韓国出身メンバー3人と日本出身メンバー2人からなる5人組ガールグループ・ILLIT(アイリット)が、グループ初の日本オリジナル曲「Almond Chocolate」をリリースした。
2024年3月にリリースされたデビュー曲「Magnetic」(1stミニアルバム「SUPER REAL ME」収録曲)は、K-POPアーティストのデビュー曲として初めて米ビルボード「Hot 100」と英「オフィシャルシングルトップ100」にランクイン。Apple Musicの「グローバル年間チャート」でK-POPグループの楽曲として最高順位を記録するなど、ILLITはわずか1年足らずで数々の驚異的な実績を残した。日本でもその勢いは止まらず、年末には「日本レコード大賞」で新人賞を受賞し、「NHK紅白歌合戦」初出場も果たしている。
そんなILLITが2月14日にリリースした新曲「Almond Chocolate」は、Nakajin(SEKAI NO OWARI)と音楽プロデューサー・Pdoggがタッグを組み書き下ろした楽曲で、3月7日に全国公開される映画「顔だけじゃ好きになりません」の主題歌に決定している。この特集では、新曲「Almond Chocolate」や日本オリジナル曲のリリースを経てさらなる活躍が期待される彼女たちの魅力を深く掘り下げるとともに、5人の輝かしく濃密な“デビュー1年目”の足跡をたどる。
文 / 岸野恵加
「I WILL」×「IT」=ILLIT
ILLITについて紹介する原稿をしたためようとキーボードに向かうと、彼女たちのデビューからまだ1年も経っていないということにふと気付き、とても驚いた。わずか1年弱の活動歴とは思えないほど、5人が輝かしく濃密な活躍を見せてきたからだ。
ILLITはHYBE MUSIC GROUPの1つであり、ENHYPENも在籍するレーベル・BELIFT LAB所属の5人組ガールグループ。2023年9月まで放送されたサバイバル番組「R U Next?」を経てメンバーが決定し、2024年3月25日に1stミニアルバム「SUPER REAL ME」でデビューした。
自主的で積極的な意志という意味の“I WILL”と、特別な何か“IT”を合わせて命名されたILLITというグループ名には、「何でもできて、何にでもなれる潜在力と期待感」という意味が込められている。デビュー時の5人の平均年齢は18歳。無限の可能性に満ちあふれた彼女たちにぴったりのチーム名だ。
数多くのサバイバル番組を観てきた筆者だが、「R U Next?」での参加者のレベルの高さと展開のシビアさは、強く印象に残っている。参加者22名は全員、練習生として研鑽の日々を送ってきた精鋭ぞろい。冒頭から終盤まで完成度の高いステージが繰り広げられ、1位を獲得した練習生が中盤で脱落するなど、目まぐるしい展開も特徴的だった。そんな熾烈な中でデビューを勝ち取った、YUNAH、MINJU、MOKA、WONHEE、IROHAの5人。どんなグループになるのだろうと楽しみに待ち、番組終了から半年後ついにILLITがベールを脱ぐと、彼女たちのユニークな輝きに心を奪われることになる。
5人が紡ぐリリカルとリアル
近年のK-POPガールズシーンにおいては、媚びないスタイルでカリスマ性を放ち同性から憧れられる、いわゆるガールクラッシュなコンセプトのグループが人気を集めている。その中でILLITは、まるで隣のクラスから出てきたような親しみやすさにあふれ、10代ならではのリアルな雰囲気をまとってシーンに現れた。
デビュー作「SUPER REAL ME」の1曲目は「My World」。「これが私の世界 ちょっと変だと思う? これが本当にリアルな私」と歌い、現実も空想もすべて飲み込んだ、彼女たちにとってのリアルな世界をつづっていくことが宣言されていた。
ミニアルバムで提示されたのは、どこかリリカルで、平成の原宿系や青文字系ファッション誌を思わせるテイストだ。近年、世を席巻しているY2Kの文脈にあることは間違いないが、それまでのK-POPにはなかった“ゆめかわ”な独特のガーリーさに、リリース前のティザー段階から期待の声が多く起こっていた。筆者はばっちり昭和生まれだが、そんなアラフォー女も、かつて憧れた、自分だけの秘密の世界、魔法や超能力、空想の中で空を飛ぶユニコーン……自分の中の“少女”がウズウズと顔を出してきたかのようなときめきを覚えた。
「Magnetic」の爆発的ヒット
「SUPER REAL ME」のリード曲「Magnetic」は破格のヒットを飛ばし、ILLITは一躍スターダムを駆け上がっていく。「Magnetic」の好きな人に惹かれる心情を磁石のN極とS曲に例えた詞とメロディ、歌詞を手の動きでかわいらしく表現した振付は、一度目にすると脳裏から離れない。そこへ彼女たち自身の魅力や、独特のガーリーなコンセプトがぴったりと掛け合わさることで、唯一無二の魅力に昇華された。
「Magnetic」はK-POPアーティストのデビュー曲として初めて米ビルボード「Hot 100」と英「オフィシャルシングルトップ100」にランクインするという快挙を成し遂げ、Apple Music「グローバル年間チャート」ではK-POPグループの楽曲の中で最高順位を記録。ほかにも列挙したらそれだけで本稿が埋まってしまいそうな勢いで、記録を打ち立て続けた。ミュージックビデオの再生回数は、驚異の1.9億回(2025年2月現在)に上っている。
「Magnetic」の記録的ヒットを受けて、ILLITは韓国の「2024 MAMA AWARDS」「MMA2024」のほか、日本でも「第66回日本レコード大賞」で新人賞を受賞。K-POPガールグループが「日本レコード大賞」で新人賞を受賞するのは13年ぶりの快挙だ。また年末には「NHK紅白歌合戦」に初出場。そして「2024 Billboard Music Awards」の「Top Global K-POP Song」部門受賞候補に最年少でノミネートされるなどワールドワイドに注目を浴び、2024年を代表する新人グループとなった。
親しみやすくも生半可ではないパフォーマンス
先ほど“親しみやすい”という言葉を用いたが、ILLITのパフォーマンスは決して生半可なものではない。日々練習を重ね、さらに宿舎で生活をともにすることで、シンクロダンスは息ぴったり。指の角度まで完璧にそろっている。動きはキュートだが、手足を大きく動かす振付が多く、しなやかながらダイナミックなのも特徴的。髪の毛の毛先まで計算して動かしているのではないかと思ってしまうほど、繊細な表現に心を奪われる。なお振付には、本人たちの普段の何気ない行動を表現した動きも盛り込まれているそうだ。
2024年10月にリリースされた2ndミニアルバム「I'LL LIKE YOU」で、ILLITならではの世界はさらに深化。同作の初動販売量は「SUPER REAL ME」を上回る38万2621枚を記録し、日本ではオリコン週間洋楽アルバムランキングで1位を獲得した。恋を“親知らず”に例えるという大胆な発想のリード曲「Cherish (My Love)」では、MVにも親知らずがキーアイテムとして登場。こちらも「Magnetic」と同じく、中毒性の高いメロディと振付が特徴となっている。
ILLITの楽曲の魅力は、まず独特の歌声だ。特にMINJUとMOKAの声に含まれるどこか甘やかな要素が、楽曲をILLIT色に染めている部分が大きいように思う。MOKAはパフォーマンス中の巧みな表情の変化に定評のあるメンバーで、「Magnetic」のチッケム動画(メンバー個人にフォーカスしたパフォーマンス映像)の再生回数は164万回(2025年2月現在)を突破している。またMINJUは2024年10月に韓国の主要音楽番組「MUSIC BANK」のMCに就任。YouTubeコンテンツ「ミンジュのピンクキャビネット」ではさまざまなゲストを相手に、1人で進行役を務めている。
パフォーマンスについては先述したが、中でもIROHAはILLITのダンスを牽引する存在。3歳でダンスを始めた彼女は、最年少メンバーながら圧倒的な実力の持ち主で、男性グループのカバーダンスをアップすると、毎度ダイナミックな動きで話題を集める。そして長身のYUNAHが放つどこかクールなムードは、ガーリーのみにとどまらない、ILLITの奥深い魅力を引き出している。YUNAHは明るく盛り上げ上手なグループのムードメーカーでもあり、そんなギャップにも注目したいところだ。
練習生期間わずか1カ月で「R U Next?」に参加してデビューをつかんだWONHEEは、まさに親しみやすさを象徴するようなメンバーであり、デビュー後もアーティストとして目覚ましい活躍を見せ続けている。韓国でポカリスエットの広告モデルとして抜擢されるなど、10代ならではのみずみずしい存在感が魅力だ。2025年は、5人のメンバーそれぞれの個性がより引き立つような活動にも期待したい。
Nakajin(SEKAI NO OWARI)が参加、初の日本語曲
ILLITがついに、初の日本オリジナル曲「Almond Chocolate」を2月14日にリリースした。MOKA、IROHAと日本出身メンバーが所属しているILLITだけに、日本にいるGLLIT(ILLITファンの呼称)からはかねてより日本語曲を待ち望む声が上がっていた。
「Almond Chocolate」は、3月7日に公開される実写映画「顔だけじゃ好きになりません」のために描き下ろされた楽曲。同作は青髪のイケメンな先輩・奏人と、彼のSNSを運営する“面食いヒロイン”の才南が織りなすラブコメディだ。安斎かりん作のZ世代から絶大な人気を誇る少女マンガが原作で、宮世琉弥の初単独主演映画としても話題を集めている。
リリックでは“君”をアーモンドチョコレートに例え、恋心があふれ出すさまをピュアに歌っている。「推しは癒し 飽きず尊い 遠い存在 見てるだけでいい」という歌い出しは、才南の心情をそのまま表しているが、SNSでは「GLITTからILLITへの思いを歌っているよう」という感想も見られた。恋をしている人はもちろん、“推し”や熱中する対象がある人は誰しも、心に響く部分があるだろう。
楽曲制作は、Nakajin(SEKAI NO OWARI)やPdoggなどが担当。Nakajinはこれまで新しい地図やSUPER EIGHTらに楽曲を提供し、PdoggはBTSの楽曲を数多く手がけてきたことで知られている。2人のコラボレートにより生まれたポップでファンタジックな「Almond Chocolate」のサウンドは、ILLITのムードにぴったりとマッチ。ストリングスやティンパニの音が鳴り響くイントロからワンダーランドに飛び込んだかのようなドリーミーな雰囲気が漂い、SEKAI NO OWARIの楽曲「スターライトパレード」や「RPG」のムードを彷彿とさせる。公開された「Special Film」にはILLITの5人のナチュラルで可愛らしい姿が満載だが、楽曲の甘さとは裏腹に、クールな寒色系の色調でまとめられている点が印象深い。
歌詞で特徴的なのは、全体的に6~8字の短いフレーズを重ねて構成されていること。世界で一番短い定型詩とされる俳句が伝統文化として根付いているほど、短い文字数で奥深い世界を表現できることが日本語の特徴だが、まさにそんな日本語のよさがよく生かされた歌詞であると言えよう。メンバーは短いフレーズの細部に至るまで、感情をしっかりと込めて表現。最後のサビではバックに高音フェイクが重ねられており、ILLITのボーカルの魅力をしっかりと堪能できる。
「Almond Chocolate」を機に、ILLITは日本でもさらに活発な活動を展開してくれるはずだ。この2月にはMOKAとIROHAが「ラ ロッシュ ポゼ」のトーンアップUV アンバサダーに就任し、日本のバラエティ番組にも初出演した。今後のILLITからも目が離せない。
プロフィール
ILLIT(アイリット)
2023年6月から9月にかけて放送されたサバイバル番組「R U NEXT?」を経て結成された5人組グループ。ENHYPENの所属レーベル・BELIFT LAB初のガールグループで、韓国出身のYUNAH(ユナ)、MINJU(ミンジュ)、WONHEE(ウォンヒ)、日本出身のMOKA(モカ)、IROHA(イロハ)からなる。2024年3月25日に1stミニアルバム「SUPER REAL ME」でデビュー。同作のリード曲「Magnetic」は、SpotifyにてK-POPガールズグループのデビュー曲史上最速で累計再生数1億回を突破し、米ビルボードメインソングチャート「HOT100」にK-POPグループのデビュー曲として初めてランクインするなど数々の記録を打ち立てる。同年12月には「第66回日本レコード大賞」で新人賞を受賞し、また年末には「NHK紅白歌合戦」に初出場を果たした。2025年2月、同年3月公開の映画「顔だけじゃ好きになりません」の主題歌となる初の日本オリジナル曲「Almond Chocolate」をリリースした。
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