音楽ナタリー Power Push - auかんたん決済 Presents 音楽の楽しみ方の今とこれから

音楽配信サービスとリスナーの関係

近年さまざまな定額制の音楽配信サービスが登場し、日本における音楽のリスニングスタイルは変化を遂げつつある。ストリーミング配信はなぜ目覚ましい勢いで普及していったのか。音楽ナタリーではジャーナリストでWebサイト「All Digital Music」編集長のジェイ・コウガミ氏に、音楽配信サービスの現状を整理しつつ、音楽の楽しみ方の未来について語ってもらった。

取材・文 / 大橋千夏 撮影 / 松村宇洋

ストリーミングが音楽ビジネスの中心に

ジェイ・コウガミ

スマートフォンの登場によって、音楽の消費のされ方は大きな変化を遂げました。フィーチャーフォンと入れ替わるようにしてスマホの普及が進み、定額制の音楽配信サービスの利用率がこの数年で一気に上がってきています。これは日本国内だけの話ではありません。アメリカでは去年、ストリーミング利用者数がダウンロード利用者数を初めて超えました。またスウェーデンの音楽業界においては、今や収益の割合の85%をストリーミングが占めています。もちろん国によって市場規模が異なるので、これが世界基準だと一概には言い切れませんが、これからの音楽ビジネスの中心がストリーミングになっていくということはこれらの実例によって証明され始めています。音楽が「所有するもの」から「アクセスするもの」へと変化を遂げたということです。

アメリカにおける音楽市場の
売上割合(2015年)

  • ストリーミング配信……34.3%
  • ダウンロード販売……34%
  • メディア販売……28.8%

ストリーミングの最大の魅力は、自分が所有していない音楽に簡単にアクセスできるところでしょう。自分が聴いたこともないような音楽、触れたことのないジャンル……「これCDじゃ買わないだろうな」というような曲でも(笑)、好きなときに好きなように触れることができる。その選択肢の多さが特徴です。ダウンロードをするわけではないのでストレージの空き容量を気にしなくてもいいし、インターネットに接続すればすぐに音楽を楽しめる手軽さもある。日本はネット大国ですから、ネットを通して音楽を聴くという行為は日本人にとってはとても親和性が高い行為だと思います。そういった意味でも日本でストリーミングサービスが普及したことはごく自然なことだったのかもしれません。

配信サービスの選び方

ジェイ・コウガミ

近年はさまざまな配信サービスが登場して、どれを選べばいいのかわからないという人もいると思います。そういう人には音楽の趣味だけにこだわらず、自分が普段どんな基準でものを選んでるかということを考えてみてほしいですね。例えば流行のファッションや話題の映画は必ずチェックするようなトレンドに敏感な人には、新譜の先行配信を積極的に行っているサービスが向いているでしょう。普段からよく音楽を聴く人だったら、凝ったレコメンデーションやプレイリストが用意されているサービスを選ぶという方法もあります。

ストリーミングサービスが一般化してきたとは言え、音楽の楽しみ方はそれだけではありません。近年アナログレコードやカセットテープが流行していますが、その理由の1つは「選択肢を多く持ちたい」という音楽リスナーが増えているからではないでしょうか。音楽の聴き方は1つではないし、出会う機会が多ければ多いほど音楽を通じてハッピーになれる。だから選択肢はたくさん用意されているべきだし、リスナーはその中から自由に選べばいいんです。僕はストリーミングサービスを利用しつつ、レコード店に足を運んで月に3、4枚はアナログレコードを買ってます。自分の目で見て手で触れて音楽を探すという行為は、やっぱりインターネット上で探すのとはまったく違うんです。少し話は逸れますが、日本人は特に“パッケージ”が好きな民族ですよね。これはもう音楽ビジネスうんぬんではなく、国民性みたいなところに由縁する気がしますが(笑)。

まだ見ぬアーティストとの出会いに期待

今後も世界中でリスニングスタイルの多様化が進み、リスナーが音楽に接触する機会はますます増えるでしょう。現在もCDを購入することで参加できるイベントがあるように、音楽に付随するプラスアルファの体験やサービスが新たに登場すると思います。

全米レコード協会(RIAA)が発表した2016年上半期の業界実績レポートによると、定額制の音楽ストリーミングサービスの収益は10億ドル(約1025億円)を突破。前年に比べ大幅に増加している。

一方でアーティストの発信方法やリスナーとの接点の持ち方にも変化が生まれます。アーティストによっては、CDに代わってライブやストリーミングが彼らの音楽ビジネスの中心になるかもしれない。もちろんストリーミング配信は一切しないという判断も1つの選択肢ですが、ストリーミングをブランディングやプロモーションにうまく利用することができれば、より戦略的にツアーを組むことも可能でしょう。1、2年で結果が出るようなビジネスモデルではないにしろ、ストリーミングサービスはすでに1つのインフラとして世界に根付きつつあります。このインフラを使って業界をより活性化させていくには何をすればいいのか、音楽業界全体が考え始めています。

1人の音楽リスナーとして、ストリーミングは単純にとても面白いサービスだなと思っています。まだ使ったことがないという方にはぜひ試してみてほしいですね。またSoundCloudやYouTubeへの投稿をきっかけに世に出てきたアーティストのように、今後はストリーミングサービス発のアーティストもどんどん増えてくるのではないでしょうか。まだ見ぬアーティスト、まだ見ぬ音楽との出会いを楽しみにしています。

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ジェイ・コウガミ

さまざまなメディアで活動するデジタル音楽ジャーナリスト。世界の音楽テクノロジーとデジタル音楽情報を届けるWebサイト「All Digital Music」編集長。