Tokimeki Records初ライブ「トキメキ倶楽部」レポート|国境や時代を超え、80'sポップスにもたらされる新たな息吹

Tokimeki Recordsが初のワンマンライブ「トキメキ倶楽部」を11月30日に東京・東京キネマ倶楽部にて開催した。

Tokimeki Recordsは「都会の夜の帳を舞台に、ノスタルジーな音楽を手がける」をコンセプトとして掲げ、1980~90年代の名曲をカバーするプロジェクト。固定のメンバーは存在せず、ひかり(Mime)やHannah Warmなどの国内シンガー、マリアン・カーメルやフローヤといったアジア圏の歌手を作品ごとにフィーチャーしている。2019年のプロジェクト始動以降、竹内まりや「Plastic Love」をはじめ、中森明菜「OH NO, OH YES!」、オリビア・ニュートン・ジョン「Physical」など1980年代の楽曲を中心としたカバーを立て続けに発表。今年1月にはSpotifyのプログラム「RADAR: Early Noise 2021」の一環として発表された、“2021年に飛躍が期待される国内アーティスト”の10組に選ばれた。

音楽ナタリーではTokimeki Recordsの初ライブ開催を記念して、特集を展開。ライブの模様を交えながら、プロジェクトの活動を紐解いていく。

取材・文 / 石井佑来撮影 / 臼杵成晃

ひかり

「今、日本のシティポップが海外で注目されている」。そう言われるようになってからひさしい。山下達郎、竹内まりや、大瀧詠一、吉田美奈子、南佳孝、林哲司、角松敏生といったミュージシャンたちによって、主に1980年代に生み出された、都会的で洗練されたポップス──シティポップ。そんな30~40年前の音楽が、1980年代の商業BGMやポップスをサンプリングしたヴェイパーウェイヴ / フューチャーファンクといったシーンでサンプリング元として多用されるようになったのを発端に、いつしか海外の音楽マニアから愛される存在となった。今も世界中のディガーたちが、日本のシティポップを新たに発見していることだろう。そんな世界的なシティポップブームを契機に、近年は日本国内でもシティポップリバイバルが勃興。数々のアーティストたちが、カバーやリミックスといった形で1980年代の楽曲に新たな息吹をもたらし続けている。2019年にスタートしたプロジェクト・Tokimeki Recordsもそのうちの1つだ。

Tokimeki Recordsはメンバーを固定せず、1980年から1990年代までの楽曲を中心に、主に配信でカバー曲のリリースを続けてきたプロジェクトだ。そんなTokimeki Recordsが初ライブの会場として選んだのは、キャバレーの設備を利用して作られた、ノスタルジックな面影が残る東京・鶯谷のホール会場、東京キネマ倶楽部。今回選ばれたボーカリストはひかり、大和田慧、Hannah Warmの3名で、彼女たちはドラム、ベース、ギター、キーボード、トランペット、そしてストリングスカルテットという編成のバンドを従えて、代わるがわるに歌声を紡いでいった。

Hannah Warm

ライブは1996年に発表された中谷美紀「MIND CIRCUS」のカバーで幕を開け、その後も同年にリリースされた具島直子の楽曲「Candy」などが披露される。後半では、Tokimeki Recordsが1stシングルとしてカバーした、竹内まりや「Plastic Love」も歌われた。竹内の「Plastic Love」はシティポップブームを象徴するナンバーで、YouTubeにアップロードされた音源の再生数は4500万回を突破。そのコメント欄は海外ファンからのコメントで埋め尽くされている。ネット上に無数のリミックス音源がアップロードされているほか、国内ではtofubeatsやeill、クレイジーケンバンド、CHAI、Juice=Juiceなどジャンルを問わずさまざまなアーティストにカバーされてきた。そんなシティポップブームのアイコンとも言えるナンバーをTokimeki Recordsが1stシングルとしてカバーしたのは必然と言えるだろう。この日のライブでも、「Plastic Love」はひかり再登場パートの1曲目という重要な場面で披露された。リズム隊の持つグルーヴ感は原曲そのままに、大幅にアレンジされた熱くたぎるようなギターのフレーズが印象に残った。Tokimeki Recordsが提示するシティポップ史観において、竹内まりやは重要な位置を占めているように思える。何せこの日3曲目にひかりが歌唱した中森明菜「OH NO, OH YES!」もまた竹内が手がけた楽曲であり、同じく竹内作である牧瀬里穂のデビュー曲「Miracle Love」のカバーを、Tokimeki Recordsは11月に発表しているのだ。

そして「Plastic Love」と並んでもう1曲、シティポップブームのアイコン的な楽曲が存在する。松原みき「真夜中のドア~Stay With Me」だ。この曲は、インドネシアの歌手兼YouTuberであるレイニッチがカバーを発表したことが呼び水となり、世界中のシティポップラバーの注目の的に。その後、Spotifyのバイラルチャート「グローバルバイラルトップ50」にて18日連続で世界1位を記録した。「Plastic Love」と「真夜中のドア~Stay With Me」というシティポップの代表的なナンバーが立て続けにパフォーマンスされた一連の流れは、間違いなくこの日のライブのハイライトだった。またその直後に杏里「悲しみがとまらない」が披露されたことも見逃せない。「真夜中のドア~Stay With Me」「悲しみがとまらない」は、どちらも林哲司による楽曲。約40年の時を経て世界的に再評価されている「真夜中のドア~Stay With Me」と、林最大のヒット曲「悲しみがとまらない」が連続で披露されたのは、おそらく意図的なものだろう。

大和田慧

Tokimeki Recordsは何も2000年代以前の国内の楽曲だけをカバーするプロジェクトではない。その意思を強く示すかのように、この日のライブ冒頭では、一十三十一が2006年に発表した「ウェザーリポート」もカバーされた。世界的なシティポップブームが発生する10年以上前、2000年代前半から80'sポップス的なサウンドをアップデートし続けてきた一十三十一。そんな彼女の楽曲に、Tokimeki Recordsがまた新たな命を吹き込んでいく。そして国内の楽曲以外にも、Shakatak「Night Birds」「Invitations」など洋楽のカバーも披露された。「Night Birds」「Invitations」はどちらも1982年に発表された楽曲で、1980年代の国産シティポップとも共振するような洗練されたフュージョンナンバーだが、Tokimeki Recordsのカバーではよりエレクトロでダンサブルなプロダクションへと生まれ変わっている。そしてラストにひかり、大和田、Hannah Warmの3人がステージにそろい歌ったのは、Earth, Wind & Fireの「September」。言わずと知れた、ディスコソングの永遠のスタンダードであるこの曲を、3人は美しいハーモニーで歌い上げ、初ライブは大団円を迎えた。

Tokimeki Records「トキメキ倶楽部」の様子。

今回のライブを見ても、Tokimeki Recordsは日本のポップスの文脈を丁寧に提示し、時に国境や年代という垣根を越えながら、シティポップという曖昧模糊とした音楽ジャンルの輪郭をあぶりだそうとしていることがうかがえる。そしてその狙いは、Tokimeki Recordsがライブ翌日にSuchmos「STAY TUNE」のカバーを発表したことからも読み取ることができるだろう。「1980~1990年代の名曲群をカバーする」というコンセプトから離れ、2016年発表の「STAY TUNE」を選曲したことに驚いたリスナーも少なくないはず。しかし、ストリングスを前面に押し出し、ディスコ調に生まれ変わったこの音源を聴けば、今回のカバーがこれまでのTokimeki Recordsの活動の延長線上にあるということがわかるに違いない。これからTokimeki Recordsがどんな楽曲に新たな命を吹き込んでいくのか要注目だ。

Tokimeki Records「トキメキ倶楽部」の様子。
Tokmeki Records「トキメキ倶楽部」2021年11月30日 東京キネマ倶楽部 セットリスト

ひかり

  1. MIND CIRCUS(原曲:中谷美紀)
  2. ウェザーリポート(原曲:一十三十一)
  3. OH NO, OH YES!(原曲:中森明菜)

Hannah Warm

  1. Candy(原曲:具島直子)
  2. Night Birds(原曲:Shakatak)

大和田慧

  1. Invitations(原曲:Shakatak)
  2. Mr.サマータイム(原曲:Michel Fugain & Le Big Bazar「Une belle histoire」※サーカスによる日本語カバーバージョン)

ひかり

  1. Plastic Love(原曲:竹内まりや)
  2. 悲しみがとまらない(原曲:杏里)
  3. 真夜中のドア~Stay With Me(原曲:松原みき)
  4. クリスマスキャロルの頃には(原曲:稲垣潤一)

ひかり、Hannah Warm、大和田慧

  1. September(原曲:Earth, Wind & Fire)
Tokimeki Records(トキメキレコーズ)
Tokimeki Records
2019年に始動した音楽プロジェクト。「都会の夜の帳を舞台に、ノスタルジーな音楽を手がける」をコンセプトに、1980~90年代の名曲カバーを発表している。固定のメンバーは存在せず、ひかり(Mime)やHannah Warmといった国内のシンガーや、マリアン・カーメルやフローヤといったアジア圏の歌手をフィーチャーしている。2020年6月に竹内まりや「Plastic Love」と中森明菜「OH NO, OH YES!」を収録した7inchレコードをリリースし、即日完売させる。2021年11月に初のライブ「トキメキ倶楽部」を東京・東京キネマ倶楽部で開催した。