日記のように気持ちが反映されたアルバム

──アルバムでは1曲目からトリニダード・トバゴのフィーリングが感じられますね。

「Intro」ではトリニダード・トバゴ発祥の楽器であるスチールパンで2曲目の「Island Vibes」のメロディを弾いてます。本当は僕が1980～90年代のレゲエを聴いて受けた衝撃を表現した「Island Vibes」を1曲目にしたかったんだけど、フィルから始まるのでアルバムのオープニングとしては唐突に感じたんです。それに今回のアルバムではトリニダード・トバゴのサウンドも取り入れたかった。何せ今回の作品を作るのに、最初の鍵を開けてくれた土地ですからね。だから「Intro」をあとで作って足したんです。自分の中では「Intro」と「Island Vibes」で1曲という感覚かな。

──今回はニューヨークの名門マスタリングスタジオ、Sterling Soundでマスタリングをしたそうですね。

はい。マスタリングは今までもSterling Soundにお願いしてたんですけど、ずっとデータでのやり取りだけだったんですよ。それで今回ついにエンジニアのクリス・ゲーリンジャーに直接会えて。世界の中心でやってる人に手がけてもらえているという喜びは1人のミュージシャンとして大きかったし、実際に一緒に作業した時間を共有できたことで彼に対するリスペクトもさらに深まりました。実際会って、話しながら目の前で作業してもらったことで楽曲への愛も深まりましたし。

──メールベースで作業するのとは違うでしょうね。

やっぱりデータのやり取りだけだと熱が伝わりづらくて。そういえば、今回アルバムを作り上げて、最終的にCDに落とす段階で「Lovin' U」と「I&I」の収録順を入れ替えたんですよ。本当に申し訳なかったけど、どうしてもしっくりこなくて。彼らはそれも快くやってくれました。

──「Lovin' U」はラブソングで、「I&I」はピースの願いが込められた曲ですね。何が納得いかなかったんですか？

「I&I」は子供たちの合唱で終わるんですが、そこにこの曲のメッセージが集約されているんですよ。

──なるほど。「Lovin' U」「I&I」の流れで聴くと、曲に込められた「愛」の意味合いが変わってきますね。

もちろん聴いてくれる人がそれぞれで感じてくれればいいんですが、僕の思いとしては「I&I」は最後に未来を担っていく子供たちの言葉で終わって、次の「#IROIRO」で大人からのメッセージを返す形にしたかったんですよ。人生いろいろあるけどお互いの人生をがんばろうぜって。

──こうして話を聞いていると、今回のニューヨーク滞在で感じた思いがアルバムの流れを作っているのがわかります。

そうですね。このアルバムの歌詞には自分の心の躍動が、日記のようにダイレクトに反映されてると思います。果ては僕の人生観にまで至っているのかなと。

音楽に対する愛を再認識した

──今回のアルバムはすごくポジティブな内容ですが、押し付けがましさが一切ないですね。

思ったことを形にしただけだからかも。海外で生活してみて、やっぱり人間は支え合わないと生きていけないってことを痛感したんです。例えば引っ越しの段ボールを買うところがわかんないとかちょっとしたことでも、それが積み重なるとネガティブな気持ちが大きくなって世の中を斜に見ちゃったりする。向こうでは、知り合った日本人に生活面ですごくフォローしてもらったし、スタジオのエンジニアはもちろん、アシスタントの子とかにも音楽面ですごく助けてもらえた。たった半年かもしれないけど、帰る頃には一生の友達になれたような気すらしたんです。最後の「#IROIRO」はそんな彼らに向けて歌ったって気持ちもあるんですよね。「必ずまた会おう」って。

──HAN-KUNさんの半年間がこの作品に凝縮されているんですね。

うん、今の自分が表現されていると思います。今回の制作の中で、僕は音楽に対する愛を再認識した。曲の中に言葉としては入ってないけど、聴いてて「あれ!? なんかめっちゃ踊れる」「ずっと聴けるな」「レゲエっていいね」みたいな音楽を純粋に楽しむ衝動を感じてもらえるとうれしいですね。

──ニューヨークに行って自分が変わったと思いますか？

それは聴いた人が判断してくれればいいと思います。自分ではわからないです（笑）。

──そして9月30日には東京・新木場STUDIO COASTで「Island Vibes」のリリースイベントがありますね。

今回の「Island Vibes」には3つのアイランドがあるんです。それはジャマイカ、トリニダード・トバゴ、日本です。この日は僕がその3カ所で体験したことを空間で表現しようと思っています。いろいろアイデアは練っているので、当日を楽しみにしててください（笑）。