設楽 願望の話ですね。「生まれ変わったらこうしたい」とか。考えたら1本目も悲劇か喜劇かみたいな話だし、なんか悲しくない? このライブ。
日村 悲しい。
設楽 悲哀が詰まってる。
──現世では叶わなかったことを話しているわけですもんね。
設楽 こういう話ってみんな好きだと思うんですけど、稽古場でも「もしこの仕事してなかったらどうする?」「次生まれ変わったらどういう機能欲しい?」とかいうことをよく話しているんですよ。
──ここで出てくる願望は実際に日村さんが望んでいることなんですか?
設楽 日村さんの望んでいることもあるし、俺が望んでいることでもあるし。「お腹強くなりたい」とかは2人共だよね。
日村 そうそう(笑)。
設楽 ラジオで言っていたこととかもネタに使うから、現実の日村さんとネタの中の日村さんの境界線が曖昧になっていて。このコントはそういう部分もふんだんに入ってるから面白いよね。
日村 俺はこのネタ、設楽さんの「ポコチンまわり」の言い方が好き。本読みの段階から千秋楽までまったく同じ言い方だった。
設楽 そういうシモ系の話って面白いけど、あんまり下品にはしたくないからネタでどこまでやるかはけっこう考える。だけど、これは避けて通れない質問だから。
日村 そう! 絶対聞くでしょ。でも設楽さんの言い方は品があるんですよ。「ポコチン」ってなかなか難しいじゃないですか、品よく言うのって。
──生と死の狭間という設定ですが、セットも雰囲気満点ですよね。
設楽 舞台監督さんや美術さんとギリギリまで調整していました。『(塔の上の)ラプンツェル』のランタンみたいなイメージだったんですよ。DVDに入っているのは最終形態ですけど、「ちょっと足りない」「もっと雰囲気出したい」とかいろいろ悩んで、初日から電球の数を増やしてました。
日村 なるほどね。いや、いい感じだよね。ほんと不思議な空間。
設楽 日村さんが録音ブース、俺がコントロールルームにいるみたいな、こういう2拠点を使ったネタもわりと好きですね。
日村 こういうおじさんの役は何回かやってるけど、楽しいね。思いっきりキャラ入ってて。
──日村さん演じるベテラン歌手も、設楽さん演じるプロデューサーも完璧にそう見えました。
設楽 年齢もありますよね。実年齢がキャラと合ってる。
日村 確かに昔はちょっと背伸びしておじさんを演じてたもんね。
──このネタも、悲劇でもあり喜劇でもあるなと感じるお話です。
設楽 ネタとか物語って、思うようにいかないんですよね。だからこそ話が転がりだす。例えば、俺らも意図してないところで笑いが起きるってことはよくあるんですけど、今回で言うと「Wish List.」で、俺が日村さんの名前を「“にっそん”さんですね」って間違えて読んじゃって、「“ひむら”ですよ」って訂正される部分があって。そんなの別に台本にもしていないような、本番でいきなりやったみたいなノリだったんですよ。なんですけど、そこが一番面白かったって言われて……(笑)。
日村 全然それでもいいけどね?(笑) 全体が好きで、特にそこがってことだから。
設楽 まあまあね。でも「そうなの!?」と思って。
日村 作った人からするとそうだね。でも、そういうものなのかもしれない。
──コミカルなタッチが海外コメディっぽくも感じました。
設楽 ああー、確かに。ドラマみたいに撮ったら面白いかもしれないですね。海外の役者さんにやってもらって。今回のネタは映像にしても面白いものが多い気がする。
設楽 武道館ライブを終えたあとの赤えんぴつです。
日村 スターが帰ってきた感じの態度で(笑)。
設楽 赤えんぴつは不思議なネタになってきましたよね。ネタのキャラクターなのに、こいつらだけでデカい公演をやっちゃって。
日村 舞台に明かりついた瞬間、客席の空気がちょっといつもと違ったもんね。「ああ、来た!」みたいな。
設楽 「俳優座に出てくれるんだ!」っていう。だから今回はその流れに乗ってみました。「こんな狭いところではもう歌えねえよ」って、性格が悪すぎる(笑)。
日村 でもそれが本音なんだろうね。
設楽 しかも(星野)源くんとトータス松本さんに提供してもらった曲を歌ってますから。本当にすごい奴らですよ。
──ラストはバナナマンの王道テイストの1本です。見応えもあり、ちょっといい話でもあり。
設楽 恋愛話って作りやすいんですけど、実年齢が乗っかってありえない設定だと納得感がなくなっちゃうから。それはもうここ数年の課題ではあって。だからこそ若い頃とは違う話の展開にするとか、それはそれで幅は広がってきていると思うんですけどね。昔を振り返る場面を入れたり。
日村 最後、忍者の格好でエンディングを迎えたとき、なんか俺はうれしかったよ。コメディアンっぽいじゃん。
設楽 舞台で毎回エンドトークをやるんですけど、忍者の格好のまま出ていってね。ただ、日村さんは付けるものがいっぱいあるから着替えるのに時間がかかっちゃって大変で。やっぱり日村さんって本番と練習で全然着替えの状況が違うんですよ。
日村 本番はサラサラじゃないから。汗でひっついちゃって。
昔からの夢も叶った集大成「W」
──オープニングVTRには東京スカパラダイスオーケストラが書き下ろした「グランドスラム」が使われています。
設楽 昔、オープニング曲をスカパラさんに作ってもらえるようなことがあったらいいなって話していたんですよ。接点もなければ自分たちも何者でもないときのことなので、もちろん夢の話ですよ。で、「S」か「H」が終わったときに、谷中(敦)さんがライブの感想を送ってきてくれて、やり取りしている中で「いつかスカパラさんにオープニング曲を作ってもらうのが夢なんですよね」なんていうのを伝えたら「じゃあメンバーに話してみます!」って言うから「待って待って待って!」って(笑)。「いや夢ですよ、夢!」みたいな。スカパラさんは、メンバーみんなで話して「やろう」ってなったらやるんですって。そしたらみなさん乗ってくださって。
日村 すごいなあ。
設楽 過去もいろんな方に曲を作ってもらっているんですけど、スカパラさんは特に若いときからの夢だったので。「グランドスラム」ってテニスで言うと4大大会制覇じゃないですか。「S」「H」「O」「W」の4つが揃ったときにこういう曲を作ってくれたっていうのも含め、集大成というか、すごく思い入れのあるライブになりました。
日村 1本目のネタが終わって着替えのときに「グランドスラム」がバーンってかかるから、気持ちがウワッ!と上がるよね。あそこが一番大急ぎのところだから。着替える場所もこの20年間ずっと変わらず、あの位置で。1本目のネタを終えたら下がって、オープニング曲を聞きながら着替えるっていうのは、とりあえず俳優座では終わりですからね。悲しいですよ。
──でもこうやってバナナマンの作品として俳優座も映像に残るというのはお二人もうれしいのでは?
日村 それはそうだね。
設楽 昔から劇場で写真を撮るっていうのはやってみたかったんですよ。それがずっと単独をやらせてもらっていた俳優座で叶ったのは我々にとっても記念になりましたね。
──さて、俳優座が閉館して、気になるのはバナナマンの今後のコントライブのことなのですが……。
設楽 実は、2025年はバナナマンのコントライブをやらないんですけど、ライブ自体は来年以降またやると思います。やると、“思います”。まだ決定事項じゃないので(笑)。
──「やります」という宣言を聞きたいです! ここまでお話を聞いて、やりたいことも叶い、集大成という言葉も出ていたので、「これにて完結!」みたいなことだったらどうしようかと。
日村 あっはっはっは(笑)。
設楽 今また会場をいろいろと探しているところです。でも、いつやらなくなるかなんて本当にわかんないなって思いますよね。だってコロナのときもやろうと思ってたけど結局2年空いちゃったり。
日村 劇場がなくなるなんて思わなかったもんね。
設楽 本当に。と言っても閉館しちゃったからやらないってわけじゃなくて、年末にかけて赤えんぴつで全国ツアーをやるので、今年は赤えんぴつを楽しんでもらえればなと。
──武道館ライブや「FNS歌謡祭」を経験した赤えんぴつのツアー、期待しています!
プロフィール
バナナマン
設楽統(シタラオサム)
1973年4月23日生まれ、埼玉県出身。
日村勇紀(ヒムラユウキ)
1972年5月14日生まれ、神奈川県出身。
1993年に結成し、「ラ・ママ新人コント大会」でデビュー。毎年「bananaman live」と題した単独ライブを開催。コントキャラクターのフォークデュオ・赤えんぴつとして2024年2月に武道館ライブを行った。「YOUは何しに日本へ?」(テレビ東京)、「バナナサンド」(TBS)、「奇跡体験!アンビリバボー」(フジテレビ)、「沸騰ワード10」(日本テレビ)、「バナナマンのせっかくグルメ!!」(TBS)、「乃木坂工事中」(テレビ愛知)、「JUNK バナナマンのバナナムーンGOLD」(TBSラジオ)などに出演中。ホリプロコム所属。
加賀翔(カガショウ)
1993年5月16日生まれ、岡山県出身。2015年に賀屋壮也とかが屋を結成。お互いにお笑い好きで、特にバナナマンのファンだった。「キングオブコント2018」準決勝に進出して注目を集める。2019年7月放送の「ゴッドタン」(テレビ東京)の企画「この若手知ってんのか!?」にて、「こいつは天才だ!」と一目置かれている芸人部門1位に選ばれ憧れのオークラとの対面を果たし感涙した。「キングオブコント」では2019年、2022年にファイナリスト。2024年に「マイナビ Laughter Night」第10回チャンピオンライブで優勝した。「ラヴィット!」(TBS)、「有吉の壁」(日本テレビ)などに出演中。マセキ芸能社所属。