しゅーず「CONNECT」インタビュー|新たな出会いと“つながり”で葛藤を乗り越え、変革の時期へ (2/2)

ここ数年で変わった“ネット発”

──明るい曲調が目立つ今作の中でもTOKOTOKOさん提供の「ジェットセット・ラブ」は、ひと際“陽”の要素が強い楽曲だと感じました。

以前TOKOTOKOさんの「Booo!」という楽曲をカバーさせていただいて投稿した音源が、ありがたいことにYouTuberやTikTokerの方々に使ってもらうことが多くて。この流れにあやかったキュートでかわいい曲を出したいなと思い、新たに書いてもらいました。ここ数作品で築いてきたアーバンな夜のイメージとは離れているけど、こういう楽曲を入れてTikTokでバズりを狙うのも戦略だよなと。

──TikTokでバズりやすい要素がいくつかあると聞いたことがありますが、しゅーずさんとしてはTOKOTOKOさんとのタッグならそれが狙えると考えたわけですね。

はい。「ジェットセット・ラブ」は去年の夏に配信リリースした楽曲なので、そのときにバズらないかなと思っていましたが、なかなか思うようにはいかなかったですね(笑)。狙いが違っていて、結果としてアルバムの中では圧倒的にハッピーな明るい曲として存在することになりました。

──TikTokの文脈で話していくと、アルバムの2曲目に収録されている「Overdose」は、TikTokで頭角を表したアーティスト・なとりさんの楽曲のカバーです。厳密に言えばボカロ曲でもないこの曲を収録したのはなぜですか?

けっこういろんな方から「『Overdose』としゅーずくんは合う」と言われまして。ファンの方からリクエストが届くのはもちろん、メイクさんやスタッフさんにもオススメされたこともあったんです。でも当時は「Overdose」がめちゃくちゃ流行っていて、あらゆる歌い手がカバーしてYouTubeに投稿していたので、出遅れてしまった僕が今さら動画として投稿するのはちょっと……と敬遠していたんですね。でもアルバムに入れるのであれば堂々と歌えるなと思い、問い合わせしてみたところ快くOKをいただきまして、このたび収録できる運びになりました。

──ニコニコ動画やYouTubeでの投稿をきっかけにアーティスト活動を本格化させたしゅーずさんは、TikTokから出てくる新たなアーティストたちのことをどう見ていますか?

勢いがすごいですよね。僕らがどうこうというより、時代が新たな才能を新たな場所から発掘するようになりつつある。TikTokでバズった「Overdose」や「ポケットからきゅんです!」「チグハグ」といった楽曲はそもそも説得力があるというか、完成度が高いですよね。TikTokはきっかけにすぎなくて、テレビとかで一度流れてしまえば、それがどこから出てきた楽曲かはあまり気にされない風潮があると感じています。2、3年前だったら初音ミクの楽曲がテレビで流れることなんて滅多になかったし、ネット発の僕らが扱われる機会もすごく少なかったけど、今はいい曲が発見されればネット発だろうと爆発的に流行して、テレビなどいろんなメディアで注目される時代になった。ここ数年ですごく変わったなと感じています。

──なぜここ数年で状況が変わったのでしょうか?

歌い手とかネット発のアーティストの認知度が上がってきたのかな。僕らと同じ世代で言えば、EveくんがCM曲をたくさん書いたりして、「歌い手だから」みたいな垣根を壊していったと思いますし、新しい世代だとAdoさんの力がすごすぎて、一気にメインストリームに入り込んだイメージがある。10年以上活動し続けてきた僕ら世代の歌い手は、TikTokのような新しい流れに順応できていない部分があるから、そこは意識的に変えていかなければいけないなと思っています。

裏テーマに“オタク心”

──今作にはしゅーずさん自身が作詞を手がけた楽曲が2曲収録されています。1曲はGARNiDELiAのtokuさんが作曲した「Night Wander」です。ガルニデの曲といえば、しゅーずさんは「PiNK CAT」のカバーをよくライブで披露していますよね。

おそらく本人たちより披露しているんじゃないかというくらい歌わせてもらってます(笑)。書き下ろしをお願いしたら絶対合うだろうなという確信があって、今回おそれ多くもtokuさんにオファーさせていただきました。

──GARNiDELiAは昨年ポニーキャニオンに移籍してきたわけですから、レーベルメイトでもありますよね。

そうなんですが、僕にとってtokuさんはボカロP時代からレジェンド的な存在なので、レーベルメイトとはいえ緊張しました。しかもこの曲を依頼したときにはすでにK-POPにハマっていたので、デモをいただいたとき生意気にも「もうちょっとダークでナイトなK-POPに寄せた楽曲を」とリテイクのお願いをさせていただきまして……。それで上がってきたのが「Night Wander」です。

──作詞はどのように?

歌詞を書くのが本当に苦手で、この曲の作詞にはかなり苦労しました。しゅーずというアーティストの色としてテーマを夜にしよう、というのはすぐ決められたんですが、その後どう書いていいかはかなり難航しまして。基本的には男女の恋愛を歌詞に落とし込んでいますが、実は裏テーマとして“オタク心”が混ぜられています。

──それはしゅーずさん自身がK-POPにハマったことで表れた要素ですよね。

はい。もちろんこれまでもアーティストとファンの関係について考えたことはありますが、実際に自分がファンの立場になってみないとわからないこともありますから。ただオタク心を真っ向から扱う歌詞はちょっと“濃すぎる”とも感じたので、男女の恋愛に見立てて書いてみました。

しゅーず

──もう1曲の「約束」はPENGUIN RESEARCHの柴崎洋輔さんの作曲です。こちらの作詞はどうでした?

もちろん難航しました(笑)。僕、作詞が向いてないんですよ。あまりにも書けなすぎて、この曲の歌詞はスタッフさんの過去の恋愛話を聞かせてもらって、それをモチーフに書きました。スタッフさんの話をそのまま使うわけにはいかないから、それを噛み砕いて少しずつ形にしていったのが「約束」の歌詞です。これは話を聞かせてくれたスタッフさんにも申し訳ないのですが、僕って報われない話しか書けないんですよ。今回も結果としては不幸な女性の歌詞になってしまって……。

──「約束」は「これでサヨナラ」という言葉で締めくくられますし、その次に収録されている「またねがあれば」の歌詞も「それじゃあね」という別れの言葉で結ばれています。つながりを意味する「CONNECT」というタイトルの作品でありながら、別れの言葉が象徴的に使われていることには何か意図があるんですか?

確かに。言われて今気付きました。つながっていたい意識が強いからこそ、別れの言葉が出てきてしまったのかもしれないですね。

本業と歌い手、両立するからこそ響く「Hello, Worker」

──インタビューの冒頭でおっしゃっていた「懐かしいボカロ曲」というのはKEIさんの「Hello, Worker」ですよね。数あるボカロ曲の中から、なぜこの曲を?

ボカロ曲のカバーを入れようというスタッフさんと相談したとき、真っ先に出てきたのが「Hello, Worker」でした。理由は簡単で、この曲は“働くこと”をテーマにしているから。今でも本業をしながらアーティスト活動をしている僕の境遇にピッタリなんじゃないかと思って。最近は“社畜系”と自分のことを表現していますし(笑)。近頃はそんなに歌っていなかったけど、昔よく歌っていた蓄積があって、収録がめちゃくちゃ早く終わりました。過去最速だったんじゃないかな。

──自身の境遇が曲のテーマに重なる部分があるわけですから、しゅーずさんなりの曲の解釈が定まっていたんでしょうね。

はい。昔から思い入れが強い曲でしたから。とは言っても、ニコ生で歌っていたときはまだ学生だったので、昔は働くことに対してよくわからないままカバーしていたんですよ(笑)。漠然と「社会人って大変なんだろうな」と思っていたのが、今では「めちゃくちゃよくわかる、この歌詞」と思いながら歌うようになったので、自分の中でより曲に対する理解度が上がっていたんでしょうね。

──働くことと音楽活動の両立について最近はどう捉えていますか?

日によってまちまちですね。“歌い手モード”に入るときはガッツリアーティスト活動に集中するので、本業のことはあまり頭にない。だから疎ましく思うこともあまりない。逆に“本業モード”に入ると、アーティスト活動のことが頭から離れちゃう。自分から“歌ってみた”を録ろうともしないから、いきなり音沙汰がなくなるみたいな。以前はこの切り替えに苦戦していましたが、最近は1日くらいで切り替えられるようになったのでそこまで重く悩むことが少なくなりました。順応したというより、多重人格のような感じに近いかもしれませんが(笑)。

(スタッフ) でも去年は、本当に仕事を辞めるかと思う瞬間があったよ。

ありましたね(笑)。会社の方針と自分のスタンスが合わないなと思って、有休消化までして「もう辞めてやる!」と思っていたけど、本業にもアーティスト活動にもやりがいを感じているから、体力が続く限りはどちらもやらなきゃいけないという使命感もあって。転職するという選択肢も考えましたが、歌い手と両立することを受け入れてくれる職場にちゃんと入れるかどうかもわからないから、会社側とちゃんと相談をして、今は折り合いをつけてどちらも力を入れるようにしています。

しゅーず
しゅーず

──スタッフさんは、しゅーずさんの両立についてどう思っていますか?

(スタッフ) 半年に1回くらいは「仕事辞める!」と言い始めるので、「いいじゃん。音楽一本でいこうよ」って毎回提案するけど、結局続けるんですよね。根は真面目なので。最近は「辞める辞める言って、どうせ辞めないんでしょ」くらいに捉えています。

──男女の恋愛みたいな話ですね(笑)。

ライブの現場が少なくなっているからか、まわりの歌い手たちから「仕事と歌い手を両立するのが正解だと思う」と言われたこともあって。

──歌い手仲間の皆さんは、しゅーずさんに「歌い手に専念しよう」と言ってるものだと思っていました。

この2、3年で言われることが変わりましたね。もし僕が歌い手一本に絞っていたら、今とは違う活動になっていたかもしれないですね。「本業があるから」って頑なに伏せていた顔を急に出して新たにYouTubeのチャンネルを作っていたかもしれないし、もしかしたらアバターを身にまとってVtuberになっていたかもしれない(笑)。僕は今の活動スタイルが一番自分に合っていると思うから、仕事と両立することが結果としてよかったんだろうなと感じています。

吸収したことを還元する、今までとは違うライブに

──5月から約4年ぶりの全国ツアーが開催されます。しゅーずさんが推し活をするようになってから初めて開催されるツアーということですよね。パフォーマンスにも変化がありそうな気がしますが……。

そうなるとは思いますが、あまり強調すると自分でハードルを上げちゃうことになるので、僕らしい形で皆さんとのつながりを強くするライブにしたいですね。4年ぶりということもあって、ひさびさに対面でライブができるのがすごく楽しみです。

──オンラインライブと比べてやはり有観客ライブのほうが思い入れがありますか?

オンラインならではのよさも感じましたが、やっぱり現場でのライブは格別ですよね。僕が観る側として参加したライブでもそう感じました。YouTubeで観るよりも生で本物が歌うほうが絶対に観応えがあるので、長い間ツアー開催を待ち望んでくれた人も、最近僕のことを知ってくれた人もぜひ現場に会いに来てほしいですね。自分が吸収したことを還元しようとは思っていますので、今までのライブとは違うパフォーマンスにはなるはずです。

しゅーず

プロフィール

しゅーず

アーバンでアダルトな魅力を活かした歌声が特徴の歌い手。2009年に動画共有サイトに動画を投稿し活動を開始した。精力的に“歌ってみた”動画などを投稿しつつ、本業の仕事もこなす“社畜系歌い手”としての一面も持つ。2015年に1stアルバム「Shoose Box」をリリース。2017年に2ndアルバムのリリースを記念した初のワンマンライブを開催した。これまでにアルバム5枚、シングル1枚をリリースしている。2023年5月からは全国ツアー「Shoose Live Tour 2023 -CONNECT-」を開催する。