みゆな×クボタカイ|遊ぶようにコラージュするように、同郷の次世代アーティストがコロナ禍で制作したコラボ曲

シンガーソングライターのみゆなが、ラッパー / トラックメーカーのクボタカイをフィーチャーした新曲「あのねこの話 feat. クボタカイ」を配信リリースした。今回のコラボレーションは、プライベートでも親交の深い2人が“遊び”の延長でセッションなどを日々しているうちに自然発生的に始まったものだという。みゆなのことを“海辺の野良猫”に喩えたクボタのアイデアをもとに書かれたリリックは、人懐っこくも気まぐれで凛とした強さとたくましさを併せ持つ女の子の様子を生き生きと描き出している。また、心地よく聴き手の琴線を震わせるクボタのフロウと、心をざわつかせるようなみゆなのアルトボイスが生み出す鮮やかなコントラストも、目まぐるしく表情を変える猫の瞳のようだ。

今回のインタビューと撮影は、福岡にいるみゆなとクボタに東京からリモートで実施。福岡といえばクボタの朋友であるRin音をはじめ、yonawoやMega Shinnosuke、MADE IN HEPBURNらユニークなアーティストがジャンルを問わず次々と現れ音楽シーンをにぎわせている。「コンパクトシティ」と呼ばれる福岡では今、何が起きているのか。同世代ならではの感覚で現場の空気を伝えてもらいつつ、「あのねこの話」の制作エピソードをたっぷりと聞いた。

取材・文 / 黒田隆憲
リモート撮影ディレクション / Riu Nakamura (Un.Inc)、Kumiko Takaki

今回のコラボは従姉妹さまさまなの!

──お二人の交流はどんなふうに始まったのですか?

左からクボタカイ、みゆな。

みゆな 私の従姉妹が福岡でダンサーやモデルをやっているんですけど、彼女がクボタくんの存在を教えてくれたんです。

クボタ 僕が自主制作で作ったMVに、みゆなちゃんの従姉妹に出演してもらったことがあって。その撮影が終わったときに「私の従姉妹も音楽をやっているよ」と教えてもらったんです。僕はそこで初めてみゆなちゃんの歌を聴いて「すごい声だな」と。

みゆな だから今回のコラボは従姉妹さまさまなの!(笑) 実際にクボタくんに会ったのは去年9月の「MUSIC CITY TENJIN 2019」(九州最大級の都市型音楽フェス)だったよね。クボタくんが初日、私が2日目だったんですけど、従姉妹がクボタくんを私のライブに連れてきてくれたんです。出演後の挨拶で初めて対面しました。会う前はすごく緊張していたんですけど、実際に話してみたらすごく優しそうでホッとしたのを覚えてる(笑)。それで改めてクボタくんの曲を聴かせてもらったらすごく素敵な声で、いつか絶対にコラボしたいなと思ったんです。

クボタ 僕もみゆなちゃんのライブを観て、歌声だけじゃないすごさを確信したよ。

みゆな うれしい! あとクボタくんは宮崎出身だから地元も一緒なんですよ。私の姉は4つ上なんですけど、クボタくんは3つ上。だから最初はお兄ちゃんみたいな感じなのかなと思っていたんですけどそうでもなくて(笑)。同じようなノリで話せるのでとても楽です。

知名度にこだわらずいいものが受け入れられる街

──昔から福岡には独自のカルチャーがあるなと思っていたんですけど、ここ最近また新しい潮流が生まれていますよね。実際に現場で感じることは何かありますか?

クボタ 僕は高校生くらいからフリースタイルラップバトルをやっていて、市内の大会などに出ていたんですけど、タトゥーとかバリバリに入ったアンダーグラウンドな人たちがたくさんいる中で僕やRin音はすごく浮いていて、浮いてる者同士で仲良くなったんです。でも僕らが浮いていたのは最初のうちだけで、徐々にアンダーグラウンドじゃないラッパーが増えていった気がします。

──Rin音くんと話したときに、福岡のラッパーRyotaさんが若者をフックアップしてくれていたと聞きました。

クボタ そうですね。地元のイベントやラップバトルなどに、僕らのような異端のラッパーも分け隔てなく誘ってくれたのがRyotaさんたちでした。福岡にはそういう“受け入れてくれる”文化があって、世の中的にはまだ全然知られていないような若いミュージシャンも先輩たちが積極的にフックアップしてくれるんですよ。Ryotaさんのような先輩たちがいたからこそ、僕らは活動がしやすかったんだと思います。あと、まったく別のジャンルだけど、同時期にyonawoさんとか今勢いがあるバンドも福岡から出てきていますね。

左からクボタカイ、みゆな。

みゆな 私、yonawoさんの大ファンなんですよ。今から2年くらい前かな、私が初めて福岡のライブハウスで演奏させてもらったときの対バンがyonawoさんだったんです。ライブを観た瞬間に“ひと耳惚れ”しちゃって、この引っ込み思案な私がライブ後に声をかけに行っちゃったんです。そんなことをしたのは初めてだったんですけど、そのくらいyonawoさんのライブに感動したんですよね。そのとき会えたのは運命だなと思って、ずっとyonawoさんのことを追いかけています。

──そうなんですね。そういえば以前、福岡のクリエイティブチームBOATが「福岡はコンパクトシティだ」と話してくれたことがあって。「街がコンパクトにギュッとまとまっているからこそ、違う業種、違う世代のクリエーターが交流しやすい」と言っていたんですけど、そんなふうに感じることはありますか?

クボタ めちゃくちゃ感じます。あと、街ぐるみで音楽フェスがあったりして、住んでいる人たちが普段から音楽に触れ合う機会が多いのでコアな音楽も受け入れられやすい土壌があるのかなと思いますね。僕らみたいなアーティストがヒップホップのシーンだけでなく、バンドものやポップス中心のイベントでもパフォーマンスさせてもらえるのは福岡だからかもしれないです。

みゆな 確かに福岡は“コンパクトシティ”という感じがする。東京のように都市がいくつもあるんじゃなくて、天神と博多に集約されているところもコンパクトですよね。天神の地下街とか覗くと、ほかではあまり見かけないけどオシャレな古着屋とかそういうショップが集まっているんですよ。人気ブランドだけを集めるんじゃなくて、いいと思えるものなら知名度にこだわらないところとか福岡っぽいし、すごくいいなあって思います。

星野源や米津玄師の影響を受けた世代

──福岡に限らず同世代で気になる存在はいますか?

みゆな 私が「この人、すごいな!」と思う同世代のアーティストは、諭吉佳作/menさんや長谷川白紙さん、崎山蒼志さんですね。ざっくりまとめるとコラージュっぽい楽曲を作る人。皆さんのことをすごく尊敬しているし、彼らの活躍を見ていると自分もがんばらなきゃなという気持ちになります。あと少し上の世代ですが、君島大空さんもよく聴いていて尊敬しています。

左からみゆな、クボタカイ。

クボタ 僕も君島さんのことが大好き。あと僕は藤井風さんや福岡出身のバンドnape'sも好きです。今、みゆなちゃんが「コラージュっぽい」と言ったけど、僕らが気になる同世代のアーティストは「フリースタイルダンジョン」や「高校生RAP選手権」みたいな番組でアンダーグラウンドだった人たちがいきなりメジャーになる姿を観たり、星野源さんや米津玄師さんのように、今までのポップスの流れを丸ごと変えたりしてきた人たちの活動を見て聴いて育ったから、コラージュ感のある今の世代の色が出ているんじゃないかなという気がします。

──「フリースタイルダンジョン」や「高校生RAP選手権」を入り口としたヒップホップからの影響と、米津玄師や星野源のハイブリッドなポップスからの影響は、直接的にせよ間接的にせよ、確かに今挙げてもらったアーティストや、お二人の音楽性にも感じられますね。アウトプットの仕方はそれぞれ違っていても、どこか共通点がある気がします。

クボタ 確かにそうですね。ものすごくコアな音楽とメインストリームの音楽の架け橋になってくれたのが星野さんや米津さんで、上の世代がそうやって切り開いてくれたおかげで僕ら世代の表現の間口がグッと広くなった気がします。