音楽ナタリー Power Push - 霜月はるか

歩み続けた音楽人生を総括したベスト盤

数々のアニメやゲームの主題歌を担当するシンガーソングライターの霜月はるかが、8月5日に4枚のベストアルバムを同時リリースする。「ANIME GAME CD SONGS」「PC GAME SONGS」「ORIGINAL FANTASY SONGS」「MESSAGE SONGS」の4つのカテゴリに分けられたベスト盤には、570曲以上ある彼女の歌唱曲の中から厳選された楽曲が収められている。また各CDには書き下ろしの新曲が収録されており、光田康典、折戸伸治、吉良知彦(ZABADAK)といった霜月がリスペクトする作家陣とのコラボ曲を聴くことができる。

音楽ナタリーでは、ベストアルバムの発売を記念して霜月にインタビューを実施。「コミックマーケット」や「M3」といったイベントでのCDの手売りからスタートした活動初期の頃から現在までの彼女の歩みや、大ボリュームのベスト盤「SHIMOTSUKIN 10th Anniversary BEST」に込めた思いなどを聞いた。

取材・文 / 倉嶌孝彦

ゲーム音楽の耳コピから

──4枚のベスト盤を同時リリースされるということで、今回は霜月さんのこれまでの音楽活動についてもお話を伺えればと思います。霜月さんのプロフィールには「学生時代に合唱部で活動していた」と書かれていますが、当時から音楽を仕事にしようと考えていたんですか?

当時は全然そんなこと考えてなかったんです。その頃は人前で何かをするのがすごく苦手なタイプだったから、合唱部だったら人と一緒なので恥ずかしくないってくらいの気持ちで活動していました(笑)。ただ学生時代には合唱部のほかにDTMもやっていて。こっちも本当に趣味みたいなものだったんですけど。

──DTMではどういう曲を作っていたんでしょうか?

霜月はるか

私、小さい頃からずっとゲームに没頭してきて、ゲームのサントラを聴いて育ってきたみたいなところがあるんですよ。だからまずはゲーム音楽の耳コピから始めて。好きな曲をパソコンで再現していくうちに、だんだん曲の構成みたいなものを理解していったんです。

──DTMは人前に立つのが苦手だったご自身にとってはうってつけだったわけですが、霜月さんのキャリアの中で大きな割合を占めるのはボーカリストとしての活動です。どういうきっかけがあって、ソロシンガーとして歌うことになったんでしょうか?

最初のきっかけはDTM仲間の集まりで、知り合いに「自主制作でCDを作ってるんだけど歌いませんか」って声をかけてもらったことですね。「えっ? いいんですか?」って感じでボーカルをやってみて。実力的にはまだまだだったけど、音源がCDになって届いたことにすごく感動したんですよ。「自分で音楽を作ってCDにできるんだ!」って。それで自分でもCDを作ってみたくなって、2001年の12月に初めてのオリジナル自主制作盤「SACRED DOORS vol.1」を作ったんです。

──「SACRED DOORS vol.1」は、霜月さんが考えた“仮想のRPG”のサウンドトラックとしてリリースされた作品ですね。もちろんゲームは霜月さんの頭の中にしか存在せず、サウンドトラックだけが世に放たれたわけですが……。

高校生の頃からお話を作るのが好きだったから、RPGの物語はすでに頭の中にあったんです。RPGのサントラだから戦闘シーンの音楽や、フィールドを歩くときの曲を作って。ゲームの主題歌も入れているんですけど、サントラだからショートバージョンになってます(笑)。主題歌は自分で作って自分で歌ったので、この自主制作盤がシンガーソングライター「霜月はるか」としての活動のスタートですね。当時は録音機材もいいものがなかったから、クローゼットの中でボーカルの録音をしてました。

地上波で自分の歌が流れ、脱OL

──ただ霜月さんの経歴をたどっていくと自主制作盤のリリースを皮切りに音楽活動にどっぷり浸かっていった、というわけでもないんですよね。一度は、会社勤めを経験してらっしゃるわけで。

大学を卒業してからはIT企業に就職して、プログラマーとして働いていたんです。会社に勤めながら、ボーカルのお仕事をいただいたりしてたんですけど、だんだん音楽活動のほうが軌道に乗ってきて。

──ご自身の中で「音楽で食べていけるかも」って思ったのはいつ頃ですか?

霜月はるか

2004年に「ローゼンメイデン」っていうアニメのエンディングテーマ(「透明シェルター」)を歌った頃ですね。要するに地上波のテレビで自分の声が流れるわけですよ。「こういう仕事のチャンスがあるのなら、音楽を専業にして挑戦したいな」と思って、会社の上司に「仕事辞めたいです」って伝えて。

──すでにボーカリストとしてお金になる活動をしていたとはいえ、会社勤めを辞めて音楽活動に専念するのって、勇気のいる決断ですよね。

土日だけしか音楽に専念できないことにもどかしさは感じていたけど、アニメのテーマ曲を担当するような大きい仕事が続く保証はまったくなかったわけですから。当時は葛藤もあったし、「やれるところまで貯金を切り崩しながらがんばってみよう」っていう気持ちでした。ただ同時期にランティスさんから「アルバムを出しませんか?」というお話をいただいたこともあって、「切り替えるなら今かも!」って思って、音楽1本に絞ったんです。ただその後も自分に降りかかるプレッシャーってけっこうあって、それまでは「会社に行きながらだから」という精神的な逃げ場所を恐らく無意識のうちに作ってたんですけど、会社を辞めたらもう何も取り繕えないんだってことに気付いて。だから音楽に対して真摯に向き合っていかないと続かないぞ、と言い聞かせてがんばってましたね。

ライブに向いてないのかなって

──霜月さんが初めてソロライブをしたのもランティスでアルバムを出したあとですよね?

そうですね。それまでは会社員だったから顔出しがNGだったんですよ。作品を作ることはすごく好きだったけど、もともとあがり症だったこともあり、曲をステージで披露するってことはあまり考えてなくて。

──初ソロライブはどうでしたか?

霜月はるか

緊張してたからか私自身はあまり覚えてないんですけど、MCでほとんどしゃべらなかったらしいです。普通、初ソロライブとかって自分の思いの丈を話したりすると思うんですけど、そういうのが全然なく「今歌ったのは○○と○○です。じゃあ次の曲聴いてください」みたいなトークを淡々と(笑)。本当に借りてきた猫状態でやっていたのが初めてのソロライブでした。それからしばらく「ライブは向いてないのかなあ」って悩んで。

──ライブへの苦手意識はどうやって克服したんですか?

場数を踏んで慣れていったっていうのもあるけど、きっかけもあったんです。2006年にSound HorizonのRevoさんとコラボCD「霧の向こうに繋がる世界」を出して、そこで初めてアーティスト写真を撮ったんです。それまで私はメディアに顔出しもしていなかったし、ライブもそんなにやってこなかったから、皆さんにとってはどんな人間かわかりにくい、いわゆる“クローズドな人間”だと思ってて。「みんなの想像の中の霜月はるかをステージで見せなきゃ」ってガチガチに自分を固めてたんですよね。でも写真を出して「霜月はるかさんはこういう人なんだ」って認識してもらうようになってからは、自然体でいいんだってことに気付いて。ようやく少しずつ緊張が解けた状態でライブができるようになりました。

メジャーデビュー10周年記念3カ月連続マンスリーソロライブ
「霜月はるか 10th Anniversary Solo Live "Melody Line"」
  • 霜月はるか 10th Anniversary Solo Live "Melody Line" ~side GREEN~
    ※テレビアニメ・コンシューマーゲーム・CDソング中心ライブ
    2015年9月23日(水・祝)
    東京都 Zepp DiverCity(全席指定)
    OPEN 16:45 / START 17:30
  • 霜月はるか 10th Anniversary Solo Live "Melody Line" ~side RED~
    ※PCゲームソング中心ライブ
    2015年10月24日(土)
    東京都 新宿BLAZE(オールスタンディング)
    OPEN 17:15 / START 18:00
  • 霜月はるか 10th Anniversary Solo Live "Melody Line" ~side BLUE~
    ※オリジナルファンタジーソング中心ライブ
    2015年11月23日(月・祝)
    東京都 調布市グリーンホール(全席指定)
    OPEN 16:45 / START 17:30
霜月はるか(シモツキハルカ)

宮城県出身のシンガーソングライター。2001年頃から趣味で作曲や歌手活動をスタートさせ、「コミックマーケット」や「M3」といったイベントで自主制作の音源を発表。ファンタジックな物語や世界観を音楽で表現する「オリジナルファンタジーボーカルアルバム」をはじめとした作品で地道にファンを増やしていき、2004年にはrefio+霜月はるか名義でアニメ「ローゼンメイデン」にエンディングテーマ「透明シェルター」の歌唱を担当した。2005年9月にはアルバム「あしあとリズム」をリリース。これを機に当時勤めていた会社を辞め、音楽活動に専念することになる。2006年にはSound HorizonのRevoとのコラボシングル「霧の向こうに繋がる世界」を発表。その後Sound Horizonのサポートボーカルや、ユニット「kukui」「canoue」での活動も行う。また「アトリエ」シリーズや「アルトネリコ」シリーズといった人気ゲームへも歌唱や楽曲提供といった形で携わっている。2015年8月、これまで発表してきた楽曲をまとめたベストアルバム「SHIMOTSUKIN 10th Anniversary BEST」を4枚同時リリースする。