The VOCALOID Collection ~2024 Winter~ DECO*27×土生瑞穂|クリエイター、リスナー目線で語るボカロならではの魅力

より自由になっている近年のボカロ曲

DECO*27 さっき言ったように曲を作るときは若い世代の流行を意識するんですけど、最近注目されているボカロ曲って意外と流行から外れてやって来る感覚があるんですよね。以前までは特定の人気ジャンルがあって、その中からすごく聴かれる曲が出てくる感じだったんですけど、去年くらいからそうじゃないものがいきなりポンと出てきて流行ったりしている。

土生 へえー、そうなんですね。

DECO*27 それはたぶんTikTokとか、音楽を聴くことがメインじゃないプラットフォームが影響力を持ったからだと思うんです。リスナーの入り方が違うんですよね。これまでだと「さあ音楽を聴くぞ!」という感じでニコニコ動画やYouTubeを開いていたと思うんですけど、TikTokはそうじゃない。「何か楽しいのないかな」くらいの入り方で、ついでに音楽もあるという感じだから、音楽の発見のされ方が違ってきているんです。だからこそ「え、これが流行るんだ!」みたいな意外なジャンルの曲がみんなに聴かれていくっていう。

左からDECO*27、土生瑞穂。

左からDECO*27、土生瑞穂。

土生 なるほど。そうやって分析されているのがすごいなって思います。聴く側としては別に流行りのジャンルかそうでないかとかは分けていないですし、DECO*27とクレジットに書いてあったらもう間違いないと思って聴く、みたいな感じで聴いているだけなので(笑)。

DECO*27 よかった(笑)。最近のボカロの傾向を受けて、作り手としてはより自由にやれる感じになっていますね。流行りを気にせず自由に作ったものがたまたま見つかっちゃってめっちゃ聴かれる、みたいなのは一番うれしい流れですから。

土生 DECOさんの曲って、いろんな種類がありますよね。「ゴーストルール」のようなカッコいい曲もあれば「ゆめゆめ」のようなかわいらしい曲もあったり、最新曲の「ヴァンパイア」はにぎやかな感じだったり……DECOさんって何人いらっしゃるんだろう?というくらい。

DECO*27 わははは。

土生 歌詞にしても曲ごとに全然違った目線で書かれていて、そこが本当に魅力的だなと感じていました。すごく尊敬するポイントです。

DECO*27 ありがとうございます。そこはまさに意識していることなのでうれしいです。あとは作詞でいうと、メロディに対して心地よくハマっているかどうかを一番重視していますね。僕がもともと邦楽をあまり聴かず、英語圏の曲を聴くことが多いせいもあると思うんですけど、母音の響きが気持ちいいかどうかに一番こだわってるんですよ。それは初期からずっとですね。日本語が母国語でない方が聴いてもちょっと口ずさめるくらい、キャッチーなフレーズを入れておきたい。

土生 確かに、思わずノっちゃいますもん。どんな世代でも口ずさんでしまう、クセになる曲ばかりだなと思います。

DECO*27 それに加えて、ちょっと全体のテーマからは離れたところにある意外性のある言葉を持ってきてスパイス的に使うことも多いかもしれない。さっきも言ったように刺激的な言葉もボカロが歌うと聴きやすくなったりするんで、例えば「死にたい」みたいなフレーズを僕はよく使うんですけど。逆にそういうのがないと物足りないというか。

土生 刺激的なものは私も好きです(笑)。

DECO*27 (笑)。普段、よそでは聴けないようなエッセンスが何かしら欲しいんですよね。

掘り掘りしたいと思います

DECO*27 ちなみに土生さんがボカロ曲を探すときって、どういうやり方をしてますか?

土生 作り手の方のSNSとかを見て「聴いてみようかな」ってなることが多いですかね。その方が楽曲に込めた思いだったり、意味やストーリーだったりを調べてから聴くようにしています。

土生瑞穂

土生瑞穂

DECO*27 おお、すごい。YouTubeとかでただ関連動画をたどっていくんじゃなくて、事前にリサーチしてからピンポイントでその曲を聴く感じなんですね。

土生 そうですね。あとは好きな歌い手さんやボカロPさんが最近のオススメ曲とかを挙げてらっしゃることもあるので、それを参考にするとお気に入りが見つかりやすいです。DECOさんだったら、最近は何がオススメですか?

DECO*27 僕ですか?(笑) そうだなあ……好きな曲を何曲か挙げてもらって「それが好きならたぶんこれも」という薦め方をしがちなんですけど。

土生 私は、DECOさんの曲でいうと「ゴーストルール」とかのカッコいい曲が好きですね。特に「アンドロイドガール」がめっちゃ好きで……あれ、「二息歩行」のミュージックビデオとつながってるのかな?っていうのがずっと気になっていて。

DECO*27 合ってます!

土生 合ってました! やったあ。

DECO*27 「アンドロイドガール」は「二息歩行」の続編なんですよ。「二息歩行」の冒頭に「これは僕の進化の過程の1ページ目です」というフレーズがあって、のちに出した「二息歩行(Reloaded)」ではそれが「3ページ目です」になってるんですけど、それがなんで3ページ目かというと、「アンドロイドガール」が2ページ目だからなんです。

土生 わあー! ちゃんとストーリーがあるんですね。感動しました。(周囲のスタッフに)ですって!

DECO*27 (笑)。そうなると、先ほどおっしゃっていた「千本桜」「敗北の少年」とかも踏まえて、ロック系がお好きということだと思うので。

土生 ロック、好きです。ボカロPさんだとAyaseさん、歌い手さんだとりぶさんの曲とかもすごく聴きます。

DECO*27 なるほど。たぶんですけど、僕がルーツとして通ってきた洋楽のエモロックがお気に召しそうな予感がするので、サブスクとかで“エモロック”と検索して出てくるプレイリストを聴いてみてください。それでバーッと聴いたらお気に入りの曲が見つかると思います。

土生 ありがとうございます! エモロック、掘り掘りしたいと思います。

DECO*27 掘り掘り(笑)。

「ボカコレ」はお祭り

DECO*27 それこそ「ボカコレ」はそういう新しい出会いの場になると思うんですよね。作り手にとっても聴き手にとってもお祭りだなあと思うんで。

土生 お祭り(笑)。確かにそうですね。

DECO*27 そこを目がけてみんなが一斉に曲を準備して投稿するっていう、作り手の間でまずお祭りとして行われるから、観る側もお祭り気分で参加してほしいですね。お祭りだからこそ、普段まず聴かないようなジャンルに触れるいい機会になると思います。新しい人が入ってくるにもいいし、ずっとボカロを聴いてきている人は今まで知らなかったクリエイターや楽曲を発見できるんじゃないかなと。

土生 それこそプレイリストをいろんな方が載せてらっしゃったりもしますしね。あとは、これから活動を始める新世代のボカロPさんもたくさん参加されているので、そんなふうに新たな一歩を踏み出そうとキラキラしている方々を見て楽しめる場でもあると思います。なんというか、お祭りですよね(笑)。

DECO*27 あははは。

土生 例えばそういう方々に、DECOさんから何かアドバイスしたいことはありますか?

DECO*27 「メンタル鍛えろ」ですね。

土生 メンタル!

DECO*27 どの世界もそうだと思いますけど、鋼のメンタルを持ってる人が勝ちますね。ボカロPをやっていて一番つまずくポイントって、技術面とかよりもそっちなんですよ。自分的にすごく手応えのある楽曲ができても世に発表してみたら全然聴かれなかったりとか、聴いてもらいたいポイントをまったく評価してもらえなかったりとか、そういう経験がたくさんあるんで。そこで心を折らずに自分を貫き通せるかが大事だなと思っています。

DECO*27

DECO*27

土生 それは確かにメンタルが強くないとですね。実は私も先日ソロアーティストとして活動していくことを発表させていただいて……。

DECO*27 (拍手)。そもそも土生さんはなぜ音楽活動を始めようと思ったんですか? この業界に入ったのは欅坂46(現・櫻坂46)のオーディションがきっかけですよね。

土生 自分自身を変えたかったというか、新しい感情に出会いたくて。オーディションによって新たな一歩が踏み出せたので、当時の自分を褒めてあげたいですね。そのオーディションがなければ、今の自分はいないと思いますし、あのときの挑戦は、これからも忘れないでおきたい大切な経験です。

DECO*27 めちゃめちゃいいですね。

土生 1人でアーティストとして活動するにあたって、DECOさんが大切にされていること、「これだけは忘れるな」みたいなことも今日は教えていただけたらと思っていまして。

DECO*27 えーと、「メンタル」はもう言ったから……。

土生 (笑)。

DECO*27 聴いてくれる人のことを忘れずに、っていうことですかね。エンタメというのは人の心を動かしてお金をもらう仕事なので、自分が表現したいものを作ることももちろん大事だけど、受け取ってくれる人のことをちゃんと考えるというのを僕は大事にしています。まあ、今日のお話を聞く限りではすでにお持ちの感覚だとは思いますけど。

土生 ありがとうございます。そうですね、やっぱりファンの皆さんありきで今の自分があると思っていますし、その方たちを幸せにするという気持ちでがんばりたいです。8年間グループで活動していたので、メンタルもめちゃめちゃ強いほうだと思いますし(笑)。

DECO*27 あははは! そりゃそうですよね、鍛えられますよね。

土生 最強のメンタルが身に付きました(笑)。それはこれからも捨てずに。

DECO*27 素晴らしいです! もうクリエイターとしては申し分ないですね。

左からDECO*27、土生瑞穂。

左からDECO*27、土生瑞穂。

土生 いやいや。ただ、ファンの皆さんは私がソロのアーティストになるということを想像もしていなかったみたいで。

DECO*27 ああ、なるほど。

土生 そこはいい意味で裏切るじゃないですけど、今まで見せてこなかった面をどんどん見せていきたいなって。グループは卒業したけどストーリーは終わっていない、これからも続いていくんだという思いを届けていきたいんです。今はそれにすごくワクワクしていますし、今日はDECOさんからもアドバイスをたくさんいただけて、めっちゃうれしかったです。

DECO*27 曲もご自分で作られるんですよね?

土生 はい。作曲はまだ技術がないのでアレなんですけど、作詞はさせていただいていて。

DECO*27 そんなふうにクリエイターを目指す人が増えてほしい気持ちがずっとあるんで、僕はとりあえず自分にできることとして、ボーカロイドのカルチャーがキラキラした楽しそうな場に見えるよう盛り上げ続けたいなと思っていて。夢のある場所としてあり続けてほしいんですよね。キャリアを重ねれば重ねるほどその思いが強くなってきています。

土生 ボカロ界全体のことを常に考えてらっしゃるところが本当に尊敬です。

DECO*27 「これまで続いてきたものなんだから、これからも続くだろう」とはまったく思っていなくて、「ある日突然みんなに飽きられてしまうかもしれない」という危機感はちゃんと抱えていたい。だからこそ去年より今年、今年より来年と、常にシーンを盛り上げられるような曲を発表していきたいと思っています。

「ボカコレ」開催記念
対談動画

プロフィール

DECO*27(デコニーナ)

アーティストでありながら他ミュージシャンのさまざまな楽曲の作詞、作曲を手がける音楽プロデューサー。ロックやエレクロニックをベースにしたジャンルレスなミクスチャーサウンドとポップでキャッチーなメロディ、独特な言葉遊びが10~20代の支持を得ている。2008年10月にVOCALOIDを使用した作品を動画共有サイトに投稿開始。これまで公開されたDECO*27の楽曲の関連動画を含む総再生回数は10億を超える。さまざなアーティストへの楽曲提供やMILGRAM -ミルグラム-の楽曲プロデュースと並行して、活動の原点であるVOCALOID楽曲を発表し続けている。

土生瑞穂(ハブミヅホ)

2015年8月に欅坂46(現・櫻坂46)の一期生としてグループに加入し、2023年11月に千葉・ZOZOマリンスタジアムで行われた「櫻坂46 3rd YEAR ANNIVERSARY LIVE」をもって卒業。ファッション誌「JJ」の専属モデル、ファッション・ライフスタイル誌「CLASSY.」のレギュラーモデルを務める。テレビ番組、ラジオ番組、舞台などでもマルチに活躍し、現在はソロアーティストとしてのデビューを控えている。


2024年2月22日更新