「ドラガリアロスト」特集 DAOKO×さとまん(「ドラガリアロスト」サウンドプロデューサー)|DAOKOの曲だけで表現する新しいゲーム音楽の在り方

まずは自分が救われる言葉を

──ゲームの主題歌「終わらない世界で」のお話も聞かせてください。この曲は小林武史さんがプロデュースを手がけたものですが、さとまんさんはゲームの主題歌としてどういう楽曲をイメージして発注したんでしょうか?

さとまん まず「ドラガリアロスト」はファンタジーなので、苦難とか試練とかがプレイヤーの前に立ちはだかることになりますから、それを乗り越えていくような前向きな歌にしたいっていうのが根本にあって。それとゲームの世界に寄りすぎないようにお願いしました。ゲームのキーワードとかが出てきすぎてしまうと大衆性が失われてしまうと思ったし、DAOKOというアーティストの作品としてちょっと異質なものになるような気がしたんです。だから「DAOKOちゃんの言葉で、彼女の周りにいる人たちが元気になれるような曲でお願いします」って伝えました。

DAOKO 「ドラガリアロスト」の世界観って、それこそ「世界」が舞台の地球規模のスケール感なんですけど、歌詞で自分らしさ、DAOKOらしさを出すなら対1人の人間に向けた言葉を綴ろうと思ったんです。広い世界を見渡しながらも、結局歩いていくのは自分1人だし、自分1人を救えない言葉が一体誰に届くんだろうって。いろんな人に届くようなキャッチーな言葉を考えることもあるんですけど、今回の私はまずは自分が救われる言葉を書くことを意識しました。

さとまん サビの「頑張ってみるから 終わったら抱きしめて」という一節でもうやられました。普遍的なことを背伸びせず、シンプルな言葉で伝える。大人の目線で考えると難しい表現だと思うし、DAOKOちゃんの素直な表現に心打たれました。

──サウンド面ではどういうオーダーをしたんですか?

さとまん 「DAOKOちゃんらしさと、小林さんのエバーグリーンな楽曲のよさを融合させた新たなものを生んでほしい」とオーダーをしたんですけど、けっこういろいろ細かく注文を付けてしまいました。ほかの媒体さんでの「ドラガリアロスト」のインタビューで小林さんに「執念深い」って言っていただいているんですが、それは僕のことですね(笑)。

DAOKO うん。言ってた。「執念深い」って。

さとまん この1年半ぐらい、僕はゲームに組み込むためにDAOKOちゃんの楽曲を片っ端から聴き続けていて、僕の中には確固たる“DAOKOちゃんらしい曲”のビジョンがあったんです。小林さんのような高名な方に注文を付けるのは恐れ多かったんですけど、僕らCygamesは最高のコンテンツを作らなきゃいけないので妥協はできなくて。DAOKOちゃんがいて、任天堂さんが協力してくれて、スペシャルな人たちが力を貸してくれてる中で自分が手を抜いたら周りに申し訳が立たないし、きっとこの先の人生でも後悔してしまうと思ったから、小林さんには何度も要望を送ってしまいました。でもちゃんと応えていただいて、すごくいい曲ができ上がったと自負しています。

──「終わらない世界で」のようなモータウン調のバンドサウンドの曲は、これまでのDAOKOさんの曲になかったアプローチですよね。

DAOKO

DAOKO 私のルーツが打ち込み系のサウンドにあるし、イメージとしてもそういう音楽性が強いと思うんですけど、いろんな方とのコラボを経験したり好きな音楽の幅が広がっていく中で、自然とバンドサウンドに惹かれていく気持ちもありました。そういう、自分がやりたかったサウンドに自然と巡り会えている感覚があるんです。「終わらない世界で」に関しては小林武史さんを信頼してお任せしていましたが、DAOKOらしさみたいなところもちゃんとディスカッションさせていただいて、今回のようなポップな曲になったと思います。

──歌詞はすんなり書けましたか?

DAOKO いろんな方向性の歌詞を書いてみたんですけど、結果的に自分が一番しっくりくる歌詞で書けたし、ラップの部分も気持ちいい仕上がりになったと思います。最近の曲の中でも特に初心に戻ったようなフローになった感じがします。

DAOKOファンにもプレイしてほしい

──先ほど「ドラガリアロスト」のプレイ画面を少し見せていただいたんですが、設定画面1つ見ただけで音楽に対するこだわりが見て取れました。例えばBGMで流れているDAOKOさんの曲のボーカルのON、OFFをワンタッチで変えられるんですよね。

さとまん 設定画面に「VOCAL(歌声)」という項目を用意していて、これ1つでボーカルトラックとインストトラックを変えられるようにしています。「ドラガリアロスト」は声優さんの声も入っていますし、ユーザーによってはボーカルの入ったBGMが耳に合わない人もいるだろうと思っていたので、「ON / OFF」ボタンでその切り替えができるようにしています。

──収録されている楽曲はいずれもCDと同等のサンプリングレートみたいですね。要はゲームをインストールすればDAOKOさんの曲がいい音質で、しかもいろいろ聴けるわけですよね。

さとまん 多くのユーザーがスマホでゲームをするようになって、端末のクオリティもどんどん上がっている中で、昨今のスマホゲームって音楽が少し軽視されているように感じていたんです。例えばゲームの音量をゼロにして、好きなアーティストの曲を流しながらゲームをする人がけっこう多くて。

──パズルゲームには親切設計として、バックグラウンドで音楽を流しながらプレイできる機能がありますね。

さとまん これは作り手側のエゴでもあるんだけど、ゲームというコンテンツの中で音楽を抜いてしまったら、伝えたいことが100%伝わらないと思っているんです。ただそれが逆にユーザー側のフラストレーションにつながってしまっては元も子もないので、画面と音楽がきちんとリンクするように微調整したり、歌声ON、OFFのボタンだったりを用意しています。せっかくDAOKOちゃんの曲を使わせてもらっているので、ファンの方々に「こんな曲の使い方をして」って叱られないように細心の注意を払っています。僕もある意味、DAOKOちゃんのファンの方々と気持ちは同じだと思ってますから(笑)。

左からDAOKO、さとまん。

──取材を通じて「ドラガリアロスト」のゲーム音楽の特異性や、DAOKOさんの音楽の担っている部分の大きさを感じました。

さとまん 実はゲームを制作する過程では、すべてのゲーム音楽をDAOKOちゃんの曲で表現することに不安視をする声もあったんです。ただ僕自身は絶対変えたくなかったから、押し通すつもりでDAOKOちゃんの曲をゲーム内でもかけまくっていて。そうしたらディレクターがある日口笛でDAOKOさんの曲を吹きながら仕事してることに気付いて。「ほら、いつの間にか好きになってるじゃん!」って(笑)。

DAOKO 仕事しながら吹く口笛って無意識なものだと思うので、私としてもうれしいですね。ゲームのBGMって途切れないから基本的にずっと繰り返されるんですけど、ループにすることで新しい“中毒性”みたいなものが生まれているとも感じていて。自分の楽曲でありながらも新しい発見があって面白かったです。

さとまん ゲーム音楽として成立させるために、DAOKOちゃんにはけっこう無理なお願いをしてしまったとも思うんですけど、こうやって二人三脚で、僕だけじゃなくてスタッフの数も含めて何十人何十脚でゲームを作ってきて、ようやく皆さんに「ドラガリアロスト」を届けられるようになったので感慨深いですね。ゲームに興味を持ってくれた人はもちろん、DAOKOちゃんのファンの方々にもプレイしてもらいたい作品になっています。