INORAN「IN MY OASIS Billboard Session」|ソロ25周年、すべては導かれるように。

LUNA SEAやソロプロジェクトなどでさまざまな展開を見せるINORANが、コロナ禍に宅録で制作したソロ3部作に続き、自身のソロ25周年を記念したアコースティックアルバム「IN MY OASIS Billboard Session」を6月29日にリリースした。本作はバイオリン、チェロ、ピアノ、INORANのギターとボーカルという編成で一見シンプルに見えるが、実はINORANの音楽美学が詰まったライブレコーディングによる実験作となっている。音楽ナタリーでは、彼と旧知の仲であるライター・ジョー横溝を聞き手に迎えてインタビューを実施。INORANは自分なりの音楽美学を熱く語ってくれた。

取材・文 / ジョー横溝

Billboard Liveはスペシャルな場所

──ここ10年ほどINORANのソロのスタイルはバンドによるロックだったわけですが、コロナ禍では一転して宅録によるアルバムを3枚リリースしました。そして今回は弦楽器をフィーチャーしたアコースティックアルバムになっています。今までのアルバムと系統が違うので、まずはどういう経緯でアコースティックアルバムに至ったのか、その経緯とコンセプトから教えてください。

2019年にBillboard Liveで初めてアコースティックライブをやって、それから定期的にやってきて、それを形にしようと思ったのがきっかけです。自分が音楽表現をしてきた中でも、Billboard Liveは素晴らしく、スペシャルな場所で、だからこそ、そこでアコースティックライブをやるのは、正直、最初はすごく挑戦だったんです。いつしか回を重ねるごとに、そこでしか得られないものや、感じる気持ちがあって、Billboard Liveという場所が自分のフィールドの中ですごく大切な場所になっていって。弦楽器2人、ピアノ、僕の4人でやるっていう、Billboard Live限定アレンジの特別な編成でやってきて、それを作品化してほしいという声も多かったんですよね。今年はソロ25周年というところで、そもそも1年に1枚は新しいアルバムを作りたいので、次の作品を考えていた中で「Billboardのアレンジでアルバムを出したらどう?」という話がスタッフからあって、いいかもしれないと思ったんです。自分の中で、わりと機は熟した感じがしたので。Billboardでライブもかなり回数を重ねましたからね。

INORAN

──足かけ4年ですもんね。最初のきっかけはなんだったんですか?

Billboardから話をもらって、うちのスタッフとも「Billboardでやったら面白くない?」という話になったんですよ。だけど、僕はボーカリストじゃないから、「アコースティックで歌うのはけっこうキツいんじゃないかな」と、最初は思っていましたね。

──最初のステージは覚えてますか?

覚えてます。でも、そういう思いに勝るものがBillboardのステージにはあって、あそこでしか得られないものを感じたんですよね。あれはなんだろうなあ……空気なのかもしれないですけど。

ライブレコーディングをした意図

──このアルバムの話を聞いたとき、INORANというミュージシャンの誠実さを感じたんですよ。

誠実さ?

──はい。コロナ禍で大変な時間を過ごした2年間、ここに来て世間も音楽業界も制限がなくなり始め、活気が戻ってきたことはうれしいんですが……180°の変貌ぶりに戸惑う人もいると思います。INORANさんのBillboardでのライブは2019年からの4年、つまりその歴史の半分はコロナ禍とともに歩んだライブです。それをちゃんと作品にして出すところに誠実さ、優しさを感じました。

ありがとうございます。常にそういう流れって、スピリチュアルじゃないけれど、導かれていくものなんだと思っています。そういう観点からも、誠実ではあると思います、自分自身で言うのもなんですけど。今の話を聞いたときに思い出したことがあって……コロナ禍で最初に僕がライブをできたのはBillboardだったんですよね。音楽業界に対する風当たりがものすごく強い中で、Billboardはライブをやらせてくれたんです。当時のその準備たるやすごいもので、完璧な感染対策をして用意してくれるBillboardのスタッフの動きを見ていたので、僕は感謝しかないし、リスペクトもしていて。そういう意味でも、このアルバムに導かれたというのもあると思います。

──文字通り導かれるように今回もBillboardでのレコーディングを?

そうですね、一発録りのライブレコーディングをしました。

──お客さんは入れずに?

ええ。でも、ライブと同じように本当に照明も焚いたし、お客さんがいないのを除けば完璧なライブでのレコーディングですね。

──それってコロナ禍に宅録で制作した3部作と通常のライブの間のスタイルであると同時に、コロナ禍でのライブのスタンダードなやり方というコンセプチュアルなレコーディングですよね。

そこには意図が2つあって。1つはBillboardという素敵な場所でライブセッションをしたかった。例えば、「MTV Unplugged」や、The Beatlesの「Abbey Road Recording Sessions」とかって、そこでしか味わえない空気、場所も詰まったスペシャルな作品なんですよね。僕は今回、そういうスペシャルなことをBillboardでやってみたかった。もう1つはセッションスタイルで録りたかったんです。

──セッション?

例えばアルバムを作るときに、レコーディングはレコーディングスタジオでレコーディングスタッフとする。でも、アルバムのジャケットは別の日に、別の場所で、別のスタッフで撮影をする。ミュージックビデオも同様で、別のタイミングです。それぞれの制作に携わっている人たちは、1つの同じ作品を一緒に作ってるんだけど、交わることがないんです。気持ちは一緒だと思うんですけど。今回はそれをいっぺんにやったんですよ。アルバムに関係するクリエイトをいっぺんに、それぞれのスタッフをバーンと集めて、同じものを同じ日にその時間で制作したんです。

──それはすごい!

やっぱり僕はそういうのが好きなんでしょうね。

──事前に相当リハは積んだのですか?

リハはそんなやってないですけど、スタッフとの打ち合わせは何回かやってます。遠慮してほしくないし、戦ってほしいけど、譲るところは譲らないと完成しないわけですよ。例えば、ビデオチームからしたら照明が暗いと、撮影が厳しい。でも演出のイメージは暗いほうがいいということになると、それは話し合うしかないわけです。1つのものを作るというのはそういうことなので。難しかったけど、それが合わさったとき、また新たなものが生まれるので。

INORAN

──かなり面白いし、この分断の時代にとても示唆的な挑戦ですね。

そうかもしれないですね。でもあれを毎回やってたら、もたないかも(笑)。相当な緊張感なので。

──本当に1日で作れちゃったんですか?

音も映像も写真も、基本的には、1日で制作しました。もちろん、あとで音を足したりはしてますけど。

──本当に画期的ですね。

そうしたかったんでしょうね。コロナ禍の反動かもしれないしね。「みんなで同じ会場で一緒にバーベキューをやりたい」みたいな。みんなで一緒に何かをやるのって幸せなことですよ。

──INORANさんらしいですよね。ソロでは今までもレコーディング現場にいたスタッフの方をコーラスで参加させたりしてますもんね。

はい、「混ぜちゃえ」って思うんです。混ぜちゃったほうが楽しいですからね。「人生もそうだろ? 混ぜないと面白くないだろ?」って思うんです。