矢野奨吾と温詞(センチミリメンタル)が語る、ギヴンという“本当のバンド”ができるまでのストーリー (3/3)

ギリギリの痛みを表現するために

──2ndシングルには「冬のはなし」のオーケストラバージョンが収録されています。壮大なアレンジですね。

温詞 これは僕ではないアレンジャーさんなんですけど、とんでもないアレンジですよね。しかもギヴンが今まで発表した曲のフレーズが隠されてるんですよ。

矢野 「夜が明ける」とか顕著ですよね。

温詞 ですね。「冬のはなし」はギヴン関連の楽曲としては最初に作ったもので、そんな曲がすごく豪華になって、「冬のはなし」以降の楽曲たちを身にまとってまた新たな作品になっているのはとても感動的でした。原曲とはまた違った魅力がたくさん引き出されていて、ぜひいろいろな方に聴いてほしいですね。

矢野 ボーカルは録り直すことになっていたので、オーケストラのサウンドが壮大なのでそこにいかに真冬の思いを落とし込めるかが僕の仕事だと思いました。これまでのストーリーを経て、改めて「冬のはなし」を真冬が歌ったらどうなるかという思いで臨んで。レコーディングでは「矢野さんの好きなように歌ってください」と言っていただけて、委ねてもらえる楽しさはありつつプレッシャーもありましたね。

温詞 練習の段階でもうよかったので、これは任せたほうがいいなと判断しました。正直オーケストラアレンジでドラムのビートがないし、心配ではあったんですけど、びっくりするくらいすんなりできていて。あとオーケストラバージョンは、原曲のキーから矢野くんの音域に合うマイナス2に変更したんです。俯瞰で自分の痛みを見ているようなイメージの歌唱になればと思って。原曲のレコーディングでは、原キーで少し苦しそうに歌う感じが真冬とリンクしてるなと思って、ギリギリの痛みを表現するためにあえて原キーで歌ってくださいという無理なお願いをしてしまいましたね。

バンドって最高

──2ndシングルに付属するBlu-rayには、2020年10月にZepp Haneda(TOKYO)で行われたギヴンとセンチミリメンタルのツーマンライブの模様が収録されています。配信ライブを経てからの有観客ライブとなりましたが、いかがでしたか?

温詞 満を持して、やっとやっと「ギヴン」ファンの方々の前に立てるというのが一番の喜びでした。ライブハウスでの対バンを経験してきた側からすると、一応ギヴンとセンチミリメンタルのツーマンライブという形でしたが、不思議な感覚でしたね。普通のツーマンだとリスペクトし合いながらもバチバチする雰囲気があるんですけど、今回は2組が混ざり合って1つの大きなバンドとしてライブをしたような感覚で。もちろんサポートメンバーが同じというのもあるとは思うんですけど、映像演出もあって、改めて作品の魅力が感じられた、今までに経験したことのないような素敵なイベントでしたね。

矢野 「ギヴン」を愛してくれている声はSNSやお手紙でいただいていたので、直接ファンの方を前にして感じるものはすごくありました。プレッシャーはありましたが、ステージに上がって皆さんの顔を見た瞬間にそんなことはどうでもよくなって、真冬として皆さんに歌を届けたいという気持ちのほうが前に出ていました。自分にとって生涯忘れられないステージになりましたね。ギターの演奏に関しては、これまでは独学でちょっと弾いていたくらいで逆に変な癖がついちゃってて、練習はそれを直すところから始めました。ギターの先生にはかなりご迷惑をかけたなと(笑)。歌と同様に一度フラットにして全部イチからやらせていただきましたね。

温詞 正直なところ、矢野くんがギターを弾かなくたってライブは成立するわけだし、無理にやらなくてもいいと考える人もいると思うんです。でもそこに果敢に挑戦して、音楽に対して真摯に向き合って、ステージで胸を張って演奏している姿を見ていたらすごく感動しましたし、親心のような感情が湧いてきて(笑)。

矢野 ははは。

温詞 すげえカッコいいなと思ってジーンときました。矢野くんからは本当に学ぶ部分が多くて。お忙しい中、短い期間でギターの演奏が上達している様子を見て、自分も「新しく楽器始めちゃおうかな」「もっといろんなことにチャレンジできるかもな」と思いましたし。

矢野 うれしい……温詞くんもバンドメンバーの皆さんもみんなめちゃくちゃ優しいんですよ! 優しすぎて泣けてくるぐらい。

温詞 皆さん優しいですよね。バンドメンバーとしての仲のよさやグルーヴ感があるというか、共鳴できた感じはすごくありましたね。

矢野 アンコールの「夜が明ける」の最後に、ドラムの横山さんの周りにみんなで集まって顔を見合わせて「ジャーン」とギターをかき鳴らしたあの瞬間は忘れられないですね。経験したことないですけどバンドって最高なんだなと思えました。これはやめられなくなるなって。

温詞 いわゆる「お仕事でやっている」という感じがまったくなかったですよね。音楽があるといろいろなものを飛び越えてひとつになれるんだというのを感じられてうれしかったです。今でも何かあるたびに僕と矢野くんとバンドメンバーのLINEグループは動いてますからね(笑)。

矢野 お気に入りのアイドルの画像だけを送りつけたりとか(笑)。

温詞 そうそう。そういうちょけたメンバーもバンドだとよくいるんですよ。「こんな子見つけたよ!かわいいでしょ!」みたいな(笑)。正直ミュージシャン同士でもいくら長い期間一緒にやったとしてもそこまで到達できないことは全然よくあることなんですよ。だからこそかけがえのないメンバーだなと思いますね。

ギヴン ©キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会

ギヴン ©キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会

──最後に「ギヴン」という作品に出会って得たものを教えてください。

矢野 初主演ということもあって、自分が主軸になって物語を動かすのってこんな感じなんだなという学びがありました。お芝居をする中ではあまりディレクションいただかなかったんですよ。たぶんそれは僕のお芝居に合わせて周りのキャストさんが「ギヴン」という世界を彩っていこうと思ってくださっていたおかげで。音楽の面でも、新しいことに挑戦してみていろいろと成長できました。真冬に出会えて、センミリさんとも出会えて、改めて自分自身と向き合う機会をいただけたなと思います。

温詞 本当にたくさんのものをもらったし自分の可能性を引き出してもらった作品ですね。僕はずっとライブハウスという狭い世界の中で音楽をやってきていた人間で、そこで痛みや喜び、いろんなことを経験して。「ギヴン」のお話は自分とも重ねられたし、自分の知ってほしかった痛みと共鳴できる。自分の伝えたいことを全部乗せたものを、キヅ(ナツキ)先生もファンの方も受け止めて、共感してくれたのはすごくうれしかったです。人と人とのつながりを作品を通してもう一度認識させられました。「ギヴン」を通して出会えた人たちはかけがえのない存在なので、この先僕がどんなキャリアを積んでいくかわからないですが、ずっと切っても切れない縁になるんだろうなと思います。

「ギヴン うらがわの存在」場面カット

プロフィール

矢野奨吾(ヤノショウゴ)

1989年3月19日生まれ、徳島県出身。スーパーエキセントリックシアター(SET)所属。出演作はテレビアニメ「ギヴン」の佐藤真冬役など。2022年春に放送予定のテレビアニメ「群青のファンファーレ」では有村優役を務める。「ギヴン」の劇中バンド・ギヴンとして2ndシングル「うらがわの存在」を2021年12月1日にリリースした。

センチミリメンタル

温詞(Vo. Key. G. Programming)によるソロプロジェクト。作詞、作曲、編曲、歌唱、ピアノおよびギター演奏、プログラミングをすベて手がけている。2015年にオーディション「イナズマゲート2015」にて、前名義・ねぇ、忘れないでね。でグランプリを獲得した。テレビアニメ「ギヴン」、映画「映画 ギヴン」の音楽プロデュースを担当。2019年9月に1stシングル「キヅアト」をEPICレコードジャパンよりリリースした。2021年4月にはテレビアニメ「バクテン!!」にオープニングテーマ「青春の演舞」を提供。同年12月には初のオリジナルフルアルバム「やさしい刃物」をリリースした。