音楽ナタリー Power Push - れるりり

インタビューと対談で追う超気鋭クリエイターの素顔

2015年におけるアルバムというパッケージの意味

──で、今回のニューアルバム「厨病激発ボーイ」なんですけど、動画共有サイトを主戦場にしている方にとってCDを出すことってどういう意味を持つものなんでしょう。

みんな別に音楽のことが嫌いになったわけじゃないんでしょうけど、今の時代ってYouTubeやニコ動でどんな音楽でもすぐに聴けるじゃないですか。だから「もっと新しい発表の形を考えていかないといけないんじゃないか」と思っていたりもしています。

──でも来週にはアルバムがCDという形態でリリースされます。

そう思う一方で、出すことのメリットというか意味も感じていて。今回のアルバムって、楽曲をコミカライズしたブックレットが入っていたり、元日に小説が発売されたり、ボイスドラマが配信されたり、メディアミックス的な展開をしているんですけど、そういうのって面白いなと思うんですよ。「脳漿炸裂ガール」が小説化されたり、コミック化されたり、映画化されたりしたときすごく反響がありましたし。

──れるりりさんの楽曲をきっかけに、聴き手がいろんな楽しみ方を提案された、と。

それがうれしかったし、そういう状況を見るにつけ「みんな、僕の曲から発展していった本は買うのか」とも思って。日本人って海外の人ほど電子書籍が流行ってないじゃないですか。自分が買ったマンガを本棚に1巻から順番に並べるのが好きというか。だったらメディアミックス展開の経験のある僕のアルバムは、そういう付加価値を与えることで楽しんでもらうこともできるんじゃないか、と考えたんです。マンガが付いてる、なんか不思議な新しいものとして受け入れてもらえるんじゃないかって。そもそも僕にとって自分の音楽をきっかけにみんなが楽しくなってくれることは本望なので。聴く人に楽しんでもらってナンボ。自分のこともアーティストというより、エンタテインナーなんじゃないかなって思っているから、メディアミックスにはなんの抵抗もなかったですし、むしろ大歓迎だったんですよね。

  • 「厨病激発ボーイ」サウンドドラマ キャラクター
  • 「厨病激発ボーイ」サウンドドラマ キャラクター
  • 「厨病激発ボーイ」サウンドドラマ キャラクター
  • 「厨病激発ボーイ」サウンドドラマ キャラクター
  • 「厨病激発ボーイ」サウンドドラマ キャラクター

○○とかけて××と説く その心は……

──表題曲の「厨病激発ボーイ」をはじめ、今回のアルバムは収録曲の多くがニコニコ動画などで発表済みですけど、黒っぽさに軸足を置きつつすごくバラエティ豊かですよね。リズムパターンにせよ、BPMにせよ、ジャンルにせよ。どういうテーマで選曲したんですか?

アルバムをCDで出す意味を考えていたとき、もう1つ、「名刺代わりになるんじゃないか」とも思って。それで「僕はこういう音楽をやっている人間です」って紹介するために幅広い選曲にした感じですね。あと、今回は「厨病激発ボーイ」をタイトル曲にしようと思っていて、この曲は厨二病をこじらせてしまった男の子たちのストーリーだから、全体的に“こじらせてしまった男の子”をテーマにしたかった。だから男の子目線の曲ばかり集めてみた感じですね。

──「こじらせてしまった」と言いつつも、どの曲においてもそのこじらせた厨二病男子に「それでもがんばれ」とか「そんな調子でどうする!」と説教くさいことは言っていない。

説教くさい曲はもちろんだし、ただ明るい曲や、ただ「がんばろうぜ」みたいなことを歌ってる曲もあんまり響かないんじゃないかと思って。もっとアイロニーや毒があることを歌ったほうが、聴いている人も「俺もそう思ってた」「そう言いたくなる気持ちわかるなあ」って思ってもらえるんじゃないか、とは考えました。それに歌詞って聴く人が10人いれば10人それぞれ解釈が違いますよね。だったら結論めいたことは言わずに、いろんな受け取り方ができる歌詞を作りたいなって思うんですよ。謎かけがテーマの「クエスト」にしても「○○とかけて××と説く その心は……」とまでは歌うけど、「その心」の部分、回答はあえて書かない。そこはみんなで考えてくださいね、って。

美少女は日々こういうことを考えてるんじゃないか?

──アイロニーの話をするなら「HOME」と「美少女嫌疑」って、まさに皮肉が効いてますよね。男言葉のラブソング「HOME」に、女言葉の「美少女嫌疑」で応える構造になってるんだけど、いかにも売れ線のJ-POP系ヒップホップのビートに乗せて誠実な恋愛を歌う「HOME」に対して、ド渋いR&Bテイストの「美少女嫌疑」では女の子がぶっちゃけ話を始めるという(笑)。

はははは(笑)。でも「美少女嫌疑」も歌ってるのは女の子じゃなくて、一応男の子目線なんです。こじらせちゃった男の子が「美少女は日々こういうことを考えてるんじゃないか?」って被害妄想じみた妄想を膨らませながら歌った、美少女の歌ですから。

──どこまで皮肉を効かせてるんですか(笑)。

アルバムの全体的なコンセプトが、「こじらせちゃってる男の子」なので(笑)。

──で「クエスト」はジャズファンクっぽいし、「HOME」と「美少女嫌疑」はヒップホップ。さらに「ヘリオライト」はギターロックで「DICE」はブラスロック。どうやってこういうサウンドデザインを思い付くんですか?

単純に飽きっぽい性格なんですよ(笑)。広く浅くいろんな曲を聴くのもやるのも好きで、それこそポップスもロックもジャズもソウルもブルースもヒップホップも全部聴くので。1曲目から10曲目まで全部8ビートっていうロックバンドのアルバムもそれはそれで筋が通っててカッコいいんですけど、でも僕はきっと飽きちゃうし、聴いてくれる人にも飽きられない作品にしたいなと思ったんですよね。よく「曲は自分の子供みたいなもの」って言うけど、僕もやっぱりそう思っていて。自画自賛できるぐらいの曲しか世の中に出したくないし、実際100%胸を張って自分の曲を発表していますから。なのに、その魂を削って一生懸命作った曲が誰にも聴かれないで終わるなんて、本当にやるせないじゃないですか。だから「3曲目ぐらいで聴くのやめた」みたいなことは絶対避けたかった。

ニューアルバム「厨病激発ボーイ」 / 2015年12月16日発売 / ウルトラシープ
初回限定盤 [CD+コミック] / 3078円 / ZMCL-1039~40
通常盤 [CD] / 2592円 / ZMCL-1041
収録曲
  1. 厨病激発ボーイ
  2. Invitation
  3. クエスト
  4. ヘリオライト
  5. World juncture
  6. 九十九ノ刃
  7. 君のとなりに
  8. HOME
  9. 美少女嫌疑
  10. DICE
  11. 月光潤色ガール
  12. 脳漿炸裂ガール 2015 ver.
れるりり
れるりり

音楽プロデューサー。バンド活動ののち、2009年にニコニコ動画に投稿したVOCALOID曲「いつもより泣き虫な空」が、処女作ながら10万再生を超える“殿堂入り”を果たす。以来、人気曲を連発し、2012年制作の「脳漿炸裂ガール」では初の100万再生を突破。その後も再生数を重ねると同時に、同曲をモチーフにした吉田恵里香によるノベライズ版が刊行され、2015年夏には私立恵比寿中学・柏木ひなた主演でVOCALOIDナンバーを原案に持つ作品としては初めて実写映画化される。また2013年には全国流通のコンセプトアルバム「地獄型人間動物園」を発表し、2015年12月にはオリジナルフルアルバム「厨病激発ボーイ」をリリース。2016年1月1日にはこのアルバムを原案に持つ藤並みなとの同名小説が刊行され、スマートフォンアプリ・ウルトラ!プレイヤーで私立恵比寿中学・真山りからが出演するサウンドドラマが配信される。