推しが武道館いってくれたら死ぬ|アイドルとオタク、両者に響く共感

平尾アウリによるマンガ「推しが武道館いってくれたら死ぬ」の最新刊である第3巻が発売された。「月刊COMICリュウ」で連載中の本作は、岡山県で活動する地下アイドルグループ・ChamJamとそのファンたちが織りなすコメディマンガ。作中にはグループの人気最下位メンバーの市井舞菜と彼女を推す女性・えりぴよの関係を描いた場面を中心に、アイドルオタクにとって共感できるシーンが多く登場する。

今回音楽ナタリーでは、自身もアイドル好きであるという作者の平尾アウリと、マンガやアニメと縁の深い4人組ガールズユニット・A応Pによる対談をセッティング。作中の場面やキャラクターについて語り合ってもらった。

取材・文 / 近藤隼人 撮影 / 佐藤類

全ページあるあるでした

──まずA応Pの皆さんから、「推しが武道館いってくれたら死ぬ」を読んでの感想を聞かせてください。

平尾アウリとA応P。

広瀬ゆうき めっちゃ面白かったです。私はアイドルが好きだからファンとしての共感もあるし、アイドル側としての共感もあるし。共感しかなかったです!

平尾アウリ それはそれは……すごくありがたいです。まさかアイドルの方にこのマンガを読んでいただけるとは思ってもなかったです。

巴奎依 感動してボロボロ泣きました。出てくるファンの人たちがすごく温かくて。

──読んでいて特に共感したシーン、印象に残ったシーンはどこですか?

広瀬 あり過ぎて。全ページあるあるでした。

水希蒼 私はChamJamのメンバーでは水守ゆめ莉ちゃん推しなんですけど、ファンからの人気投票でフォーメーションを決める話で、ゆめ莉ちゃんが初めて前列のポジションに行けて。ファンの人が「俺のゆめ莉が前列にいる!」って泣いてて、「なんていいオタクなんや!」と超感動しました。

平尾 ありがとうございます(笑)。

──先生はアイドルオタクだと伺ってますが、応援してる子が前列にいるとうれしいというファン心理からこのシーンを描かれたんですか?

平尾 そうです(笑)。センターの子が怪我とかでライブに出られないときって、代わりの子がセンターに入るじゃないですか。いつも後ろにいる子がセンターにいるのを見てうれしかったことがあって。

広瀬 実体験なんですね。

 私は五十嵐れおちゃん推しで、センターで人気のあるメンバーだから、人気投票の話が始まったときもれおちゃんは余裕だろうなと思ったんです。でも、れおちゃんがファンのくまささんに「私はまだ信じ続けていてもいい?」って聞くシーンがあって、やっぱり不安なんだ、昔から応援してくれてるくまささんだから甘えられるんだな、と思って。2人が積み上げてきた推しとファンの関係にすごく感動して、「とても理想的だな」と感じました。「1位にしてくれる?」とか、「信用していい?」って、アイドル側としてはファンの方にあまり言えないんです。お願いしちゃうとがんばってくれちゃうから。でも、れおちゃんはくまささんなら大丈夫だと思ってやったんだろうな、というのがすごく響いて、素敵だと思いました。

平尾 ……(巴を見ながら)かわいい。

A応P あはははは!

広瀬 「かわいい」って(笑)。

私の気持ちがマンガ化されてる!

──先生はファン側の心理は自然とわかると思うんですけど、アイドル側の心理描写はどのようにして描かれているですか?

平尾 完全に想像です。だから今日は本当に勉強になります。

広瀬ゆうき

広瀬 キャラクターのモデルもいないんですか?

平尾 そうですね。外見のモデルはいますけど。

福緒唯 先生も普段からアイドルの特典会に行かれるんですか?

平尾 行きます、行きます。

 主人公のえりぴよさん的な感じなんですか?

平尾 いやいや、全然違います(笑)。

──A応Pさんの現場に行かれたことは?

平尾 あります。特典会は剥がしが早かった……。

広瀬 お客さんが多いときは流しが早かったのかもしれないですね。

水希 マンガでも握手会で5秒間しか話せない、というところにすごく共感しました。5秒という本当に短い時間にありがとうって気持ちを詰め込まなきゃいけないから、言葉選びが難しくて。マンガだと舞菜ちゃんは自分推しのえりぴよさんに気持ちを伝えるのが下手で、本当に不器用だなと思いながら読んでました。

広瀬 舞菜ちゃんが「私からはえりぴよさんに会いに行けないんだ」と言ってたのにも共感しました。私もまったく同じことを考えたことがあって。“お金を払って会いに来てくれないとその方とは縁が切れてしまう”というアイドルとファンの関係にいつも切なさを感じてます。「5秒に愛を全部詰め込む」と言ってるえりぴよさんにも共感しかなかった。

平尾 共感していただけてよかったです。

広瀬 電車のホームでファンの人たちが「えりぴよ、舞菜から推し変したらしいよ」みたいに話してるのを舞菜ちゃんがたまたま聞いちゃって、すごくつらそうにしてるシーンも印象的です。実際に推し変されたら傷付くし、リアルだなあって。マンガを通してファンの方々にこの感覚が伝わればいいなと思いました。けっこう落ち込むんだよっていう。

──先生はそのシーンも、想像でアイドルの心境を描かれたんですよね?

平尾 そうですね。

広瀬 すごい! 舞菜ちゃんとまったく同じこと考えたことあったからびっくりしました。「私の気持ちがマンガ化されてる!」って。

福緒唯

平尾 描いてよかった(笑)。

福緒 A応Pのほとんどのメンバーは好きなアイドルがいたり、特典会にも行ったことがあるんですけど、私だけはアイドルオタクになったことがなくて。だからマンガを読んでいて、応援してくれている人がこんなにも愛を持って私たちのことを支えようとしてくれているんだな、というのがヒシヒシと伝わってきて、温かい気持ちになりました。

平尾 そう言ってもらえると、とてもうれしいです。ありがとうございます。

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上質な百合だよ!

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岡山県で活動するマイナー地下アイドルグループ・ChamJamの人気最下位メンバーの舞菜に、人生のすべてを捧げる熱狂的女性ファンがいる。バイトの収入を推しに貢ぎ、高校時代の赤ジャージを着て生活する彼女は、舞菜が愛しすぎてライブ中に鼻血ブーする伝説の女・えりぴよ。舞菜が武道館のステージに立つ日まで……えりぴよの全身全霊を傾けたドルオタ活動は続く。

7月18日に東京・池袋にオープンするTSUTAYA IKEBUKURO AKビル店では、店舗のビル屋上に「推しが武道館いってくれたら死ぬ」の巨大看板を展示予定。

イベント情報

A応P VS-LIVE Vol.5【流田Project】
  • 2017年7月16日(日)東京都 WWW
    OPEN 12:00 / START 12:30
    出演者A応P / 流田Project
A応P://WWW.LIVE 3rd
  • 2017年7月16日(日)東京都 WWW
    OPEN 16:30 / START 17:00
平尾アウリ(ヒラオアウリ)
岡山・倉敷市出身の女性マンガ家。2008年に「まんがの作り方」で徳間書店「月刊COMICリュウ」が主催する新人賞「銀龍賞」を受賞した。2015年8月号より、地下アイドルグループとそのファンたちを描いた「推しが武道館いってくれたら死ぬ」を連載している。2017年3月には全12作品を収録した「わびさび 平尾アウリ作品集」、4月には竹書房「ライフSTORIA」で連載した「青春の光となんか」の単行本を発売した。
A応P(エーオウピー)
A応P
情報誌「日経エンタテインメント!」とアニメ専門チャンネル「アニメシアターX」による企画「アニメ“勝手に”応援プロジェクト」の一環で、2012年9月に結成されたガールズユニット。2013年3月にシングル「Never Say Never」でCDデビューした。2015年11月にはテレビアニメ「おそ松さん」のオープニングテーマ「はなまるぴっぴはよいこだけ」を発売。2017年5月には候補生メンバーによるグループ・A応P ZEROが妹分ユニットとして始動した。同年8月23日にテレビアニメ「異世界はスマートフォンとともに。」のオープニングテーマであるシングル「Another World」をリリースする。