手町ホールから1000席以上の浅草公会堂に会場を変更した意図は何かあるのでしょうか。
森田 まず単純によみうり大手町ホールが日程の都合で使えなくなったのと、来年以降のことも見据えて大きい劇場で試してみたい気持ちがありました。浅草公会堂でやれるんだったら、この規模を今後の標準にできるんじゃないかという期待も込めて。喉のことや体力的なことを考えたら、やっぱりただ公演数を増やしていくよりはキャパを大きくしたほうがいいので。
──チケットは見事即完売しました。
森田 そうですね。あとはコントなので、世界観が崩れないかとか、どれくらい笑い待ちが必要なのかとか、広い会場ならではのやりにくさみたいなものを確かめたかったんですけど、浅草公会堂はめっちゃやりやすかった。問題なくやれることがわかったのも収穫です。
──浅草公会堂が似合う単独ライブでもありましたしね。
森田 「五穀豊穣」の世界観とかセットがちょうどマッチしました。
足しも引きも必要なかった
──2017年に「会心の一撃」からスタートしたこの単独シリーズも「五穀豊穣」で5回目を数えます。第2回から演出に家城啓之(マンボウやしろ)さんを迎えてタッグを組んでやってきて、お二人は今作の「単独ライブ」としての完成度をどれくらいだと感じていますか?
森田 僕らは正直、ネタの部分だけを担っているので、ネタはもちろん毎年一生懸命作りますけど、あとはやしろさんにお任せ、というスタンスはずっと変わっていないんですよ。今回はたぶん、自分たちが作ったネタとやしろさんがやろうとした演出がちょうどハマって、”いい祭り”感が出たのかもしれません。
東ブクロ やしろさんがクオリティを上げてきてくれているから、ネタも相乗効果でよく見えるというところもあるんじゃないですかね。観に来てくれた人には満足してもらえる内容だったと思うんですけど、だんだんハードルが上がっているような気もしていて。演出面も、コントの内容的にも。もちろん手を抜くつもりはないですけど、期待が大きいほどミスれないというプレッシャーが……。
森田 動員数が増えるにつれ、関わるスタッフの数も増えるにつれ、コントをやりにくくなってるのかもしれないですね、実は(笑)。
──千秋楽を観た一観客として私の率直な感想を述べますと、最高でした。さらばの単独の理想型があるとしたら限りなくそれに近いところに到達したのではないかと感じたほどです。
森田 ほんまですか?(笑) それはありがとうございます。
──お二人は最高ではなかったですか?
森田 あはははは(笑)。でも、過去最高かなとは思ってます。動員数もそうですし、ウケ方もめっちゃいい感じだったので。ネタに関しても、いいネタが揃った手応えはあります。まさに豊作だったなと。名は体を表すじゃないですけど、「五穀豊穣」というタイトルを付けてよかったと思えるくらい一個一個強いネタになりましたね。
東ブクロ まあまあ、自分らというより周りの方々に大きくしていただいてるのかなあという部分が大きいので。「会心の一撃」から比べると、豪華になるにつれてよくなってるとは思います。
森田 前回の「四季折々」は、最初の東京公演でやったネタを外して別のネタを足してとか、ツアー中にかなり試行錯誤したんですよ。その前の「大三元」も凱旋公演で1本足したのかな。それで言うと今回は足しも引きもせず、最初からバチッと決まったので、そういう意味でもいい単独だったと思います。けっこう毎回、「これウケ弱いな」「外すしかないかも」とか、いろいろ悩むんですよ。今回はそういうのもなく、全部いい感じでした。
神様が与えてくれる、こともある
──昨年から今年にかけては特にお忙しかったと思います。そんな中でのネタ作りは苦労されましたか?
森田 前年の秋口くらいからうっすら次の単独を意識し始めるんですよ。で、「年内に3本できればいいよな」とか思いながら、年末を迎えます。そして「やばい、1本もまだできてない」という気持ちで年が明けて、「1月中に3本できればええか!」と言いながらまだできない。期限を決めては破るという繰り返しで(笑)。
──締切が常に頭にあるとほかの仕事をしていても気もそぞろになりそうです。
森田 いやー、大変でしたね。すごい数の番組アンケートがあって、カロリーの高い収録もあって。でも、なんだかんだで行けたなあ、耐えたなあ、という感じでした。
──その間の東ブクロさんの心境は?
東ブクロ いやいやもう、平常心です。何もないですよ。
森田 待ちの作業やな。今年はけっこうできるの遅かったと思うけど、どうやった?
東ブクロ 早くできてもどうせ僕もネタの内容はギリギリにならないと入れないので。ちゃんと入るの当日の昼間くらいですから。
森田 普通、もうちょい前から入れるねんで?(笑)
東ブクロ 待っている間の緊張感はもうあまりないですね。「どうせ完成させてくんねやろ」と思っているので、焦りもなく。演出の兼ね合いでスタッフさんは早く欲しいだろうから、それに間に合えばええなくらいの気持ちです。
──森田さんは「もうネタが出ない」という焦りを覚えることはありますか?
森田 ありますよ。それはもう常に。10年前からあります。
──それでも、なんだかんだ毎回できる。
森田 火事場の馬鹿力じゃないですけど、人って切羽詰まるとできんねんなと思いますね。あとは、「神様が与えてくれたのかな?」っていうこともあるし。
──へえ! そんなこともあるんですね。
森田 今も、次に向けて取りかかってはいますけど、やっぱ出てきませんね(笑)。まあ、当日「1本もできませんでしたあー!」はありえないので、何かは作れると思ってます。「何かは出るんでしょ?」って思いながらやってます。
東ブクロじゃないとダメな役
──前回のインタビュー(参照:さらば青春の光「四季折々」ステージから見た“絶景”に何を思う、再確認した単独ライブの意義)で東ブクロさんの演じる“変な奴”の引き出しが年々増えているというお話しがありましたが、今回も発揮されていましたね。彩り豊かな“変な奴”たちでした。
森田 演技プランは何かあるの?
東ブクロ なんにもないです。僕の中では「破格の態度」も「調教師コメント」も全部一緒。変えているつもりはないです。
森田 ナチュラルにやって、あの感じが出せてるんや。「破格の態度」はブクロにめっちゃ合うコントやなと思います。ブクロじゃないとダメな感じ。
──こう言ってはなんですが、ぴったりでした。
東ブクロ それも弊害ありますけどね?(笑)
森田 「調教師コメント」で披露しているキスも、ブクロがやる普段のキスから何も変えてないです。
東ブクロ そんなわけないやろ!
──東ブクロさんに合うネタを書いているというわけではないですよね。
森田 そうですね。ネタが先です。こいつのベースはもうわかっているので、できる役、できない役はこっちで判断して。「この役はできますよね?」という感じで、安心して渡してます。逆に言えば、ラストの「オレオレ」のあのおっちゃんの役は僕のほうがやれるから、じゃあブクロはこっちの役で、みたいな。
──当て書きではないのにこんなにもハマるんですね。
森田 変な奴を演じさせたらブクロの右に出る者はいないんじゃないですか(笑)。
──東ブクロさんはネタを渡されたときどう思うんですか?
東ブクロ 僕はもうセリフが多いか少ないかだけですよ。
森田 それを気にするんですよね、こいつは(笑)。
東ブクロ 「これしんどいなあ」「これはわりかし楽にいけるなあ」っていうだけのもんです。この役だからこういうプランで、とかは一切ない。
森田 単独のネタが出揃ったときに、なべちゃん(作家の渡辺佑欣)と「これちょっとブクロのセリフ量多いから怒るかな」みたいな心配は毎回してます(笑)。機嫌悪くならんかどうか。
東ブクロ 構えはしてますよ。今回どうなんやって。
──「またしてもぴったりな役だ!」などという感想は……。
森田 ああ、「森田ありがとう」的な?
東ブクロ そういう感覚はないですね。セリフの多さだけです。
森田 「ぴったりフィットさせてくれてありがとう」っていうのはないのね?
東ブクロ ないなあ。
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東ブクロがコントのいい素材に