昨年6月、永野とももいろクローバーZの高城れにがお笑いライブ「エキセントリックコミックショー 永野と高城。」を開催した。お笑いナタリーでは同ライブのBlu-ray、DVDの発売にあわせて永野と高城にインタビュー。ライブの演出を手がけ、また彼らが電撃的に出会うきっかけとなったバラエティ番組「ももクロChan」(テレビ朝日)の演出を担当している佐々木敦規氏にも同席してもらい、なぜこの2人がタッグを組むことになったのか、また「パラパラの練習をする女と尻の穴から拳が抜けなくなった男」「スピード違反で点を引かれた後かっぱ寿司に来てあんまり食べられないカップル」といった永野の特異なネタの世界観に、お笑い初挑戦の高城が違和感なく溶け込めたわけを紐解く。
なお取材当日、永野と高城は同時間帯に音楽ナタリーのインタビューを受けていたももクロの佐々木彩夏とDJ KOOの撮影現場に乱入。特集後半にはその様子を収めた4人の写真、佐々木から高城に向けたメッセージを掲載する。
取材・文 / 狩野有理 撮影 / moco.(kilioffice)
孤高のカルト芸人が「笑顔だよ」にキュン
──「永野と高城。」は永野さんから高城さんへのラブコールで実現したんですよね。20数年もピンでやってきた“孤高のカルト芸人“永野さんが、なぜ国民的アイドルの高城れにさんをパートナーにしたいと思ったのでしょうか?
永野 2015年に新宿ロフトプラスワンで単独ライブ(「永野の業界関係者向けライブ」 / 参照:永野の業界関係者ライブ初日、クマさんコールで大盛り上がり)をやったんですけど、そのときにもう1人ではやりたくないなって思ったんです。
──どうしてですか?
永野 また1人で同じファン、同じ関係者に向けてライブをやってもどんどん自分の幅が狭くなっていくだけだと感じていたので、次に何かやるときはもっとポップに、広いところへ向けてやりたかったんです。そんなときに、明確な理由はまったくないんですけど、なぜか番組で3、4回共演しただけのれにちゃんが頭に浮かんできて。で、(「永野と高城。」演出の)佐々木敦規さんに相談して、トントン拍子でツーマンライブが決まりました。「こういうメリットがあるから高城れにちゃんで」というわけではなくて、もうボカーンと、感覚的に「れにちゃんしかいない!」と勝手に盛り上がってしまって。
高城れに そうなんだ! うれしい(笑)。
永野 日々イライラを抱え込んでいるんですけど、れにちゃんがそれを解放してくれる気がして。この人とお笑いをやったら、今よりもっといろんな人に向けてネタが広がるし、自分も精神的に救われるんじゃないかなって思ったんです。
佐々木敦規 基本的に、妬み嫉みが彼の根源なんですよ。それを高城れにに浄化してもらおうっていうテーマのもと、「永野と高城。」を実施したというわけです。
永野 2日間「永野と高城。」を開催して、浄化しきったって思えましたもん。
佐々木 実際、浄化されすぎて永野が面白くなくなっちゃうんじゃないかっていう不安もあったんだよね(笑)。
永野 そうそう。原動力がなくなっちゃうんじゃないかって。でも毎日の蓄積ですっかり元に戻ってます。こないだも居酒屋で人の悪口言ってたらひっくり返っちゃって、アザ作っちゃいました。
高城 やだー(笑)。負なこと言ってるから自分が負になるんだよ!
──たった数回の共演で高城さんの印象が強く残っていたんですね。最初に共演したのはなんの番組だったんですか?
永野 僕がまったくテレビに出ていなかった2013年に出させていただいた、「ももクロChan~Momoiro Clover Z Channel~」(テレビ朝日)という番組です。
高城 その番組で見た、「おさるの呼吸」っていうネタが衝撃的すぎて!(笑)
──どんなところが衝撃的でしたか?
高城 ほかの芸人さんたちがやっているコントとはまるで別のものっていうか……。
一同 あはははは!(笑)
高城 独特なスタイルがすごいなと思いました。
佐々木 永野が「ももクロChan」に初登場したのは「大人検定」という企画で、成人を迎えた高城と百田夏菜子の集中力を試すものでした。彼女たちが何かに取り掛かっているところへ芸人がやって来てネタを披露し、その面白さで彼女たちが手を止めてしまう、っていうのがこの企画の意図だったんですが、永野が緊張していて全然笑いを取れなくて。
永野 まったく手が止まらないから、どんどん2人が課題を達成していくっていう(笑)。
佐々木 だから方向転換してネタコーナーをやることにしたんです。そこで「おさるの呼吸」をやったんだよね。
高城 すっごい面白かった。
──それがきっかけで仲良くなったんですか?
永野 「おさるの呼吸」はウケたけど、本来の企画がうまくいかなかったので、空き時間にとんでもない形相で考え事をしていたんです。そしたられにちゃんが「永野さん、笑顔だよ」って言ってくれて、ものすごくキュンとして! 心が洗われたような気持ちになりました。れにちゃんに言われて「このお仕事は笑顔が大事なんだ!」って気づかされましたね。実は公には言ってなかったんですけど、そのときから「笑顔の天下を獲ろう」(※)って思っていたんです。夏菜子ちゃんが言うよりも先に。
高城 ちょっと! コメント泥棒だよ、それ!
永野 パクられた!と思ってて。
高城 永野さんってこういうところがクレイジーなんです(笑)。
(※編集部註「笑顔の天下を獲る」は2014年のライブで百田夏菜子が宣言した言葉。)
直感的に「永野さんと仲良くなれそう」
──永野さんにとっては電撃的な出会いでしたね。
永野 本当に! 乾ききったスポンジ状態だったから、一滴の優しさでもシュー!って吸い込んじゃって。それ以来、この人には優しくしようと思いましたね。「ももクロChan」の肝試し企画でも、れにちゃんにほだされて企画の趣旨と違うことをやってしまったことがあります。「おさるの呼吸」の格好をしてあるポイントで待っていたんですけど、れにちゃんがまっすぐな目で「この扉、どうやって開けるの?」って聞くから教えちゃいけないんですけど「右に回せばいいんだよ」って役割忘れて普通に答えちゃいました(笑)。
高城 でも私も「おさる出たー」と思って、永野さんに会えてすごくホッとしたんです。だからおさるにはいいイメージがある。
──最初に声をかけたのは落ち込んでいる永野さんを助けてあげたいという気持ちだったんですか?
高城 そういう気持ちもありましたが、「雰囲気が自分と一緒だな」って思ったんです。初対面の人でも「この人と仲良くなれそう」って感じることってあるじゃないですか。ほかにも芸人さんは何人かいたんですが、直感的になんか永野さんが気になって。
──高城さんが永野さんに対して「雰囲気が一緒」と感じたというのは意外です。妬み嫉みを原動力にしている永野さんに共感することもあるんですか?
高城 私も根本は根暗なんです。けっこう自分でも「闇深いな」って思うこともあるんですけど、永野さんと少し違うのはけっこうお気楽に考えているところ。永野さんのように妬み嫉みも抱えているけど、自分の中でそういう感情があまり負だと思っていないというか。
永野 「それも自分だ」みたいな?
高城 その部分を中心的に見てないっていうのかな? 笑えちゃう感じなんです。でもやっぱり陰の部分は自分にもあるし、永野さんに共感することもあります。だから余計にもっと知りたくなる。この1つのできごとについて、永野さんはどういう視点から見てるのかな、どうやってここから闇を見つけ出すのかな、とか(笑)。
精神的な闇をお笑いで表現している
──永野さんは普段どのようにネタ作りをされるんですか?
永野 さっきも佐々木さんがおっしゃっていましたけど、僕の場合ネタというか自分の精神的な闇をお笑いで表現しているだけなのかなっていうのは昨年の「永野と高城。」で気づきました。自分でも「これはお笑いなのか?」って思うんですけど(笑)。
佐々木 芸人じゃなくてアーティストなんじゃないの?(笑)
──心の内を表現することで発散している?
永野 表現しないと身体がおかしくなっちゃう、みたいな。それをお笑いに利用してるので、僕のネタって「世界観が独特」とか言われるんだろうなと思います。コンビニとか病院とかを題材にコントを作ろうとか、そういう発想じゃない。「永野と高城。」の打ち合わせで自分が挙げたネタのタイトルを見て、自分で言うのもなんですけど、「なんなんだこれは」と思いまして。で、さっきの話に戻ると、そんな永野を救ってくれるのは高城れにしかいない!と思ったわけです。
──高城さんは普段からライブやバラエティ番組でお笑い的な反応を求められることも多いですよね。「永野と高城。」でお笑いに初挑戦といえど、その素養はすでに身についていたのでは?
高城 私たちは基本グループなので、誰かしらがパスをしてくれたり、フォローしてくれたり、本当に周りに助けられていて。「桃色つるべ」(関西テレビ)などのバラエティ番組で芸人さんとよく共演させていただく中で、やっぱり本当のお笑いは頭がよくなきゃできないって感じますし、私たちが普段やっていることと比べるのは違うかなと思います。
──そう思っている高城さんだからこそ、今回のお笑いへの挑戦には勇気が必要だったと思います。
高城 そうですね。お笑いってとても難しいことなので、私にできるのかなという不安はすごくありました。私たちがやっている歌やダンスとはかけ離れていると思っていましたし。
──しかも相方は永野さん。
高城 最初にこのお話を聞いたときは「永野さんとライブってどんな感じになるのかな?」という思いが強かったです。事前に永野さんのDVD(2016年発売「Ω」)を観させていただいて、その思いはもっと強くなりました。
永野 申し訳ない!(笑) 僕もあのDVD観て風邪ひいたことあるんですよ。気持ち悪くて。
高城 「どうなるの、これ?」みたいな。DVDを観たことでさらに不安になりました(笑)。
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永野と高城の共犯関係
- 永野 / 高城れに「エキセントリックコミックショー 永野と高城。」
- 2018年6月20日発売 / EVIL LINE RECORDS
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[Blu-ray Disc]
5184円 / KIXM-326 -
[DVD2枚組]
4104円 / KIBM-730~1
- 収録内容
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- 前説
- パラパラの練習をする女と尻の穴から拳が抜けなくなった男
- OP VTR
- スピード違反で点を引かれた後かっぱ寿司に来てあんまり食べられないカップル
- ナンパしている人に背後からささやく2人組
- 無理矢理「ヨーデルおじさん」という人のファンになって同世代とセンスの差別化を図ろうとする若者
- 尻の穴から拳が抜けなくなった男 多山昭一の恋(VTR)
- パチンコをしている人たちの頭をなでるのが生きがいな兄妹
- 歯が無いれにちゃん こんにちは!
- ネタに入る前に銃社会について語るモノマネ芸人
- 事件の手がかりとなる謎のディスクを見せびらかすだけ見せびらかして颯爽と消える人
- ストイックにペース配分を考えて逃げるパンツ泥棒とストイックにペース配分を考えて追いかける被害者
- 【エキセントリック人物図鑑】亮太とさくら(VTR)
- 【エキセントリック人物図鑑】美川田憲一(VTR)
- 【エキセントリック人物図鑑】米原幸一(VTR)
- エキセントリックトークショー
- ヨーデルおじさん(VTR)
- 膝を擦りむいた話ばかりするキャバクラ嬢
- ももクロのコンサートの最後のお辞儀であーりんの力が強すぎて気分が悪くなる有安杏果と高城れに
- 最近バラエティ番組で見なくなったタイトルコール選手権
- 【泣けるコント】バッティングセンター
- 浜辺で九州を自主的に守る人たち
- 【エキセントリック人物図鑑】柳木雅彦(VTR)
- 【エキセントリック人物図鑑】塚本侑子(VTR)
- 【エキセントリック人物図鑑】園田たけし(VTR)
- 【道徳コント】 ギャル男をビンタして死に行く老夫婦
- 仕事に行く途中に駅でイヤリングを落としてしまったけど時間がなかったのでそのまま仕事に向かい その夜 家に帰って来た時にどうしてもイヤリングが気になって風呂上がりに探しに行ったけど 1時間以上探しても見つからないからあきらめて家に帰る途中の“高城れに”
- 【れにちゃんがご機嫌になるコント】めちゃくちゃ可愛い転校生
- 天使の声が出せるので出します
- 綺麗な心を持つ人にだけ見える謎の妖精
- ENDING VTR
- 出演者挨拶
- ボーナストラック
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- 喉に餅がつまった新沼謙治 -大人の事情編-
- 映像特典
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- ノンフィクション劇場 永野が語る「永野と高城。」
ライブ情報
- エキセントリックコミックショー 永野と高城。2
- 2018年7月14日(土)、7月15日(日)、7月16日(月・祝)
1部14:00開場 14:30開演 / 2部18:00開場 18:30開演
東京・恵比寿 ザ・ガーデンホール
- 高城れに(タカギレニ)
- 1993年6月21日生まれ、神奈川県出身。2008年に結成されたももいろクローバーZの最年長かつオリジナルメンバーで、担当カラーは紫、キャッチフレーズは「ももクロの鋼少女」。2015年3月9日に愛知・名古屋CLUB QUATTROでももクロメンバー初となるソロコンサート「高城の60分4本勝負」を行った。以降1年に1回のペースでソロコンサートを実施している。2017年6月にはお笑い芸人・永野とお笑いライブ「永野と高城。」を開催。2018年7月に東京・恵比寿ザ・ガーデンホールで「永野と高城。2」を行う。
- 永野(ナガノ)
- 1974年9月2日生まれ、宮崎県出身。映像ディレクターの清水康彦とタッグを組んで制作したDVD作品「Ω」を2016年5月にリリース。2018年6月、清水康彦、斎藤工、金子ノブアキと共に結成した「チーム万力」名義で短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア(SSFF&ASIA)2018」にショートフィルムを出品する。TOKYO MX2「ブレイク!」(火曜)、日本テレビ系「PON!」(水曜)などにレギュラー出演中。