昔の曲をYMCK流ポップに昇華させる難しさ
——YMCKのサウンドには8bitの音を使って、チップチューンで、という制約がありますよね。そんな中でフォークソングやシティポップをカバーするのに苦労した点とか、ここは頑張ったよという点があったら教えてください。
除村:8bitの音であることは、実はそんなにネックではなくて、すこぶる楽しくできたところなんです。それはテーマのひとつでもありますから。特にフォークソングは、元がシンプルなので、それをまたシンプルな8bitでやるのはむしろ面白かった。たいへんだったのは、昔の曲、特にフォークはAメロ・Bメロ・サビ・間奏という構成じゃなくて、1番・2番・3番・4番・5番ってなってるのが多いんですよ。それを、どうやってポップス風な起伏をつけて聞かせるかが一番たいへんでしたね。
——それは確かにたいへんそうですが、音源はきちんとポップで素敵なサウンドに仕上がっていると感じました。
除村:そう言っていただけるとありがたいです。
——みどりさんの歌も、すごくかわいらしい淡々とした歌い口で、YMCK流に料理されているのが印象的だったんですが、歌入れはどうでしたか?
栗原:「SONGBOOK」収録曲は元の曲がほとんど男性ボーカルなので、やっぱりたいへんでしたね。あんまり原曲を聴いちゃうとますますたいへんになるし、イメージが固まっちゃって、変に引っ張られると思ったんですよ。原曲の歌は自分の歌い方とはちょっと違うんで、あえて原曲は聴かず、出来上がってきたアレンジだけを聴いて、イメージして歌ったんです。なので落としどころが難しかったですね。
——「SONGBOOK」収録曲はメロディも独特なので、歌うのが難しいんじゃないかと思います。
栗原:そうですね。たとえば泉谷しげるさんの曲はもうべらんめぇ口調じゃないですか(一同笑)。どうしようかなー、って思ったんだけど、歌ってみたらすんなりできたかな。やる前はわりと構えてたんですけどね。
——対して「DOWN TOWN」のほうはいかがでしたか?
除村:こっちのほうが楽だったかな。
栗原:こっちは“ポップ”という共通点があったので、「SONGBOOK」よりは気分的にはやりやすかったですよね。
DE DE MOUSEの曲に妙な“色”が付かない声を探していた
——DE DE MOUSEさんの楽曲に参加されたゲストボーカルのmoumoon・YUKAさん、コトリンゴさん、一十三十一さんについて聞かせてください。YUKAさんを起用されたのは初めてですよね?
DE DE:初めてですね。今回のカバーではナチュラルでフラットな声を求めてたんです。ソウルフルだったりロックだったり、そういう癖があるよりはもう少しナチュラルな感じの声を探していたんで、聴いた瞬間「あ、これなら」っていうのが見えたんですよ。
——コトリンゴさんとも初めてのコラボかと思います。DE DE MOUSEさんがコトリンゴさんの2ndアルバムにコメントを寄せていたのは拝見しましたが、あれが縁になったんでしょうか。
DE DE:コトリンゴさんの2ndを聴かせてもらったらすごい良くて、この人に「メトロポリタン美術館」を歌ってもらったらいいんじゃない?って思ったんです。
——それから一十三十一さんは、ブログで8月4日に「DE DE君と今いいの作ってます」と書いていましたが、これが「DOWN TOWN」のことなんでしょうか。
DE DE:そうです。確か退院後初となるレコーディングって言ってたんで、多分、休業の後、一番初めのレコーディングがこれですね。
——では、曲をある程度先に形にしておいて、そこに合うボーカルを探したんですね。
DE DE:そうですね。ボーカリスト探しが一番たいへんだった。あまりにもメジャーな人だとその人の名前で引っ張られちゃうというか、DE DE MOUSEってカラーがぼやけちゃう。だからそれなりに知名度もあるけれど、その人の知名度で僕の作ったカバーに印象がつかないくらいの人が欲しくて。たとえば、倖田來未が歌いました!とかってなると(一同爆笑)、それは売れると思うんですけれど、それはDE DE MOUSEじゃないんですよね。倖田來未がこの曲をカバーしました、ってなっちゃう。
——なるほど。ところで、DE DE MOUSEさんの2ndアルバム「sunset girls」はメロディがきれいな楽曲が多くて、きらきらとした音飾が印象的でした。今回のカバーもあのアルバムの延長上と捉えていいのでしょうか?
DE DE:いや、今回は一応切り離してて、どちらかというと今作っている作品にちょっと近いかな。ボーカルが主役だから目立たないようにしているんだけど、たとえば「メトロポリタン美術館」のリズムだったり「DOWN TOWN」のビートだったりで結構細かいことをやっていて、あんまり繰り返しとか使ってないんですよ。それから「sunset girls」は何回か聴かないとわからない部分がいっぱいあるようなアルバムだけど、今回のはもう少しキャッチーにしようとしてて、ビートやメロディやアレンジをあんまり変にひねってない。わりとストレートに「こういうのが聴きたいだろう」「DE DE MOUSEのイメージっていうのはこうだろう」というのを頭において使うものを選んだかな。それも結局、前作のときから自分のやりたいことが変わってきたってだけなんだけど。あんまり横ノリにするのやめようとか。あと、「sunset girls」は日本人が懐かしく思うような日本のイメージっていうのを持って作ったんだけど、今回はそういうのはなかったな。わりとストレートに、あんまりひねらずに。
——では、今回聴ける3曲は次作への前哨戦なんですね。
DE DE:どっちかっていうとそれに近いかもしれないですね。それから音のことを言うと、「DOWN TOWN」のビートはAphex Twinが覆面でやってると言われてるThe Tussの音をちょっと意識した感じにしてみてる。シャッフルで跳ねて、ドラムマシンみたいな感じの音を使ったり。あんまり言及されないし、僕もあんまり言わないけど、そういうのも聴いてエッセンス的に取り込んだりしてる。最近こういうのがキテるみたいだから、みたいな。もちろん、全くそのまんまってわけじゃないけど。
——今回は「DOWN TOWN」のお話を聴かせていただいているわけですが、次作も楽しみになってしまいます。
DE DE:まぁ、また「sunset girls」とも全く違うものになると思いますね。
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CD収録曲
- 夢の中へ(井上陽水)
- ぼくたちの失敗(森田童子)
- 人間なんて(吉田拓郎)
- 傘がない(井上陽水)
- 春夏秋冬(泉谷しげる)
- 満足できるかな(遠藤賢司)
- 言葉にできない(小田和正)
- 人生を語らず(吉田拓郎)
- まるで正直者のように(友部正人)
※全曲ミュゥモで着うた・着うたフル配信中
プロフィール
YMCK(わいえむしーけー)
除村武志(作曲・編曲・作詞・サウンドプロデュース・映像)、栗原みどり(ボーカル・作曲)、中村智之(映像・作曲)の男女3人から成る8bitポップユニット。2004年に発売した1stアルバム「ファミリーミュージック」がヴィレッジヴァンガードを中心に大ヒットを記録。レトロゲームさながらの8bitサウンドで、幅広い世代の支持を受ける。2008年1月エイベックスに移籍、3rdアルバム「ファミリージェネシス」でメジャーデビュー。国内のみならず、スウェーデン、オランダ、米国、台湾、タイ、韓国など多数の国で国際的なフェスやイベントに出演。映像と完全にリンクしたユニークなパフォーマンスは、世界的にも高い評価を獲得している。チップチューン・シーンの枠を超え、J-POP界に新風を巻き起こす存在として最も注目されているアーティストの1組。
DE DE MOUSE(ででまうす)
遠藤大介によるソロユニット。緻密に重なり合うメロディはオリエンタルな響きを感じさせ、ドリーミーで聴きやすいサウンドは、耳の肥えたリスナーから一般の音楽ファンに至るまで幅広い層から人気を獲得している。自主制作で発売したCD-R「baby's star jam」が各方面で話題になり、2007年1月にExt Recordingから1stアルバム「tide of stars」を発表。異例の好セールスを記録し、同年7月には早くもリイシュー盤「tide of stars SPECIAL EDITION」がリリースされた。2008年3月にavex traxへのメジャー移籍を発表、5月7日にメジャー第1弾となるアルバム「sunset girls」をリリースした。音源とは一線を画する、勢いのあるライブパフォーマンスも魅力のひとつ。