内田真礼が田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)と語るアーティストデビュー10周年 (2/2)

そう簡単には「じゃあね」なんて言えない

──内田さんが歌っている姿を想像しながら「永遠なんかありえない」を聴いたら、めちゃくちゃ刺さりまくりました。

内田 刺さりました? よかった(笑)。

──腹が決まったなという印象を受けました。歌詞にも要所要所に強いワードをちりばめつつ、今回のアルバムのテーマでもある“東京”をイメージさせる単語も出てくる。

田淵 実は最初、この曲は秋葉原がテーマだと言われて。アルバムのテーマである東京のいろんなシーンを、曲ごとに見せていくという話だったんです。

内田 ほかの曲も渋谷とか新宿とかいろいろお題がある中、田淵さんが言った通りこの曲は当初秋葉原がテーマで。でも、打ち合わせの結果その要素はほぼなくなって、余韻がうっすら残ったわけです(笑)。

田淵 「今向かっている方向と違うと思うので、秋葉原は忘れてもらっていいです」と言われたんですけど、そう言われると逆に火が着いて(笑)。秋葉原という直接的なワードは入れられないけど、どうやったらその感じを出せるかなと考えるのは楽しかったですよ。

左から内田真礼、田淵智也。

左から内田真礼、田淵智也。

内田 最初にデモを聴かせてもらったときは涙が出ました。10年続けられたからこそこの歌詞を歌えると思うんです。私はファンのみんなに暗い顔を見せたくないから、SNSでもあまり無駄なことを言わないというポリシーで活動しているんですけど、ライブのときだけは歌詞に引っ張られて、MCで言いたいことを言えるんですよ。「永遠なんかありえない」は最初から、そういうライブでのシーンが想像できた。今支えてくれているファンのみんなは受け入れてくれるだろうなって。今ならこの曲を、自分を信じてついてきてくれたみんなと歌えるなと思いました。

田淵 そうだよね。

内田 なので、歌への気持ちの込め方はレコーディングのときから普段とだいぶ違いました。今まで田淵さんが書いてくれた曲と比べると、明るくてかわいくてキャピっとした感じじゃなくて、「わーっ!」っと思いをぶつけるような歌い方をしていて、AメロやBメロのあたりは特にこだわって収録しました。何回か録った中で、最終的にはまだザラザラしている感触の最初のテイクを使ったのかな。

内田真礼

内田真礼

田淵 僕はレコーディングには立ち会えなかったんですけど、キャリアを重ねた今、自分が歌っていて気持ちいいところを追求するのか、お客さんが求めている「内田真礼の歌のいいところ」を追求するのか、どっちでくるのか気になっていて。完成した音源を聴いたら今の年齢や等身大に近い歌になっていたので、ここに至るまでにいろんなチャレンジがあったんだろうなと想像しました。

内田 レコーディングのときも楽曲に対するバトルがあって、まずキーをどうするかが問題だったんですよ。

田淵 そうか。結局1つ下がったんだよね。

内田 はい。高いままでも歌えなくはなかったし、周りのスタッフはみんな高いほうで進めたがってたんですけど、曲の内容をしっかり伝えるんだったら1つ下げたほうが絶対に届くはずだと思って。結果、下げて正解でした。

田淵 「この歌詞をお客さんに伝えるんだったら、どういう温度感がいいんだろう?」という考えが、真礼ちゃんの中にしっかりあったんじゃないかな。明るかったら明るかったで聴いていて安心する歌になっていたと思うけど、さっき話したように10年やってきた中、このあとどうやって生きていくのかを考えるのに、当然自分の意思が必要になってくる。だから、もし僕が現場にいたなら「どっちも正解だから、好きなほうを選んでいきましょう!」って言っていただろうなと思います。

──例えば「私の名前を呼んで!」というフレーズは、5年前だったらまた違う響き方をしたと思うんです。でも10年やって、ここからまた新たな一歩を踏み出すというタイミングで歌うことにすごみがあるというか、伝わり方が全然違うなと。

内田 確かに。5年前だったら、もっと軽く歌っていたかもしれない。10年続けてきたからこその……怨念じゃないけど(笑)、かなりの思いがそこに乗るじゃないですか。それと同時にまだステージから降りる気がないという思いにもつながっているのかなと思うんです。この場所からこういうふうに歌ったら、そう簡単には「じゃあね」なんて言えないよねって。音楽を通してみんなに会いにいくことが、私はきっと好きなんでしょうね。

左から田淵智也、内田真礼。

左から田淵智也、内田真礼。

いい意味で歌詞がすごく重い

──そういう覚悟はこの曲を中心に、アルバムの節々から感じ取ることができます。その思いが最も強く表れているのが、ラストナンバーの「Letter from Star」なのかなと。

内田 ZAQさんの提供曲ですね。音楽活動を続けていくうちに「こういうことをみんなに言いたい、こういうふうに思っていると伝えたい」という意思が出てきて。そういう思いはちゃんと伝えたら届くんでしょうけど、この曲はどう歌ったらいいかがわからなかったんです。「どう歌ったら届くんだろうな? 暗く歌ってもしょうがないし、今までの歌い方ができる曲でもないし」と考えながらレコーディングしましたが、ライブで披露するときは重たい感じにしたくなくて。この曲を聴くと10年にわたる歴史が完結したようなイメージが伝わるじゃないですか。でも、ライブではフランクに歌いたいんです。

──ライブの締めくくりの曲というよりも、セットリストの中盤にサラッと入れるような。

内田 最後に歌ったらめちゃくちゃ重く響きそうで。やっぱり10周年ということで、どうも湿っぽくなっちゃうと思うんですよね。でも、ここで重くしすぎると“未来の約束”をしづらくなりますし、そう考えられるようになったのも成長かなと思います。5年前の私ならもっと大口を叩いて(笑)、夢をいっぱい口にしていたと思うけど、今は簡単に夢を口に出せなくなった大人な私がいる。だから、その勇気をこのアルバムを聴いてくれている人にもう1回与えてもらえたらいいなと思っていて。たくさんの人に届いてほしいんです。

左から内田真礼、田淵智也。

左から内田真礼、田淵智也。

──確かに、コロナ禍に入ったくらいまでの内田さんからは、強気な発言がよく出ていた印象があります。そもそも、コロナ以降は夢を実現させにくい世の中になってしまいましたし。

内田 そうですね。それは大きいと思います。だから、このアルバムは新しい一歩を踏み出すためにも必要だったのかもしれません。

田淵 今の話を聞いて思い出したことがあるんですけど、「共鳴レゾンデートル」を書いたとき、真礼ちゃんは「歌詞のテーマがわからないと歌えない」と言っていて。

内田 うんうん。そうでしたね。

田淵 僕はその感覚をほとんど知らずに生きてきたから、「普通に『えーい!』って歌うとどうなりますか?」という温度感で始めて、ちょっとずつ調整していく感じなのかなと思っていたんです。どう表現するか?というところに時間を割くのがすごく新鮮で、そのやり方で1曲作るのは超大変だろうなと思ってました。

田淵智也

田淵智也

内田 私、めちゃめちゃ完璧主義なのかな。それに、自分のことを信じてないから、簡単に「えーい!」とは歌えなくて(笑)。

田淵 (笑)。そういう意味では、ほかのボーカリストとは違う……のかな?

内田 けっこうそう言われます(笑)。ディレクターさんや作曲家さんにも同じように「歌詞のテーマがわからない」と言ったら、「初めて言われました」って驚かれましたし。

田淵 僕たちは3分くらいのメロディとそこに合わせた文章、つまり歌詞だけしか用意していないけど、自分の中にはライトノベル並みのストーリーがあるし、書けと言われたらそれだけのものも書けるんですよね。そこのイメージのすり合わせが大変そうだなと思うと同時に、有意義というか面白そうだなと、当時の真礼ちゃんの話を聞いていて思いました。そしてその話を今回のアルバムと照らし合わせると、やっぱりいい意味で歌詞がすごく重いなと。

内田 ふふふ。

田淵 「ここまで入り込まないと歌えないんだ!」って驚くけど、これくらい重さのある言葉を本人が歌いたくて歌っているんだよね。これからさらにファンと長く付き合っていくとなると、その意思がないと絶対にダメで。ファンとしては代わりになるアーティストがいたらほかのところに行っちゃうわけだから、“この人じゃなくちゃいけない理由”が必要になる。その重いメッセージを突きつけていくのだという強い意志をすごく感じるし、ファンからすると「おお、すげえ重たいメッセージが来たぜ! 俺たちは彼女を幸せにするために応援するぞ!」って思えるはず。きっとこういう話をすることで、10周年のあとに何をすればいいのかが見えてくるんでしょうね。その答えを導くために必要なメッセージが、このアルバムには込められているのかな。なぜ重いのか、お客さんは曲を聴いたら絶対にわかると思います。僕が聴いてわかったくらいなので。それがちゃんと伝わって、「これからも応援するぞ」って思ってもらえる絵がすごく見えました。

──そのメッセージをしっかり受け取ってもらい、秋の全国ツアーでお互いに気持ちをぶつけ合うことでこの先の道筋が見えてきそうですね。

田淵 MCも重くなりそうで、楽しみだなあ(笑)。

内田 あははは。本当はもっと軽くやりたいんですけどね(笑)。でも、このアルバムを完成させたからには、この先の活動に対するヒントを見つけられるようなツアーにしたいと思います。

左から内田真礼、田淵智也。

左から内田真礼、田淵智也。

内田真礼 ライブ情報

UCHIDA MAAYA 10th Anniversary Live Tour "TOKYO-BYAKUYA"

  • 2024年11月4日(月・振休)兵庫県 神戸文化ホール
  • 2024年11月10日(日)福岡県 福岡国際会議場
  • 2024年11月30日(土)東京都 立川ステージガーデン

プロフィール

内田真礼(ウチダマアヤ)

東京都生まれの声優、アーティスト。2009年にOVA「ぼく、オタリーマン」で声優デビューを果たし、2012年4月より放送された「さんかれあ」で初めてアニメ作品の主役を務めた。同月には特撮テレビドラマ「非公認戦隊アキバレンジャー」で実写デビュー。同年10月からオンエアされたテレビアニメ「中二病でも恋がしたい!」の小鳥遊六花役では多くのアニメファンからの人気を集めた。2014年4月にテレビアニメ「悪魔のリドル」のオープニングテーマである「創傷イノセンス」をシングルリリースし、個人名義でのアーティスト活動を開始。2015年12月に1stアルバム「PENKI」を発表した。2016年2月に東京・中野サンプラザホールで初のワンマンライブ、2017年2月に東京・国立代々木競技場第一体育館で2ndワンマンライブを開催。2019年1月1日には初の東京・日本武道館公演を行った。2024年4月にアーティストデビュー10周年を迎え、5月に4thアルバム「TOKYO-BYAKUYA」を発表した。

田淵智也(タブチトモヤ)

2004年7月に結成された3ピースロックバンド・UNISON SQUARE GARDENでベースを担当し、ほとんどの楽曲の作詞作曲を手がけている。またUNISON SQUARE GARDENでの活動と並行して、音楽プロデュースチーム・Q-MHzや、4人組ロックバンド・THE KEBABSのメンバーとしても活躍中。そのほかにも数々のアーティストへ楽曲提供を行っている。