人気Vtuberグループ・ホロライブの“はじまり”のメンバーとしてVtuber黎明期の2017年から活動を続け、華やかなアイドル性と高いパフォーマンス力で人気を博すときのそら。彼女の約3年ぶりのアルバム「Pulse」が完成した。
今回のアルバムでは彼女自身の発案により、インターネット発のさまざまなクリエイターに楽曲制作を依頼。楽曲ごとに異なるビートや曲調が楽しめる、バラエティ豊かな作品に仕上がった。活動8周年を迎えてなお走り続ける彼女に、アルバムの制作エピソードやアルバムに込めた思いを聞いた。
取材・文 / 杉山仁
「周りに『すごく楽しそう』と言われます」ときのそらが感じた3年間の変化
──フルアルバムがリリースされるのは2022年の「Sign」以来実に3年ぶりとなります。前作のリリースから現在までの間に特に印象的だったのはどんなことでしょう?
まずは「おかえりなさい」で初めてアニメ(「僕の妻は感情がない」)のオープニング主題歌を担当できたことですね。いつもは「自分らしく歌えばそれが正解」ということが多いですけど、アニメやドラマのタイアップ曲はそうはいかなくて。作品に寄り沿った表現をすることが大切なので、この曲は普段とは違う歌い方に挑戦しました。そこがすごく難しかった部分でもあり、楽しいと思った部分でもありました。
──実際のところ、この3年間はそらさんの歌い方や表現の仕方がどんどん変わっていった期間でもあったように感じます。
そうですね。この3年間は自分でも大きく変化したと感じていて。バラードも歌うようになりましたし、声自体も歌い方に合わせて変えているので、「過去のアルバムと同じように歌えますか?」と言われたら、すごく難しいと思います。あとは、EP「STAR STAR☆T」(2024年3月発表)の「スタースタースタート」でナユタン星人さん(ときのそらブレイクのきっかけとなったカバー曲「エイリアンエイリアン」の作曲者)に曲を書いていただいたのも印象的でした。ミュージックビデオもナユタン星人さんっぽいものにしてもらってうれしかったですね。
──音楽活動以外の部分では、配信活動にかなり積極的になっていった印象があります。いろいろな面で変化があった3年間だったのではないでしょうか。
そう思います。今年から始めたショート動画もそうですし、「『ロマンシング サ・ガ』が好き」とか「『牧場物語』が好き」とか、自分の好きなものをシェアするようになったのもここ3年のことで。私の場合、デビューした頃から「お姉さんっぽい」「清楚」というイメージが広まっていて、世間で思われているイメージと自分の好みが乖離しているんじゃないかと思っていたところがあって。最初は「どこまで言っていいのかな?」と迷ったりしていたんです。でも実際にゲーム好きなことなどを発信してみたら、実はそんなにイメージが変わらずにみんなが受け入れてくれることがわかって。そこから自分が好きなものをどんどん言ったほうが、そらとも(ときのそらファンの呼称)さんたちも理解してくれるし、新しい人も入りやすいのかな、と思うようになりました。
──どんどん等身大で活動できるようになったんですね。
最初の頃は自分で制限している部分があったので(笑)。今でも100%制限をなくしたわけではないですけど、自分の素に近くなっていると思います。今のほうが3年前より楽しいですし、周りからも「すごく楽しそう」と言われます。
──今回のアルバムは、いつ頃から制作の話が進んでいたんでしょう?
確か去年だったと思います。前回のアルバムリリース後にEPやシングルなどいろいろと曲をリリースしてきたので「そろそろフルアルバムにしてみようか?」という話が出てきたんです。でも私、最初は渋っていたんですよ。すでに多くの曲を発表してきたし、それぞれの曲を大事にしていきたいので、曲数が70曲を超えたあたりから「これ以上増えてもみんなが覚えられないのでは?」と思っていて。でも、フルアルバムは3年間出していなかったので、「新しい作品を出して、ガラッとカラーを変えてみるのもありなのかな」と考えるようになりました。
──アルバム「Pulse」は今まで以上に音楽面で新しい挑戦をした作品になっていますね。
今までのアルバムにもいい曲がたくさん入っていますが、基本的にはアイドル曲やJ-POPのアーティストさんを担当している作家の方が圧倒的に多かったので、今回はあくまで「アイドル」という部分に軸は置きつつも、一旦「ネットから出てきたクリエイターさんたちに曲を作ってもらったアルバムが欲しい」と提案してみたんです。それぞれのクリエイターさんのいろんなカラーが集まった作品になったらいいなと思っていました。
随所に「8」が盛り込まれたアルバム
──収録曲について1曲ずつ聞かせてください。まずは1曲目の「Swallow Tail」から。
「Swallow Tail」は先行配信曲として誕生日にリリースすることが決まっていた曲で、歌うのは難しいんですけど、さわやかな曲にできたなと思います。私の最初のアルバム「Dreaming!」(2019年3月発表)で「ヒロイック・ヒロイン」を書いてもらったbuzzGさんに作っていただいたので、そういう意味でも私の誕生日に合うと思いました。
──歌詞はそらともさんに向けたものにも感じられますね。
そうですね。ただ、読んでみるとそんなに明るい歌詞じゃないのかなと思うんです。「大変なこともあるけれど、これからも一緒に旅をしていこう」という意味の歌詞になっていて、「胸の隅で痛んで泣くのは きっと大事なものだから」のところで曲のイメージが変わるので、ここは強く歌ってみようと意識しました。
──2曲目の「Diva」は、フューチャーベースのような揺れるシンセのサウンドが入っている曲です。
すごくカッコいい曲ですよね。「君の歌姫になれたら」という歌詞もあって、音楽をテーマにしたアニメのようなものを想像して歌いました。
──例えるなら「マクロス」のような作品ですか?
そうですね(笑)。「Diva」はこれまでの私よりも大人っぽいというか、カッコいい雰囲気の曲だと思うので、2番のAメロの「一つ一つ枯れない花のよう」のところは、自分が思うよりもクールに歌いました。サビの前半の「だって言葉紡いで唄うことが わたしの運命だ」の歌詞と音の流れも好きですね。次の「∞超スーパー無限インフィニティ∞」は歌詞がとても変わっているので、最初は読めなくて「え?」となったんですけど(笑)、キャッチーで踊りが楽しい曲です。「超電波ピース!」のような、みんなでピースできる曲でもあるので「みんなが踊れるような曲にしたい」と思いながら歌いました。ぜひライブで聴いてほしいです。
──4曲目の「I T8KE ME」は、8周年にちなんだと思われる“8”がタイトルに入っています。
「I T8KE ME」はすごく不思議な曲で。最初に聴いたときは音も歌詞も「ずいぶん暗いな!」と思いました。でも、歌詞の意味をしっかり考えたり、実際に歌ったりするうちに「みんなの前ではずっと笑顔でいるから、それ以外の場所では気付かないでいてね」という内容が、自分のアイドルとしての気持ちを表してくれているように感じました。一方で「葉物野菜もスピード速すぎだね」という歌詞は、正直「どういうこと?」と思ったりして(笑)。面白い曲ですよね。この曲はサビとそれ以外の部分でギャップを作りたくて、サビまではあえて淡々と歌うように意識しました。
──5曲目「Fallin' Rollin' Coaster」はいかがでしょう? ジャージークラブの要素も加えられたキュートなエレクトロチューンです。
とにかくかわいい曲ですね。今作で自分1人で歌っている曲の中では、唯一かわいいタイプの曲というか、自分らしい曲でした。ラップと言っていいのかわからないような早口の語りパートがあって、あの部分は「合ってますか?」とスタッフさんに確認しながら歌った記憶があります。めちゃくちゃ恥ずかしかったんですよ(笑)。「急キュンキュン上昇?」「急キュンキュン降下?」の部分は、そらとものみんながライブで言ってくれたら面白いだろうな。
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どっちかわいい?どっちもKawaii♡