ヰ世界情緒「色彩」インタビュー|幅広く奥深い世界観、創作に対する思いを紐解く (2/2)

自分にとって2つの大切なものが重なった

──ここからは2ndアルバム「色彩」について聞いていきたいのですが、まずは作品が完成した率直な感想を教えてください。

ジャケットから受けるイメージも含めて、1stアルバムと比べると世界観がより多面的になったなと思っています。

ヰ世界情緒「色彩」α盤パッケージ

ヰ世界情緒「色彩」α盤パッケージ

ヰ世界情緒「色彩」β盤パッケージ

ヰ世界情緒「色彩」β盤パッケージ

──α盤のジャケットイラストはイラストレーター・れおえんさんによるもので、一方のβ盤のジャケットイラストはご自身で描かれてますね。

はい。1曲1曲が細い繊細な糸でつながってるようなイメージと言うんですかね。その糸がすごく長いから、紐付いている楽曲たちがいろんなところにふわふわと飛んでいくけど、全部がしっかりとつながっている、みたいな。繊細さやきらびやかさみたいなものが、「色彩」には表れていると思っています。

──そういった世界観の構築はパッケージ化した結果生まれたものなのか、構想の時点で考えていたのか、どちらだったんですか?

結果として生まれたものだと思います。1曲1曲をアルバムのために制作したわけではなかったので、その時々に表現したいものを曲にしてきた結果、最終的につながりのあるアルバムになったのかなと思います。

──収録曲について詳しくお聞きしたいんですけど、リードトラックの「描き続けた君へ」はアルバムに収録されるのを待ち望まれていた楽曲といいますか、ファンの人たちの中ですでに高い人気を誇っている印象があります。

「描き続けた君へ」は、最新の曲の1つではあるんですけど、「Anima」という自分のライブシリーズがあって、その中で、私やチームが描こうとしてきたものに対して作っていただいた曲です。「Anima」はいろんな受け取り方ができるライブシリーズですが、「創ること」が大きなテーマとしてあるなと自分としては思っていて、創作のときの張り詰めた気持ちや緊迫感、怖さ、その逆の「やってやるぞ」みたいな勇気が、音として重なり合っていくイメージがあるんです。何かを表現したいなと思ったときのちょっと駆け出したくなる気持ちと言うんですかね。「描き続けた君へ」は、そういう感情が形になった大切な楽曲です。

──歌詞にはいろんな葛藤が混ざっていますが、最終的には前向きな楽曲と捉えていいんですか?

そうですね。結果的に出てくるのは「やりたい!」という気持ちなんですけど、そこを経由するうえで、負の方向にも突き進むみたいな。でも最終的にたどり着くのはやっぱり前向きなところで、それまでに味わってきた気持ちが音として落とし込まれています。

──多種多様な創作活動を行うヰ世界情緒さんらしいコンセプトの楽曲だと思います。

ライブの構図を考える中で、チームの中から「創ること」という楽曲テーマのアイデアが出てきて。逆に言うと、自分1人では絶対に出てこなかった発想だと思いますし、客観的に自分を見る、みたいな視点は気付きにくい部分もあるので、チームで動いているからこそできた楽曲だと思いますね。

──続いて、「かたちなきもの」についてお聞きします。初めて作詞にチャレンジされた楽曲ですが、作詞を手がけることになった経緯や、挑戦してみての感想を教えてください。

2022年に「ヰ世界情緒展」という展示会を開催させていただいて。展示の半分がいろいろなクリエイターさん、残り半分が自分自身で描いたイラストなどの展示物だったんですけど、制作を始める段階からこの展示で発表することが決まっていた楽曲が「かたちなきもの」だったんですね。そこで、作詞をしたいと自ら言ったのが始まりでした。最初は自分が発信していきたいと思う世界観を作る一環で、歌詞を書いていたのですが、書いているうちに自分が創作に対して思っている気持ちと、ファンの皆さんに対して思っている気持ちが重なるところがすごく多いことに気が付いて。なので「かたちなきもの」は、自分にとって2つの大切なものへ向けて書いた楽曲です。

──実際に歌詞を書いてみてどうでした?

音に合わせて歌詞を書いていく作業を初めて経験して。自分の中の言葉、表に出して伝えたい気持ちはたくさんあったのですが、それを言葉で縫い合わせていくのが難しかったです。作詞って、何か正解が決まっているわけではなくて、無限に可能性があるじゃないですか。もちろん作詞以外の創作も同じような難しさはあると思うんですけど、自分の思いを発するうえでの責任感のようなものをすごく感じましたね。でも最終的には楽しいという感情が勝っていたと思います。あと意外だなと感じたのが、全部が自分の言葉だから、歌うときに恥ずかしくて倒れてしまうんじゃないかと思っていたんですけど(笑)、そうでもなくて。全然気にならなかったですね。

──歌詞の制作時間はどのくらいだったんですか?

1カ月くらいだったと思います。ゆるゆる考え始めて、言葉を出していって、それをまとめる。そして最後の1週間くらいで詰めていきました。室内にいると、行き詰まってしまうことが多かったので、空いた時間で公園に行って言葉を探してみたり、伝えたい情景を思い浮かべたりして歌詞にしていきました。自分の中に伝えたい感情があるとして、その感情が浮かんだときの情景はどんなだったかなって考えたんですよ。誰かしらその感情を呼び起こす対象の人がいて、その人の肩の上に木漏れ日が照っていたなとか、私より背が低かったなとか、影はどのくらい伸びていたかなとか、細かく頭に浮かべながら言葉に落としていって。自分の見ている景色を、聴いている人にも追体験してもらう感覚で書いていきました。

アルバムを聴いてくれた人たちが豊かに生きられたら

──ほかの収録曲だと、昨年6月に行われた「SINKA LIVE SERIES EP.Ⅰヰ世界情緒 2nd ONE-MAN LIVE『Anima II -神椿市参番街-』」のエンドロールで初披露された「ANGELIC」も印象的でした。

「ANGELIC」もライブに当てた楽曲ではあるんですけど、例えば「描き続けた君へ」は、自分の創作やヰ世界情緒としての活動について書いた部分が大きいんですね。それに対し、「Anima」のエンドロールとして制作した「ARCADIA」は、より自分自身を歌にしていただいている側面が多くて。すごく幸福感を感じられる曲ではあるんですけど、感情って白か黒で割り切れるものじゃないと思っているんです。白と黒の隙間の複雑な側面を汲み取っていただいてできあがったのが「ANGELIC」ですね。

──なるほど。このほかに、アルバムを制作してきた中で特に印象に残ってる楽曲があれば教えてください。

今話した3曲以外だと、今まであまり挑戦したことがない歌唱法の楽曲が多くて、ジャズっぽい曲やポエトリーラップの曲は印象深いですね。ジャジーな曲の「此処に棘と死を」に関して言えば、ノリ方と言いますか、スウィングしてる感じをどう乗りこなしていくか、その中でどこの言葉を重たくするのか、そのあたりの表現は難しかったです。ポエトリーラップも同じで、自由度が高い分、どういうふうに響かせていくのかが難しくもあり、楽しいところでもありました。

──ポエトリーラップの曲は「グレイスケイル」ですよね。今までラップに対するディレクションを受けたことはあるんですか?

V.W.P(花譜、理芽、春猿火、幸祜とともに結成したバーチャルアーティストグループ)でラップの曲を歌ったとき、音に対する乗り方を教えてもらったことがありました。ディレクションをしてくださった方に教えてもらいながら一緒に歌った瞬間が強く記憶に残っているし、そのときの経験が今回のレコーディングですごく生きたなと思います。

──楽曲の制作に際し、技術面ではなく、精神面で意識したことはありますか?

自分はとにかく気負ってしまうことが多いんですよ。レコーディングの前日に気合いを入れすぎて眠れなかったり。当日は当日で、柔軟をしてからレコーディングに臨むんですけど、そこでも気合いを入れすぎて、全然体を伸ばせてない気がするというか、むしろ体が折れちゃうんじゃないかと思うくらい変な方向に曲げていたりして、スタッフさんに「なんか自己流でやってるね」と言われました(笑)。

──では最後に。「色彩」はどんな人に聴いてもらって、どんなことを受け取ってほしいですか?

いろんな曲の聴き方があると思うので、こういうものを、というのはないのですが、欲を言えば曲から何かを感じてもらえたら、それだけでうれしいですね。聴いてくれた人の力になれたらいいなと思っていて。自分もいろんな音楽を聴いて、たくさん勇気をもらってきて、曲から受け取る“パワー”みたいなものを大切にしているので、それを自分の曲から受け取ってもらうことができたら本当にうれしいです。アルバムを聴いてくれた人たちが豊かに生きられたらいいなと、常に思っています。

プロフィール

ヰ世界情緒(イセカイジョウチョ)

KAMITSUBAKI STUDIO所属の“バーチャルダークシンガー”。シンガーとしてだけでなく、イラスト、ナレーション、声優などさまざまな方面で表現を行う。2019年にYouTubeに動画を投稿する形で活動を開始。2020年2月に1stオリジナル楽曲「物語りのワルツ」をYouTube上で発表し、2021年10月に1stワンマンライブ「Anima」をオンラインで開催した。同年12月に1stアルバム「創生」、2024年3月に2ndアルバム「色彩」をリリース。花譜、理芽、春猿火、幸祜とともに結成したバーチャルアーティストグループV.W.Pでも活動している。