ナタリー PowerPush - Caravan
「自分らしくあるために」本音で語る1万字インタビュー
Slow Flow Music / HARVEST
約7年間在籍していたメジャーレーベルを離れ自主レーベル「Slow Flow Music」を設立したCaravanが、ニューアルバム「The Sound on Ground」をリリースした。通販限定作品として発表された本作は、彼のプライベートスタジオ「Studio BYRD」で制作されたアコースティックを基調とした1枚。リスナー1人ひとりに語りかけるような、手作り感あふれる作品に仕上がっている。
今回ナタリーでは、アーティストとして新たな一歩を踏み出したCaravanにインタビュー。なぜこのタイミングで自主レーベルを立ち上げたのか、そしてなぜ彼が音楽を作り続けるのか、これまであまり明かされることのなかった過去のエピソードを交えながら語ってもらった。
取材・文 / 中野明子 撮影 / susie
自主レーベルは“個人商店”を構える感じ
──ニューアルバム「The Sound on Ground」の完成おめでとうございます。今作は「Slow Flow Music」設立第1弾作品になるわけですが、まずは7年間所属していたメジャーレーベルを離れ、自主レーベルを立ち上げた理由についてお訊かせいただけますか?
どっから話そうかな……。僕はインディーズで活動してからメジャーに行ったんだけど、特にその境目って意識してなかったんですよね。自分がより音楽に集中したり、一緒に音楽を作ってる人たちに恩返しをしたいと考えた時期が2005年くらいにあって。そのときにちょうどいいタイミングで移籍の話があって、ずっと一緒にやってきたスタッフとメジャーに移ったみたいな感じだった。だから基本的にやってることはなんら変わりなくて。メジャーに行ったからできなくなったってことは一切なくてすごく恵まれていたんですけど、いろいろ経験する中で自分のやり方に合ってないなと感じる部分もあったんですよ。
──レーベル設立はいつ決意したんですか?
去年の東日本大震災以降かな。あれをきっかけに自分の目に見える範囲で、確実に自分の手で音楽を届けたいという気持ちがすごく強くなったんですよね。レコード会社に所属して大きなシステムの中にいることは良さもあれば悪さもあって、自分がこれから音楽を続けていく上で本当にその大きい船に乗ってる必要があるのかなって。そういうことを長い間思ってたんだけど、震災がきっかけではっきりと自分の中で答えが出ちゃったというか。自分はライブをやって、そこに来てくれた人とコミュニケーションを取って、CDを手に取ってもらいたいだけなんだって。屋台で豆腐を売ったり、焼き芋を売ってるような感じで音楽を届けるほうが自分の肌に合ってるなって。だから契約を継続する話もあったんだけど、自分でレーベルを立ち上げることにしたんです。
──大きなレコード会社に所属していての疑問というのはどういうものだったんですか?
例えば、自分の音楽にそれほど興味がない人がラジオ局とかにプロモーションしてたりとか。プロモーターに「アルバムどうだった?」って訊いたら「まだ聴いてないんですよ」って言われてしまったり、会社のルーチンワークの一部として自分の音楽が広がっていく感じに疑問を覚えたというか。そういう音楽の広がり方も当然ありなんだけど、自分はすごく少ない人数でそれぞれが濃い仕事をしてる現場が好きだから。できれば同じ方向を向いた人と仕事したいなっていう思いがあって。
──なるほど。レーベルを離れる際には、Twitterで感謝の言葉とあわせて「消耗品」として扱われたという苦いエピソードも少し綴ってましたね。
ミュージシャンからすると、作品を1枚作るっていうのは二度とないことなんですよね。だけど毎月何十枚も新作がリリースされるようなレーベルだと、どうしても商品の1つにしかならないし、例えばそれが会社を転がすためのリリースになることもあって。曲ができてないのに、会議で発売日が決められてたりとか、「こういうプロモーションをしたいからこういう感じの曲を作ってくれ」みたいな話があったりね。音楽を売る上でそういうことも必要だっていう意見もあるんだけど、それを自分が納得できないまま受け流しちゃうのも危険っていうか。ちょっと潔癖症みたいなところもあったりするんで、わだかまりが絶えずあって。
──そういう経緯もありつつ、自主レーベルを立ち上げたと。ブログで設立を報告した際、「大地に足の付いた自分らしい表現方法」を模索したいっておっしゃってましたよね。具体的にはどういうイメージですか?
“個人商店”を構える感じっていうのかな。例えばデパートの一部に売り場を借りてやるんじゃなくて、それぞれが“個人商店”になったほうが、長く自分の作品を作り続けることができると思うんですよね。どこかに依存してないと作品が出せないとか、その関係が成り立ってないとツアーができないとかだと、ミュージシャンの生命力が衰えちゃう。だから自分次第で活動できるっていうスタンスを早い段階で作りたかったんです。
音楽を手に取る喜びを作りたい
──自主レーベルになると作品の発表方法も広がると思うんですが、今回CDパッケージにこだわった理由は?
レコードを聴いて育った世代だから、ジャケットを眺めながら音楽を聴くことが自分にとって豊かな時間だったりしてね。ブックレットの写真を観て「こういうところで録ったのか」とか、クレジットされてるアーティストを見て「この人とこの人つながってるんだ」って発見したり、中古レコードだったらなんとなく匂いを嗅いでみて「タバコくせえ」って思ったりね(笑)。もちろん音楽は形のないものだけど、ジャケットから伝わるメッセージやアーティストのたたずまいも含めて作品だと思うから。今はそれを簡略化したくないんです。
──配信にはあまり興味がない?
配信の可能性はすごく感じるよ。リリースした瞬間に、地球の裏側の誰かが聴けるっていうのはすごいことだと思う。でも自分は手紙を出してる気持ちでリリースしてるところがあって。手元に届いたときの喜びだったり、CDを自分のライブラリに置くときのうれしさとか、そういうのも含めて音楽の楽しみ方だと思ってて。単純に自分が欲しくなるもの、身の回りに置いておきたいものを作んなきゃ、ちょっとね。
──曲をリリースしてリスナーに喜んでもらえたとしても、それだけではどこか物足りない?
そういうところはありますね。
収録曲
- Birds on strings
- The sound on ground
- The story
- You make me free
- Saraba
- Imagination
- New world
- ひかりのうた
- On the road again
Caravan ~Making of The Sound on Ground~
Caravan / On the road again【MUSIC VIDEO】
Caravan(きゃらばん)
1974年生まれの男性シンガーソングライター。幼少時代を南米ベネズエラで過ごし、高校時代からバンド活動を開始する。ギタリストとしてライブやセッション、リミックスワークへの参加など幅広い活動を展開。2001年からソロアーティストとしての活動をスタートさせる。全国各地を旅しながら弾き語りライブを行い、2004年に1stアルバム「RAW LIFE MUSIC」をインディーズレーベルからリリース。2005年10月にはシングル「DAY DREAM / Dynamo」でメジャーデビューを果たし、以降もコンスタントにリリースを重ねる。独自の視点で綴られた歌詞、エバーグリーンなサウンドで幅広く支持を獲得。また、YUKIの「ハミングバード」「WAGON」、SMAPの「モアイ」など、他アーティストへの楽曲提供も行っている。2012年春、7年間所属したrhythm zoneを離れ自主レーベルSlow Flow Musicを設立した。同年6月にニューアルバム「The Sound on Ground」をリリース。