Reol「COLORED DISC」インタビュー|追求し続けた「Reolとは何か?」の答え (2/3)

音楽をやってなかったらFPSにのめり込んでいたかも

──マサヨシさんとは「金字塔」以来のコラボですよね。

「insider」を作ったとき、「もっとアッパーで、踊れる部分はありつつ、めちゃくちゃラップする曲も作れそうだよね」みたいな話をマサヨシともしていたのが、今回叶った感じですね。それに「insider」を作ってから2年も経っているから、その間に彼もいろんな音楽を吸収してるわけじゃないですか。今回はPhonkというヒップホップのジャンルの要素が入っていて、けっこう面白い曲になったなと思います。

──面白さとカッコよさがいい具合にどちらもあるオケですよね。

マサヨシとは「曲ができたから編曲やってね」というやり方じゃなくて、まずベースとドラムしか乗っていないようなものを私が持っていって、そこに1個1個シンセとかを足していった。そのラリーをちゃんと小まめにやれた。途中でちょっと小綺麗な感じになったけど、それだとこの曲はつまんないから、「1個目のデモのときの変な音、すごくよかったから戻してもらってもいい?」みたいな(笑)、そういうやりとりもしました。

──シュッとさせすぎないところによさがあったんですね。

そう。ちょっとヌケを作りたいというか。私も歌を録るときに若干抜けた感じで、めちゃくちゃ自己肯定感を歌っているんですよ。とにかく自分を叱咤して背中を叩くような曲で、言ってることがアツい分、軽く聴ける部分もちゃんと残したい。なので、わざと幼い感じの発声にして歌ってもいます。シリアスにしすぎたくなかったというか、遊びを入れたかったので。

──この曲で歌っていることは、そもそもReolという存在そのものが放っているメッセージじゃないですか?

めちゃくちゃテーマソング的ではありますね。

──そういう曲がこのタイミングで出るか!という感慨もありました。

そうですよね、確かに(笑)。でもなんだろう……「VALORANT」にハマる人の気持ちがわかるというか、私も音楽でスカッとしたい部分がすごくあるから、音楽と出会ってなければFPSのようなゲームにハマっていた可能性もあると思うんですね。「VALORANT」はほかのゲームよりさらに複雑で面白くて、実際にプレイしたマサヨシも言っていたのですが、自分ももし音楽をやっていなくてFPSにハマっていたら、本気でのめり込んでいただろうなとも思います。

──エンジョイ勢じゃなくガチ勢が集ってるゲームなんですね。Reolさんはたまたま音楽ガチ勢だっただけで。

そうそう(笑)。ゲームも「所詮、遊びでしょ」みたいな見られ方だったのが、今やゲームが仕事となる時代じゃないですか。音楽も似たところがあると思うんですよ。音楽なんて道楽で食べれないから、みたいなことを言われるけど、そういうことを言う人も音楽を聴くじゃないですか。だからゲームと音楽には通ずる部分を感じましたね。

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初めて「i love you」と書いた「secret trip」

──2曲目の「secret trip」は80'sリバイバルをリファレンスに、というお話でしたよね?

ここ1、2年くらい、一見野暮ったいフレーズを繰り返す音楽がトレンドになっている気がしていて、足してもらうギターやシンセのフレーズを若干いなたい感じにしてみたくて。この曲で表現したかったのは“逃避行”なので、メッセージ性としては「SCORPION」と真逆ですね。「SCORPION」は「目の前にあるものにちゃんと向き合え!」みたいな曲で、「secret trip」は「つらいときは絶対逃げてね」みたいな曲。「secret trip」は今の自分と小さい頃の自分との対話みたいな感覚で曲を作っていて、自己肯定感とか何も考えなかった時代の自分と今対話するとしたら、何を言いたいかな?というのを考えていました。それと同時に、この先自分が悩むこととの対話でもある。自分の中の自分と会話するための逃避行のようなイメージというか。首都高でほかの車も走っているんだけど自分たちしかいないような感覚、等間隔に並んだ街灯が速いスピードで去っていって……みたいな“どこまで続いているかわからないし、どこまでも行けそうな感覚”を思い浮かべながら歌詞を書いたり、メロディを作ってみたりしました。

──その中で「i love you」という言葉が歌われているのがとても印象的で。

私、多分歌詞で初めて使いました。

──ですよね。

もちろんどう解釈していただいてもいいけど、自分の内側に向けて歌っているのが大きいので、「あなた」に向けて歌っているけど「あなた」も「私」という意味の「i love you」ですね、これは。

──「SCORPION」とはサウンド感も言葉のテンションも全然違うけど、結局はどちらも自己肯定をする曲ですよね。

そうですね。同じことを言っているけど描かれている情景が違う感じですね。

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──「感情が群れを成すパレイド」は声こそ入っていますが、インストゥルメンタルに近い仕上がりの曲で。

ディストーションをかけまくって何を言ってるか全然わからなくしています。そもそもこの曲は春のツアー「激情アラート」のために用意した楽曲で。今までライブのために作ってきたインタールードが1つの空間を拡張するためのものだったけど、今回はライブと並行して「赤裸裸」を作っていた時期でもあったから、とにかく言いたいことがたくさんあった。ほとばしるものがありすぎて言葉にならないくらい、訴えたい気持ちがたくさんあったので、マサヨシとこの曲を作るにあたっては「コロコロ気持ちが変わる曲にしたい」ということを伝えていました。私は喜怒哀楽が激しめだし、「激情アラート」で体現したかったこともまさにそういう部分で、「私自身です!」みたいなツアーになったと思うので。ツアーのために用意した曲だから、自分とリンクする感じのインストになったと思います。

──まさに「感情が群れを成す」わけですね。

そうですね。曲中で最初にしゃべっていることは私が日本語でバーッと書いて、それを英訳してラップっぽく歌っています。走り書きで書いたツアーに宛てた詩に「感情が群れを成すパレイド」とあって、そのセンテンスが一番自分だなと感じたのでタイトルに持ってきました。

初めてトランペットでソロを吹いた場所で

──「激情アラート」から地続きのモードが表れた今作だというお話ですが、そのリリース後にはまた「新式浪漫 Neo Nostalgia」と題したツアーが組まれています。

次の作品に行く前の“回想シーン”をツアーでやろうかなと考えています。今は次の制作をしていますが、そこへ行く前に「私とは」ということの再定義をしておきたくて。2022年にやってきたことは、突き詰めるとすべて「自分の再定義」なんですよ。これには理由があって、2023年からはまたちょっと章が変わると捉えているので……。

──今作も、その前に配信した曲も、大きく捉えれば「私とは」がテーマだったと。

そうです。自分の哲学を言う。それを次で壊す作業に入るから、その前にとにかくビルドアップしておきたかった感じですね。最初の初期衝動でアルバムを作っている頃って、振り返る歴史もないから振り返らなかったけど、今だったら過去の曲のリミックスを作れたり、音楽を始めた当初の自分に言いたいことも出てきたりする。逆にこの頃の私が今の私に言いたいこともあるだろうし、いろんなタイミングでやってきた自分とのキャッチボールの結果が、最近の作品に表れているし今回のツアーで1つ答えが出せるんじゃないかなと思っています。

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──そういえば、ツアーファイナルはReolさんの地元の長野で行われるんですね。

ニコニコ動画から出てきたから、初期の頃はあまり「地元」がどことか、どこに住んでいるとかを視聴者に感じさせたくなかった。そういうタイプじゃないし、どっちかと言うとインターネットが故郷みたいな感じだった。でも結局自分の原体験というか、小さい頃に住んでいた場所って切り離せない部分があるし、東京にいる時間が長くなればなるほど、地元があってよかったなと思える。長野公演の会場になるまつもと市民芸術館は、私が初めて学校以外のステージに立った場所で。当時私はマーチングをやってたんですけど、トランペットでソロを吹いた場所がそこだった。だからそのステージにもう一度立つのは私にとって大きい意味があるし、帰れたときにまた何かを感じて、それがReolの活動に生きるだろうなと思ったので、無理やりねじ込んでもらいました(笑)。「音楽のこと好きかも」と思ったのが松本にいたときなので、そういういい思い出とともにある場所を、ライブを通じてファンの方に観てもらえるのがうれしいし、「松本市っていいところだよ」というプロモーションにもならないかなと(笑)。

──原体験をたどるのも「私とは」というテーマにとって重要なピースですよね。ツアー以降の展開もとても楽しみにしてます。

ありがとうございます。いいものになるんじゃないかなあと思います。今年に入ってからは単曲の配信やシングルのリリースを続けているから、もしかしたら傍目に見たら1個1個分かれて一貫性がないものに見えるかもしれませんが、今はまだマンガで言う“いっぱい伏線を張っていってる状態”なんですよね。それらがちゃんと1つにつながって回収されるポイントがこの先にあるから。「COLORED DISC」の意味もちゃんと回収されるし、ちゃんと長期的視野を持って活動しているので、来るべき日を楽しみに待っていてほしいですね。