落ち着きとかわいらしさを兼ね備えた長瀬有花の声
──「ピンクのチャック feat. 長瀬有花」には、フィーチャリングボーカルとして長瀬有花さんが参加されています。
「ピンクのチャック」は、高校3年の受験期のことを書きたくて。「受験が終わっても、私たちはまた会うのかな?」と不安な思いを表現しました。学生時代の友達って、卒業すると疎遠になることも多いと思うんです。もちろん頻繁に会ったり、連絡を取り合ったりする人もいると思うけど、卒業するとほとんどの人たちとは縁がなくなってしまう。「それって本当に友情なのかな」「私たちって、本当に友達だったの?」という感情を描きたいと思ったときに、長瀬さんの歌声が合うんじゃないかなと。長瀬さんの声は落ち着きとかわいらしさを兼ね備えているし、成長途中の子供のような感じもあるなと感じて。まさに思春期の雰囲気を表現してくれるだろうなと思ってオファーさせていただきました。
──楽曲の世界観をより強く打ち出すためのゲストボーカルなんですね。長瀬さんが加わることで、イメージ通りの楽曲になりましたか?
いや、イメージ通りではなかったですね。長瀬さんの歌は素晴らしいんですけど、「私の声、大人っぽすぎないか?」と思ってしまって(笑)。声質の違いが思った以上に出ていて、そこはちょっとイメージ通りではなかったです。それをどうすり合わせるか考えて、コーラスを工夫しました。あとはyuigotさんの編曲も大きかったですね。歌を録り終わったあとの編集で、かなり雰囲気が変わったんですよ。最初はもっとシリアスな音像だったんですが……。
──仕上がりはかなりポップですよね。
そうなんです。yuigotさんのアレンジを聴いたときは、サウンドを通して「こうしたいと思ってたでしょ?」と言われてるような感じがあって。自分と長瀬さん、yuigotさんの3人で作った曲だと思います。
──意義のあるコラボレーションになった、と。
女性ボーカリストの方とのコラボ自体、初めてだったんですよ。フィーチャリングで呼んでもらうときもそうですけど、これまでは男性ボーカリストの方とご一緒することばかりで。長瀬さんと一緒にやることで新たな発見があったし、今後の制作にも生かせそうだなと思ってます。
もっと外に出て、いろんなものを見たい
──EPの最後に収められた「不完全に恋」は、シンプルなバンドサウンドの楽曲です。
バンドサウンドの曲を書くのはあまり得意ではないのですが、「crash」「エイプリル」「キラッテラッテ」などバンドサウンドの曲が好きと言ってくれるリスナーの方も多いので、今回のEPにも1曲入れたくてHajime Taguchiさんにアレンジをお願いしました。「不完全に恋」はデモ作りの段階からTaguchiさんと一緒に作ったんですよ。メロディや構成などについても相談して密に作っていって。あんなにカッコよくてギャンギャン鳴ってるギターは私には思いつかない。ここまでラリーをしながら作ったのは初めてだったんですけど、すごく楽しい制作現場でした。
──「きっとあなたのせいで言葉うしなって また恋をする」という冒頭のフレーズもそうですが、歌詞はまさに思春期の恋愛ですね。
女性同士の関係性をイメージして作りました。中学生、高校生の頃って、一緒に帰る、手をつなぐ、キスをするくらいで「恋人らしいことをしている」と思っちゃう気がして。男の子のことはわからないですけど、女の子同士でいうと、仲がいいと腕を組んだり、ハグすることも普通だと思うんですが、今振り返ってみるとそこにはお互いへの独占欲もあったんじゃないかなって。リップやペンをおそろいにしたがったり、「私とだけ遊んで」「〇〇ちゃんとは遊ばないで」と思ってしまったり。相手の言うことを聞いてあげたくなったり、相手が怒ってると気まずくなったり……。それが恋なのか、それとも友情なのか、その見分けがつくのはいつなんだろうというところから「不完全に恋」を書き始めました。
──それも菅原さんならでの視点だと思います。自分で作詞作曲した楽曲に改めて向き合うことで、シンガーとしての新たな発見もあったのでは?
ありましたね。レコーディング中にスタッフの方から「こういう表現を聴いてみたい」と提案をしていただけることがあって。「なるほど」と思ってやってみると、確かにこっちのほうが奥行きが出るなと思えたり。そういう経験を経ることで表現の幅も広がるし、いろんな方の意見を聞きながらレコーディングすることで、毎回インスピレーションを与えてもらえるんですよ。それを次の制作に生かせるのもいいなと思っています。
──歌の表現が広がることで、曲を書くこともさらに楽しくなりそうですね。
はい。曲作りを洋服選びに例えると、「セットアップの服にしよう」「ワンピースを着たい」みたいな感じで作っていて。編曲によってちょっとずつコーディネートが変わったり、シルエットが変化するのもめっちゃ楽しいんですよ。このEPの制作でも私が今まで持っていない視点を得られたなと感じたし、最初にも言ったように、作詞作曲が好きだと思えたことが大きくて。「こういう服も作れるよ」「こういう服を着ている私を見てほしい」という気持ちを持てたことで、曲作りがもっと楽しくなった。「sanagi」はほぼ制作した順に収録しているので、自分自身のグラデーションの変化も出ているんじゃないかなと。
──菅原さんのキャリアにとっても、大きなポイントになる作品だと思います。作詞作曲に対するモチベーションも上がってますか?
もっと曲を書きたいと思ってるんですけど、同時にもっといろんなものを見たほうがいいなという気持ちもあって。もっと外に出て、いろんなものを見て、そこで感じたことを言語化したいなと。これまでは恋愛している女性を主人公にすることが多かったんですけど、もっと違う曲も書けるようになりたいので。そうすることで、今回のEPとはまったく違うテーマの作品ができるんじゃないかという予感がしています。
──すごくオープンな姿勢ですね。こだわりはあるけど、頑なではないというか。
人の意見は素直に受け止めるほうかもしれないです。「こうしてみたら?」と言ってもらうと、そのたびに「私って、こういうこともできるんだ」と思えるんですよね。それが誰かと関わることの楽しさだし、うまく咀嚼していきたいですね。あとは前向きな曲を書けるようになりたいという気持ちもあって。根本的には後ろ向きな人間なので、そういう歌詞を書くのが得意なんですけど、今は「私、前を向いてますよ!」みたいな歌詞も書けそうだなと感じています。
──期待してます! ライブに対しては、どんなスタンスなんですか?
まずはフィーチャリングゲストみたいな形で、誰かのライブに出演できたらいいなという感じですね。ワンマンも視野にいれつつ……(笑)。
──ファンの方は待ち望んでいると思います!
ホントに人が来てくれるんだったらやりたいですけど(笑)。ライブをやると、その期間中は制作が止まってしまう気がして、今はそれが「もったいない」と思っちゃう。ライブの準備をしつつ、一方で、1、2カ月に1曲くらいのペースでコンスタントに新曲を上げたいし、今はやっぱり曲もたくさん作りたいですね。
プロフィール
菅原圭(スガワラケイ)
中性的かつ感傷的な歌声を持つシンガーソングライター。2019年からYouTubeにて動画配信を開始。2022年1月にSpotifyが2022年に躍進を期待するネクストブレイクアーティスト「RADAR: Early Noise 2022」に選出される。音楽プロジェクト「MAISONdes」でのTani Yuukiとのコラボレーションや、PEOPLE 1「Ratpark feat. 菅原圭」への参加、声優・花澤香菜への楽曲提供など、活動の幅を広げる。2022年12月に1stデジタルアルバム「round trip」を発表。2023年3月に1stデジタルEP「one way」をリリースした。2024年6月公開のアニメーション映画「数分間のエールを」の劇中楽曲の歌唱を担当。同年11月には2nd EP「sanagi」をリリースした。