ナタリー PowerPush - さかいゆう
新作「How's it going?」に込めた 生きることへの思いと友情
地元高知での青春時代を分かち合った亡き友に歌いかけるニューシングル「君と僕の挽歌」が素晴らしい。そしてこの曲を含む、さかいゆう2枚目のフルアルバム「How's it going?」は、半分以上の作詞を他者に依頼するという思いきった手法が採られた意欲作である。もっともこうしたアプローチをしていながら、作品全体からは彼自身が持つ感覚──それも死生観のようなものが見えてくるかのようだ。今このときをしっかりと生きていることを歌おうとしているさかいは、はたしてどんな心持で本作に臨んだのか。その語り口の奥には、切実な感情が横たわっていた。
取材・文 / 青木優
音楽を始めるきっかけになった親友のことを歌う
──今回の作品には、全てをひとりで作り上げた去年のアルバム「ONLY YU」の存在が大きい気がするんですけど、いかがでしょうか?
そうですね。「前のアルバムと違うことをしよう」と毎回思いますからね。前回は自分だけでいろいろとやったので、今回はシンプルで、メロディと歌詞の比重が多い、まっすぐなものにしたいなと思ったんです。奇をてらったところは全然ないと思うし、ゴチャゴチャしたものより言葉とメロディに重点を置いて、トラックもできるだけシンプルにしましたね。ライブを意識して、レコーディングもピアノトリオで成立するようにしたんですよ。だから「Yes!!」(メジャー1stフルアルバム)のツアーでお世話になったベースの種子田健さんとドラムのFUYUくんとのトリオで全曲やろうと初めから思って一緒にスタジオに入りましたし、このメンバーでツアーも回ろうかなと思って。なので、聴いていただいたらわかるんですけど、全曲トリオで成立しているというか、ストリングスなどがないと大きく世界観が変わっちゃう曲は1曲もないと思うんです。
──そうですね。じゃあそこで歌う楽曲はどんなものをと?
最初に「君と僕の挽歌」ができて、これを書けたから、あとは何を書いてもいいなと思えたんですね。この曲は、内容自体は去年の震災と直接はつながっていないんですけど、亡くなった方々はたくさんいるし、そういう中で、自分の悲しい出来事を引き出してこようと思ったんです。それはあまり思い出したくないことではあるんですけど、自分が音楽を始めるきっかけになった親友のことを歌うこと……そこに1回、触れたかったんですね。こういう曲って、それぞれ聴く人が自分に置き換えて聴いてもらえるから。それが音楽のいいところですよね。で、そこに触れられたから、ほかの曲も書けたんです。
──なるほど。でも「~挽歌」はさかいくんにとってそれだけ大きな曲なわけだから、書くのはしんどくなかったですか?
しんどくはなかったです。ただ、この曲を書こうという気持ちに至るまでの悲しさや寂しさの意味を処理するまでに4カ月ぐらいかかりましたね。着手するまでに。「どういうふうに書こうかな」と思って。
──その衝動に向き合うまでに時間が必要だったんですね。若い頃に亡くなったこの大切なお友達のことは、さかいくんの心の中にずっとあったことだと思うんですけど……。
そうですね。彼は僕にとって、すごく特別な親友だったんですよ。その彼がいないというのは、ずーっと、今でも寂しいんです。今でもふと当時の思い出がよみがえってきて、すごく寂しい気分になるんですけど。
音楽ができれば良かった
──その親友について思い出すのって、どんなことです?
やっぱり匂いとか、一緒に見た海の色とかかな。抽象的なんですよね、すごく。彼、無口だったし。僕らは若かったし……思い出の密度がすごく濃いと思うんです。何人かいた、全てが仲間だったから。みんな、もう「君のためだったら命を捧げてもいいよ」っていうぐらいの友達だったんですよ。もう、当時の僕の全てでした。一色ですよね。ただ……これ、ちょっと説明しづらいんですけど、今は彼がいないことは、寂しいけれど、悲しくはないんですね。それは時間も経ってるからですし、その寂しさが「彼がまだ自分の中にいる」みたいな感覚をもたらしてくれるというか。それが、肉体がなくなっても、精神とか思い出がむしろずっと輝いたままでいるように思えて……そこは救いだなと思ってるんです。で、「~挽歌」はそういうことを曲にしたんだけど、それも僕は、彼に手紙を書いてる感じなんですね。この曲は、リリックとメロディが一番真ん中に来るといいなと思って書きました。ここまでシンプルで王道なものを作ったことはないですね。
──これはそこで自分の個人性に寄せたからこそ、伝わる曲になっていると思います。
ああ、そうだといいですね。まあ僕はそれしか書けない、ということなんですけど。「みんながんばれ」とか、やっぱり書けないし、歌えない。ただ自分の中の出来事でいっぱいいっぱいですから、僕は。
──曲の「春の風に消えた 無邪気な夢 / ボクがひとりで叶えてしまったよ」というフレーズからは、ミュージシャン志望だった彼の意志を継いだという意識を感じますけど。
意志なんて継げるものじゃないよな、とは思うんです。だけど「彼の見た夢みたいなものをちょっと見たいな」というところから始めたのは、ウソじゃないんです。僕、それまで音楽のことをなんにもわかってなくて、いきなり始めたのに、そこから今までこうしてやり続けるモチベーションを保ち続けられたところがありますからね。だから、たまに問いかけるときがあるんですよ。「ミュージシャンってこんな感じなんだよ」って。「こんな感じだったんでしょうか? あなたがなりたかったのはミュージシャンとは」みたいにね。
──ホントに「How's it going?(どうしてますか?)」みたいな感覚なんですね。
だから……僕はミュージシャンになれれば良かったんです。音楽ができれば良かったんですね。
CD収録曲
- Intro
- Jammin'
- パスポート
- LOVE & LIVE LETTER
- もしも あの朝に…
- Lalalai
- ペテン師と臆病者
- How Beautiful ~English ver.~
- サンバ☆エロティカ
- されど僕らの日々
- 君と僕の挽歌 ~Album ver.~
- パズル
初回限定盤DVD収録内容
「さかいゆう Live in New York 2011」
- 上を向いて歩こう
- ROCK WITH YOU
(カバー / Original:Michael Jackson) - Train
- 故郷(ふるさと)
他 New Yorkでのインタビューやドキュメンタリー映像も収録
LIVE INFORMATION
さかいゆうTOUR 2012
"How's it going?"
- 2012年5月23日(水)
愛知県 名古屋APOLLO THEATER
OPEN 17:30 / START 18:00 - 2012年5月26日(土)
福岡県 福岡DRUM SON
OPEN 17:30 / START 18:00 - 2012年5月27日(日)
高知県 高知X-pt.
OPEN 17:30 / START 18:00 - 2012年5月29日(火)
大阪府 心斎橋JANUS
OPEN 17:30 / START 18:00 - 2012年5月31日(木)
宮城県 仙台MACANA
OPEN 18:00 / START 18:30 - 2012年6月3日(日)
東京都 LIQUIDROOM ebisu
OPEN 17:00 / START 17:30 - 2012年6月6日(水)
北海道 札幌cube garden
OPEN 18:00 / START 18:30
Office Augusta 20th Anniversary
「Augusta Camp 2012 in YOKOHAMA」
- 2012年8月4日(土)~ 5日(日)
神奈川県 横浜赤レンガパーク野外特設ステージ
OPEN 12:00 / START 14:00 / END 20:30(予定) - <出演者>
杏子 / 山崎まさよし / COIL(※佐藤洋介は病気療養中の為欠席)/ 元ちとせ / あらきゆうこ / スキマスイッチ / 長澤知之 / 秦 基博 / さかいゆう
さかいゆう
高知県出身の男性シンガーソングライター。20歳で上京し、独学で音楽を始める。2001年に単身渡米しロサンゼルスでストリートパフォーマンスを行いながら、ピアノを習得。帰国後の2004年頃よりソロ活動を本格化。2006年に発表したミニアルバム「ZAMANNA」がFMチャートの上位を記録したほか、収録曲の「Midnight U…」がiTunes Storeの「今週のシングル」に選出され好評を博す。2008年1月にフルアルバム「YU, SAKAI」を発表し、2009年10月にシングル「ストーリー」で満を持してメジャーデビュー。胸に打ち響く歌詞、透明感あるハイトーンボイスが年齢や性別を超え熱く支持されている。また客演も多く、これまでにマボロシ、KREVA、RHYMESTERなどさまざまなアーティストとコラボレーションを行っている。2012年5月23日にメジャー通算2枚目となるフルアルバム「How's it going?」をリリース。