ナタリー PowerPush - Caravan

「自分らしくあるために」本音で語る1万字インタビュー

足りないことが音楽を続けさせてくれてる

──Caravanさんのコンプレックスってどういうところなんですか?

どれも中途半端なところ。今回のアルバムでも楽器は全部演奏してるけど、マルチプレイヤーってわけじゃないし。別にギターもうまくないし、歌もうまくないし、自分はどこがいいんだろうって常に思っちゃうんですよ。

プライベートスタジオ「Studio BYRD」の写真。

──ツアーだったりフェスでたくさん人が集まって、CDも売れて、自分の音楽が求められてもですか?

求められてるのかなあ?

──求められてますよ!

それが自分ではわかんないんだよね(笑)。自分の「ここがすごい」っていうところはないと思ってる。ほかの人のライブを観ると歌なんか俺よりうまいし、ギターだってうまいし、すごいなって感じちゃう。なんら秀でた部分がない自分がなんで音楽を続けられるんだろうって思うんだけど、そのわかんないところがいいのかなって。

──とはいえ、自分の中のクオリティの基準はクリアされてるのでは?

自分の好みの音楽は作れてると思う。でも、自分の好きなタイプの音楽でも、もっとうまい人だったりすごい人はいっぱいいるしね。

──コンプレックスがかなり根深いんですね……。

でもコンプレックスがあってナンボなんですよ、人間なんて。自分が好きなアーティストって何か抱えてる人が多いしね。例えば俺はイギリス人がやってるブルースが好きで、どんなにがんばっても黒人のようには歌えないし、あの独特のうねりは出せないってわかってて、自分たちのフィルターでブルースを表現しようとしてる姿勢にグっとくるというか。そういう足りない美しさだったり、届かない歯がゆさだったり、それを埋め合わせるように別のアイデアを入れたり試行錯誤する姿勢が好きなんですよね。自分もルーツミュージックとか大好きだけど、もし自分が黒人のように歌えたり、本物のギタープレイができてたら、今のような音楽はやってなかったと思うし。

──もっと自分の特性を際立たせるような音楽をやってたと。

そうそう。だから自分の足りない部分が制作意欲につながってる。「俺最高っしょ!」って思えないから工夫したりして音楽を作り続けられてるのかなと。

──それはいつ頃自覚したんですか?

10代、20代にバンドをやってた頃から。音楽始めた頃から周りにはすごい人がいっぱいいたし、その人たちと一緒に何かやりたい、彼らに近付きたいと思うことが自分を転がしてきたところがあると思う。しかも素晴らしい才能を持ってる人に限って、音楽を辞めちゃったり、亡くなっちゃったり。そういうのを目の当たりにしてきたから、俺が音楽を続けるのはその人たちに対する礼儀なのかなって。あとここまで続けられてるのは、自分には何かやるべきことがあるからだとも思ってますね。

──そもそもCaravanさんはなぜ音楽を仕事として選んだんですか?

実は仕事だとは思ってないんだよね。こんなこと言ったらあれですけど、音楽はやっぱり楽しむものというか、遊びなんですよ。だから音楽をやるって決めたわけではなくて、ずっと楽しくて続けてたら今になってたっていう。

──流れに身を任せた部分ってありますか?

どっちかって言うと、流れに飲み込まれた感じかな。気付いたらここにいた、みたいなところが強くて。まあ、節目がないわけではないんですよ。親に「学校辞めるよ。音楽でやってくよ」って言った日とか。でも、そのあとも続けられてるのは、縁があったからかなっていう気もするし。好きで続けてただけで、大変なことはあっても、苦労と思ったことはないですね。

バンドのギタリストでいたかった

──Caravanさんは昔バンドのギタリストだったわけですよね。それがなぜ歌を歌おうと思ったんですか?

10代の頃からバンドっていう形態でずっと同じメンバーで十何年やってきたんだけど、長くやってる中で煮詰まってきてね。そうじゃない形で音楽をやりたくなって、バンドを辞めたんです。で、次何をするか決まってないときに、ずっと自分の家で宅録してたんですよ。そしたら素の状態で作った自分の曲が今のような音楽というか、昔のシンガーソングライターみたいな歌モノで。バンド時代は、リズムやグルーヴが尖った、ファンクとかブラックミュージック寄りの音楽をやってたんだけど、いざ1人になったら自分が蓋をしていた部分が解放されて。最初はとりあえずデモテープだけ作っておこうって残しておいたんだけど、誰かに歌ってもらおうにも誰もいないし、自分で歌ってみるかみたいな。それをバイト先の友達とかに聴いてもらったら「歌うまくないねえ。でもなんかいいよ」って言われて(笑)。

──聴いたその人たちの心に何か引っかかったんですね。

そこから知り合いのバーの人が「うちの店で歌ってみる?」って誘ってくれて、歌ってみたらそこでデモテープが売れたりして。だから「歌いたい」って人ごまんといるから申し訳ないんだけど、シンガーソングライターを目指してて、歌が歌いたくてっていう感じじゃないんですよ。必要に迫られてやった部分もあって。自分が思い描いてた形とは違ったけど、それが結果的に音楽を続けることになった。

プライベートスタジオ「Studio BYRD」の写真。

──思い描いてた形ってどんなものだったんですか?

やっぱりバンドのいちギタリストでいたかった。曲を作るのは好きだったけど、歌うことには興味がなかったから。

──バンド時代に歌詞を書いたりは?

全然。だってその頃は音楽を音でしか聴いてなかったから。自分で歌っていこうって覚悟したのは、ライブをやるようになってからですね。自分がベッドルームで作った曲を、みんなが歌ってくれたりするのを観ると面白いなって。歌ってひとり歩きして、広がっていく力があるんだなって実感して。「この歌詞に励まされたよ」って言われたりしてね。自分のひとりごとだったり、自分に言い聞かせるように作った歌が、人を励ますなんてって驚いて。そういう体験を通して、歌うことへの責任感が出てきた。

──その時期って覚えてらっしゃいます?

2000年前後、Caravanって名乗り始めた頃かな。それからいろいろ動いていった気がする。

ニューアルバム「The Sound on Ground」

  • 「The Sound on Ground」2012年6月1日発売 2100円(税込)Slow Flow Music SFMC-001 / HARVEST ONLINE SHOPへ

※HARVEST ONLINE SHOP、LIVE会場にて限定販売

収録曲
  1. Birds on strings
  2. The sound on ground
  3. The story
  4. You make me free
  5. Saraba
  6. Imagination
  7. New world
  8. ひかりのうた
  9. On the road again

Caravan ~Making of The Sound on Ground~

Caravan / On the road again【MUSIC VIDEO】

Caravan(きゃらばん)

Caravan

1974年生まれの男性シンガーソングライター。幼少時代を南米ベネズエラで過ごし、高校時代からバンド活動を開始する。ギタリストとしてライブやセッション、リミックスワークへの参加など幅広い活動を展開。2001年からソロアーティストとしての活動をスタートさせる。全国各地を旅しながら弾き語りライブを行い、2004年に1stアルバム「RAW LIFE MUSIC」をインディーズレーベルからリリース。2005年10月にはシングル「DAY DREAM / Dynamo」でメジャーデビューを果たし、以降もコンスタントにリリースを重ねる。独自の視点で綴られた歌詞、エバーグリーンなサウンドで幅広く支持を獲得。また、YUKIの「ハミングバード」「WAGON」、SMAPの「モアイ」など、他アーティストへの楽曲提供も行っている。2012年春、7年間所属したrhythm zoneを離れ自主レーベルSlow Flow Musicを設立した。同年6月にニューアルバム「The Sound on Ground」をリリース。