主観と俯瞰で作り上げるソロアーティスト手越祐也
──「シナモン」を皮切りに6カ月連続で新曲がリリースされ、さらに12月にはフルアルバムの発売が控えていることがすでに予告されています(参照:手越祐也の音楽活動が本格スタート、6カ月連続シングル配信や初ソロツアーなど決定)。手越さんはご自身で作曲もされますが、ソロ活動においては提供曲と自作曲の配分はどうしていこうと考えているのでしょうか。判断するのは手越さん自身だから、アルバム単位でも全曲自作にすることも可能ですよね。
僕は昔からそうなんですけど、自分ですべてをやることについては反対派で。ライブをやるにしても、演出や衣装、セットリスト、グッズ制作までを全部自分で考えて……みたいなやり方はしたくないんです。どの分野にもその道のプロがいて。それぞれに長けたプロの集合体のほうが強いと僕は思う。曲も僕が全部作ると、やっぱり好きなコード進行、行きたいメロディラインに手癖のようなものがあるから、どうしても遠からず似るんですよ。言葉のチョイスも。それがいいと言ってくれる人ももちろんいると思います。でもそれがすべてになるのはどうかなって。たぶんこの1歩目のタイミングで自分で書いていたら、すごく強い意思が出てしまっていたはず。でも、ここで「シナモン」のような曲に出会えたというのは、僕が全部を自分でやろうと思わなかったからなんですよね。
──主観を大事にしながらも、すごく客観的に自分のことを見てるんですね。
俺は主観と俯瞰をすごく大事にしているので。負けず嫌いで猪突猛進型だと思われがちですけど、俺は自分自身も、エンタメ業界も俯瞰で見れている自信がある。エンタメ業界を俯瞰で見て「これじゃあかん!」と思って独立したんで。というのも含めて、今僕をサポートしてくださっている方々が僕に歌わせたい曲、歌ってほしい曲を歌うことがすごく大切だと思うんです。もちろん、細かい部分での意見はかなり言いますよ。でも大枠の部分や素材は誰かに用意してもらって、僕はある意味シェフみたいなものなので、どうやってボーカリストとしての自分に味付けをしていくか。素材は誰かが作ってくれたほうが、今の僕のやり方としてはスムーズだし、合うのかなって。あとは単純に、作詞作曲をしてしまうと仕事量的に時間がまったく足りないです(笑)。
──ちょっと意外ですね。テレビでの振る舞いや芸能誌の報道などから受ける豪胆なイメージの手越さんなら「これだけ歌えるし曲も作れるんだから自分で100%のものを作る!」みたいな感じになりそうなところですけど。
パブリックイメージも大事だと思うんですよ。それがあるからキャラも立ったし。ネット記事を見て「この人はこういう人間だ」と決めつけてしまいがちですけど、俺は直接会って話して感じたこと以外の意見に流されることは絶対にないです。99人が「この人は生意気だ」とか「悪い人だ」と言ってても、俺と会ったときに俺がそう感じるかはわからないから。
エゴと希望のちょうど真ん中のパフォーマンスを
──9月にはいよいよソロツアーも行われます。もちろんライブもこれまでにはない新しい部分が見えてくると思いますが、ツアーについてはどのような心構えを持っていますか?
今回は東名阪の3カ所だけですけど、しっかりとしたワンマンライブは独立後初めてで。初めて俺のライブを観るという方もたくさん来てくれると思うので、まずは「手越祐也はこういうライブをしますよ」というのをガツンと見せたいなと。しばらく会えていないファンの子には「ひさしぶりに会ったら、こいつヤベえぐらい進化してんな」と絶対に思わせたいので、しっかり準備を進めています。ちょうど今日このあとセットリスト決めがあるので、そこで全貌が見えてくると思います。9月はフェスにも2つ出るんですけど、全部セットリストは違うんで、3つ作んなきゃいけないんですよ(笑)。
──ライブをやるうえで大事にしていることはなんですか? そしてそれは、今と昔で変化はあるでしょうか。
僕がやりたいパフォーマンスと、みんなが見たいであろうパフォーマンス、エゴと希望のちょうど真ん中を取ることですね。エゴだけではないし、希望だけではない。「君たちこれが見たいんでしょ? 俺はこれが見せたい。両方やろう」っていう感じ。自分のワンマンライブなのか、フェスなのかでもその配分は変わってきます。そのフェスがどういう特性なのか、お客さんの雰囲気によってもセットリストや見せ方は変えますね。
──ちなみに手越さん、ライブでは緊張はしないんですか?
まったくしないです。
──即答ですね。ドームの真ん中で1人ピアノの弾き語りとか、むちゃくちゃ緊張するんじゃないかと思うんですけど。
ライブでも歌収録でも緊張ってしないんですよね。ただ、グループではなく1人となると、今まで以上に責任感があるというか……緊張はしないけど“緊張感”はあります。手が震えたりはしないけど、事前にしっかり喉のケアをして、全曲を全部自分で完結しなくちゃいけないというプレッシャーはありますね。
──グループの中でソロコーナーを担うのとは違う?
全然違いますね。全曲2時間を1人で歌い切るのは未知の世界なので。果たして9月、フェスとツアーとテレビ収録とYouTube撮影と……全部こなして体がもつのかなという不安はちょっとあります。ターミネーターじゃないんで(笑)。成功するかどうかわかんないけど、まあ勝つか負けるかわからない勝負ほどスリリングで楽しいので。
──ツアーは追加公演も決定して、さらに生配信が実施されることも決まりました。最近は配信ライブ、場合によっては無観客での配信というのもポピュラーになってきましたけど、配信ライブについてはどういう考えを持っていますか?
配信でどうしても1つ、もどかしくてなんとかしたいなと思っているのが、音質ですね。会場ではめちゃくちゃいい音楽が奏でられているのに、配信を確認するとなんでこんなにアラが目立っちゃうんだろうなって。現場で聴いてれば絶対そんなことないはずなんだけど、ふとしたところでローが抜けたりハイが抜けたり……カラオケだと多少バランスはとりやすいんですよ。でもバンド演奏の生配信が難しい。まだ技術的な部分で追いついていないところもあると思うんですけど、そこをなんとか、ライブに来た人と同じくらいの臨場感で楽しめるようにならないかなという気持ちがあります。それはすげえ考えてますね。
ファンが見せてくれたあの景色を今度は自分が見せてあげたい
──先ほど年齢とともに変わりゆく肉体の話がありましたけど、今33歳の手越さんはこの先の音楽活動についてどのくらい具体的なビジョンを描いていますか?
今まではファンの子のサポートや事務所のブランドの中で、ドームだったりスタジアムだったり、素晴らしい景色を見せてもらっていたんですよ。すごく恵まれていた。でも、今出ている「スペプラ」(手越がMCを務めるスペースシャワーTVの音楽番組「スペプラ手越 ~Music Connect~」。参照:手越祐也の音楽レギュラー番組「スペプラ手越」初回ゲストはヤマサキセイヤ)に出てくれたキュウソネコカミもTHE ORAL CIGARETTESも、10人くらいしかいないライブハウスからちょっとずつちょっとずつ規模を大きくしてアリーナに立っているわけで。
──ジャニーズの皆さんにもそれぞれデビューまでの道のりはあれど、最初に用意される初舞台がドームクラスだったりするから、バンドマンの下積みとはちょっと感覚が違うでしょうね。10人しかいないライブハウスを経験していないことへのコンプレックスもあります?
立場は全然違いますが……僕は幸運にも事務所に入ってから10カ月でデビューさせてもらったんですけど、ずっとグループの端っこで、ジャケ写を撮っても豆粒みたいな、欠席者みたいな扱いだったんです(笑)。みんなはうらやましがるけど、知名度もない、踊れない、歌割りも一切ない。中心の子たちは名前を呼ばれるけど「君と君はそこに立って」と名前も呼んでもらえない。そういうところからスタートしているので、「こんにゃろ……絶対に俺センターに立ってやるからな」っていう悔しさを僕はデビューしてから味わってるんですよ。
──それは普通では味わえない、ジャニーズならではの苦悩かもしれないですね。
本当にとてつもなくすごいんですよ。ファンと事務所のパワーが見せてくれた景色、その中で最高のパフォーマンスをする努力はしてましたけど、これからは僕が連れてってやらなきゃいけない。ファンと事務所が連れていってくれたようなデカい会場に俺のパフォーマンス、俺の努力で連れていって、逆にファンの子たちにあの景色を見せてあげたいんです。パフォーマー手越祐也としての今の目標はそれですね。
──ということは、パフォーマーではない形で音楽に携わる将来も視野に入れている?
はい。日本のエンタメの在り方を根本から変えたいんです。これに関してはもう……国の在り方すら変えたい(笑)。国がこうだと言っても「いや、エンタメとして正しいのはこうです」と意見が言えるくらいの圧倒的な影響力を持つところまで行きたいです。僕は誰よりも保身とか安定を考えていないんですよ(笑)。応援してくれる人、頼ってくれる人を幸せにすることに100%を注ぎ込む自信がある。エンタメ界をよくするためには国の考え方も変えなくちゃいけないと思っているので、僕が死ぬまでにはどうにかそれを成し遂げたいと思っています。
ライブ配信情報
- 手越祐也 LIVE TOUR 2021「ARE YOU READY?」Zepp Haneda(TOKYO)公演 生配信
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2021年9月22日(水)OPEN 18:00 / START 19:00
- 手越祐也(テゴシユウヤ)
- 1987年11月11日生まれ、神奈川県出身。2003年にアイドルグループNEWSのメンバーとしてCDデビュー。同グループでの活動のかたわら、2005年公開作「疾走」で映画初主演を務めた。以降はバラエティ番組やスポーツ番組などで広く活躍して個性を発揮した。2020年6月にこれまで所属していたジャニーズ事務所との専属契約終了を発表。2021年7月に配信シングル「シナモン」でソロデビューを果たした。同年9月には東名阪のライブハウスで初のソロツアー「手越祐也 LIVE TOUR 2021『ARE YOU READY?』」を開催。12月には1stソロアルバム(タイトル未定)の発売を予定している。
2021年9月1日更新