大人の階段をまた1つ上れた
──楽曲の制作は具体的にどのように進んでいったんですか?
あくまでも「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」という作品の楽曲になるわけなので、僕の一方的な思いだけを注ぐのはやっぱり違うなと。なので僕と小室さん、そして福田監督の3者でまずいろいろな話をしたうえで、そこからどんどん形にしていった感じでしたね。
──3者で話し合う中で導かれた楽曲のテーマはどんなものだったんでしょう?
ちょうど最初に3者でお会いするタイミングは、映画のティザービジュアル公開直後くらいだったんですけど、そこで監督からは「今回の作品はキラとラクスのラブストーリーである」という大きなキーワードをいただいたんです。そのときに、僕の中にはもう1つの解釈が浮かんだんですよ。それは「ガンダムSEEDシリーズ」が今回の劇場版に至る中で、シリーズ構成と脚本を手がけられていた、監督の奥様である両澤千晶さんがお亡くなりになられているということで。その事実は僕にとってすごく大きなことだったし、それは作品にとっても、もちろん監督にとっても同じだったと思うんです。なので、今作でのラブストーリーというテーマを聞いたときに、監督から奥様へのラブレターでもあるんじゃないかというイメージが僕の中に浮かんできたんです。もちろん勝手な解釈ですよ。僕の勝手なイメージなんだけど、それは決して的外れなものではないような気がしていて。なので、そういった思いをも楽曲に込められたらいいなと考えていましたね。
──同時に、今の時代にこそ強く響く平和への願いも込められているように感じます。ひいてはそれも“ラブ”につながるメッセージですし。
そうですね。ここ最近の世界を取り巻く状況を考えると、「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」という作品の役割や責任みたいなものも感じます。時間はかかりましたけど、このタイミングでこの内容の作品を公開することになったことにも何かの意味があったのかなと。
──作品のテーマを共有したうえで制作された小室さんの楽曲からはどんな印象を受けましたか?
最初はピアノとリズム、あとはボーカルのメロディだけの本当にシンプルなデモだったんですけど、その段階からものすごくドラマチックでした。そこから僕もいろいろな意見を言わせていただきつつ、何度もやり取りを重ねながら作業を進めたことで、そのドラマチックな印象は完成に近づくにつれてどんどん加速していきました。さらに小室さんはガンダム作品が紡いできた流れ、ストーリーみたいなものもすごく考えてくださっていたようで。レコーディングには「逆シャア」の「BEYOND THE TIME」で演奏されていたドラマーの山木秀夫さんとギタリストの鳥山雄司さんが参加してくださったんです。そういった素晴らしい諸先輩方に演奏していただけたのもすごく光栄なことでしたね。
──ものすごいスケール感のある楽曲ですけど、その熱量の高め方が特徴的ですよね。例えば、テンポの速いド派手なサウンドの上でハイトーンのボーカルを鳴らすことで熱量を高める手法もあると思いますが、それとはまったくベクトルを異にしている感じがしました。
そうそう。西川貴教名義で活動するときって、僕が持っているトップのハイノートをガツンと出した楽曲を制作していただくことが多いんですよ。ある意味、これまでの僕のイメージ通りの歌を求められるというか。でもね、やっぱり先生は違うんですよ(笑)。この曲では僕があまり使ってこなかったミドルレンジの声を求めてくださった。それが僕にとってもすごく新しかった。今さらですけど、大人の階段をまた1つ上れた気がしましたよ。デモをいただいたときには、僕が独唱してるというよりも、国際大会か何かで観客の皆さんと一緒に斉唱しているようなイメージもありましたからね。そういう部分も本当に斬新な印象でした。
──サウンド的にもどこか懐かしく、昔から知っていたかのように体に染みわたってくる感じがしますよね。
速いテンポの不規則なリズムにワーディなリリックが乗るという、いわゆる今の日本のポピュラーミュージックの流れとは真逆な感じですよね。すごくノスタルジックな雰囲気がある。とは言え、やっぱり小室さんならではのバランス感覚がそこにはあって。ベーシックは生の楽器を使っていますが、そこにフィルターシンセをはじめとする今の音色も入ってくる。しかも、この曲は5分弱ありますからね。3分台の曲があふれている現代において、しっかり聴き手を5分間釘付けにさせるっていう点においても、時代に流されない強さみたいなものをすごく感じました。
──ボーカルレコーディングにも小室さんは立ち会われたんですか?
もちろん。現場ではまず僕がこの曲にふさわしいと思うボーカルイメージをお伝えさせていただいて。楽曲のテーマも大きいし、けっこう強いワードが使われているリリックでもあるので、僕としては勢いで押していくというよりも、高い位置から俯瞰しているようなイメージで歌いたかったんです。それに対して先生から「それがまさに目指しているところだよ」とおっしゃっていただけた。なので、僕はもうある種、神の目線でダイナミックに歌っていった感じでしたね。
──そこは「ガンダムSEEDシリーズ」に深く関わってきた西川さんだからこそ表現できるアプローチだったかもしれないですね。
はい。もしかしたらテレビアニメからの地続きで、それこそ2008年公開だったら、もうちょっと曲へのアプローチは違ったかもしれないですね。シリーズとのお付き合いの時間が長くなったからこそ、今その目線を可能にしたんだと思います。自分がやりたいこと、伝えたい思いは、きちんとこのボーカルに結実しているなと納得できていますね。
──映画とともにこの楽曲も多くの人に愛されることになるんだと思います。
「ガンダムSEED」のファンの方は海外にもたくさんいらっしゃいますからね。どんどん広がっていってくれたらうれしいです。さらに言えば、先生からは「2人で一緒にパフォーマンスする機会を作ってよ」というリクエストもいただいてるんですよ。それが僕への宿題(笑)。きちんとご用意させていただければなと思っております。
ファンが腰を抜かす小室さんからのご褒美
──そして、シングルの通常盤にはもう1曲、小室さんがプロデュースされた「Believer」という曲も収録されています。こちらはどんな流れで生まれた曲なんですか?
今回のシングルは“西川貴教 with t.komuro”名義なので、カップリングにもう1曲必要になった場合はお願いしますっていう話を先生に軽くさせていただいたところ、本当にすぐ書いてきてくださったんですよ。しかもそれがまたとんでもない曲だったっていう。「え、何がどうなったの? どういう気持ち?」と思って(笑)。だってもうMetallicaみたいじゃないですか。
──往年のメタルやハードロックを感じさせる楽曲ですよね。
そうそう。「よもや、ここで!?」と思ってびっくりしましたよね。ファンの方はカップリングを聴いて腰抜かすんじゃないかと思います(笑)。
──ハードロック風味というよりは、けっこうまっすぐなハードロックアレンジですしね。
最初のデモではまあまあ激しめのオルガンも入ってました。Emerson,Lake&Palmerみたいなレスリー(スピーカー)がブンブン回ってるエレクトリックなオルガンが全編鳴りまくりで。これはもうステージに小室さんが出て来て弾く気満々なんだろうなって思うくらいの(笑)。でもね、最終的にはオルガンが全部消えてたっていう(笑)。
──あははは。小室さん的にはこういう曲も西川さんに歌ってみてほしかったんでしょうね。
そうだと思います。曲が上がった段階で「どうかな?」って聞かれましたけど、「いやもうこのままでいいです!」って言いました(笑)。僕の音楽人生も言ったらハードロックスタートなんでね。これはある意味、小室さんからのご褒美的なものでもあると思うんですよ。だったらもう全力で乗っかるしかないなと。歌録りのとき、「ここらへん適当に何かやっといて」と言われたりもしたんですよ。「え、適当に!?」と思いましたけど(笑)、思いきりシャウトさせてもらいました。
──間奏やアウトロのところですか?
そうそう。いろんなパターンを録るだけ録っておけば、小室さんのほうで選んでくれるだろうなと思ってたんだけど、あとで聴いたら全部使われていて。「全部使てるやん!」と思いました(笑)。
──捨てるところがなかったということですね。
そういうやりとりも含め、まさか小室さんとご一緒できるようになるなんて思っていなかったので、そこはフラットにいちミュージシャンとして楽しませていただきました。そういう経験ができて本当にうれしかったですね。まあでも、「Believer」のサウンドアプローチの魅力を現代の皆さんに理解してもらえるかどうかが気になるところですけど。ふざけてると思われるんじゃないか、みたいな(笑)。今回の2曲はいい意味で時代へのカウンターになっている、非常に満足のいく仕上がりになりましたので、皆さんにもぜひ楽しんでいただけたらなと思います。
プロフィール
西川貴教(ニシカワタカノリ)
1970年9月19日生まれ、滋賀県出身。1996年5月にT.M.Revolutionとしてシングル「独裁 -monopolize-」でメジャーデビュー。「HIGH PRESSURE」「HOT LIMIT」「WHITE BREATH」など数々のヒット曲をリリースした。2008年には「滋賀ふるさと観光大使」に任命され、翌2009年から大型野外ロックフェス「イナズマロック フェス」を主催している。2018年3月には西川貴教名義で初となるシングル「Bright Burning Shout」をリリース。2020年に「第45回滋賀県文化功労賞」を受賞した。2024年1月に、小室哲哉をプロデューサーに迎え書き下ろした、「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」主題歌「FREEDOM」をシングルリリース。
Takanori Nishikawa Official Website
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