木村ひさしのことを知らなくても、音楽ファンなら「Clingon(クリンゴン)」の名前にピンとくる人は少なくないだろう。1994年結成、2000年にメジャーデビューしたClingonは、当時としては珍しいピアノ主体のサウンドで注目を集めた通好みのポップバンド。その中心人物としてボーカルとピアノを担当していたのが木村ひさしだ。

バンドは惜しまれながら2006年に活動を休止し、木村ひさしはソロに転向。木村はそれまで得意としていた洒落たアレンジや凝ったメロディラインを捨て、むき出しの自分自身と音楽だけを抱えて新たなスタートを切ることとなる。

そして、ソロとしてライブを重ねた木村は、着実にその表現力を高め続け、新たなファン層を開拓。このたび満を持してのソロシングル「ハロー」を完成させた。「ナタリー」では他メディアに先駆けて単独インタビューを敢行。この類い希な才能に迫ってみたい。

「まずはとにかくフルスイング、思いっ切り力入れて」

木村ひさし写真

「Clingonが活動休止になってしまって、しばらくはしょんぼりしてました(笑)。Clingonはぼくにとってすごく大事なバンドだし、だからこそかもしれないけど、毎日とにかくイライラして。なんかわかんないけどイライラするんです。しゃーないから練習だけはほんまに死ぬほどしてましたよ。ギターもいっぱい弾いたし、鍵盤も弾いたし。でも『それがどうなの?』って話ですよね。なんぼ練習してもどうにもならない。楽器ができるとか歌が歌えるとかはどうでもいい。上手くなっても何も変わらない。不安なことばっかりいっぱいあって。バンドもないし事務所もないしレーベルもないし。弱い自分がいるだけでした」

めちゃくちゃな告白だと思う。Clingonは大ヒットにこそ恵まれなかったが、そのサウンドは評価も高かったし、ライブの動員もそこそこあったはずなのに、それがなぜ?

「なんていうのかな、自分でも気づかないうちに守りに入ってしまってたんだと思う。ぼくが守ろうとしてたのはいま思えばほんまにちっちゃいもんなのに(笑)。それでいざバンド止めたはいいけどイライラするだけで。でも、イライラするっていうのは、どうにかしたい、現状を打開したいっていう気持ちの表れですからね。実際、そんな時でもライブに来てくれる人たちもいたし、その人たちのためだけでもいいからなんとかしたい、いまの自分の感情を伝えたいと。それであるときから気持ちを切り替えてね、他人の目とか気にせずに、まずはとにかくフルスイング、思いっ切り力入れてやっていこうと思った。そこから変わっていったんです」

“フルスイング”というのがいまの木村ひさしのキーワードだ。とにかく全力。無様なほどに力みまくって自分自身と向かい合う毎日。

「もちろんそれまでも精一杯やってたつもりなんですよ。でも例えば6時間みっちりギターの練習しても、それは一音一音集中してやってるわけじゃないんです。だから楽しいしずっとできるんですよね。でもフルスイングでやろうって思ったときから、弾かなくなったんですよ、ギターを。とにかく自分に集中して、自分と向き合うことにした。本当はもっと集中できるって気づいてしまったんですよね。それからは演奏することだけじゃなく、もう息を吸うこととか、血液を流すことまで集中してやってみようって。毎日毎日集中して過ごすことを心がけて、そしたら一瞬一瞬が楽しいし充実して、自分を信用できるようになってきた。ぼくは自分に嘘付いたときにほんまに悔しいんですよね。あかん、これじゃあかんて思うから、ほんまに純粋な気持ちであるためにどうすべきかってことを考えたら、自分に集中して自分を信頼するしかないと。まずはそこからはじめなきゃならんと、そういうふうに思ったんですよね」

「ふんどし一丁でも大丈夫」

真剣に集中して、毎日を純粋に過ごす。音楽とは一見関係のない人生訓のようだが、それを心がけることによって、作り出す音楽も明らかな変化を見せるようになったと木村ひさしは語る。

「何に対しても真剣に取り組んでいると、自信もついて、ふんどし一丁でも大丈夫じゃねえか?って気持ちになってくる。そこで思ったのは、ピアノでもギターでもどっちでもええやんってことなんですよね。自分自身が何かを発揮するということが大切なんです。バンドのときはそうじゃなかった。メンバーみんなで考えるからそのぶんすごくなる場合もあるけど、みんなの妥協点に収まる場合もある。いまはもうどうしようもないです。すべてがぼくの責任やし、コケたらコケたでぼくが転がるし、もうその分ぜんぶぼくの人生だから楽しくできるんじゃないかと」

木村はそれまで積み重ねてきたキャリアやテクニックを捨てて、生身の肉体と精神で勝負することを選んだ。敬愛する岡本太郎と同じ、1人の芸術家としてどこまでいけるのか。その到達点は見えているのだろうか。

「昔はやっぱり100点目指してやってたとこがあった。でもそれはおかしいんですよ。誰かが100点つけてくれるとして、なんであなた100点つけれるんですかって話で。やっぱ芸術はそういうもんではないと思うから。だから、うん、いまはライブに来てくれたお客さんに喜んでもらうことにはすごい集中してて全力やけど100点は別にいらないって感じ。こんだけ後先考えずに走りはじめたことはたぶんいままでなかったですね。いま自分でもどうなっていくかわからないし、この状況がめっちゃ楽しいです」

「自分の内側から出たものが素直に嬉しいと思う」

そしてデビューシングル「ハロー」が、2007年11月7日ついにリリースされる。ストレートすぎるほどにストレートな、まさにいまの木村ひさしを象徴するような楽曲だ。

「なんやろね、これはほんまに流れるように出てきた曲。最初から歌詞もメロディもコードも自然と出てきたんかな。以前のぼくだったら『ハロー、ハロー、ハロー、ハロー』って4回も言わないと思うんですよ(笑)。でもそれを言っちゃってる。その説得力を信じたいし、そういうのがやっぱり強いと思うんです」

一聴して耳に残るシンプルな力強さは、バンド時代に"ポップ職人"的なスタンスで凝った楽曲を生み出してきた男の発言とは思えない。楽曲作りのノウハウは誰よりも持っているはずなのに。

「そうですね、昔は確かにやってましたよ。歌詞は比喩を重ねて、音も転調して転調してほら戻ってきましたみたいな。そういうのはいまはもういらないですね。ぼくはそういうことが大好きやと思っていたけど、いまはとにかくフォークギターで作れるような曲しかやりたくない。そこからちゃんともりあがってアレンジしていって、気持ちよくなれればいいんです。遠回りだけど、でもこうやっていれば、いつか確立したオリジナリティが絶対に出ると思ってるし。うん、だから何々風とか、何かと何かを混ぜたらこうなるでしょっていうのはもうしんどい。ほんまに自分の内側から出たものが素直に嬉しいと思うからね」

「フルスイングのライブをはじめてから、
拍手の音量が変わったんです」

そして、いまの木村ひさしの凄さを知りたいなら、ぜひ一度そのライブを見るべきだ。軽快なポップミュージックだと思っていたら、いきなり度肝を抜かれるはず。別にステージ上で暴れるわけではないし、派手なパフォーマンスがあるわけでもない。ただただ鬼気迫る勢いで集中して演奏をするだけで、異様な迫力を生み出しているのだ。

「ライブについても、あるときからフルスイングでやってみることにしたんです。いや、もちろんそれまでもいつも本気だったんだけど、とにかく全身の力を集中させてみた。もう本当の意味でふりしぼる、渾身のライブですよね。そしたらもうえらいことになりました。すごい興奮状態で、ライブ終わったあとも自分が抑えられない。いまはバンドでやるときは、ぼくとドラムとベースのトリオでやってるから、音が少ないしざっくりとしかアレンジできないんですけど、でもその3つの楽器をカバーするのはもう心しかないっていう状態で全員が演奏していて。だからリハからもう100%以上のリハをやってるし、本番はもっとすごいことになってる。もうなんていうかな、力んで骨が折れる状態みたいな(笑)。あー、もうよくわかんないな、難しい。でも普通の状態ではないです。とにかくいまは普通に音楽やって気楽に聴いてくださいっていう状態じゃないですね。どこが違うのかはぼくもわかんない。でもそういう気持ちでライブをやりはじめてから、とにかく拍手の音量が変わったんですよ。なんかもうほんまに。前はペラペラーだったのがバチバチー!ってなった。いやほんとにもう、ほんまに嬉しかったなあ。それを味わいたいから、フルスイングでやるし、それがライブに来てくれた人たちに、いまのぼくができることやから。いつも人生最後のライブだと思ってやってるんです」

1人の男が全身全霊で臨む人生最後のライブ。ぜひその目で確かめてみてもらいたい。

木村ひさし ソロ1stシングル『ハロー』 2007年11月7日発売 1,000円(税込)

■RESI-2009
■UMA / RESERVOTION RECORDS
■タワーレコード限定販売

収録曲
  1. ハロー
  2. 今日はなんだか(シュガーベイブ カバー)
  3. De Do Do Do,De Da Da Da ~Japanese Version~(THE POLICE カバー)
  4. キャンディ(原田真二 カバー)
「ハロー」フル試聴
「ハロー」プロモーションビデオ
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木村ひさしプロフィール

1972年10月20日誕生!天秤座のB型!

大阪生まれ、大阪府三島郡島本町育ち、1999年に上京し現在は目黒区在住。

初めて買ったレコードは10歳の時、ポール・マッカートニー&マイケル・ジャクソン sg「say say say」マイケル目当てだったが、隣に写るおじさん(マッカートニー)に興味、それ以来、ビートルズ。

23歳の時にスティービー・ワンダーのライブを大阪で観て衝撃を受け、突然、独学でピアノを始める。

Clingonでピアノ・ヴォーカル、ソングライターとして1999年から5枚のシングルと5枚のアルバムを発表する。

2006年、Clingon活動休止。その後、ギターで弾き語りを始める。

2007年、ソロ弾き語りをバンド編成に。

現在、ベースに伊藤健太、ドラムにモリヨシキを迎えてトリオ編成で活動!

スケジュール
11月9日(金)
青山 月見ル君想フ
「SUGARTRACKS#11」
11月11日(日)
TOWER RECORDS新宿店
7Fイベントスペース
“木村ひさし 1st single「ハロー」発売記念インストアライブ”
11月23日(金)
下北沢 モナレコード
「PYONプレゼンツ東京アワーVOl.4」
12月8日(土)
TOWER RECORDS梅田NU茶屋町店
イベントスペース
“木村ひさし 1st single「ハロー」発売記念インストアライブ”
12月22日(土)
青山 月見ル君想フ
「ハロー!ハロー!ハロー!木村ひさし生誕祭! 」