ナタリー PowerPush - FPM

ニューアルバム「FPM」発売記念 田中知之に聞く空想リミックス計画

手の施しようがないんじゃないかという場合は断ります

──次はSPARKS。しかも近年の作品です。

SPARKS「Perfume」

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あ、これはヤバイですね。いい感じに発酵しているというか、若いグループには絶対作れない音楽になってる。これは僕も買います。

──今回の「FPM」にもよく似た色気がありますよね。僕は終盤の「No Matter What Others Say」を聴いてこの曲を思い出したんですよ。

「No Matter~」には、ひさびさに自分のパンク魂をわかりやすい形で出せたと思いますね。Lyoki(Triol)くんのボーカルも、いつのまにかプレスリーみたいになってたし(笑)。あの曲からSPARKSを連想してくれるというのはとてもうれしいです。

──逆に、この曲のピアノリフを聴いて、田中さんの「Hey Ladies」を連想したりもしました。実際、この部分を田中さんが抜けば、MATTHEW HERBERT BIG BANDやCOBBLESTONE JAZZ的なプロダクションに持っていけますよね。

確かにここは抜きどころ。実際、僕のスタジオのハードディスクにはこういうネタのストックがいっぱい入ってます(笑)。…… SPARKS、もう1回聴いてもいいですか?

──はい。……リミックスの際、原曲は何度も聴き込むほうですか?

まちまちですね。あまりリズムに捕らわれたくなければ、裸のボーカルにいろんなネタをぶつけてみて、チャンスオペレーションしてみる場合もあります。ちなみにこれ、ボーカルの素材だけ聴けますか?(笑)

──聴けません。

厳しいなぁ(笑)。このシャッフルのリズムをいかに解体するかがテーマだと思うんですけど、聴けば聴くほど、「うわ~、えらいのきたなぁ」って感じで……。

──リミックスのオファーをスケジュール以外の理由で断られたことっていうのはありますか?

ありますね。原曲がよすぎて手の施しようがないんじゃないかという場合は断ります。どうしても無理してやってる感じが出てしまうだろうし、そうなると、大喜利としては成立しない。もちろんお金のためならやったほうがいいと思うんですけどね(笑)。

──これ、断りますか?

断らないよ!(笑) じゃあ決めました。これは高速スカにします。やっぱりこの曲はボーカルがいいし、リズムも面白いので、その両方を活かしつつリアレンジしてみます。

──それは打ち込みで、ですか?

インタビュー写真

生演奏がいいですね。スカパラは高いから難しいかもしれないけど(笑)、いい演奏をするバンドに頼んで、このボーカルとセッションさせてみたい。……あ、生演奏リミックスといえば、ちょっとこの12インチを聴いてみてもらえますか? 僕がやったノーマン・クックのユニットのリミックスなんですけど……(The BPA「He's Frank feat. Iggy Pop - FPM Live In Tokyo 1978 Mix」をプレイ)

──すっごいロックですね(笑)。

ノーマンのオリジナルは、イギー・ポップをボーカルに迎えているものの、モロにFatboy Slimなラテンテイストだったんですよ。だから自分はウエノコウジ君や東京スカパラダイスオーケストラの加藤(隆志)君、THE MAD CAPSULE MARKETSのモトカツ(ミヤガミ)君たちと、あえて安い練習スタジオに入って、パンクバンドでの一発録りを敢行して(笑)。

──(笑)イギーに寄せたわけですね。

そう。せっかくバンドでやるからには大仰なキメのパートも作って、夢の競演を仕込んでみました。しかも、最後はTHE CLASH風のレゲエになって終わるという、かなりの先祖返りリミックス(笑)。タイトルも、78年にイギーと僕らが東京でライブをやったことにしてね。

──たぶんSPARKSも、このリミックスを聴いて頼んできたんだと思いますよ(笑)。

レーベルに1500万円の請求書を送ります(笑)

──それでは次の曲を。

Bon Iver「Woods」

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──Volcano Choirのメンバーとしても知られるボン・イヴェールのソロです。彼はエクスペリメンタルフォークの流れで評価されているアーティストなんですけど、この曲は例外的にゴスペルやヒップホップを感じさせるというか、黒人音楽の白人的解釈としても聴けるんです。ボーカルもすごくソウルフルだし。

オートチューンで加工したアカペラ曲ですね。構造的にも珍しいタイプの曲だな……(しばらく聴いて)メチャクチャいいじゃないですか。これも最高に好みですね。僕は黒人音楽も大好きなんですけど、どちらかといえば、体温が低くて、あまり汗をかいていない、ブルーアイドソウル的なものが好みなんですね。自分自身も京都のニューウェイヴシーンのいちばんゴリゴリのところで、EP-4(佐藤薫をリーダーに集まった前衛ユニット)のメンバーなんかとファンクバンドをやっていたこともあるし。

──今回の「FPM」にも「Without You」や「Can't You Feel It?」など、最高のブルーアイドソウルチューンが収録されていますね。

MONKEY MAJIKのふたりやベンジャミン・ダイアモンドの声というのは、熱唱してもらっても熱くなりすぎることがなくて、僕のトラックとは本当に相性がいいんです。温度感というのは重要ですね……。そういう部分でも、このボン・イヴェールはストライク。これ以上に冷たいソウルはないでしょう(笑)。

──しかもアカペラなので、コードがつけ放題です。

これこそ生バンドでやってみたいですね。

── SPARKSリミックスをお願いしたバンドに「お前らまだ帰るな!」って(笑)。

もしくは、リチャード・ティーとかスティーヴ・ガッドを徴集して、STUFF再結成(笑)。クールフュージョンの究極を目指すとか。「すみません! 最高にいいのできましたが1500万円かかりました!」という手紙を添えて、レーベルに請求書を送ります(笑)。

ニューアルバム『FPM』 / 2009年12月23日発売 / 3000円(税込) / avex trax / AVCD-23966

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CD収録曲
  1. If You Do, I Do (威風堂々)
  2. Without You
  3. I Think
  4. Hey Ladies
  5. Can't You Feel It?
  6. Forever Mine
  7. Madness
  8. Sex
  9. Alphabet
  10. Telephone & Whiskey
  11. No Matter What Others Say
  12. Ai No Yume

アーティスト写真

FPM(えふぴーえむ)

DJ/リミキサー/音楽プロデューサー/アレンジャーとして活躍する田中知之のソロプロジェクト。1994年に田中と安田寿之による音楽ユニットとして結成され、本格的に活動を開始。1997年に小西康陽主催のレーベルよりアルバム「The Fantastic Plastic Machine」でCDデビューを果たす。このアルバム以降は、田中のソロプロジェクトとして現在まで活動。ハウスミュージックをベースに、ラテンやボサノヴァ、ジャズなどを取り入れたサウンドが人気で、日本だけでなくヨーロッパなどでも高い評価を得ている。