尊敬していた人の言葉だけど、容赦なく壊せました
──歌詞のベースになるものは、どちらが作ったんですか?
真部 初めてのやり方なんですけど、まずはアニメ用に89秒尺のワンコーラス分の歌詞を作って。それをあのちゃんに投げて、そこで大幅に変えてもらってから戻してもらい、それを見て「なるほど」とあのちゃんの語り口みたいなものを僕が勉強しました。で、そのあとにフルコーラス書いて、また投げて、またいい感じに壊してもらってというやり方だったので、めちゃくちゃ楽しかったです。それこそ、翻訳ソフトに通すみたいで面白いんですよ(笑)。
あの これまでは誰かの書いたメロディに歌詞を乗せることが多かったけど、投げてもらった歌詞をぶっ壊して、自分流に変換していくことは初めてだったので、そうやってヒントをもらいながら作ること自体が楽しかったし、アイデアもどんどん湧いてきました。僕はアニメに沿っちゃうところもあったので、そこから離れようとしてくれて、それが逆にいいバランスになったなと思っています。
真部 そこはたぶん、お互いにね。
あの そうそう。すごく楽しかったです。
──2つの視点があると、普通は……。
真部 渋滞したり混乱したりしますよね。だから、僕は共作があまり得意じゃないんですよ。今までやった共作も戸川純さんと、Awesome City Clubでのユキエちゃん(※現在は脱退)ぐらいで、戸川さんとの場合は自分の歌詞を添削してもらう感じでしたし、ユキエちゃんの場合は自分が歌詞を渡して「好きにしてください」という形でしたし。こういうリレー形式は正直うまくいくのかなという不安のほうが大きかったので、実際にやってみたら楽しくてびっくりでした。実際、あのちゃんは壊し慣れているのかな。壊し方が上手で、しかも上品に壊してくれるんです。
あの 尊敬していた人の言葉を壊すことは正直やりたくないけど、今回は容赦なく壊せました(笑)。あと、「チェンソーマン」という作品があるからこそ、いっぱい遊べたというか。そういうテーマがなかったらできなかったことなので、すごくいい経験でした。
真部 「チェンソーマン」もある意味壊すキャラだしね。
「聴いたことのない音楽を作りたい」と言っていたので反省しました
──そこが作品の方向性ともリンクしていたと。楽曲のテイストに関してはいかがですか?
真部 正直迷いました。早い時点で「モロに相対性理論節で」みたいな案があったんですけど、自分ではそれってやりづらいことなんです。自分の過去のことなので自分でトレースしづらいというのと、昔の自分のことを知っている人向けで間口が狭くなっちゃうんじゃないかという心配があるから。でも、あのちゃんが歌うんだったらちゃんと万人に向けたものに仕上がるんじゃないかなと思って。デモの時点ではもうちょっと味付けは控えめだったんですけど、編曲で入ってくれたイノタク(TAKU INOUE)さんが「このくらいやっちゃっていいんじゃないですか?」とけっこう思い切った方向性を提案してくれたんです。だから、自分1人ではこの形には絶対にできなかったですね。ただ、先日あのちゃんのラジオ番組に出させてもらったときに「どういう音楽が作りたいのか?」という話になって、「聴いたことのない音楽を作りたい」と言っていたんですけど、これはめっちゃ聴いたことある感じやんと思ってちょっと反省しました(笑)。
あの (笑)。
真部 ただ、改めてこれはすごく革新的なことで。さっきの「壊す」って話もそうなんですけど、音楽を続けていると自分のフォームが壊せなくなってくるんですね。それを壊そうとするあまり、悪い意味で遠ざけちゃうところもあって。だから、こうしてセルフパロディに近い形で、しかも作品としてのクオリティをちゃんと担保しつつ思い切った楽曲にできたのは、本当にこの現場のおかげですね。
あの 僕はせっかく相対性理論のメンバーだった真部さんと一緒にやるんだから、その色が出ている曲が歌えてうれしかったです。それこそ僕もイノタクさんに「こういう音を足してほしい」とか「変な音を入れてほしい」とかいろんな要望を出しました。
──その「変な音」というのは、具体的にはどういったものですか?
真部 心臓音とかね。これは早い段階からあったかな。
あの そうですね。あと、イノタクさんがもともと入れていたゲーム音みたいなのがあって、いいアクセントになると思ったのでもうちょっと増やしてほしいとか、位置とか音量とかも細かく伝えました。可愛いゲロをイメージしていたから(笑)、めっちゃピッタリと思って、そこは推しましたね。
──あのストーリーのあとにこの曲が流れると、ちょっとホッとしそうです(笑)。この曲の制作時点では、ほかのアーティストが手がけたエンディングテーマは聴いていないわけですよね。
真部 はい、全然わからなくて。
あの ラインナップだけしか聞いていなくて、自分が「チェンソーマン」のファン的に歌ってほしい人たちがそろっていたから、その中に自分がいるのが不思議で。だからこそいろいろ悩んだし、どういう方向性の曲にするかが決め手だなとも思っていました。自分はソロでいろんな曲を歌ってきたから本当にどうとでも運転できるので、このラインナップの中で自分にしかできない音楽を届けたいなと思って、こういう感じになりました。
──エンディング映像はすでにご覧になったんですか?
あの まだ完成前の段階のものは観ました。だから、実際にどんな完成形になるのか楽しみです。
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これが「歌がうまい」ってことなんだろうな