忍ばせた仕掛けは星のようにある
──大滝詠一「A LONG VACATION」のジャケットなどを手がけたイラストレーター・永井博さんが登場した「今夜はmedicine」のMVや、アナログ盤のオマージュジャケットなど、リスナーはFNCYから80’s、90’sの雰囲気を受け取る部分が強いと思うんですが、今回はそういった感触はあまり強くないですね。例えば「REP ME」だったら90’sのニューヨークハウスっぽい感触、「him i gotta love」のG-FUNK感には90'sヒップホップを感じる部分もあるんですが、それが懐古主義的ではなくて、今の音楽としてちゃんとアップデートされていると思いました。
ZEN-LA-ROCK 実は90'sや80'sを意識したり、オマージュを捧げたってことは、FNCYはそこまで意識してなかった……とはいいつつ、EPを超オマージュ色の強いジャケットにしておきながら、90年代に興味ありませんって話はないわけですが(笑)。
──そりゃそうですね(笑)。
ZEN-LA-ROCK だからパブリックイメージとしてはFNCYはそういうグループだと思われたりもするし、その感触は出てると思うんだけど、“にじみ出てる”んですよね。「90’sや80’sをやります」っていう意識よりも、自分たちのベーシックがそこにあるからそれが自然と出てきてるだけで。
鎮座DOPENESS なるようになったらこうなったというか(笑)。
G.RINA 私はFNCYのトラック制作ではルーツにある音楽をインスパイア源にしてたりするので、そういう部分が90’sや80’sを感じさせるのかもしれないし、それを楽しめるっていうのが3人の共通点でもあって。でも単にリバイバルするんじゃなくて、それを今のサウンドの中でどう生かすことができるのか、っていうのがFNCYのあり方だと思う。
鎮座DOPENESS もちろん意図的に忍ばせてる部分もあるしね。
ZEN-LA-ROCK 好き者にはそういうのが伝わると思うし、そういう仕掛けは星のようにあって。でもそれがわからなくても絶対楽しめる内容にしようと。
──個人的には全体を通してサブスク的な感触があったんですね。サブスク上に楽曲があれば、すべての時代と地域の音楽がリスナーに対して同一地点に存在するから、最新の音楽も、80'sも、90'sをオマージュした最新の音楽も、すべて等間隔にあるわけで。そういうタイムレスであり、ジャンルを横断したサブスク的な感触を今作から感じました。
G.RINA バラエティ豊かだと思いますね。それはトラックメイカーが何人かいるからでもあるし、例えば「みんなの夏」でgrooveman Spotさんがニュージャックでアプローチしてくれたなら、私は心置きなく四つ打ちが作れるっていうバランス感の部分もあったり。そういうふうに全体のバランスを取りながら制作の中で変化させていったりもするし、いろんな要素によってサウンドやジャンルがクロスオーバーした、金太郎飴じゃないアルバムにできたと思いますね。
鎮座DOPENESS 「COSMO」とか初期からかなり変わったもんね。俺がすごくしつこく「こういうほうがいい」って提示したり。
G.RINA 最初はもっとマイアミベースっぽかったんだよね。
ZEN-LA-ROCK それが途中からUKガラージに変わって。
鎮座DOPENESS 最終的に四つ打ちになって。高速を運転中に完成した曲を聴いて、よすぎて興奮してスピード出ちゃったもん(笑)。
G.RINA 「コスモ星丸」っていうワードで吹き出すけどね(笑)。
ZEN-LA-ROCK 大人は懐かしいと思うし、知らない世代は調べて「……何言ってんの?」って思うんじゃない?(笑) そういうのもいいよね。
ラッパーに憧れてます
──鎮座さんは今回かなり歌の部分をフィーチャーされていますね。
鎮座DOPENESS 歌ってますね。好きなんですよ、歌うの。それに本質的に歌に才能があったんじゃないかなと(笑)。
G.RINA よかった、歌ってもらって(笑)。
鎮座DOPENESS 俺はどこまでいっても“ラッパーに憧れてる”んですよね。いわゆる俺が憧れるラッパーと俺とは性質が全然違うことを理解してる。だから歌ったりいろんな角度でアプローチして自分のスタイルを見出そうと奮闘してるんです!
──「あなたになりたい」ではそういった憧れを曲にしていますよね。その理由は?
鎮座DOPENESS やっぱり方法論しかり、考え方しかり、スタイル然り、いまだにヒップホップに憧れまくってるんですよね。でも「ああなりたい」っていう憧れを持ちながらも、同時に「オリジナリティを追求せよ」っていう矛盾を孕むような状況もあって。そういう感情を大声で歌ってみたかったんですよね(笑)。
G.RINA アハハ!
鎮座DOPENESS もうヒップホップっていう概念や存在自体に憧れてるし、その意識は自分の中で消しようのないことで。だからFNCYの作品は全編にわたってヒップホップだと思うし。見た目やスタイルみたいな部分では、自分としてはパブリックイメージとしてのヒップホップ性は提示してないけど、でもやっぱり憧れてます。そしてRINAさんのリリックにD.I.T.C.が出るのも最高ですよ。
G.RINA ホントにD.I.T.C.の音に歌を乗せてたからね。
ZEN-LA-ROCK 性別とか国境とかいろんな条件を超えすぎてる(笑)。
鎮座DOPENESS 状況によってはファット・ジョーの横にいた可能性が高いと(笑)。
──ラップもトラックメイクも、という意味ではダイアモンドDの座を奪っていたかもしれない(笑)。
G.RINA それからやっぱりミッシー・エリオットとN.E.R.D。いまだに影響を受けてるし、今でも“あなたになりたい”。
──僕もFNCYと同じ世代だから、このアルバムに流れる源流や、「あなたになりたい」の感覚はすごく理解できるんですね。でも一方でそのインスピレーション源を知らない人が聴けば、それはすごくフレッシュに聴こえるだろうし、ここからディグっていくきっかけになるのかなって。だから“そうだよね”と“そうなんだ”が共存する「あなたになりたい」があることで、すごくアルバム自体が立体化する感触がありました。
G.RINA 3人とも20年くらいキャリアを重ねてきたけど、続けるのは悪いことじゃないよって。いろんな動きをしながら、この年齢になって3人で集まったからこそFNCYはできたと思うし、今だから素直に作品作りに取り組めるのかなと思いますね。その感じは今回のジャケットにも表れていて。この茶色の感じが、ちょうどよく煮込まれて出汁が染みてるみたいな(笑)。華やかさよりも滋味深い印象があるし、それが私たちの年齢的にもぴったりかなって。アルバムの内容的にも丁寧に心の中のことを歌えるようになったのも、重ねてきたからこそっていう部分があると思います。
ZEN-LA-ROCK ジャケットは丸い机が中心にあるんだけど、円を中心に集まってるのがFNCYっぽいなと。カメラマン、スタイリストのお二方のアイデアでもありました。
鎮座DOPENESS 3人がFNCYの音楽を作るときの姿勢というか、最近気になってることを話して「それいいね」なんて言ってる瞬間を絵画的に切り取ったというか。
G.RINA すごくリアルな瞬間だよね。
まだやり残したな、まだできるな
──アルバムリリース後のFNCYの動きは?
ZEN-LA-ROCK いろいろ展開は考えてるんですが、状況も状況なので、追い追いご報告できればと。だからまずはアルバムを聴いてほしいですね。そして状況を見ながらいい感じで盛り上げて行きたいです。
G.RINA この3人で2枚アルバムを作ったけど、まだやり残したな、まだできるなっていうこともたくさんあるし、可能性は感じてるので、これからも作品制作は続けていきたいです。
──G.RINAさんは6月に「Tolerance」をリリースされましたが(参照:G.RINAのニューアルバム「Tolerance」にゆるふわギャングNENE、BIM、FNCYメンバーら参加)、ZEN-LAさんと鎮座さんはいかがでしょうか?
ZEN-LA-ROCK ソロも真摯に向き合っております。
鎮座DOPENESS 俺もアルバムっていう単位じゃなくても、単曲でもいいから自分主導で進めていければと。
- FNCY(ファンシー)
- ZEN-LA-ROCK、G.RINA、鎮座DOPENESSによるユニット。2018年7月に配信シングル「AOI夜」でデビュー。2019年7月に1stアルバム「FNCY」をリリースした。2021年9月に2ndアルバム「FNCY BY FNCY」を発表。コンスタントに楽曲をリリースする一方で、Tシャツやフーディ、X TOKYOとのコラボスニーカーを限定販売するなど、オリジナルのアパレルグッズにも力を入れている。