内田彩|内なる僕との対峙を経て 新作アルバムで開く新たな扉

内田彩が11月27日にニューアルバム「Ephemera」をリリースした。

「Ephemera」はオリジナルアルバムとしては2017年9月発表の「ICECREAM GIRL」以来、2年2カ月ぶりのリリース作品。ソロデビュー5周年を迎えた内田は今作で今までの“元気でポップ”なイメージとはがらりと異なる表情を見せているが、内向的な楽曲の世界観を表現するために、これまでにない葛藤や挑戦に直面したという。

ニューアルバム完成にいたるまでの間、内田はどのような思いを抱き、歌と向き合っていたのか。音楽ナタリーでは彼女に飾らない思いを聞いた。

取材 / 臼杵成晃 文 / 三橋あずみ 撮影 / 曽我美芽

この人たちに伝えればいいんだ!

──内田さんは2014年11月12日にソロデビューされて、今月で5周年ということで。

そうですね。

──ただ、声優さんならではというか、いわゆる普通のアーティストの周年とは違う、別軸がそこにはたくさん含まれています。なんだったらその間、μ'sの一員として「NHK紅白歌合戦」(2015年)にも出ていますし。

そう、だから5周年って言われても、あまりしっくりはこない感じです(笑)。「5年経ったのか、早いなあ」とビックリした気持ちはあったんですけど、やっぱり本業は声優なので。あと私は自分で作詞作曲をしているわけじゃないので、不思議な感じというか……地に足が着いてなかったなと思うんです。「私ってなんだ?」みたいなのが、やっぱりずっとあって。この5年間はそういうことを考えていたんですけど、ただライブをいっぱいやらせていただいている中で、目の前のファンの皆さんと自分という状況になったときに、初めてちゃんと見えてきたものはあるなとすごく思います。

──ライブでお客さんと直接的にコミュニケーションを取る中で、感覚が変わってきた?

変わってきましたね。最初のうちはやっぱりキャラクターのイメージがあるから「どう思われるんだろうな」みたいに思っていたんです。だけど、ファンの人はちゃんと私のソロというのを受け止めて聴いてくれていることがわかったときに、初めて少し自信が出たというか。「あ、この人たちに伝えればいいんだ!」とわかったので、ライブはすごく楽しくなりました。「飾り気のない自分の素直な気持ちを目の前の人にぶつけていいんだ」と思えるようになったんですよね。

内田彩

このセトリのこのライブで言えないよなあ

──2年2カ月ぶりのオリジナルフルアルバムリリースということですが、その2年2カ月の間にはちょっと珍しい事態として、所属レーベル(ZERO-A)の休止なんてこともありました。

そうなんです、急に。あはは(笑)。

──所属レーベルの休止って、ご本人的にはどういった感覚になるんですか?

私もサラッと言われて「嘘!」となりましたね。

──あはははは(笑)。

「どうやってみんなに言えばいいんだろう?」と思いましたし。しかもそのときのツアーが「Take it easy」というタイトルで、楽しい楽曲というか、のんびりとしたセットリストを組んでいたんです。なのに、そんなツアーでレーベルが休止っていう。ちゃんと責任持って皆さんにお伝えしたいけど、「Take it easy」……このセトリのこのライブで言えないよなあと。

──はい(笑)。

舞台監督さんに相談したら「とりあえずライブで悲しくなるのはやめよう」となって。私自身もどうなるかわからなかったし、結局言わないことにしたんです。だから最後まで、切ない気持ちがちょっと残りました。「どうしよう、大丈夫かな」って。

──ただそういうことになったら、内田さんにとって突然始まったアーティスト活動、なんだったら「じゃあこのへんで」と活動をお終いにする判断もできたわけじゃないですか。それをしなかったのは?

このままフワッと終わるのは今まで応援してきてくれた人に対して失礼すぎるなというのと、ZERO-Aというレーベルは不思議な形態になっていて、音楽は日本コロムビアさんと一緒にやっていたんです。なので、解散後にそのままコロムビアさんで「やりましょう」という話になっていったので……よかったなと思っているんです。

内田彩

身を委ねてみよう

──コロムビアでのアルバム制作は今回が初めてになりますが、まずタイトルの「Ephemera」がちょっと不思議な……「一時的な筆記物および印刷物で」というような意味の言葉です。このタイトルのイメージが先にあったんですか?

いや、完全なる後付けです(笑)。

──なぜこういったタイトル、作品コンセプト的な話になったんでしょう。

たぶん今まで通りだったらこういう不思議なタイトルは付けていなくて。どっちかと言うと、パッとわかりやすいものを選ぶようにしていたんですけど、今回は今までだったら出てこないものが新しいチームから出てきたので。ディレクターがある程度固めていたものがあったから、逆にそっちに寄せてというか……新しいチームのやりたいことに、身を委ねてみようと。

──なるほど。新しいチームの感覚に身を投じて作っていったのが今回のアルバム。

そうですね。最初「これでいきたいです」と10曲ぐらいバンっと渡されたんですけど、今までとは雰囲気が違いすぎて、「はー! こういうの、やってなかったなあ」と思いました。だから「どうですか?」と聞かれたときに何も言えず、「あ、わかりました」と(笑)。3曲だけ好きな曲を選んでいいですよと言われたので、3曲だけは私の好きな感じで選ばせてもらったんですけど、逆になじむか不安、みたいな(笑)。

──ちなみに、その3曲を教えてもらってもいいですか?

「Beautiful world」と「リボンシュシュ」、もう1曲が「DECORATE」です。

──確かにその3曲はポップな色合いがある曲で、アルバム全体のトーンで言うと、明朗な部分を担っています。

そうですね。選んだのが早い段階だったので、レコーディングが進んで全体像が浮き彫りになるにつれ「絶対に合わないぞ、これは浮くぞ」と思ってしまって、どうしようとなっていました(笑)。

──その全体像というのは、新しいチームが見た今の内田さんのイメージということですよね。

はい。私の趣味とは少し違って……。

──と言うとすごくネガティブな感じがしますけど(笑)。

そう、私けっこうネガティブな性格なので(笑)。だから「大丈夫かな?」みたいな思いは正直あるんです。

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“僕”との対峙