MARiA|ガルニデとは異なる歌と言葉で“ものがたり”を紡ぐ

GARNiDELiAのボーカルMARiAがソロアルバム「うたものがたり」をリリースした。

今年3月にポニーキャニオンへの移籍を発表したGARNiDELiA。移籍後第1弾作品としてリリースされるMARiA初のソロアルバムは、山下穂尊(いきものがかり)、橋口洋平(wacci)、じん、草野華余子、TAKUYA(ex. JUDY AND MARY)、山崎まさよし、本間昭光ら提供のラブソングを歌い上げるという、これまでのGARNiDELiAの作品にはなかったソロ作ならではのテイストに仕上がっている。アルバムの発売を記念して音楽ナタリーではMARiAへのソロインタビューを実施。強力な作家陣によりMARiAの新たな魅力を浮き彫りにする本作の制作秘話をたっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 音楽ナタリー編集部 撮影 / 堀内彩香

MARiAに歌わせたい曲を書いてください

──当然といえば当然ですが、アルバム「うたものがたり」はGARNiDELiAの諸作とはかなり毛色が違いますね。

MARiA

全然違いますよね。やっぱりガルニデでできないことをしたいし、ガルニデでできることはガルニデでやればいいから。と言っても変に意識していたわけではなくて。作家の皆さんには「MARiAに歌わせたい曲を書いてください」みたいなオファーの仕方をしたんですよ。その結果、こうなりました。

──その作家陣もバラエティに富んでいますが、人選はどのように?

作家の皆さんは、音楽プロデューサーの本間(昭光)さんと「MARiAにはこの人が合いそう、こういう感じの曲とかどうかな? 逆に私はこう思うんですが!」みたいに、いろいろとご相談をしながら決めさせていただきました。じんくんと(草野)華余子さんは、私の友達なんですよ(笑)。

──MARiAさんはガルニデでは作詞を担当していますが、今回のソロアルバムでは作詞にはノータッチですね。

そもそも私が何をしたくて「うたものがたり」を作ったかというと、自分以外の人が紡いだ言葉と出会ってみたかったからなんですよ。リード曲の「コンコース」で言うと、好きだったけどどうしても離れなきゃいけないタイミングって、どんな生き方をしてきた人でも1度くらいはあると思うんです。それは事情があって離れなければならなかった遠距離恋愛している恋人たちに限らず、例えばどうしてもやりたかったことを手放さなきゃいけない状況を経験したこともそう。若い世代の人に聴いてもらいたいのはもちろん、自分の世代よりも上の人たちにも聴いてもらって「あのとき、ああいうことあったよな」って思い返せるような曲になったと思います。性別や世代関係なく生きていると起こり得る現実のことを歌った曲なので「この曲は絶対リード曲にするぞ」と決めていました。素直にすーっと聴いてほしい曲ですし、歌ってほしい曲でもあります(笑)。いっぱい聴いてもらってカラオケとかで歌ってもらえたらすごくうれしいです。

──1曲目の「コンコース」をはじめとして、GARNiDELiAのイメージをいい意味で裏切る曲が多いですよね。

そうでしょう(笑)。しかも「コンコース」は橋口洋平さん作詞・作曲、つまり男性目線の歌なんです。私は女性だし、ガルニデで歌詞を書くときは女の子の強さみたいなものをけっこう意識しているところがあるから、とても新鮮な気持ちで向き合えた曲でした。この曲はこのアルバムのリード曲でもあるので、歌詞の目線など関係なく素直に受け取っていただけたらと思う歌ですね。

──2曲目のいきものがかり山下穂尊さん作詞・作曲、中村タイチさん編曲の「憐哀感情」も普段のMARiAさんの印象とはかなり違います。

「憐哀感情」を初めて聴いたとき、「小説だなあ」という印象を持ったんです。この曲からレコーディングが始まって「うたものがたり」というアルバムタイトルがまず浮かんだんですよね。それもあって、今回のアルバム制作の中でこの曲が自分を引っ張ってくれました。

──「憐哀感情」はニューミュージック的な要素の入った、GARNiDELiAで発表してきた曲たちとは似つかない、MARiAさんの新境地とも言える曲だと感じました。

アルバム1枚を通してどんな表情を付けるか考えたとき、本間さんと話す中で「MARiA節を封印しよう!」ということになったんです。「うたものがたり」での私は1人のボーカリストとして、素直に歌って、言葉を置くことだけに集中するようにしました。その中でも「憐哀感情」は、自分の歌と向き合うタイミングをくれた曲ですね。10年ガルニデをやってきて初めてこんなに自分の歌に向き合ったこと。そういうきっかけをくれた大切な曲でもあります。

──アルバム収録曲は10曲すべてラブソングですが、何か理由があったんですか?

アルバムコンセプトを本間さんと話し合う中で「やっぱり歌って、愛を伝えるものだよねー」という結論に至り。ひと言に「愛」といってもいろんな形があって、例えば「Brand new me」は自分への愛を歌った曲だと思うし、人それぞれ愛の捉え方が年齢やタイミングでどんどん変わっていくものだから、今回のようにいろんな作家さんの「愛」を歌えたのはすごく光栄でした。それぞれの曲で表現されている愛の形がどれも違っていて面白かったですね。

草野華余子からの“愛の挑戦状”

──3曲目の「ガラスの鐘」は早川博隆さんの作詞で、作曲は早川さんと村山シベリウス達彦さんの連名です。歌謡曲的なエキゾチズムを感じさせる曲でありつつ、非常に難解な曲という印象も……。

すっごく素敵な曲なんですけど、すっごく難しいんですよ。早川さんも「すっごく難しいよ」とおっしゃっていました。そもそもこのアルバムには難しくない曲は1曲もないんですよ。本当に皆さん「こんなの誰が歌えるの?」という曲をぶつけてくださって(笑)。でも、私は難しければ難しいほど燃えるタイプなので(笑)。

──続く4曲目は、草野華余子さん作詞・作曲の「おろかものがたり」です。草野さんのコメントによれば「今回、限界まで難しい曲を書いて!という挑戦状を叩き付けられたので、限界突破した難しくて切ない曲を打ち返してみた」とあります。

華余子さんはいつも難しい曲を書いているので「リミッターを外したらどんなのが来るかなー」と思っていたら、本当にヤバいのが来ちゃいました。デモを聴いた瞬間に興奮して華余子さんに連絡したら「愛の挑戦状だから受け取ってね」と言われたので、これはもう100倍にして返さないといけないなと。この曲、確かに難しいんですけど、歌うと本当に気持ちいいんですよ。この気持ちよさは歌わないとわからない。

──素人には歌えない曲ばかりだと思いますが……。

ぜひ挑戦してみてもらいたいです(笑)。全10曲のレコーディングが終わった時点で、いろんな引き出しをたくさん開けれた感覚はあります。特に山崎まさよしさんが作曲してくださった「マチルダ」では「私、こんな表現が歌でできるんだ」って。

──作詞はCOILの岡本定義さん、編曲は清水信之さんの、フォーキーでブルージーなナンバーですね。

最初に山崎さんが「ラララ」だけで歌ったデモを送ってくださったんですけど、「これでリリースできますよ」っていうぐらい、すでに完成してました。もう、歌詞が乗ってなくても歌なんですよ。あの声自体も本当に素晴らしいし、山崎さんの歌は音で遊ぶというか、音の空間をたゆたうような味わいがあると思っていて。私はガルニデではクリックに超正確に、キメキメで合わせていくような歌い方をしてきたので、それとは対極にあるんですよ。だから「私に『マチルダ』を歌えるのか?」と一瞬心が折れそうになったんですけど「私にしか歌えない『マチルダ』があるはずだ」と。ただ、レコーディングのときのことはあんまり覚えてなくて。この歌に正解はないから、自分で正解を決めるしかなくて、たぶん二度と同じ歌い方はできないんだろうなと思っています(笑)。