生演奏ならではの旨味がしっかり出ている
──「OWL THE NIGHT」は宗本康兵さんと森田“Johnny”貴裕さんによるユニット・363820が編曲を手がけています。フラメンコのテイストを基調としつつもメロウなエレピが入ってきたりして、独特の味わいがありますね。
三浦 宗本くんが鍵盤奏者なので、その色が出ていてすごくいいなと思います。鍵盤で入れてもらったフレーズをギターに置き換えたりとか、そういう遊びもできて楽しかったですね。
徳岡 作曲段階ではけっこう二転三転した曲で。サビのフレーズは早い段階でできていたんですけど、そこにたどり着くまでが長かった。
三浦 この曲が一番デモの中で変化があったかもしれない。サビのメロディは決まってるんだけど、AメロやBメロはいろんなパターンを試しましたね。
──それこそDTM環境だとやりやすい作業ですよね。
三浦 あ、そうですね! パートを入れ替えてみたりとか、試行錯誤を経てできあがった曲です。
──「PUPA」はトオミヨウさんの編曲で、個人的には今回のアルバムの中で一番好きです。
三浦 ありがとうございます。僕もすごく好きですね。最初の段階では、僕たちの中ではもっと壮大なアレンジをイメージしてたんですよ。でも蓋を開けてみたら、トオミさんがすごくシンプルで温かいアレンジをしてくれて。
徳岡 静かだけどエモーショナルというか。すごくうまく、優しくアレンジしてもらえたなと。
──それこそ最初におっしゃっていた“人間味”が一番出ている曲なんじゃないかなと。
三浦 そうですね! プレイヤーの方々と一緒に大きいスタジオに入ってせーので録ったんで、生演奏ならではの旨味がしっかり出ていると思います。自分のギターはシンプルな演奏が多いんですけど、「この人たちとじゃないとこのノリにはならないな」という感じのテイクが録れたので、すごく気に入っていますね。
──しかもこれ、たぶんドラムじゃなくてカホンですよね? ベースもフレットレスだったり、楽器選びがものすごく絶妙だなと感じました。
徳岡 そうそう、そうなんですよ。
三浦 それもトオミさんのアイデアで。最初のカホンが鼓動のように聞こえて、生命が脈打っているように感じられるところがお気に入りポイントです。
──篤志さん編曲の「未完成パープル」は、イントロのパーカッシブなカッティングで一気につかまれました。あれはアコギじゃないと出せない味ですよね。
徳岡 “歪んでないのに歪んでる”というかね。エレキギターではあの感じは出せないです。篤志さんもギタリストなんで、そのへんの勘どころをよくわかってくれて。
三浦 勢いのある曲にしたかったので、「じゃあそういうのが得意な人いるよ」って紹介していただいたのが篤志さんだったんです。もう、ぴったりでしたね。篤志さんはミックスとかもされる方なので、最初の段階でもう完成形を見据えた録り方をするんですよ。ある種レコーディングエンジニアっぽい視点を持ったアレンジャーさんで、それが面白かったですね。
──篤志さんが手がけたもう1曲の「WONDER」も“リフもの”ですが、「未完成パープル」と比べるとかなり軽快な1曲ですね。
三浦 「未完成パープル」がとてもいい形で仕上がって、しかも篤志さんのレスポンスがすごく速かったので、「もう1曲お願いしたい」という話になったんですよ。
徳岡 曲調的にはもうDEPAPEPEのお家芸というか、メジャーキーの曲で。それをそのままシンプルなバンドサウンドで考えてもらいました。アルバムにこういうのが1曲あってもいいかなと。
アルバムにはギター2本だけの曲も入れたい
──村田泰子さんがストリングスアレンジを手がけた「not bad end」もいいですよね。ストリングスが“お客さん”になっていなくて、弦も含めたバンドの音って感じがします。
三浦 これは先ほどまでの「アレンジャーさんの力を借りて新たな風を」というものとは異なるアプローチで、よく一緒にやっているプレイヤーの人たちと一緒に作り上げていくスタイルでやりたいなと思って。村田さんには過去の作品やライブでもよく弾いてもらっているので、できた曲をそのまま投げて「ストリングスアレンジを考えてほしいです」とお願いしました。それで上がってきたものを受けて、バンドのメンバーとみんなでアンサンブルを練っていった感じです。
徳岡 キーボードやパーカッションも含めて、もうみんな仲のいい人たちばっかりなんで、阿吽の呼吸みたいなものがありました。みんなが有機的に絡み合って、望んだ通りの音になったのでよかったです。
──それと、アルバムの最初と最後が2人のギターだけを聴かせる曲になっているのも構成として美しいです。厳密にいうと1曲目にはドラムも入っていますが。
三浦 ありがとうございます。今回はけっこういろんな楽器が鳴っている曲が多いんで、2人で「ギター2本だけの曲も入れたいね」という話はしてたんですよ。
徳岡 ラストの「ささやかで役に立つこと」は最後の最後にできた曲で、「たぶんできそうなんで、録っていいですか?」って無理くりねじ込みました(笑)。
三浦 これを最後に入れられたことで、いい形でアルバムを締められたなと思ってます。
徳岡 1曲目の「RED's & BLUE's」はある種の原点回帰でもありつつ、今の僕らだからできるようになった曲でもあって。僕らは最初の頃、J&B(梶原順と浅野“ブッチャー”祥之からなる「JとB」に松原秀樹と沼澤尚を加えたジャムバンド)がこんな感じの曲をやっているのをライブハウスで聴いて「カッコいい! こんなのがやりたい!」って言ってたんですよ。それが時を経て、自分たちでもようやくできるようになってきたという。
三浦 「未完成パープル」と同様に、「RED's & BLUE's」もこのアルバムを象徴している曲で。ある程度のリフと進行だけが決まっていて、「それぞれが好きにメロを弾いてみよう」という作り方なんですよ。それによって2人の色が出たらいいなっていう。
徳岡 だからライブでは、テーマ以外の部分は何を弾いてもいいんで、毎回違うことをできる曲になるんじゃないかな。ライブ尺の調整にも役立つかもしれない(笑)。
「アコギの音は加工しちゃダメ」なんてことはない
──「回廊庭園」もわりと2人のギターのみに近いですよね。アコギならではの、しかも2人で弾くからこその醍醐味が感じられる曲です。
徳岡 こういう曲の場合はあまりメロディ云々というよりも「ギターってこんな感じで鳴ってるといいよね」と思いながら作るんで。こういうのもDEPAPEPEっぽさじゃないかな。2人のギターがいい感じに絡んでいて。
──昨日今日組んだデュオにこれはできないだろうなと。たぶん、ほかの人がこの曲のアルペジオをそのままコピーして2人で弾いたとしても同じような響きには絶対ならない気がします。
三浦 そうだと思います。でもその分、コピーした人の色が出やすい曲だと思うんですよね。ぜひコピーして弾いてみてほしいです。
──あとはやはり、9月に先行リリースされていた「foliage」のお話を聞いておきたいです。これもスリーフィンガー系のアルペジオが印象的な1曲で。
三浦 これは「MBSお天気部」の秋のテーマ曲としてオーダーいただいた曲で、秋ということで落ち葉がハラハラと舞っているようなイメージのアルペジオを軸に作りました。けっこうシンプルに、ギターとドラムだけのアレンジにして。
──シンプルな音なんですけど、それとは対照的にというか、ディレイを使った技巧的なフレーズも効いていますよね。
徳岡 これはディレイありきですね。エレキギターの世界ではこういう付点8分のディレイを使った、それがないと成立しないフレーズって昔から定番としてありますけど……。
──個人的にはエディ・ヴァン・ヘイレンのイメージが強いです。
徳岡 そうそう。音楽の表現として全然ありだと思うんですけど、なぜかアコギでやる人はあんまりいない。「アコギの音は加工しちゃダメ」みたいな風潮もあるけど、全然やっていいと思うんですよね。
──あとはサビでのオクターブカッティングがやはり印象的で。「来たー!」って感じがしました(笑)。
三浦 あ、そうか。オクターブ奏法って今回そんなに使ってないのか。
徳岡 そうじゃない?
三浦 言われてみればそうかもしれない。そういう意味では初期DEPAPEPEを象徴するプレイも味わえる曲ですね。いろんな“らしさ”を感じられる曲かもしれないです。
なんで昔はあんな曲作れたんやろな?
──アルバムができあがって、手応えとしてはいかがですか?
三浦 今までの自分たちらしさもあるし、新しくチャレンジできたところもあって、充実したアルバムになったなと。今この20周年を迎える自分たちが……これいつもアルバム出すたびに言っちゃうんですけど(笑)、今の自分たちがすごく詰まっているなと。今回もそれを実感していますね。
徳岡 右に同じくです(笑)。どう考えても今の俺らでしかないっていう、毎回そうなんですけど今回もそういうものがちゃんと作れたなと。
──毎回そのときにしか作れないものができているとなると、例えば過去作を聴いて「今はこんなの作れないな」と思うことも?
徳岡・三浦 (口をそろえて)あります!
三浦 曲もですし、演奏もそうですね。その曲を今演奏することはもちろんできるんですけど、当時のノリや勢いと同じように弾くことはできないなと思うんですよ。だからこそ、その時々をパッケージできるのはすごくいいなと思いますし、だから「アルバム」って言うんだなという感じもしますね。
──うまいこと言いますね。
三浦 ははは(笑)。
徳岡 ちょうどこのアルバム制作中にも、三浦くんと「なんで昔はあんな曲作れたんやろな?」って話もしていて。
三浦 「あの曲はなぜあのコード進行だったんだろう?」とか。やっぱり知識が増えてそうしなくなった部分もあるんで、当時のシンプルゆえの力強さみたいなものは今は出せないですよね。それしか知らなかったからこその迷いのなさみたいな。
徳岡 今もし当時と同じコード進行を使うとなると、「前にやったことのあるもの」になっちゃうんですよね。使うことはもちろんできるけど、当時と同じ気持ちでは使えないというか。
三浦 だからこそ1枚1枚のアルバムをずっと好きでいられるのかもしれないですね。同じ手法に戻って作ったとしても絶対に当時を超えられないから、その時その時の“最高”がそこに記録されているってことなんだと思います。
──そして来年がいよいよメジャーデビュー20周年イヤーになりますが、8月16日には東京・日比谷野外大音楽堂にてワンマンライブ「DEPAPEPE メジャーデビュー20周年 バンザイ!カンパイ!! 大感謝祭!!!」も控えていますね。
三浦 ひさしぶりに日比谷野音でワンマンをやるんですけど、デビュー直前の2005年5月にフリーライブをやった特別な場所なんですよ。またそこに帰って演奏できる、20周年という節目であのステージに立てるのは自分たちにとってとても大きな意味があるので、すごく楽しみです。
徳岡 DEPAPEPEは野音から始まったと言ってもいいくらいなんで、今このタイミングでやれるのは感慨深いものがありますね。野音は近々改修される予定なので、おそらくこれまでとまったく同じ景色の日比谷野音で行うライブという意味ではこれが最後になると思いますし。
三浦 やっぱりみんな最後にやっておきたい会場なんで、なかなかスケジュールを押さえるのも大変みたいで。
徳岡 みんな今のうちにやっておきたい会場ではあるからね。
三浦 だからすごくうれしいです。あの場に立てることが。
公演情報
DEPAPEPE メジャーデビュー20周年 バンザイ! カンパイ!! 大感謝祭!!!
2025年8月16日(土)東京都 日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)
DEAPEPE LIVE TOUR "Purple on Palette"
- 2025年2月1日(土)石川県 もっきりや
- 2025年2月8日(土)北海道 札幌くう
- 2025年2月9日(日)北海道 札幌くう
- 2025年3月1日(土)愛知県 ElectricLadyLand
- 2025年3月2日(日)大阪府 knave
- 2025年3月8日(土)東京都 Club eX
[1st]OPEN 15:00 / START 15:30
[2nd]OPEN 18:00 / START 18:30
※東京公演のみ昼夜2公演
プロフィール
DEPAPEPE(デパペペ)
徳岡慶也と三浦拓也からなる2人組ギターインストゥルメンタルユニット。2005年にアルバム「Let's Go!!!」でメジャーデビューを果たし、「第20回日本ゴールドディスク大賞」でニューアーティスト・オブ・ザ・イヤーとインストゥルメンタル・アルバム・オブ・ザ・イヤーの2冠を達成した。2008年からタイ、韓国、インドネシア、シンガポールなど、アジア圏で毎年ライブを行なっている。2015年12月にメジャーデビュー10周年を記念したベストアルバム「DEPAPEPE ALL TIME BEST~INDIGO BLUE~」「DEPAPEPE ALL TIME BEST~COBALT GREEN~」、2020年4月にメジャーデビュー15周年記念アルバム「Seek」、2024年11月にはメジャーデビュー20周年記念アルバム「Purple on Palette」をリリースした。