Ochunism|“自分以外の何かのために”2ndアルバムに込められた、新たに芽生えた使命と葛藤

もう自分のためだけの音楽ではない

──作品の話に移ると、2ndアルバム「Leave The Gate Open」は、アレンジャーとしてMori ZentaroさんやChocoholicさんが参加したり、いくつかの曲のストリングスアレンジで岡部磨知さんが参加していたりと、バンド外の人たちとのつながりが広がった作品になっていますね。あと、タイトルは1stアルバム「Gate Of Ochunism」から地続きなものが示唆されているように感じました。

凪渡 1枚目は、赤ちゃんがゲートの入口の前にいるジャケットだったんですけど、そのときはストーリー仕立てで作品を作っていけたらいいなと思っていて。それで、1stアルバムは1曲目の「intro」でゲートが開いて、最後には宇宙に放り出されて迷っているという構成を考えたんです。でも、今回はそういうことは考えていなくて。「Leave」という言葉が意味する「今いる場所から去っていく」「次のステップに行く」ということを意識していましたね。

──それこそ1曲目の「Leave」や、最後の「Dive」の歌詞を読むと、すごく“生き方”を綴っているように感じるというか。例えば「Leave」の「形じゃないものを 裸足でいこう ありのままで」という歌詞などは、凪渡さんがこの先どうやって生きていきたいと思っているのかが、素直に現れている歌詞のように感じました。今日お話してくださいましたけど、例えば凪渡さんは部屋で1人、誰にも知られずにラップしていることの尊さや大切さを身をもって知っていて。だからこそだと思うんですけど、凪渡さんの書く歌詞には、「大切なものをその純粋さのまま抱えて、どうやって生きていこうか?」という問いかけや、そこに対する決意が強く滲むんだろうなと思ったんです。

凪渡 「Leave」の歌い出しは「I leave 探しに行かないと」なんですけど、この感覚が大きなテーマとしてあって。「探しに行くよ」じゃなくて、「探しに行かないといけない」と歌ったことが、自分にとっては大きかったなと思います。「この場所にはいられないんだ」という感覚を歌えたのかなって。僕はこれまで音楽をやって生きてきて、自分たちの足で歩んできましたけど、結果としてバンドの状況も変わってきていて、もう自分のためだけの音楽ではないなと感じるんですよね。聴いてくれる人のためにも音楽を作らなければいけない、次のステージに行かないといけないんだって、すごく感じるんです。でも、あくまでも「ありのままでいくんだぞ」ということを歌いたかったんです、「Leave」は。

──そのくらい、凪渡さんの中で今何かが変わっていっている感覚があるんですね。

凪渡 誘われるような感覚はありますね。何かわからないものに「こっちへ来い」と呼ばれているような感覚。僕は音楽を始めるまで、どこか満たされない日々を送ってきたような気がするんですよ。本当に好きだと思えるものもないし、バスケをやっていたけど、それも惰性で続けていただけで全然思うようにいかないし。そもそもチームスポーツは苦手だし。ずっと「満たされへんな」と思って生きてきて。でも、最近すごく幸せなんですよ。もちろん、自分が今いるこの場所はまだまだ入り口だけど、それでも「自分がやりたかったことはかなり満たされているんじゃないか」と思う瞬間もあるんです。でも、満たされれば満たされるほど終わりもなくて……そういう葛藤がある。そこにはいろんな複雑さがあるんですけど、そういうことを考えていると、僕らはもう自分のために歩くんじゃなくて、漠然とした使命というか、背負ったものというか、そういうものを抱えていかないといけないんじゃないかという気がしてくるんですよね。

──その使命感というのは、明確に言語化できるものというより、捉えどころはないけど確かにあるものなんですね。

凪渡 そうです、そうです。なんというか……すごくシンプルなんですけど、Ochunismを好きになってくれている人たちをワクワクさせるために音楽をやりたいと今は思っていて。結局、人って自分のためだけに生きるのは難しいと思うんですよ。「自分のためだけに生きたい」って誰しもが思うかもしれないけど、意外とそれって無理で。結局は「自分以外の何かのために生きたい」と人は思っていると思う。その「何か」が回りまわって自分のためになるだけだと思うんですよね。僕は、僕らのことを応援してくれたり、支えてくれたりする人のことを考えることが結局「自分のため」なんだなと最近思うし、そうやって生きたいなと思っています。でも、その中で崩してはいけないのは、納得のいく作品を作り続けること。「ファンの人たちが喜ぶからこれでいいや」じゃなくて、自分たちも納得がいって、かつ、たくさんの人たちも喜んでくれる活動をしていきたいと思います。

──ちゅーそんさんはどうですか?

ちゅーそん 僕も、もともとは自分が自分の一番のファンで、自分で作ったものを自分で聴いていれば満足だったんですけど、Ochunismで作品を出し続けているうちに「ちゃんと聴いてくれる人がいるんだ」ということがわかってきて。それが、自分で思っていた以上にうれしいことだったんですよね。なので今は「バンドがどんどん大きくなればいいな」と思ってます。自分だけで楽しんでいたものが大きな輪になって、日本中を巻き込んで、世界中を巻き込むものになったら夢があるなと思う。ゆくゆくは地球を僕の脳みそにしたいです(笑)。

リアルなのかファンタジーなのか

──あと、すごく気になっていたんですけど、2曲目の「Ghost Ninja」という曲がありますよね。この「Ghost Ninja」という存在は明確なモチーフがあったりするんですか?

凪渡 この曲はちゅーそんがメインで作ったんですけど、ちゅーそんが雑に歌った仮歌の中に、なんとなく「Ghost Ninja」と聴こえる部分があって。「Ghost Ninjaってなんなん?」ってなったんです(笑)。

ちゅーそん 実家で、親を起こさないように布団にくるまって仮歌を入れたので、それが空耳みたいになったんです(笑)。

──なるほど(笑)。

凪渡 なので、「Ghost Ninja」ってなんなのか、こっちもわかってないんですよ(笑)。それ故に、つかみどころのない存在というか。本当か嘘かもわからない、幽霊なのか忍者なのか、存在しているかどうかもわからないふわふわした存在。だから歌詞でも「本当や嘘も構いません / 奴はGhost Ninja」と歌っているんです。謎めいたミステリアスな存在ですね。こういうリアルなのかファンタジーなのかもわからないような感じ、その両方が混ざり合っているくらいがOchunismには合っているなと思います。

公演情報

Ochunism One-man Live「Leave」
  • 2021年10月23日(土)大阪府 梅田Zeela
  • 2021年11月5日(金)東京都 TSUTAYA O-nest
Ochunism(オチュニズム)
凪渡(Vo)、ちゅーそん(G)、kakeru(B)、イクミン(Dr)、たいち(Key)、okada(Sampler)からなる、2019年結成の6人組バンド。ジャンルレスで多種多様なサウンドを武器に、関西を中心に活動している。2019年11月に開催された学生バンド日本一を決めるイベント「Next Age Music Award2019」にてグランプリを獲得し、翌2020年3月に1stアルバム「Gate of Ochunism」、同年11月にミニアルバム「INSIDE」をリリース。2021年10月には2ndアルバム「Leave The Gate Open」を発表した。