ナタリー PowerPush - sasakure.UK
土岐麻子と読み解く「幻実アイソーポス」
ボーカロイドだからこそきれいに聴こえる歌い回し
──「幻実アイソーポス」の収録曲で、「深海のリトルクライ」以外に土岐さんが気になったナンバーはありますか?
土岐麻子 宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」をモチーフにした「ナキムシピッポ feat. 初音ミク」が好きです。初音ミクを起用している意味もすんなりと理解できました。すごく自然に曲と混ざり合ってますよね。
sasakure.UK ボーカロイドの使い方に関しては、今回こだわりました。ボーカロイドには、ボーカロイドだからこそ、きれいに聴こえる歌い回しや音のつなぎがあるんです。
土岐麻子 そもそもボーカロイドの歌入れって、実際どんな感じで作っていくんですか? すごく初歩的な質問なんですけど。
sasakure.UK 普通の歌入れと基本的には変わらないかもしれません。ミクっていうのは、一語一語歌詞を自分で組み立てて、それを歌わせるソフトなんです。でも不自然になっちゃうところが出てきてしまうので、そこは微調整して歌っぽく仕上げます。人間だったら歌えないような曲でも、ボーカロイドなら歌うことができる。そこが魅力的なツールですね。
土岐麻子 そのセンスは「新しい世代の音楽家」という感じがしますね。私の場合は、セッションの中で、いろんな演奏の揺れやズレから気持ちのいいところを感覚的に探していくような感じなんです。でもsasakureさんの音楽は、ひとつひとつの音が整然と配置されてる感じがするんです。さらに、それぞれがちゃんと主張してる。
sasakure.UK そう言っていただけるとうれしいです(笑)。僕は基本的に打ち込みで作曲をするので、生演奏するのが難しい曲ばかりなんですね。でも、今回は新しい可能性が開けるんじゃないかなって思って、「タイガーランペイジ feat. 有形ランペイジ」という曲で、僕の作った曲をバンドに演奏してもらいました。この曲は、16分とか32分とかのアルペジオが入っていたり、コードがどんどん転換したりしていく楽曲なんです。あえてバンドの演奏をフィーチャーしたことで、今までの自分の作品になかったグルーヴ感が出せたと思います。
──生のグルーヴ感と言えば、Sotte BosseのCanaさんが参加された楽曲も印象的でした。
sasakure.UK 「オオカミ少年独白 feat. Cana(Sotte Bosse)」ですね。この曲はイソップ童話の「狼少年」をモチーフにした作品です。ベースとドラムを有形ランペイジの2人にお願いして、生のグルーヴを出しながらsasakure.UKらしさを心がけて作った作品です。
テーマは「人と機械の共存」
──ところで、今回のアルバムはどんなテーマで制作されたんですか?
sasakure.UK 今回の作品では、人と機械の共存というのをテーマにしました。舞台は、機械に依存しすぎて、逆に機械に支配されてしまう未来です。アルバムの中で機械は「キジン」と表現しました。彼らは機械なんだけど、人間の生に憧れて人に近づこうとするんです。この機械と人間の共存という問題については、「再鋼築フィクション feat. ピリオ」という曲で僕なりの答えを出したつもりです。この曲は思い入れが強すぎて、マスタリングする当日まで微調整を続けていたんです。
──「幻実アイソーポス」というアルバムタイトルは、どんな意味なんですか?
sasakure.UK 「アイソーポス」というのは、寓話作家イソップの古代ギリシャ語読みです。僕は「イソップ童話」に大きな影響を受けているので、そこから取りました。でも、曲に込めているメッセージはフィクションではなく、ノンフィクションなんです。この「幻実アイソーポス」というタイトルには、現実なんだけど、現実じゃない状態という意味を込めたんです。
土岐麻子 あの、sasakureさんはどうやって創作するんですか? 情報の入手方法とか気になります(笑)。やっぱりインターネットとか?
sasakure.UK いや、それが図書館なんです(笑)。創作の発想を得たいときは本と戯れたくなるので。自分の知らないジャンルの棚に入り込むのが好きで、その本棚からちょっと飛び出ている本とかを手に取っちゃう。
土岐麻子 偶発的な出会いを求めているということですか?
sasakure.UK そうですね。結構、面白い作品に出会えたりしますよ。電車の中吊り広告からインスパイアされることもあります。あとは過去に思ったことや過去に自分が綴ったものを掘り起こしたり。あ、僕こう見えて、昔から日記をつけてるんです。
土岐麻子 うん、書いてそうですよ。似合います(笑)。
sasakure.UK あれ!? 僕は書かなそうなイメージのつもりでいました(笑)。高校の頃の日記とか、すごく恥ずかしいんですよ。自分がいなくなったら、すぐ燃やしてしまいたいくらい。日記から醸し出されるオーラが濃すぎて(笑)。でも、高校の頃の思いをあえて掘り起こすことで、今10代の人にも共感できるものを作れるんじゃないかって思うんです。
CD収録曲
- プロローグ・幻実アイソーポス
- ロストエンファウンド feat. 初音ミク
- オオカミ少年独白 feat. Cana(Sotte Bosse)
- タイガーランペイジ feat. 鏡音リン
- 突然、君が浮いた feat. そらこ
- ナキムシピッポ feat. 初音ミク
- コイサイテハナ* feat. mirto
- バタフライ・エフェクト feat. ちょうちょ
- SeventH-HeaveN feat. 初音ミク
- 深海のリトルクライ feat. 土岐麻子
- インタールード・ヒトとキジン
- 否世界ハーモナイゼ feat. 鏡音リン
- ガラクタ姫とアポストロフ feat. 初音ミク
- エーテルの機憶 feat. 巡音ルカ
- 再鋼築フィクション feat. ピリオ
- エピローグ・幻実アイソーポス
- タイガーランペイジ feat. 有形ランペイジ
初回限定盤DVD収録内容
- ロストエンファウンド feat. 初音ミク (Music Video)
- タイガーランペイジ feat. 鏡音リン (Music Video)
- ナキムシピッポ feat. 初音ミク (Music Video)
- コイサイテハナ* feat. mirto (Music Video)
- バタフライ・エフェクト feat. ちょうちょ (Music Video)
- 深海のリトルクライ feat. 土岐麻子 (Music Video)
- ガラクタ姫とアポストロフ feat. 初音ミク (Music Video)
sasakure.UK(ささくれゆーけー)
2007年ごろよりボーカロイドを使った楽曲の投稿をはじめたボカロPであり映像制作やイラストも手掛けるマルチクリエーター。2010年には、1stアルバム「ボーカロイドは終末鳥の夢を見るか?」をリリース。さらに同作収録曲「*ハロー、プラネット。」のビデオクリップを元にしたPSP用ゲームソフト「初音ミク -Project DIVA-」の追加ダウンロードコンテンツ「ミクうた、おかわり」にて自身監修のゲームも発表された。2011年には土岐麻子のオールタイムベストアルバム「BEST! 2004-2011」にリミキサーとして参加。2012年4月に2ndアルバム「幻実アイソーポス」をリリースした。
【土岐麻子ライブ情報】
土岐麻子が約3年半ぶりにLIQUIDROOM ebisuでワンマンライブを開催。4月15日までオフィシャルサイトで先行予約を実施中!
(タイトル未定)
2012年7月8日(日) 東京都 LIQUIDROOM ebisu
OPEN 17:30 / START 18:00
チケット料金:5500円(税込)オールスタンディング ※ドリンク別
一般発売日:5月12日(土)
土岐麻子(ときあさこ)
1976年東京生まれ。1997年にCymbalsのリードボーカルとして、インディーズから2枚のミニアルバムを発表する。1999年にはメジャーデビューを果たし、数々の名作を生み出すも、2004年1月のライブをもってバンドは惜しまれつつ解散。同年2月には実父にして日本屈指のサックス奏者・土岐英史との共同プロデュースで初のソロアルバム「STANDARDS ~土岐麻子ジャズを歌う~」をリリースし、ソロ活動をスタートする。洗練されたジャズエッセンスと土岐麻子流シティポップが天衣無縫に融け合う音楽性はミュージシャンからの支持も厚い。2011年12月に初のオールタイムベストアルバム「BEST! 2004-2011」をリリースしている。2012年7月8日、約3年ぶりとなる東京・LIQUIDROOM ebisuでのワンマンライブを行う。