ナタリー PowerPush - VELTPUNCH

新ドラマー迎え初音源 奇妙なファイティングポーズとは?

予想しないほうに行って結果的に面白くなる

──確かにこのアルバムは4人のバランスがすごくいいですよね。

長沼 始めの頃ってすごくギターありきで考えていて。そういうバンドが好きだったし。でも今回は、ギターはシンプルなリフを弾いてリズムを前に出していくとか、楽曲によってギター以外の楽器を前に出すことは増えたかもしれないですね。前はミックスでもギターをもっと出したいって言ってたんですけど。

──どうしてそうなれたんですかね。

長沼 僕、アルバムを作るときにはゴール地点まで設計図を描き切っちゃって、そこにみんなを近付けるように誘導する意識が強かったんです。でもそれに満足した部分と、もっとメンバーのいいところを引っ張り出すほうが、予想しなかったほうに行って結果的に面白いっていうことがわかったんで。

──メンバーの奔放な姿に影響を受けて、自分も奔放になれたところがある?

長沼 そうですね。誰かがこう来たら俺もさらにこうしようとかって。始めの頃はメンバーに好き勝手やられると、「こういうのがカッコいいんだ!」って持っていったものが犯されていくような感じがしてたんですけど(笑)。

ナカジマ 3枚目か4枚目のアルバムくらいまでは、超言い合いになって私が泣いてスタジオを飛び出すことが、レコーディングごとに1回はあったんですよ(笑)。そういえば最近ないですね。

姫野 4枚目の「WHITE ALBUM」のときはデモテープの段階で「ここはフリーに考えてください」って作っている部分だなっていうのがわかったんで、パート感覚と言うか、その部分のフレーズだけを自分で考えて作る感じでしたね(笑)。それが、だんだん回を重ねるごとに、パートの比重が高まっていって、「まだ考えてないんですか?」って言われたりするように(笑)。まかされてるって感じるから「よし、がんばる」って思うけど、大変にはなりましたね。

ナカジマ 彼は考えてないときはアンプの音が小さいんですよ(笑)。

長沼 結果的にいいものを作ってくることはわかってるんですけど、2、3週経ってもできてなかったりするときにはプレッシャーを掛けるんです(笑)。

風俗で働く恋人のことを歌った「百人町」

──幅広い楽曲が収められている中で、特に印象に残ったのが「百人町」で。バラードなんだけど、歌詞がエグいですよね。

長沼 昔、付き合ってた女性がいまして。僕もバンドをやっていてお金がなかったんですよ。だから経済的に支援をしてくれていて。だけど調べてみたら彼女は風俗的なお店で働いていて、そういう中でケンカして、結果的に別れてしまって、彼女は新宿の百人町の街に帰っていっちゃった。……という妄想をしながら書いた曲です(笑)。百人町はコリアンタウンみたいな感じで、韓国と言えば焼き肉なんで、歌詞も「今、太陽が君を焼き殺しますように / ミディアムレアの君をタレでいただこう」って歌ってるんです。

──妄想(笑)。いつも強烈なエピソードを聞けるVELTPUNCHのインタビューですけど、今回も極まってますね。

長沼 歌詞の中で、自分たちのバンドの歌を彼女はただの雑音として聴いているっていう話が出てきて、最後は大合唱で「I wanna be your sex friend / I gave up "ROCK STAR"」って大合唱するっていう(笑)。

──純粋にいい曲なのにこの歌詞っていうのは、ギャップを狙っているんですか?

長沼 一番純粋な気持ちじゃないですか。音楽なんてあきらめて、ただ君のセックスフレンドになりたいっていうのは。

──ああ、逆に辻褄が合っているんですね。

長沼 そうです。狙わないで書くと、だいたいこういう感じに収まることは多いですね。1曲目の「The Sweetest」は震災の影響もあって、ポジティブになりたいって気持ちになったんで、狙って前向きなメロディと前向きな歌詞を作ったんですけど、何も考えないとマスターベーションとかの歌詞になりますね(笑)。

──でも長年バンドをやっているのに、ピュアでいられるっていいことですよね。

長沼 最初の頃は○○っぽく捉えてほしいとかありましたけど、今は背伸びをしないで、普段考えているようなことを書けるようになった気がしますね。

──アルバム7枚目ですもんね。数字にするとすごいですよね。

長沼 BOØWYが出していたアルバムの枚数を越えましたからね(笑)。BOØWYっ子だったんで、音楽は6枚のアルバムで描ききるって意識があったんですけど、まさかBOØWYを超えるとは(笑)。

ニューアルバム「His strange fighting pose」 / 2011年8月3日発売 / 2625円(税込) / EVOL RECORDS / EVOL-1017

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CD収録曲
  1. The sweetest
  2. your pink clothes
  3. Dance Dance Dance Don't Dance
  4. 酷い悪臭を放つ黒のダウンコートとコーデュロイのパンツを身につけ、お前はただただ自己嫌悪の無駄遣いをしているだけの事だ
  5. CM VS HE
  6. KAION
  7. Fighting Pose
  8. The panty makes me crazys (ex-VELTPUNCH)
  9. 百人町
  10. 光景
  11. irony
VELTPUNCH(べるとぱんち)

1997年に長沼秀典(Vo, G)、ナカジマアイコ(B, Vo)らを中心に結成された4人組バンド。下北沢、渋谷、三軒茶屋を中心にライブ活動をスタート。また国内のみならず、「SXSW」など海外ライブも積極的に行い、現地での人気を高めていく。2006年に姫野聖二(G, Cho)、2011年にアサマナオキ(Dr)が加入し現在の編成に。長沼&ナカジマによるツインボーカルが特徴。ときにエモーショナルで激しく、ときに繊細なギターロックサウンドが多くのファンを惹きつけている。