アニメやゲームからヒントを得た構造
──「インシデンツ」のコントは衣装や小道具の細かいところまでこだわりがありそうで、映像としても非常にきれいでした。
笑いの構造が全部バレたあとでも、何度も繰り返して見て楽しめるようにしたかったので画作りにもこだわりました。「架空OL日記」や「住住」の住田崇さんに監督や演出をしてもらっています。
──これは「トークサバイバー!」の経験が生きていたりもするのでしょうか?
それはあると思います。ただ「トークサバイバー!」のドラマ部分は笑うためのフリになる装置として作っていて、ノブくんのツッコミが入る前提なんですよ。そういう意味で構造は千鳥の漫才に近いですよね。一方で「インシデンツ」は、これまでにない構造のものを作ろうと思ったので、「マジかよ」という展開をちゃんと支えてくれる映像を、という意識はありました。「トークサバイバー!」と「インシデンツ」も画作りにはこだわっているんですが、それぞれ狙いは違います。
──新しいタイプの番組を制作していく上で、意識した作品やコンテンツはありますか?
映画やドラマよりはアニメを参考にしました。「魔法少女まどか☆マギカ」とか「進撃の巨人」とか、ここ10年のアニメってストーリーはもちろん、構造が凝ってるものがけっこう多くて、1話と2話で全然違う話になってる作品とかあるじゃないですか。あとは「ブレイブリーデフォルト」「UNDERTALE」のような変わった構造のゲームかな。そのへんの要素をコントの世界に持ち込みたいなと思いました。
──ややメタ的というか、前提自体がフリになっている感じですよね。
そうですね。スーパー戦隊モノにも影響を受けてるかもしれません。小林靖子さんが脚本を書かれているような作品って、スーパー戦隊モノであることをフリにしていろいろ変わった仕掛けをしてくるんですよ。ホラー映画でもけっこうあるかもしれません。一方で「コント」という前提をフリに使った実験的な作品はあまり思いつかなかったので、自分がやろうと思いました。
「こんなに欲張っていいのか」と思うくらい濃密
──今作は「放送ギリギリの際どい内容」「戸惑う人も出てきそうな驚きの展開」が特徴だと思いますが、これをDMM TVでやった意図は?
正直、際どい内容は「ゴッドタン」(テレビ東京系)でも死ぬほどやってきたんですよ(笑)。バラエティ番組だと放送ギリギリなことが起こっても「現場で起きたことだからしょうがない」で押し通せるんですけど、コントの場合は完全にこちらが意図しちゃってるじゃないですか。そういう意味で放送ラインを突破できないものがあるので、DMM TVでやるのに適してますよね。一方で、ただ過激なコント番組を作るだけでは伝わりにくいテーマも内包していて、それを伝えるために変わった展開にしました。
──そのテーマとは具体的にどのようなものでしょうか。個人的には「笑い」の必要性や大切さのようなメッセージが込められているように感じましたが。
「笑いの力とは」みたいな深刻なことは考えてないですけど、それでもコロナ禍で「エンタメでできることとできないことがあるな」とか「エンタメよりも食事のほうが大事」みたいに考えることもあって、そういったものが反映されてるとは思います。特に後半は物語の中で「笑いは必要なのか、必要じゃないのか」という問いかけがあって、6話すべてを観ると全体のテーマが完璧にわかるし、「地上波では流せないコント番組」というコンセプトに「そういう意味もあったのか!」と思ってもらえるはずです。
──地上波の番組に比べると観る側にリテラシーが求められる部分もあると思うのですが、これは敢えてそうしたのでしょうか?
そうですね。たぶん第2話が一番偏差値が高いんですよ(笑)。でも最後まで観ればそれなりにわかると思います。「最後まで観ればわかる」という構造はサブスクだったらやってもいいんじゃないかと。テレビで毎週放送するものだったら、もう少し丁寧に説明するかもしれないです。ただ今回はDMM TVのローンチタイトルの1つだというのもあって「クオリティが高くて、好きなことをやっていて、悪ふざけもしていて、ちゃんとカッコいいもの」を作るのを第一優先にしようという意識はありました。
──最後にお笑いファンに向けて、改めて見どころを教えてください。
ノリにノッているさらばやヒコロヒーをはじめ、関東コント芸人の雄が本気でコントをやってくれているので、それだけでも観る価値があります。それに加えて、全体の展開も「全6話でこんなに欲張っていいのか」と思うくらい濃密で、最後にはしっかりと着地します。1クールのものを見終えたくらいの満足感を味わえると思うので、ぜひ観てください!
プロフィール
佐久間宣行(サクマノブユキ)
1975年11月23日、福島県生まれ。テレビプロデューサー。1999年にテレビ東京に入社し、「ゴッドタン」やワンシチュエーションコメディ「ウレロ☆」シリーズ、オムニバスコント番組「SICKS」、「青春高校3年C組」などさまざまな番組を手がける。2021年に同局退社後は、自身のYouTubeチャンネル「nobrockTV」を開設。2019年から「佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)」(ニッポン放送)のパーソナリティを務めている。
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