アーティスト特化型音声配信アプリ「Artistspoken(通称アースポ)」は、ミュージシャンやお笑い芸人、俳優、映画監督など多彩なアーティストの“ここだけの話”が聴けるラジオ。立ち上げから3年、参加するアーティストは150人以上にのぼり、9月に開催された3周年記念イベント「Artistspoken展」も大盛況のうちに終了した。
ここ数年、配信アプリやYouTube、地上波ラジオ局によるポッドキャストなど音声コンテンツは急増し、「ラジオを聴くのに大忙し」というお笑いファンも多いのでは。そんな中でも独自の地位を築いているArtistspokenの存在感の理由はなんなのか、お笑いナタリーではArtistspokenで自身の番組を持つAマッソ加納、9番街レトロ、ヨネダ2000という3組、そして3人のユーザーにインタビューを行い、アーティスト、リスナーそれぞれの視点からその魅力を聞いた。
取材・文 / 狩野有理撮影 / 番正しおり
Artistspokenとは?
お笑い芸人、映画監督、建築家、ミュージシャンなど、さまざまなジャンルのアーティストが集まる音声配信プラットフォーム。これまでに55ジャンル、200名を超える表現者の声を「Audio Essay」として届けてきた。2023年9月6日にはArtistspoken参加アーティストがクロスオーバーしたイベント「Artistspoken展」を開催。リスナーが“未知なる好き”と出会うきっかけとなる「Library of Artist Voice(声の図書館)」を目指し、音声配信に加えて公開収録やリアルイベントといったオフラインでもつながる機会を提供していく。
一部のトークは無料。プレミアム会員(月額1200円)は全アーティストの音声が聴き放題。個別会員(月額300円)は1アーティストの直近2カ月の音声を楽しめる。アーティストに感想や聞いてみたいことを投げかけられる「レター」機能も。
Artistspoken(アーティストスポークン) | 暮らしを変える、声を聴こう
Artistspokenに全ベット
──Artistspoken特集ということで、ご自身の番組をお持ちのみなさんにお集まりいただきました。加納さんは2020年9月のサービス立ち上げ当初からご参加ですが、お声がかかったときはどう思いましたか?
Aマッソ加納 すぐ終わると思いました(笑)。
一同 あはははは!(笑)
加納 この頃、新しい音声配信サービスが乱立していたんですよ。
9番街レトロなかむら 今いっぱいありますもんね。
加納 そんな気持ちをぐっと堪えて、ほかからのオファーも全部断って、これに全ベットしました。
一同 おおー。
──なぜベットできたんですか?
加納 なんでやろ? ほかの配信は少し抵抗があったんですけど、有料コンテンツという場で自分のしゃべりやモチベーションがどう変わるのか試してみたかったんですよね。結果的にあんま変わらなかったんですけど(笑)。
──9番街レトロとヨネダ2000の番組は2022年2月から「UBUGOE」という枠で始まりました。Chilli Beans.、伊藤健太郎さん、佐藤詩織さん、映画監督の枝優花さんと同じ枠に名を連ねています。
なかむら 僕らのマネージャーが伊藤健太郎さんの大ファンで、「絶対にやったほうがいいです!」って言われたのでやることにしました(笑)。著名人の方たちと同じ枠組みに自分もいるのがおもろいです。
9番街レトロ京極 月曜から日曜までいろんなジャンルのアーティストさんが担当する枠なんですけど、芸人の割合が多いな、と思いました。しかも令和ロマンとヨネダっていう近いところで。
加納 最初は「お笑いとかじゃないんで」って言われていたんですよ。「ファニーじゃなくて、インタレスティングでお願いします」みたいな。そしたらどんどん芸人が増えてきて、話ちゃうやん!(笑) めちゃくちゃお笑いラジオになってきてますよ。
──とはいえ、渋谷すばるさん、町田康さん、瀬戸利樹さん、元BiSHのMISATO ANDOさんといった幅広いジャンルのアーティストの中に、三遊間、にぼしいわし、ひつじねいりなどライブシーンで注目される芸人がたくさん混じっているのもArtistspokenらしさの1つです。ヨネダのお二人はお声がかかったときどうでしたか?
ヨネダ2000誠・愛 うれしかったです。
愛 昨年1月に「オールナイトニッポン0(ZERO)」をやらせていただいたあとにお声がけいただいたんですよ。あの伝説の。あれを聴いたうえで言っているのか?とちょっと疑問に思いましたけど(笑)。
──誠さんが噛み倒していたと話題の放送でしたね(笑)。それも含め好評だったと思いますが。
誠 なので、今はリハビリみたいな感じでやらせてもらっています。「ちゃんと文字を読めるようになろう」という。
──現在150名以上が参加しているArtistspokenはみなさんにとってどんなイメージですか?
加納 いろんな人間が集まってきて、カルチャー的に地盤が固まってきた感じはしますね。私たまに柳原可奈子さんの番組つけて、音域だけ聴くことがあるんですよ。
──音の上がり下がりを。
加納 そうです。内容は子育ての話やからあんまりわからんけど、明るいじゃないですか、柳原さんって。聴いていて心地いいんですよ。あと、町田康さんがめっちゃゆっくり、自分のテンポでしゃべっているのも面白いです。あんなん聴けるラジオほかにない。普通の地上波ラジオやったら放送事故になるテンポの人、Artistspokenにいっぱいいます。奇妙礼太郎さんなんて1年更新せずに今回のイベント出ているし(笑)。いろんな人がいていいし、変な聴き方も許される、寛容なイメージはありますね。
──なるほど。9番街レトロのお二人はどうでしょう。
なかむら 正直、変な話Artistspoken以外はカスやと思ってて……。
京極 おい、変な話すんなよ!(笑)
加納 ほかのラジオやってるの?
なかむら 僕は4つやっているんですけど、こんなにがっつりしゃべるのはArtistspokenだけですね。ほかではコーナーを多くやっています。
──ヨネダのお二人は。
愛 Artistspokenはなんでもやらせてくださるイメージがありますね。有料だからこそ、お菓子を食べるコーナーなんかをやっています。食レポの練習とか。
誠 すべての練習の場として使わせてもらっています(笑)。
愛 成長を見届けていただきたいです。
──完成されていない姿もオープンにしているわけですね。
愛 トーク自体も素に近いかもしれないです。
誠 たまに、平気で50分とか録っちゃうときがあって。しかも1回もボケてないんですよ。我々お笑い芸人なので、50分ボケなしってあんまりないことなんですけど。
愛 ただ話しているだけっていう。
誠 清水亜真音(誠の本名)の部分が出てます。
リスナーと築く信頼関係
──Artistspokenだからやれること、話せることはほかのみなさんもありますか?
加納 どうやろ? 私は一通りしゃべったあとに編集していて、ほんまに言ったらあかんことは切っているので、生放送よりは気持ちは楽ですね。編集してない?
なかむら してないです。
京極 言ったらあかんことは言わないですよ(笑)。
なかむら でも、Artistspokenだから言っちゃう話っていうのはありますね。有料の壁で守られている気がしているので、けっこう言います。
加納 それはある。レポみたいなのがあんまり出ないよな。
京極 確かに。有料ゾーンかどうかは気にして話していますね。
なかむら だから、あんまり知られてたくさんの人に聴かれるとまずいかもしれないです(笑)。
加納 コンビの雰囲気が悪くなっているのか、ちょっと香ばしくなっている内容がそのまま配信されていることもあるんですよ。でも、それがファンはたまらん、みたいな(笑)。
なかむら 僕らもそれを聴いて、劇場でその方とお会いしたきに答え合わせします(笑)。
──舞台上では話さないことまで話してしまうというのは、リスナーとの信頼があるからこそだと思います。番組を数年続けてきて、リスナーとはどういう関係を築けてきていると感じますか?
加納 地上波のラジオ(MBS「Aマッソのヤングタウン」)では1行のメールが送られてくるなんてことはあんまりないんですけど、こっちは「学校行ってきます!」とか「ただいま」とかめっちゃ短文を送ってくる奴がおるんですよ(笑)。お便りを送るのが日課みたいになっている人もいて、ハードルが低いのはラジオとは違う楽しさでもあるのかなって思いますね。
──加納さんをかなり身近な存在に感じているんですね。
加納 ナメられてると思います(笑)。でも、「(番組内で)読まなくていいので、見てください」みたいな、ガチの内容もあります。
──本当にお手紙のような。
加納 そうですね。逆に、紙で届くほうのファンレターが減ったかも。
──お二組はどうですか?
京極 僕らはなかむらの変なコーナーをいろいろやっていて、「なぞかかれ」っていうのがあるんですよ。なかむらはなぞかけができないんですけど、「たまたまかかってくれ!」って祈るという(笑)。
なかむら 絶対にかかってる雰囲気で言います。
──1回やってみましょうか。お題は「ラジオ」で。
なかむら 「ラジオ」とかけまして、「年の離れたお姉ちゃん」と解きます。
加納 よさそう。
京極 その心は?
なかむら どちらも、湯気(ゆげ)が立っているでしょう。
一同 かかれー!
京極 ああー。今回はちょっとかからずでした。……こういう奴に送るレターなので、変なのが多いです。
なかむら リスナーも一緒に、みんなで遊んでいるみたいな感じですね。
加納 ヨネダのリスナーには嫌な人いなそう。
愛 みんな優しいです。
──ボケなしの50分をお届けしても受け入れてくれるリスナーですもんね。
誠 お金を払ってまで我々のしゃべりを聴いてくれるってことは、もうこういうことになってもしょうがないですよね、という共通認識でやらせてもらっています(笑)。
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コラボ回で友達になれた